山本義隆著『ボーアとアインシュタインに量子を読む』を読む
山本義隆さんといえば、毎日出版文化賞と大仏次郎賞をダブル受賞した『磁力と重力の発見』をはじめ、『十六世紀文化革命』や『世界の見方の転換』など、浩瀚な科学史の著作がまず頭に浮かぶ。だから、このたびの『ボーアとアインシュタインに量子を読む』も、量子物理学の歴史の本なのだろうと予想して手に取った。 ところがページを開くなり、その予想はハズレたことを知った。山本さん
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山本義隆さんといえば、毎日出版文化賞と大仏次郎賞をダブル受賞した『磁力と重力の発見』をはじめ、『十六世紀文化革命』や『世界の見方の転換』など、浩瀚な科学史の著作がまず頭に浮かぶ。だから、このたびの『ボーアとアインシュタインに量子を読む』も、量子物理学の歴史の本なのだろうと予想して手に取った。 ところがページを開くなり、その予想はハズレたことを知った。山本さん

小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との闘い 』(新潮文庫)が注目されている。4月24日に上梓されて以来、現在4刷、累計2万6千冊のスマッシュヒットだ。26年前の1998年に出版された本が、なぜいまこんなに注目を浴びているのか。以前より小林照幸の本を”激推し”してきた東えりかと、医学者・仲野徹が話を聞いた 仲野 『死の貝』は昔読んだ記憶があったけれど、文庫化され

かつての米国科学界における女性に対する偏見と差別がここまですごかったのか。いまさら驚くとはお前の認識不足だろうと言われるかもしれないが、にわかに信じられないような内容が次々と語られる。世代が少し違うからかもしれないし、米国と日本の違いもあるかもしれない。ともあれ、そのような状況からジェンダー公正を勝ち取るべく闘った女性研究者、リタ・コルウェルの記録である。

「これほど読む前から面白いに決まっている本はそうそうないはずだ」 米国の腫瘍内科医であるシッダールタ・ムカジーによるピュリッツァー賞受賞作『病の皇帝「がん」に挑む─人類4000年の苦闘』が『がん─4000年の歴史─』として文庫化された時、次作『遺伝子─親密なる人類史─』への期待をこめて解説の最後に書いた文である。この本の原著 『The Song of the

みなさんは、仁科芳雄という人物をご存知だろうか? 物理学をある程度学んだ者なら必ず知っているし、物理学でなくても、理系の研究者なら、ほぼ間違いなく知っているだろう。わたしも一応は知っていた。「仁科記念賞」という、原子物理学とその応用に関する栄誉ある賞があるし、教科書には「クライン=仁科の式」というものが載っている。仁科は理研(理化学研究所)の人であることや、

未来をあれこれ空想する際、話は断然デカい方が良い。評者の周囲にも投資家はたくさんいるが、彼らはいったいいくら投資するのだろう? 1億円、10億円、100億円? しかし100兆円投資できる資産家は、世界に幾人もいないのではないか。 そこで大金が入る前にちょっと考えておこう。いま手元に100兆円あったら、何に使ったらよいだろう?(How to Spend a T

キツネの家畜化実験、 ナショナルジオグラフィックなどで紹介 されたりしているので、その驚くべき成果の概要をご存じの方も多いだろう。かくいう私も人並みならぬ興味を持ってこの壮大な研究を見つめてきたのだが、その裏で、研究成果にも劣らぬ人間ドラマがあったとはまったく知らなかった。主人公はふたり。ひとりはキツネの家畜化実験を考案し、1952年に始動し1985年に亡く

トマス・クーンという名前を聞いたことがある人は少なくないだろう。『科学革命の構造』 という科学古典の著者だが、ちゃんと読んだ人は意外と多くない。 科学の歴史を見ると、天動説から地動説、またニュートン力学から量子力学へというように、革命的に大きく見方が変わるイベントが何回もある。 今から60年ほど前、マサチューセッツ工科大学の科学史教授の著者は、こうした革命の

先般、東京出張の折に、はじめて HONZの朝会というもの に参加しました。HONZのメンバーが原則(少なくとも今回は)ひとり一冊、今読んでいる本、あるいはこれから読もうと思っている本を持ち寄り、その本に対する期待やおもわく(?w)について語る会です。 で、そのときHONZレビュアーの首藤淳哉さんが、『かがくを料理する』という本を持っていらしたのです。 いえね

青森から、HONZメンバーの青木薫さんが上京されると聞き及んだ。骨太な新刊『遺伝と平等』の翻訳について、日本の代表的な書店のひとつ、紀伊國屋書店新宿本店にて語り尽くすという(青木薫の推薦本フェアは3階人文書コーナーレジ前で開催中 期間はお店に確認してください)。何を隠そう、聞き手は私、HONZ副代表の東えりかである。『フェルマーの最終定理』を始めとるするサイ

津波について、ほとんど何も知らなかった。この本を読んだ感想をひとことで書くとそういうことになる。本当に勉強になった。世界中で過去におこった津波について、さまざまなエピソードがわかりやすく綴られていく。 よく知られているように、Tsunami は日本語から世界共通語になった数少ない言葉のひとつだ。語源からいくと、「津(=港)をおそう波」、すなわに「港の内部に押

ロビン・ダンバーは、彼が提唱した「ダンバー数」とともに、その名が広く知られている研究者である。ダンバー数とは、ヒトが安定的に社会的関係を築ける人数のことであり、具体的には約150と見積もられている。ダンバーは、霊長類各種の脳の大きさ(とくに新皮質の大きさ)と集団サイズの間に相関関係があることを見てとり、ヒトの平均的な集団サイズとしてその数をはじき出したのであ

近年、遺伝子研究が進展してきたことで身長や顔といった見た目の要素だけでなく、「学歴」のような生涯収入やそれに伴う生活の質に直結する部分も遺伝子の影響を受けることがわかってきた。しかしそうしたデータは気軽に世に出すと、何度否定されても議論が絶えることのない優生学や、何をもってして社会は「平等」や「公平」といえる状態になるかといった、簡単には答えのでない議論を呼

国連が世界の総人口が80億人を突破する推計を発表した。こうした中で人類が近い将来に直面する「滅びのシナリオ」を25項目取り上げ、「科学的根拠」と「回避する方法」を提示したのが本書である。 コンピューターサイエンスで修士号を取得した著者は、ノースカロライナ州立大学の工学起業プログラムを主催する。全米のラジオやテレビ番組で難しい内容を平易に伝える科学ジャーナリス

こんなに面白い伝記を読んだのは初めてかもしれない。「面白い」という言葉には、「ワクワクする」「興味深い」「楽しい」「目が離せない」「胸が熱くなる」「笑える」などいろいろなニュアンスが含まれるが、本書にはそのすべてが詰まっている(実際、声をあげて笑った箇所もあった)。間違いなく今年を代表するノンフィクションだ。 イーロン・マスクを知らない人はおそらく少数派だろ

夏真っ盛りの8月下旬だが、とにかく毎日暑すぎる。昼外にちょっとご飯を買いにいくだけで殺人的な太陽に体を焼かれ、数分後に家に帰ってきたときには命の危険を覚えている。それぐらいに毎日暑いし、間違いなく毎年夏は暑くなっている。 とはいえ、こんなにも毎日暑い理由ははっきりしている。気候変動、地球温暖化だ。これによって地球の温度が実際に少しずつ増しているせいだ。30年

わが国屈指の太陽物理学者が、太陽の活動が地球環境にどのような影響を及ぼすかを論じた入門書である。「宇宙気候学」を専門とする著者は、宇宙に目を向けながら過去から未来までの環境について、写真や図表をふんだんに使いながら丁寧に読み解いてゆく。 サブタイトルに「太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来」とあるように、太陽系の中心にある太陽は地球環境のすべてをコント

「生きているもの」と「生きていないもの」を見分けるのは、直感的には簡単に思える。たとえば、人間や犬が生きていること、石のような無機物が生きていないことにそうそう異論は出ないだろう。しかし厳密に境界線を引こうとすると、ことは途端に難しくなる。たとえば「自己複製するか」「自分で代謝活動を行うか否か」あたりの細胞性生物の特徴を「生命の定義」にしようとしても、(基本

わたしたちは法律や条例などのルールに囲まれて生きている。そして、それらの多くがわたしたちを深刻な危害から守ってくれていることは間違いない。だがその一方で、何らかの理由でルールがうまく機能していない場合も少なくない。ほとんどのドライバーが守っていない、ある道路での速度制限。日々新たに報じられる、企業のコンプライアンス違反。では、そうした一部のルールがあまり守ら

スウェーデンのある地域でのこと。小学校低学年から10代後半までの子どもたちに、〈謎の病〉が発生している。子どもたちは最初、不安になりふさぎ込む。そして徐々に引きこもりはじめ、口数が減っていき、そのうちまったく話さなくなる。最後にはベッドで寝たきりとなり、最悪の場合、食べもしなければ目も開かなくなってしまう。そうした子どもたちの数は、2015年から2016年の

今から3年前、2020年度から全国の高校で選択科目「理数探究」が新設された。生徒が問題意識を持ちオリジナルな解決策を探るという新しいタイプの授業だが、教諭が教科書を使って板書しながら教える通常の授業とはかなり異なる。 生徒一人ひとりが問いを立て、クラスで協力しながら情報を集め、議論しながら解決を探るという斬新な試みだ。本書はその新科目「理数探究」では何を学び

新幹線で京都と東京を往復すると、晴れた日には三島駅の北側に富士山がよく見える。その中腹には大きな穴がポッカリと空いているが、江戸時代に大噴火した火口であることを知る人はそう多くない。 もし「こだま」で三島駅に下車する機会があれば、北側の改札を出たところにある溶岩の露頭(地層が見える崖)を見てほしい。三島溶岩と呼ばれる約11,000年前の噴出物で、この現象を現

たまたま知り合いのSNSを通じて、木製の桶に関する本が出ることを知りましたのです。わたしは木材加工の技術史や、微生物による発酵の科学にもちょっと興味があったもので、さっそく読んでみました。結果、最後のほうは思いもよらず感動してうるうるしてしまいました。 とはいえ、最初からそれほど期待していたわけではありません。タイトルだけ見たときには、ぼんやりと二つぐらいの

最近、仕事中のほとんどの時間は何らかのゲーム配信(最近はLeague of Legends)を垂れ流していることが多い。人気のストリーマーは数千、数万といった視聴者を集める。そうすると、一人用ゲームではない対戦系ゲームを配信で行っている配信者は、少なからぬ「嫌がらせ」行為に遭遇するものだ。 たとえば、配信者がゲームのマッチングを開始したのにタイミングを合わせ

地球科学には「過去は未来を解く鍵」と言うフレーズがある。過去に起きた現象を詳しく分析し、その中で働いているメカニズムを明らかにし「物理モデル」を立て、未来に起きる現象を予測する。 未来を予測・制御するのは自然科学が持つ基本的な機能で、理学も工学も医学も基本的には同じ原理で動いている。ところが地球科学だけは他の理系分野と異なり、過去に起きた現象が138億年にわ

近年、栄養環境の改善や医療技術の進歩によって人間はより長く生きることができるようになった。ただ、ほとんどの人が望んでいるのは、「長く生きる」ことだけでなく、同時に「健康で」あることだろう。糖尿病などの慢性疾患を発病して、永続的な治療が必要ないのであれば、それが幸いである。 そうした状況と科学の進展も合わさってか、『LIFESPAN: 老いなき世界』など、近年

ネックレスや弓矢はけっして偶発的に出来るわけではない。それらを形にするためには、if-and-then思考が必要だ。「それぞれの貝殻に穴を開けて(if)、その穴に繊維を通せば(and)、ネックレスができる(then)」、「伸縮性のある繊維に矢を取り付けて(if)、繊維の張力を緩めれば(and)、矢が飛ぶ(then)」というように。それゆえ、およそ7万年前まで

男と女のあいだには、深くて暗い河があるという。それは真っ赤な嘘だった。 男と女、広く生物でいえばオスとメスは、独立して存在しているわけではない。 つまり、オスとメスという性が、確固たるものとして存在しているのではない。実は両者は連続しているという。 太陽光をプリズム(三角形のガラス棒)で分解すると7色の光の帯が出現する。7色はくっきりとわかれているわけではな

ウォルター・アイザックソンが、クリスパー・キャス9のジェニファー・ダウドナを主人公に据えて、『コード・ブレーカー』(原題はThe Code Breaker) という新作を出したと聞いて、わたしは「ん?」と思った。アイザックソンがこれまで評伝の対象としたのは、アインシュタイン、スティーブ・ジョブズ、レオナルド・ダ・ヴィンチなど、誰がどう見ても文句なしに突出した

ジェームズ・ワトソンの『二重らせん』が、これまで最高に売れたサイエンス・ノンフィクションだ。フランシス・クリックと世紀の大発見ー遺伝情報をコードするDNAが二重らせん構造を持つことーを成し遂げたワトソンによる発見の経緯を記した本だが、決して正確な記録ではない。あくまでも、ワトソン個人から見た二重らせん発見物語である。それでもこの本がすごく売れたのは、サイエン

ぼちぼち年末だというのに、年内に読み切れるのか途方に暮れるくらい注目のノンフィクションが目白押しである。その中でひとつだけ選べと言われたらこの本を推す。本書はなにをおいても読むべき傑作だ。 なにしろ当代随一のノンフィクション作家、ウォルター・アイザックソンの最新作である。アイザックソンはこれまで、スティーブ・ジョブズやレオナルド・ダ・ヴィンチ、アルベルト・ア

地球の歴史に人間が痕跡を残したかどうかが、最近話題になっている。「人新世」(じんしんせい)はそれを論じるキーワードだが、もとは地球史に関する専門用語である。確かに地球46億年の歴史上、人類の活動は大きな痕跡を残しつつある。 コンクリートや金属など人工物の総重量は、全生物の総重量を上回ったという試算がある。20世紀初頭、人工物の総重量は生物総重量の3%に過ぎな

それは脳のなかの「天使」でありながら、ときには「刺客」へと変貌するという。本書の主人公は、非神経細胞のひとつである「ミクログリア」である。 つい最近まで、ミクログリアは脳のなかの端役にすぎないと考えられていた。脳内の情報伝達を担うニューロンや、そのつなぎ役を務めるシナプスといった綺羅星たちと比べると、それが果たす役割はごく些末なものだと考えられていたのである

こういう本を書ける人を心からうらやましく思う。医学や科学についていろいろなところで書いてきたが、まったくレベルが違う。ひとことでいえば、悲しいけれど才能の違いということになるのだろう。それに英語の壁もとてつもなく高い。 著者のダニエル・M・デイビスは英国の免疫学者である。インペリアル・カレッジ・ロンドンの教授で、そのHPを見ると優れた論文をたくさん発表してい

宇宙の誕生から人類の繁栄まで、138億年にわたる壮大な歴史を興味深く綴った本が出た。著者のウォルター・アルバレス(Walter Alvarez)はカリフォルニア大学バークレー校で地球惑星科学の教授を務める、米国を代表する地質学者である。 実は、私は著者の名前を30年以上も前から知っていた。というのは、恐竜が6500万年前に突如として大量絶滅した原因を見事に解

英語圏ではすでにして評価の高い、ジューディア・パールの大著『因果推論の科学--「なぜ?」の問いにどう答えるか』(原題はThe Book of Why)が、ついに翻訳刊行された。実は私は原書を読みかけて挫折していたのだが、このたび邦訳が出たのを機に、ついに読み通すことができた。そして、本書を読み通したことで得たものは大きい。 ジューディア・パールは、人工知能へ

宇宙空間に浮かぶ地球を研究対象とする自然科学の一分野に「地球科学」がある。日本では高校の科目名や大学の学科名として、「地学」という呼び名が一般的に用いられてきた。ちなみに、高校の地学は、物理・化学・生物という理科3教科と比べるとマイナーな扱いだ。 理系科目としては地味だが、大学入学共通テストでは結構人気がある。すなわち、理科が苦手な生徒が選択する科目としては

この『サイレント・アース』は副題に入っているように、殺虫剤や農薬などの化学物質の危険性を訴えた「沈黙の春」の昆虫をテーマにした現代版とでもいうべき一冊だ。 著者によれば、いま世界から昆虫の数が急速に減少しつつあるという。温暖化など環境の変化もあるうえ、森林の伐採など問題は絶えないから、昆虫の数が減っていること自体に違和感はない。では、具体的に何が原因で昆虫は

著者は2015年の「世界コピーライターランキング1位」を獲得したクリエーティブ・ディレクター。レニングラード生まれ、両親の仕事の関係で小学1年から中学3年の間にロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカ、カナダの6カ国で9回の転校を経験している。4つの言語で教育を受け、学制がちがうため小学校は3回卒業した。 国によって教育方針も方法も、文房具も科目も全部違う

「人間を生き残らせた出来の悪い足」という副題と、次の瞬間にはネコ科大型獣の餌食になるという惨劇を予想させる表紙カバーの絵に興味を引かれて、ふと手に取った本でした。序論と第一章では、二足歩行に対するわれわれの思い入れの強さが指摘されていて、ぐっと内容に引き込まれました。ところが54ページまで読み進めたところで、重大な問題にぶつかってしまったのです。そこにはこう