
ポートフォリオはあなた次第『じぶん時間を生きる』
書店で本を選ぶとき、まずオビに目がいくという人も多いだろう。本書を手にしたとき、私の目に最初に飛び込んできたのは「資本主義から自由になる生き方考」というフレーズだった。同じような内容の本を、これまで山ほど読んできた。棚に戻そうとした次の刹那、ひっかかる言葉が目に飛び込んできた。 「効率化するほど時間に追われるのはなぜ?」 その時私は、これと同じ問題意識を抱え
(2024年当時)
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書店で本を選ぶとき、まずオビに目がいくという人も多いだろう。本書を手にしたとき、私の目に最初に飛び込んできたのは「資本主義から自由になる生き方考」というフレーズだった。同じような内容の本を、これまで山ほど読んできた。棚に戻そうとした次の刹那、ひっかかる言葉が目に飛び込んできた。 「効率化するほど時間に追われるのはなぜ?」 その時私は、これと同じ問題意識を抱え

世の中の変化に法律が追いついてない。多くの職場で「業務指導しただけでパワハラ?」「テレワーク中の怪我は労災?」「会社支給のスマホを壊したら弁償?」「そもそも副業ってどうなの?」など、働く側も雇う側も戸惑ってばかりだ。こういった事案を“職場問題グレーゾーン”と定義し、その疑問に実務経験豊富な社会保険労務士が丁寧に答えていくのが本書だ。 「もうすぐ育休復帰する後

この数か月私は、本はどうあるべきか。本屋はどうあるべきか、ばかり考えている。取次に25年もいて、そんな問いに意味がないことはわかっているのに、である。なぜなら、足元の売上減は顕著で、それに加えて光熱費・人件費・決済手数料の増大はあまりにも急激だからだ。本屋の明日に、これまでとはレベルの違う暗い影を落としている。 新しい仕組みへの置き換えが必要なのは誰の目にも

この本は面白かった。専門知と世間知の間で葛藤する臨床心理士の「現代版赤ひげ先生」が、自慢のヒゲを撫でながら捻りだした一冊だ。わかりやすい言葉、アカデミズムの知識、日常生活人としての思い。その三者が融合し、骨太な大変価値ある本にしあがっている。 タイトルをみればわかるとおり、本書のテーマは情報の交換だ。人類が高度な文明を持つ万物の霊長になり得たのは、卓越した情

もしあなたが子育て中なら、「大学を出て、企業に就職して、定年まで勤めあげる」人生をわが子に教え込まないほうが良いだろう。素直で親孝行な子であるほど、将来、親の期待を裏切って罪の意識に苛まれる可能性が高いからだ。時代は音を立てて変わっていて、もはや「過去の方程式」は通用しないのである。 本書の著者はリーマンショックの影響を受けた就職活動で、60社から不採用をも

本書は、梅田蔦屋書店で人文コンシェルジュを務める書店員・三砂慶明氏が200冊を超える古今東西の本を縦横無尽に紹介した本だ。「幸福」「生きづらさ」「働き方」「お金」「食」「死」といったテーマについて、まるで本棚の本を開陳するように自らの体験を交えながら血の通った論考を綴っている。 この本を読むと、自分が抱えている悩みは人類史上で必ず誰かが経験している、という事

よくできた物語は、幸せな家庭の食卓のようなものだ。誰かの意図によらず会話が転がって、やがては笑顔でつつまれる。破格の大事業を成し遂げた人の生涯も同じように、自力だけでなく何かに導かれるものなのかもしれない。世にも稀なる遊園地、ディズニーランドについて書かれたこの本を読んで私はそう感じた。 スティーブジョブズの本を読んだときにも、同じようなことを感じた記憶があ

著者のプロフィールをみたら「100文字で済むことを2000文字で伝える作家」と書いてあった。本書を店頭で手に取ったとき、私はもの凄く心が疲れていて、2000文字ぐらいの軽妙なエッセイを紙で読みたい気分だった。その前提で今回は「100文字で済むレビューをおよそ2000文字で」書いてみたい。 店頭でタイトルを見て「傘のさし方がわからない」…「はて?」となり、はじ

良い本を読んだ。得した気分だ。本書は、食糧問題、教育格差、医療介護、気候変動など、現代の諸問題に対して、正しい形でファイティングポーズがとれるようになる本だ。未曽有のコロナ禍による疲労。その蓄積により、私たちは闘う気持ちが削がれつつある。でもここで「脱成長」に逃げ込むのは「他国から取り残される未来」を選ぶのと同義である。 本書が目指すのは、テクノロジーを加速

本書には、生物学や遺伝子学的に「人が悩んでもしょうがないこと」が51個紹介されている。著者は生物学や脳科学・心理学の領域に長年携わるかたわら、「たけしのTVタックル」などの人気テレビ番組への出演経験も多数ある進化心理学者だ。とても親しみやすい、読んで楽しい本に仕上がっている。 相田みつをの「にんげんだもの」という書をみて、心が軽くなる人は多いだろう。本書を読

これからは音声がくる!という話をよく耳にする。ただその全体像を理解できている人が、一体どれだけいるだろう。少し前にクラブハウスが流行し「音声」に関する関心が一気に高まった。それ自体は一旦沈静化した感があるが、音声配信のプラットフォームの多くはCH流行後も再生回数を大きく伸ばしているという。 本書は、現在凄まじい勢いで再生回数を伸ばしている声のブログサービス「

若者の3年内離職率が過去10年で最高、というニュースがあった。記事によると、若い世代で成長性の高い分野をめざす動きが活発だという。私は非常に明るい変化だと感じたが、周囲には否定的に受け取る人がいた。いわく「とりあえず就職してその中で頑張る」という生き方が通用しなくなって、可哀想だというのである。 あなたはどう思うだろうか。経済の動きにあわせて動く数値なので、

昨年、お昼ご飯にレトルトカレーばかり食べている時期があった。なかでも「エリックサウス」の南インド風チキンカレーの味が気に入って、二日に一度は食べていた。お店には行ったことがないのだが、レトルトで病みつきになった。外出自粛の折、ありがたい限りである。レトルトなんて、という評価はいまどき非常識なのかもしれない。 そのスタンスは本書にもある。「ざっかけない(=ざっ

マイノリティというと障害者などの社会的な少数者を想起するだろう。しかしこの本のマイノリティはもっと広い概念だ。例えば、著者は「運動音痴」を「スポーツ弱者」と定義しなおし、そのマイノリティ性に注目して「ゆるスポーツ」を生み出した。私も一人のスポーツ弱者として、この発想の新しさと優しさに感動してしまった。 読みどころは数多あるが、この「ゆるスポーツ」について本稿

テクノロジーが社会に普及するには、何が必要なのだろうか。コロナ禍で話題になった電子署名やUber、Airbnb…世に広がるものと、そうでないものは何が違うのか。電気が社会に普及した歴史など数々の事例から見出した、成功する社会実装の手法とは?スタートアップ支援の経験と豊富な事例研究実績がある著者が書いた、新たな視野を提示する一冊だ。 本書の基点は、本書の母体と

昨年、新型コロナで急逝した「笑いの王様」志村けん。本書は、1994年から7年に渡ってその付き人を務め、朝から晩、海外ロケまで同行した著者が師匠の姿を振り返ったものである。運良くドライバーとして採用された若き日。「笑いは正解のない世界だから、俺から教えることは何もないぞ」という師匠に出会い、二人はどう交わっていったのか。 本書を読んだのは発売直後。今から1か月

「社会保険料の負担が重くなるから気をつけろ!」起業家の先輩に話をきくと、みな口を揃えてそう私に警告した。これまで会社が出してくれていた分を自分が払うのだから当然だ。もとより私もそれは織り込み済みなので、軽く「了解、了解」と聞き流していた。しかし、先日のニュースをみて愕然とした。 財務省によると、令和2年度の「国民負担率」(所得に占める税金や社会保険料などの負

コロナ禍に関する本はこれまでに数多く刊行されてきた。世界中の著名人が現状やコロナ後の世界について語っている。どれも示唆に富んでいて刮目するばかりだ。テレビでも、現地に派遣された特派員が各国の状況をリポートする様子を度々観てきた。彼らもコロナ禍での暮らしに不便を感じながら、必死に現地の様子を伝えている。 この本には、それらの本やテレビには映らない世界が広がって

新年早々、私は圧倒された。本書は、大阪・西成の小さな教会で、約20人の信徒たちとともに生き抜く女性牧師を描いたノンフィクションである。いや、そんな説明ではミスリードをまねく。教会といっても床が抜けた古い中華料理店の居抜き物件だし、主役は1950年生まれのおばちゃん牧師である。そこはいわば、元野宿者たちとの壮絶な「生きる舞台(=家)」だ。 本書には、想像をはる

“コロナ禍による大恐慌は「株式会社」の終焉を招くのか”本書のオビには、こんな惹句が躍っている。『ブルシットジョブ―クソどうでもいい仕事の理論』という本が話題になったり、自らの会社を自虐的に扱う態度が横行しているように、我々は「株式会社」の扱いに大いに困っているように見える。 この時期に「株式会社」について考察を深めておくことは非常に有意義だと感じ、私はこの本

先日、東京都調布市で陥没事故があった。地下40メートル付近で行われていた道路の掘削工事との関連が取りざたされているが、原因はいまだ不明である。以来、私は大型トラックの振動で道が揺れると、その下に大きな空洞があることをイメージするようになってしまった。無論、疑心暗鬼になっているだけだ。でも、見えないものはわからない。 そんな時、本書に出会った。著者は、ニューヨ

日本ではあまり知られてないが、マサチューセッツ工科大学(MIT)ではSTEM教育だけでなく、人文学や芸術科目にも力が入れられている。なかでも音楽科目の人気は高く、この10年でその比重が増してきているという。本書は、その授業内容を関係者へのインタビューを交えた現地取材でまとめた、非常に興味深い一冊である。 著者は、豊富な取材経験をもつ音楽ジャーナリストである。

激アツな一冊だった。我を忘れてシャドーボクシングをはじめるくらいに。本書は、36歳のB級ボクサー米澤重隆が日本チャンピオンに挑む日々を、同世代の映像作家がまとめた本だ。私の熱き血潮はどこから湧き上がったのか。冒頭シーンの紹介から始めたい。ドキュメンタリー番組をつくるため、著者は米澤のいるジムに乗り込んだ。 「僕なんかでいいんですかね?」 思わず返答に詰まる。

ベストセラー『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、目の前の暗雲を取り払ってくれた本だった。様々な本能のせいで、私たちがいかに物事をドラマチックに誤って捉えているかがわかった。また、その著者は世界を股にかける医師であり公衆衛生の専門家だ。だからこそ、その本に書かれた医療現場のエピソードが強烈な印象を残した。 公衆衛生、ひいては医療政策。その本が私の

誰しも一度くらいは、スポーツで胸を熱くしたことがあるだろう。しかし、その理由を問われても、明確な答えにたどり着くことは難しいのではないか。例えばイチロー選手なら、技術とか、記録とか、勝負強さとか、語るべきことはたくさんあるに違いない。 だが、その核心をきれいに取り出すことなど、誰にもできはしない。多くのメディアは、最大公約数の受け取り手に向かって記事を作る。

昨年、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した、毎日新聞の好評連載「公文書クライシス」。本書はその取材班が、取材の手の内を明かしながら、ふたたび公文書の闇を照らし出したレポートである。記者たちは今なお取材を続けており、その追及は凄みを増している。記事を読んだ方にも、間違いなく一読の価値がある本といえる。 またもう一つ、本書の大きな読みどころとなっている

子供から「赤ちゃんはどこから産まれるの?」と訊かれたら、どう答えるだろうか。一般的には「コウノトリが運んでくるんだよ」と答えることになっている。本書のテーマである芸術的創造も神聖化されることが多い。しかし本書は、黙ってお母さんのお腹を指さすアプローチだ。「芸術的創造がどこから産まれるのか」について、最新研究に基き核心に迫っているのである。 様々なレビュアーが

ずっと家にいると、考えるのは本や映画、そして毎日のご飯のことだ。先日ふと私は「かもめ食堂」という映画を観たくなった。決して猛烈な欲求ではない。“ふと”思っただけだ。でも、ネットで探してテレビにキャストしたら、次の瞬間にはその思いが叶えられた。便利な世の中になったものである。 映画「かもめ食堂」は、群ようこ原作、小林聡美主演の2006年の作品だ。舞台は、フィン

子供がウチで過ごす時間が増えている。我が家もその例にもれない。異なっているのは、一家の大黒柱たる私も一緒にウチにいることである。会社を辞めた私は、テレワークをする必要もない。ただダラダラとした時間を過ごしている。様々なものにボンヤリとした興味を抱きながら、目的を見いだすことができずにいる。そんな日々だ。 基本的には一緒にサッカーゲームやトランプなどをして遊ん

オギャーと産まれ、人は学校や家庭や世の中などから色々なことを学んでいきます。若いってことは美しいもので「君たちはどう生きるか」なんてことを懸命に考えながら、成長していきます。それはまるで、地球に就職しているような時期です。 やがて企業に就職すると、視野は一気に狭くなり、経済的な価値が頭の中心を占めるようになります。そんな時期を長らく過ごして定年退職すると、ほ

何もない土曜日。我が家で最初に「行ってきます」を言ったのは、84歳の母だった。朝8時、迎えに来たデイサービスの車に車椅子のまま乗り込んでいった。そしてさっき、「お年玉でオモチャを買いたい」という息子と「友達の誕生日プレゼントを買いたい」という娘を連れて、妻が出ていった。そして、私は一人リビングに残された。 早速、昨日泣きながら読んだ本書『エンド・オブ・ライフ

本書は、本国ノルウェーで「彼女こそが脳の脳だ」と評されている、著名な神経科学者が書いた世界的ベストセラー“脳科学本”である。世界21か国で翻訳出版されている。本書がこれほど多くの読者を獲得できたのは、日々の出来事を使って科学を説明しているからだろう。読み手は、そこから具体的な思考を巡らすことができるのだ。 例えば、この本で紹介される脳科学の最新研究には、次の

今年は、ノンフィクションに動きがあった年だと思う。途轍もないビッグヒットがあったわけでも、当たり年だったわけでもない。エビデンス重視の世の中で私的な感覚を言うのも憚られるが、私は潮流の変化を感じた。 年末に読んだ開高健賞受賞作『聖なるズー』 は刺激的で今後さらに話題になる予感があるし、2年目をむかえた 本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞作『ぼくはイエローでホ

今年度の開高健ノンフィクション賞を受賞した傑作だ。京都大学大学院で「文化人類学におけるセクシュアリティ研究」に取り組む女性が、単身ドイツに渡り、複数の動物性愛者(ズー)の家を泊まり歩いて丹念に取材している。最初私は「動物性愛」ときいて腰が引けたが、興味が打ち勝って本書を開いた。すると、こんな書き出しが待っていた。 私には愛がわからない。 ひと口に愛といっても

DNA鑑定と聞いて私がまず連想したのは、テレビドラマの犯罪捜査のシーンだ。「トレース」や「アンナチュラル」など、最近、その手のドラマをよく見かける。まるで水戸黄門の印籠のように、クライマックスでDNA鑑定結果と真実が提示される。 本書は、著者が手がけてきたDNA鑑定を紹介するだけでなく、「DNA」「染色体」「遺伝子」「ゲノム」といった言葉の使い分け方など、基

アスリートの引退時期を決めるのは難しい。 私の原稿は、気がつくとこんな書き出しになっていた。かつて沢木が、あるボクサーに執着して残した数多の文章の断片が澱のように私の中に漂っていたからだと思う。今回の原稿を書こうとしたとき、その澱がフワッと表面にあがってきた。 この本は、ある作家のファン50人が、その作家のおすすめの10冊を紹介した本である。本を列挙するだけ

帝国書院の本だ。そう、あの地図帳の出版社である。ほとんどの教科書は捨ててしまったが、歴史の資料集や星座の早見盤などと一緒に「地図帳」は手元に残しておいた、という方も多いのではないだろうか。本書は、そんな方にピッタリの本である。 捨てずにとっておいたのは、表向きには「ニュースの時に確認用に使えるから」かもしれない。しかし、実はそれ以上に「黙って眺めているだけで

本書はHONZでも複数の記事があがっている人気の本だ(※)。それでも私が「追いレビュー」をすることにしたのは、それだけ強く心を揺さぶられたからだ。英国での著者親子の日常に触れ、熱い思いが体中の毛穴から噴き出しつづけた。めくるめく読書体験だった。 ※HONZ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』記事一覧 ・ 首藤淳哉のレビュー ・ 東えりかの著者インタ

パソコンから顔をあげて、遠くをみつめてみる。そこにある景色は、2年後にはもうない。新しい社屋に移転するからだ。その頃は、働き方や価値観も変わっているのだろうか。でも…。その時、私の脳裏をシモーヌ・ヴェイユの言葉がよぎった。 「未来は、現在と同じ材料でできている」。だとしたら私は、「移転」というイベントを頼りにするのではなく、今この瞬間の小さな変化こそ大切にす

機中で『友情』と『友情2』を読み終えると、私は窓から雲海を眺め、唇を噛んで涙した。本書は、故・平尾誠二氏と生前に深い親交があった15人が、彼への思いをまとめた本だ。そのなかには、ご家族(夫人・長女・長男)や山中伸弥氏も含まれている。 私はその死に大きな喪失感を覚えたが、同時に彼の生き様に「胸のすく」爽快感を感じた。ある時は泣かされ、ある時は笑わされる、感情を