
『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』著者、小林照幸にあの頃のこと訊く
小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との闘い 』(新潮文庫)が注目されている。4月24日に上梓されて以来、現在4刷、累計2万6千冊のスマッシュヒットだ。26年前の1998年に出版された本が、なぜいまこんなに注目を浴びているのか。以前より小林照幸の本を”激推し”してきた東えりかと、医学者・仲野徹が話を聞いた 仲野 『死の貝』は昔読んだ記憶があったけれど、文庫化され
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小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との闘い 』(新潮文庫)が注目されている。4月24日に上梓されて以来、現在4刷、累計2万6千冊のスマッシュヒットだ。26年前の1998年に出版された本が、なぜいまこんなに注目を浴びているのか。以前より小林照幸の本を”激推し”してきた東えりかと、医学者・仲野徹が話を聞いた 仲野 『死の貝』は昔読んだ記憶があったけれど、文庫化され

この本を読み終えたら、きっと「あぁ面白かった」と思われるはずです。「勝手なこと言うな、なんでそんなことがわかんねん!」とお叱りを受けるかもしれませんが、まずはその理由を。 この本の企画は出版元である左右社の編集者・梅原志歩さんからいただいた企画書に始まります。そこには、 「西洋医学と東洋医学の専門家が『不調と病気との付き合い方』について徹底問答! 西洋医学と

皆さんはコミュ力に自信がおありだろうか?もしそれほど自信がないのであれば、本書の冒頭に記されている言葉はかなり衝撃的なはずだ。本書はこのような書き出しから始まる。 あなたの言葉が伝わらないのは、あなたに人としての“魅力”が欠けているからである。 どうであろうか。バットか何かでぶん殴られたような衝撃を受けないだろうか?かく言う私もコミュ力が低いことを自認してい

『あらゆることは今起こる』、芥川賞作家・柴崎友香さんの最新作である。いかにも小説っぽいタイトルだが、そうではない。柴崎さんが40代の後半でADHD(注意欠如・多動症)と診断を受けられ、治療薬のひとつであるコンサータを服用、いかに変わられたか。その自分の経験からADHDやASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害について考えていかれるノンフィクションである。

なんと16年ぶりにこのコーナーを担当させてもらうことになった。北上さんのいない本の雑誌にまだ違和感があるけれど、全力で面白いノンフィクションを紹介していくつもりだ。よろしくお願いします。 現在、巷のノンフィクション本で流行っているのは、 ウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク』 (井口耕二訳/文藝春秋)と 黒柳徹子『続 窓ぎわのトットちゃん』 (講談社

2024年3月5日、京都地裁はALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者に関する嘱託殺人及び別の殺人罪に問われた医師、大久保愉一被告に懲役18年(求刑懲役23年)を言い渡した。「生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」としながらも、現代の医学では治療不可能で身体的自由がきかない患者に対する嘱託による死の定義を示した。 それは、治療や検査を尽くし、他の医師の

ヘンリー・マーシュ先生。会ったことのない著者は呼び捨てにするのが習わしだろう。しかし、マーシュ先生の処女作を読んだときから、先生とつけて呼びたくなってしまっている。 医学部を卒業したが、医業を営まずに生命科学の基礎研究に従事していた。とはいえ、もちろん医師の友人も多い。医師同士は互いを「○○先生」と呼び合う。いささかおかしな習慣だと思うのだが、たとえ同級生同

12年前『驚きの介護民俗学』(医学書院)という本を書店で見つけた。著者の六車由実さんは『神、人を喰う』でサントリー学芸賞を受賞した民俗学者ではないか。なぜ介護の世界に身を置くことになったのか。 その経緯は『驚きの介護民俗学』に詳しく書かれているが、介護の現場に民俗学の手法である「聞き書き」を取り入れた六車さんは、高齢者との間に強固な信頼関係を築きあげた。現在

「これほど読む前から面白いに決まっている本はそうそうないはずだ」 米国の腫瘍内科医であるシッダールタ・ムカジーによるピュリッツァー賞受賞作『病の皇帝「がん」に挑む─人類4000年の苦闘』が『がん─4000年の歴史─』として文庫化された時、次作『遺伝子─親密なる人類史─』への期待をこめて解説の最後に書いた文である。この本の原著 『The Song of the

幸福に生きていくには、『すばやく変化に気づき、最適に対応するための人生戦略』が必要だ。そう力強く説く認知心理学者・神経科学者であるアデレード大学エレーヌ・フォックス教授へのインタビュー。きっと生き方を変えるヒントが見つかるはず! 仲野 長い間、科学者として生活してきました。まずその立場から申し上げたいのは、「切り替える力(スイッチクラフト)」―必要な時には躊

4年前、東京・霞が関の家庭裁判所で、離婚調停のために訪れた女性が男にナイフで切りつけられ殺害された。逮捕された男は米国籍で、亡くなった女性の夫だった。 検察は鑑定留置の結果、責任能力に問題はないと判断し、殺人などの罪で男を起訴、懲役22年を求刑する。一方、弁護側は統合失調症による心神喪失を主張した。2023年10月20日、東京地方裁判所は、妄想や幻聴の影響で

テヘラン生まれ大阪育ちの直木賞作家、西加奈子さんがカナダのバンクーバーで乳がんに罹った。本書はその治療過程の経験談とともに、カナダの医療行政や、生活に関する考え方などを時系列で記したノンフィクションだ。 家族3人で住むブリティッシュ・コロンビア州は外国人でも健康保険に入っていれば医療が無料で受けられる。だが最初は総合医であるファミリードクターか、誰でも受け入

2022年、イスラエルの社会学者が著した 『母親になって後悔してる』 が、メディアで大きく取り上げられた。母親という呪縛に囚われた世間へ一石を投じた一冊だ。 本書は、多くの日本人が持つステロタイプの「母親」のイメージに苦しめられる様々な女性たちを取材したルポルタージュだ。 血を吐くがごとく語る彼女たちの経験を、自分がさらに傷つきながら著者の河合さんは受け止め

スウェーデンのある地域でのこと。小学校低学年から10代後半までの子どもたちに、〈謎の病〉が発生している。子どもたちは最初、不安になりふさぎ込む。そして徐々に引きこもりはじめ、口数が減っていき、そのうちまったく話さなくなる。最後にはベッドで寝たきりとなり、最悪の場合、食べもしなければ目も開かなくなってしまう。そうした子どもたちの数は、2015年から2016年の

清水ちなみは1987年に『週刊文春』で始まった「おじさん改造講座」というコラムの著者である。会社という閉じた世界に棲息する「おじさん」たちを観察したものだ。 最初は好奇心で友だちへアンケートをとったことから始まった。 あなたの会社のおじさんは奇妙なネクタイをしていませんか? この問いには〈登り龍〉、〈土星とロケット〉など珍妙な解答が送られてきた。面白がって続

超高齢者社会をひた走る日本では、親族に認知症がいるのは珍しくない。コロナ禍で人に会わなくなって発症者が増えたのか、街中で怒鳴る老紳士を頻繁に見るようになった。小さくなって周りに謝る夫人が不憫だ。 ノンフィクション作家の高橋秀実の父親、昭二が認知症と診断された。母が病死したのに、死んだことを認識していないようなのだ。 記憶障害、見当識障害、思考障害などいくつか

スラッジ(SLUDGE)、直訳すると、泥、ぬかるみである。 煩雑な申請、長い待ち時間、何を書けばいいのかよくわからない書類など、摩擦が大きい故に、合理的に行動を阻むものである。ナッジを世間に広げた法学者が本書の著者である。スラッジとナッジは兄弟のような関係なので、まずはナッジの短い歴史をおさらいしよう。 1999年、アムステルダムのスキポール空港は経費削減を

ネックレスや弓矢はけっして偶発的に出来るわけではない。それらを形にするためには、if-and-then思考が必要だ。「それぞれの貝殻に穴を開けて(if)、その穴に繊維を通せば(and)、ネックレスができる(then)」、「伸縮性のある繊維に矢を取り付けて(if)、繊維の張力を緩めれば(and)、矢が飛ぶ(then)」というように。それゆえ、およそ7万年前まで

著者は「こんな老人ホームなら入りたい」と全国から熱い視線を浴びる、NHKの番組でも紹介された特別養護老人ホーム「よりあいの森」「宅老所よりあい」「第2宅老所よりあい」の統括所長。本書はホームで出会った老人との交流で得た知見をまとめたものだ。 老人たちはゆっくり動く。食事も排泄も思考も移動も彼らのペースで行われる。繰り返しも多いし、すぐに忘れてしまう。 でも、

「ちょっと〜」 「ちょっと〜」 「きませんか」 「きませんか」 草木も眠る丑三つ時、93歳のお婆さんに呼ばれた「ぼく」は、お婆さんのところに行かなければならない。ファンタジー小説ではなく、老人ホームの利用者と職員の話である。呼ばれたぼくは躊躇する。なぜなら、行けば多分「いきませんか」と言われるからだ。 「いきませんか」とは「行きませんか」。 つまり、お婆さん

それは脳のなかの「天使」でありながら、ときには「刺客」へと変貌するという。本書の主人公は、非神経細胞のひとつである「ミクログリア」である。 つい最近まで、ミクログリアは脳のなかの端役にすぎないと考えられていた。脳内の情報伝達を担うニューロンや、そのつなぎ役を務めるシナプスといった綺羅星たちと比べると、それが果たす役割はごく些末なものだと考えられていたのである

世の中では厳しい言葉が飛び交っている。特にSNSを中心に政治問題や社会制度のあり方を巡り攻撃的な言葉の応酬が日常的に繰り返されている。だが、多くの人が承知しているように、これらの言葉の応酬で何か建設的な議論が生まれることも価値のあるコンセンサスが生まれることもない。ほとんどの場合、相手への敵がい心をむき出しにして、石つぶてのような硬い言葉をぶつけ合い、お互い

医者という職業は私たちの身近に存在する。多くの人が何度となく医療機関を受診した経験があるだろう。しかし本書の著者であるリチャード・シェパードは私たちが想像する医者とは少し異なる。彼の患者は死者だ。リチャード・シェパードはイギリスの高名な法病理学者なのだ。不幸な事故や事件に巻き込まれた人々の遺体を解剖し、なぜ被害者が死に至ったのかを突きとめるのが彼の仕事だ。彼

あなたのまわりに「叱る」人はいるだろうか。「怒る」ではなく「叱る」人だ。 叱るには「親や上司など指導する立場の人が、未熟な人を注意する」というニュアンスがあることを、きっと多くの人が賛同するだろう。「叱る」という言葉には=人を育てるというような意味を含んでいる。 「叱る」と「怒る」のふたつの言葉にあるこの差は大きい。「叱る」の持つ意味には、叱る人は悪くなく、

科学にとって意識ほど難物なものはあるまい。赤いリンゴを見たときの、あの「赤い感じ」はどのようにして生じるのか。身体を所有し、自由意志によって行動をコントロールする、この「私」とは何なのか。意識のそうした主観的な性質は、客観的な記述を旨とする科学的説明を寄せつけないように思われる。 そのように、意識の科学の道のりはきわめて険しい。だが、この30年ほど、その科学

顰蹙を買うのを恐れずに言えば、生死の境で闘う人の闘病記が好きだ。 花村萬月さんが厄介な病気に罹っていると知ったのは三年ほど前のことか。本書は花村さんの〈骨髄異形成症候群〉の発症から現在までを克明に綴った記録である。『くすぶり型白血病』、『前白血病状態』と称され放置すれば数年後には白血病になり間違いなく死ぬと宣告を受ける。 彼の小説には両親との軋轢や不良時代の

川崎市の自宅で長男(当時37)を4カ月にわたって監禁したとして、両親と妹の3人が逮捕監禁容疑で逮捕された。長男には精神疾患があったとみられるが、医療機関は受診していなかったという。父親は容疑を認め「外に出して迷惑をかけたくないと思った」と供述しているという。(2022年2月1日朝日新聞) 世間は精神障害者に優しくない。世間体や迷惑をかけたくないと家族だけで精

ありのままに書く。むずかしさと尊さ、2つを見事に両立させた著者に敬服するほかない。 朝日新聞記者である著者は、妻の、そして、みずからの20年を記録する。みじかくない年月は、彼女が、摂食障害にはじまり、性被害、アルコール依存から水中毒、そして、40代での認知症にいたる時間だった。 語弊を承知のうえでいえば、この夫婦は幸せなのだと思う。 著者を、妻を、「大変」と

メタ認知、最近よく聞くようになった言葉だ。辞書をめくると、「自分の行動・考え方・性格などを別の立場から見て認識する活動」と書いてあるが、うーん、わかるようでわからない。 サブタイトルの頭がよくなることとどんな関係があるのだろうか。著者はメタ認知の専門家であり、中学生入学段階からメタ認知を意識し始めたらしい。きっかけは、英語学習を通じて、頭の使い方を意識するよ

ある種の快感を抱きながら読んだ。漠然とそうではないかと勘ぐっていたことを、ものの見事に説明してもらえたからだ。がんの新薬が次々と登場している。もちろん画期的な薬剤もあるが、喧伝されているほどのことはないのではないか。腫瘍内科医がその真実をさまざまな角度から検証していく。 第1部「がんの薬の効果はどれくらいで、値段はどれくらいか」の冒頭では、いかに「がんの薬は

「あなたはこの先、コロナ禍のことを忘れてしまうだろう」 もし面と向かってこんな予言をされたら、あなたはどんな反応を示すだろうか。「そんなのあり得ない」と反発するかもしれない。だがこれには先例がある。1918年から1920年にかけて猛威をふるったスペイン風邪である。 スペイン風邪は史上もっとも多くの人間を死に至らしめた感染症だ。にもかかわらず、同時代の表現者た

『すばらしきアカデミックワールド オモシロ論文ではじめる心理学研究』という真面目なタイトルに騙されてはいけない。ひかえめに言って、驚きにつぐ驚き、爆笑につぐ爆笑の一冊だ。 総論文数、数え間違えていなければ84編が真面目に紹介されている。必ずしも心理学に限定されている訳ではないが、すべての論文が素晴らしくおもろい。怪しげな論文がない訳ではないが、きちんとそう注

残念ながら一度しかお目にかかったことがないのだけれど、柏木哲夫先生は大阪大学医学部の大先輩である。いうまでもなくホスピスのパイオニアで、母校の人間科学部教授として「老いと死」を教えておられたこともある。その柏木先生が老いについての本を書かれた。 タイトルにあるように、老いは「育む」のがいいのではないかという考えが本全体にいきわたっている。「育む」=「大事に育

闘病記というものは,どのような人がどのような気持ちで読むのだろう。自分が,あるいは親戚や友人が病気になったときに参考にする,あるいは共感を得たいがためにといったところだろうか。しかし,『ぼくとがんの7年』はよくある闘病記とは少し違う。より幅広い人たちにとって読む価値のある<闘病記>に仕上がっている。 数年前に上梓した『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社,

脳科学はおもしろい。なにしろ新しい知見がどんどん発表されるし、それを紹介する本も目白押しだ。今回はそんな中から脳と人工知能について書かれた本を二冊まとめて紹介したい。 一冊は、『新・情報7DAYSニュースキャスター』(TBS系)のコメンテーターとしても活躍する東大薬学部教授・池谷裕二と、その共同研究者である東大附属病院の医師・紺野大地による『脳と人工知能をつ

混乱の記録である。同時にきわめて貴重な記録でもある。人類の歴史に残る新型コロナウイルスとの闘い。その最前線で何が起きていたのかが本書で初めて明らかになった。 著者は保健所と東京都庁の感染症対策部門の課長として、新型コロナ対策の第一線で指揮をとった公衆衛生医師である。メモ魔を自認する著者の記録は詳細をきわめる。保健所の苦境は報道などを通じ多少は知っているつもり

あなたは、信じるだろうか? 空中浮遊を30分もするなんて、迷信、ウソ、見まちがい、やらせ・・・そう言って、はねつけるだろうか? この精神科医は、信じている。悪魔は実在し、多くの人が、いまもなお闘っていることを、信じている。 「精神科医のなかには、おかしな人もいる」、読み始める前のわたしは思いこんでいた。 本書の版元・国書刊行会が、この本をウェブサイトで「オカ

「非モテ研」というものがあるらしい。正確には「ぼくらの非モテ研究会」という名前で、いわゆるモテ講座ではなく「非モテで悩んでいる人」たちで集まって開催されている。この会の主宰で、筆者でもある西井開さんは臨床心理士であり、研究者であり、そして本人も「非モテ」意識に悩むひとりだ。 たとえば人は、だれそれがモテない、と聞くと「外見が悪いのかな?」とか、「性格が悪いの

医学系書籍の現状と将来について講演する機会に、いくつかの提案をしたことがある。その時、特に重要性を強調したのは、良き書き手の育成である。売れ筋の医学系書籍をしらべてみると「トンデモ本」が並んでいて愕然とする。その理由のひとつは、まともな医学系書籍は面白くない、あるいは、面白く書ける人が少ないということにある。できれば「このようなオモロイ本を書けるような著者を

「女性は親切で、コミュニケーション能力が高い。他方で、男性は攻撃的で、空間認識に長けている」。性差に関するそうした主張を、あなたもどこかで耳にしたことがあるだろう。さらにあなたは、そのような主張が展開されるなかで、「女脳」「男脳」といった言葉が使われているのを目にしたことがあるかもしれない。「女脳はコミュニケーションに関わる領域が大きく、男脳は空間認識能力が