ノンフィクションはこれを読め!

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466記事

ノンフィクションの舞台を訪ねて 陸前高田への旅 書影

人物 / 社会

ノンフィクションの舞台を訪ねて 陸前高田への旅

みぞれまじりの空の下、車窓から鉛色の海が見えた。いかにもリアス式海岸らしい入江になっていて、風があるのか波が高い。「この先、津波浸水区域」と書かれた道路標識を、私たちを乗せたバスは通り過ぎて行く。あれから13年。 「広田湾だ! 高田だー!!」山側の座席にいたはずの竹内さんが、海側の席に移ってきて、はしゃいでいる。彼女は何度も通った道だが、私が陸前高田を訪れる

『米特殊部隊CCT 史上最悪の撤退戦』これまであまり語られてこなかった戦闘管制員の物語 書影

教養・雑学 / 人物

『米特殊部隊CCT 史上最悪の撤退戦』これまであまり語られてこなかった戦闘管制員の物語

大英帝国の力がシーパワーに支えられていたとするならば、アメリカの覇権はそれに加えてエアパワーに支えられている。このエアパワーを支える存在のひとつが米空軍特殊部隊CCT(戦闘管制員)である。米軍の特殊部隊といえば陸軍のデルタフォースと海軍のネイビーシールズが特に有名であろう。これらの組織はハリウッド映画などを始め様々な娯楽作品にも登場している。しかし、本書の著

『虎の血』岸一郎って、誰やねん? 書影

アート・スポーツ / 人物

『虎の血』岸一郎って、誰やねん?

プロ野球がキャンプインし、いよいよ開幕がみえてきた。そんな心躍るタイミングで、抜群に面白いスポーツノンフィクションが出版された。 昨年のプロ野球は、阪神タイガースの38年ぶりの日本一で盛り上がった。優勝を意味する隠語である岡田彰布監督の「アレ」は、「A.R.E.」というチームスローガンになり、年末の新語・流行語大賞にも選ばれた。大阪の街は虎一色に染まり、優勝

『隆明だもの』父親は「戦後最大の思想家」 書影

人物 / おすすめ本レビュー

『隆明だもの』父親は「戦後最大の思想家」

全集は月報が面白い。月報とは、全集の各巻が刊行されるごとに差しはさまれる小冊子のこと。ようするに附録である。著者ゆかりの人物がエッセイでとっておきのエピソードを明かしていたり、著者の素顔について語られた座談会があったり、附録とはいえ内容は充実している。文学研究者のあいだでも、月報は作家の人となりを知ることができる貴重な資料とされる。 講談社文芸文庫 には月報

『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』ホールアースという名の革命 書影

人物 / 「解説」から読む本

『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』ホールアースという名の革命

2005年6月12日のスタンフォード大学の卒業式でのことだった。スピーチに立ったアップル創業者のスティーブ・ジョブズが、自分は大学を早々にドロップアウトしたのだがと前置きしてから波乱に満ちた自らの人生を語り、その締めくくりとして、若い頃に最も影響を受けた「ステイ、ハングリー。ステイ、フーリッシュ。」(Stay hungry. Stay foolish.)とい

『怪物に出会った日』敗北が持つ豊かな可能性 書影

アート・スポーツ / 人物

『怪物に出会った日』敗北が持つ豊かな可能性

彼の強さを確認するのは容易い。たとえば「井上尚弥 パヤノ」で検索してみよう。それだけで何本もの動画を見つけることができる。 2018年10月7日、横浜アリーナで行われたこの試合は、バンタム級最強を決めるトーナメント「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ」の一回戦であるとともに、WBA世界バンタム級タイトルマッチでもあった。 勝負は一瞬でついた。王者の井上

『続 窓ぎわのトットちゃん』続編はパパとママの話から 少女から大人へ 書影

人物 / 社会

『続 窓ぎわのトットちゃん』続編はパパとママの話から 少女から大人へ

1981年に刊行された 『窓ぎわのトットちゃん』 は現在まで読み継がれ空前のベストセラー、ロングセラーとなっている。日本人のほとんどが「トットちゃん」は黒柳徹子のことだと知っているってすごいことだ。 さらに芸歴70年で今も第一線で活躍し、冠番組の「徹子の部屋」は2023年9月に、同一司会者によるテレビ番組最多放送のギネス記録を更新した。黒柳徹子さんは生ける芸

現在に至る種を広範囲にわたってまきつづけてきた悪魔的な天才──『未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

現在に至る種を広範囲にわたってまきつづけてきた悪魔的な天才──『未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン』

この『未来から来た男 ジョン・フォン・ノイマン』はその名の通りジョン・フォン・ノイマンの伝記である。1903年生まれの1957年没。数学からはじまって、物理学、計算機科学、ゲーム理論、気象学など幅広い分野で革新的な成果をあげつづけ、史上最高の天才など、彼を称える言葉に際限はない。彼と同時代を生きた人物に、クルト・ゲーデルやアルベルト・アインシュタインなどそう

面白すぎてヤバい!『イーロン・マスク』 書影

サイエンス / 人物

面白すぎてヤバい!『イーロン・マスク』

こんなに面白い伝記を読んだのは初めてかもしれない。「面白い」という言葉には、「ワクワクする」「興味深い」「楽しい」「目が離せない」「胸が熱くなる」「笑える」などいろいろなニュアンスが含まれるが、本書にはそのすべてが詰まっている(実際、声をあげて笑った箇所もあった)。間違いなく今年を代表するノンフィクションだ。 イーロン・マスクを知らない人はおそらく少数派だろ

熱き男が叶えたジャパニーズドリームここにあり! 『逆転力、激らせろ−希望を咲かせて』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

熱き男が叶えたジャパニーズドリームここにあり! 『逆転力、激らせろ−希望を咲かせて』

あるんや、ジャパニーズドリームって。この本、山分ネルソンの一代記を読めば、誰もが驚きを持ってそう思うだろう。もうひとつ、私にとっての大きな驚きは、それが身近なところでおこっていたことだ。すこしわかりにくいが、タイトルの「激らせろ」は「たぎらせろ」とルビがふってある。 山分ネルソン祥興、マレーシア出身の50歳。大阪や関西圏以外の人はご存じないかもしれない。私が

『最後の海賊』その先に待つのは破滅か、栄光か 書影

人物 / ビジネス

『最後の海賊』その先に待つのは破滅か、栄光か

楽天グループが危機に瀕しているという声をよく聞く。 2023年1月~6月期の連結決算は、最終損益が1399億円の赤字。好調な事業もグループ内にはあるものの、営業赤字が1850億円にのぼったモバイル事業が大きく足を引っ張っているとされる。加えて来年以降は、基地局整備などに充てるために発行した社債も大量の償還を迎える。償還に向け、グループ会社の上場や一部資産の売

『穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って』駆け抜けた25年の生涯 書影

アート・スポーツ / 人物

『穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って』駆け抜けた25年の生涯

大切なことはいつも“向こう側”からやってくる。不意に、思いもよらないタイミングで。 今年の夏はひさしぶりに一家で旅をした。行き先は香川。家族旅行はコロナ以降ご無沙汰だったので、てっきり海外にでも行きたいと言い出すものとばかり思っていたが、妻と子どもたちで話し合ううちに、どういう流れか「本場の讃岐うどんの食べ歩きがしたい」と盛り上がったらしい。 そうと決まれば

北方謙三、全ての記録『完全版 十字路が見えるⅠ-Ⅳ』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

北方謙三、全ての記録『完全版 十字路が見えるⅠ-Ⅳ』

「北方謙三は長篇作家」。たしかにそのイメージは強い。 『三国志』 から始まった中国史シリーズはユーラシア大陸を駆け抜けた 『チンギス紀』 が2023年7月に完結を見る。男が抱く歴史の大ロマンを25年に渡り書き続けてきたことになる。まさに偉業だ。 だが純文学出身で和製ハードボイルドブームの立役者であったころに培った、情景描写と短いセンテンスで構成された短篇小説

爆笑!、いまをときめく『桂二葉本』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

爆笑!、いまをときめく『桂二葉本』

「○○のすべて」みたいなムックを買うことはけっこうあるが、たいていは拾い読み程度で終わってしまう。いろんな事柄が載っているのはいいけれど、中には興味のない記事もあるからいたしかたなし。しかし、この『桂二葉本』は違った。66年の人生にして初めて、ムックを通しで読破した。桂二葉を知る人はもちろん、タイトルを見て「誰やその桂二葉は」と思った人にとっても絶対におもろ

『カミカゼの幽霊』死人となって戦後を生きた男の物語 書影

人物 / 日本史

『カミカゼの幽霊』死人となって戦後を生きた男の物語

特攻兵士の遺書ほど読むのが辛いものはない。先日も海上自衛隊佐世保資料館を訪れた際に目にする機会があった。遺書は母親に宛てたもので、育ててくれたことへの感謝と立派に最期を遂げたいという覚悟が綴られていたが、「母様」という呼びかけに、そこに記すことのできない思いのすべてが込められているような気がして、胸が苦しくなった。 特攻は愚劣極まりない人命軽視の戦法である。

『ぼくの大林宣彦クロニクル』偉大なる義父との日々 書影

アート・スポーツ / 人物

『ぼくの大林宣彦クロニクル』偉大なる義父との日々

「義理の父」というのはなんとも不思議な存在である。妻と出会わなければ知り合うこともなかった男性が、結婚した途端、父親になるのだ。世間の約束事といえばそれまでだけど、だからといって、いきなり仲良くできるとは限らない。どう接していいかわからず、ぎくしゃくしてしまう人も多いのではないだろうか。 本書を読んで、そんな範疇にはおさまらない親子関係もあるのだと知った。著

『明治のナイチンゲール 大関和物語』ロールモデルを持つってこういうこと! 書影

人物 / おすすめ本レビュー

『明治のナイチンゲール 大関和物語』ロールモデルを持つってこういうこと!

著者の田中ひかるさんは、以前にも『明治を生きた男装の女医-高橋瑞物語』というノンフィクションを書かれています。こちらについては、 仲野先生がレビュー を書いていらっしゃるのでそちらをご参考にどうぞ。 今回は自ら看護婦となり、その制度を整え後進を育てることに尽力した女性の物語です。 今作の主人公、大関和(ちか、と読みます)は、幕末の下野国で藩の家老の娘として産

『高倉健、最後の季節。』ある映画俳優の最期。 書影

人物 / おすすめ本レビュー

『高倉健、最後の季節。』ある映画俳優の最期。

一度だけ、高倉健さんにお会いしたことがある。 私が北方謙三氏の秘書をしていた時のことだ。イベントで北方ボスと高倉さんが話をしているところに、何かを伝えに行かなければならなくなった。誰でも知っている俳優さんにご挨拶するのはいつも緊張して足が震えた。ほとんどの方は当然のことながら私のことなど歯牙にもかけない。だがたったひとり、高倉健さんだけは、きちんと頭を下げて

『ギフテッドの光と影』突出した才能との向き合い方 書影

人物 / 社会

『ギフテッドの光と影』突出した才能との向き合い方

朝ドラで話題の植物学者、牧野富太郎は小学校中退である。授業が退屈すぎて自主退学したことはよく知られている。現代からみれば、牧野富太郎は「ギフテッド」だったのかもしれない。 本書はギフテッドの実像に迫ったノンフィクションである。「ギフテッド」という言葉自体は社会に認知されつつあるが、その実態はほとんど知られていない。彼らの等身大の姿を伝える本書は、才能とは何か

『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』書けなくなった批評家を救ったもの 書影

人物 / 社会

『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』書けなくなった批評家を救ったもの

ひさしぶりに会った知人の変貌ぶりにショックを受けることがある。本書を書店で見かけた時の驚きもそれに近い。表紙の男性と著者名が一瞬つながらず、本人だと気づいて衝撃を受けた。別人のように痩せている。それも何か大病を患ったことをうかがわせるような痩せ方ではないか。 90年代からゼロ年代を通じた福田和也の活躍ぶりは、まさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」という言葉がぴったりだ

言語で国境を越える『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話』 書影

教養・雑学 / 人物

言語で国境を越える『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話』

私は本が持つ「熱量」に惹かれる。著者がどうしても書き残したかったものや、誰かに伝えたかったこと、自分にしか出来ないことなどを、汗かきながら書き上げる姿を想像できる本が好きだ。本書『千葉から~』の熱量は計り知れず。私にとって今年No.1の一冊になるだろう。 著者は、1992年千葉県生まれ。大学受験や失恋、就活などを経験する中で、卒業してから引きこもり生活に突入

『ワグネル プーチンの秘密軍隊』謎の軍隊に属した元傭兵の回想録 書影

人物 / 社会

『ワグネル プーチンの秘密軍隊』謎の軍隊に属した元傭兵の回想録

膨大な死傷者を出しつつウクライナで存在感を示したPMC(民間軍事会社)ワグネル。プーチンの秘密の軍隊ともいわれ、2014年のウクライナ紛争やシリア内戦でも暗躍していたことが知られている。一方で2022年のウクライナ侵攻以前はその存在をロシア政府から公式に認められていなかった。それもそのはずで、ロシアでは法律により傭兵家業が禁止されているはずなのだ。著者マラー

楽しく読めて役に立つ!医者にかかる前に読んでおきたい『患者が知らない開業医の本音』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

楽しく読めて役に立つ!医者にかかる前に読んでおきたい『患者が知らない開業医の本音』

開業医さんの生活ってどんなんやろ。近所の医院の前を通りかかった時、あるいは、ちょっとした病気でお世話になった時、ふと思ったことのある人は多いだろう。といっても、たぶん、お金持ちなんやろなぁ、とか、気を遣うから大変やろなぁ、という漠然としたイメージしかわかないのではなかろうか。 医学部の出身なので医師の友人は多い。開業医の友人もたくさんいるが、その実態はよく知

『小山田圭吾の「いじめ」はいかにつくられたか』情報社会の「災い」の構造を読み解く 書影

人物 / 社会

『小山田圭吾の「いじめ」はいかにつくられたか』情報社会の「災い」の構造を読み解く

東京五輪直前の猛バッシングを覚えている人も多いだろう。世間から指弾されたのは、国際的にもその音楽性を高く評価されていたミュージシャン、小山田圭吾だった。だが彼は本当に悪人だったのだろうか? 本書は未曾有の炎上の背景に分け入り、子細な検証を重ねて、この炎上が理不尽な「インフォデミック」、すなわち誤情報のとてつもない拡散によってもたらされた災いだったことを明らか

『安倍晋三 回顧録』歴代最長政権の舞台裏を明かす 書影

人物 / 社会

『安倍晋三 回顧録』歴代最長政権の舞台裏を明かす

注目の一冊がついに刊行された。巻末の人名索引まで含めると472ページだが、厚さはまったく気にならない。面白すぎて一気呵成に読み終えた。 本書はもともと1年前に出版される予定だったという。ところが、あまりに機微に触れる部分が多く、安倍氏本人から出版延期の申し入れがあった。その後、銃撃事件で亡くなってしまったため、昭恵夫人の同意のもと出版が決まったと聞く。ならば

『国商』権力と一体化した男の実像 書影

人物 / 社会

『国商』権力と一体化した男の実像

政商という言葉はあるが、国商は聞いたことがない。 政商とは、時の権力と結託して特別な利益を貪る商人のこと。国商はさしずめ国家と一体化した商人といったところか。 だいたい異名というのは、尾鰭のついた評判によって肥大化した虚像に対してつけられるものと相場が決まっている。だが本書を読み進むうちに、国商とは実に鋭く故人の本質を突いた呼称ではないかと思った。 2022

『笑い神』漫才とは何か。笑いとは何か。 書影

人物 / TV・動画

『笑い神』漫才とは何か。笑いとは何か。

徒手空拳、という言葉がある。手に何も持たず、身ひとつで何かにのぞむことを指す。 漫才は文字どおり徒手空拳の芸だ。サンパチマイクの前で、全身を客に晒し、しゃべりの技術だけで勝負する。実にシンプルな芸だ。シンプルなだけに、客にも違いはすぐにわかってしまう。上手いか下手か。おもしろいかおもしろくないか。 客ウケが悪いと、芸人の表情はみるみる青ざめていく。脂汗が流れ

『ゼレンスキーの素顔 真の英雄か危険なポピュリストか』 書影

人物 / 社会

『ゼレンスキーの素顔 真の英雄か危険なポピュリストか』

2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナへの全面侵攻は世界を震撼させた。侵攻以前からロシアはウクライナ国境付近に軍を集結させていたが、本当に軍事作戦に踏み切るのか、それともただの脅しなのか、様々な情報が錯綜していた。世界の耳目を集めていた案件だけに、いざ侵攻が始まると既存のメディアはもとよりSNSなどでもロシア軍の動きは逐一報じられ、次々と現地

『天路の旅人』「希有な旅人」の壮大な旅を描く大作 書影

人物 / 民俗・風俗

『天路の旅人』「希有な旅人」の壮大な旅を描く大作

「沢木耕太郎が旅の本を出すらしい」 そんな噂を聞いたのは、そろそろ梅雨も明けようかという頃だった。 書棚からあわてて『深夜特急』を引っぱり出してきて読み始めた。「沢木耕太郎」と「旅」。ふたつのキーワードを耳にして、「沢木耕太郎が自身の集大成となる旅の本を出す」と早合点してしまい、ならば原点ともいえる『深夜特急』を読み直さねばなるまい、と考えたのだ。 すると文

『「アマゾンおケイ」の肖像』2022年No.1評伝!20世紀を駆け抜けた痛快な女傑の物語 書影

人物 / 社会

『「アマゾンおケイ」の肖像』2022年No.1評伝!20世紀を駆け抜けた痛快な女傑の物語

自らを「アマゾンおケイ」と呼んだ小川フサノは、軍事アナリストの 小川和久 氏の母親ではある。二十世紀を駆け抜けた母の豪快で痛快な一生を息子は全力で書き上げた。 1903年、熊本県八代の山林地主の家に生まれたが、ほどなくして実家は没落。13歳で叔父夫婦とともにブラジル移民となった。 叔父の妻と仲違いし、四十男との結婚を嫌い、ピストルを懐に出奔後、サンパウロで邦

『無人島のふたり』余命宣告された作家の最期の日々 書影

人物 / 小説

『無人島のふたり』余命宣告された作家の最期の日々

訃報はいつだって突然だ。著名人が亡くなると、生放送中のスタジオに報道の人間が原稿をもって駆け込んでくる。速報は一刻も早く放送するのが鉄則だが、そこに記された名前に驚き、思わず足が止まってしまうことがある。訃報にあらかじめ心の準備をしておくことなんてできない。誰かの死に慣れることはこの先もきっとないだろう。 山本文緒さんが亡くなったという報せも突然だった。 2

ドットtoドット 『踏み出す一歩は小さくていい』 書影

人物 / ビジネス

ドットtoドット 『踏み出す一歩は小さくていい』

もしあなたが子育て中なら、「大学を出て、企業に就職して、定年まで勤めあげる」人生をわが子に教え込まないほうが良いだろう。素直で親孝行な子であるほど、将来、親の期待を裏切って罪の意識に苛まれる可能性が高いからだ。時代は音を立てて変わっていて、もはや「過去の方程式」は通用しないのである。 本書の著者はリーマンショックの影響を受けた就職活動で、60社から不採用をも

あなたの人生を問う。『昭和の参謀』 書影

人物 / 社会

あなたの人生を問う。『昭和の参謀』

あつい。 この夏の「暑さ」に負けない「あつさ」を『昭和の参謀』は持っている。 444ページという新書には破格の「厚さ」、テーマにたいする著者の「熱さ」、そして、取材相手への真摯な「篤さ」、この3点を、読者は、じゅうぶんすぎるほど堪能できるにちがいない。 陸軍で、その名をとどろかせた7人の参謀(石原莞爾、服部卓四郎、辻政信、瀬島龍三、池田純久、堀栄三、八原博通

『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』74歳、APU学長 完全復職! 書影

人物 / おすすめ本レビュー

『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』74歳、APU学長 完全復職!

2022年4月1日、大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)で入学式が行われた。そこに学長である出口治明さんが登壇され祝辞を述べた。 2021年1月9日、出口さんは脳出血で倒れた。一命はとりとめたが、右半身麻痺と失語症が残った。失語症は「聞く」「話す」「読む」「書く」という言葉を使った働きが上手く出来なくなる状態で、出口さんは相手の話している内容は

金言あふれる賢者ルービック伝『四角六面 キューブとわたし』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

金言あふれる賢者ルービック伝『四角六面 キューブとわたし』

これほどシビれる本に出合うことはそうそうない。それは、真の知的好奇心と創造力を兼ね備えた上に深い思索をできる人がめったにいないからに違いない。そのような希有なる人物、エルノー・ルービック(正しい発音は ルビク・エルネー らしいが)の自伝である。名前を見たらおわかりだろう。誰もが一度は手に取ったことがある ルービックキューブ を発明した人である。 1944年、

『ソーニャ、ゾルゲが愛した工作員』ゾルゲに見出され歴史を動かした「主婦」 書影

人物 / 世界史

『ソーニャ、ゾルゲが愛した工作員』ゾルゲに見出され歴史を動かした「主婦」

ロシアのウクライナ侵攻により核戦争の脅威が現実味を持って語られるようになっている。こうした緊張感のある状態は東西冷戦以来であろう。実は冷戦を生み出すにいたる、核の軍事バランスを作りだすのに、大きな役割を果たした一人の主婦がいたことはあまり知られていない。彼女のコードネームはソーニャ。三人の子供の母であり、妻であり、ソ連軍情報部(GRU)の将校であり、腕利きの

『難民に希望の光を 真の国際人 緒方貞子の生き方』緒方貞子を知るための「入門書」 書影

人物 / 社会

『難民に希望の光を 真の国際人 緒方貞子の生き方』緒方貞子を知るための「入門書」

2022年2月24日、ロシアが隣国のウクライナに全面的な侵攻を開始した。ウクライナ国民の多くは国境を越え難民となっている。この現実を目の当たりにして、もし緒方貞子だったらという思いが頭を駆け巡る。 UNHCRとは国連難民高等弁務官事務所の略称。紛争などで難民となった人々を国際的に保護・支援し問題解決を図る国連機関だ。緒方貞子は1991年から10年間、第八代国

『さよなら、野口健』愛憎入り混じる人間ドラマ。新しい人物ノンフィクションの誕生 書影

人物 / おすすめ本レビュー

『さよなら、野口健』愛憎入り混じる人間ドラマ。新しい人物ノンフィクションの誕生

本書の書き出しは穏やかではない。なにしろ京都で名高い縁切り神社の話から始まるのだ。そこは「悪縁」を切ることのできる最強の縁切り神社として知られる。訪れた人は、境内にある巨石が参拝者によって糊付けされた形代(白いお札)でびっしりと覆われているのに圧倒されるだろう。 著者は神社のすぐ近くまで足を運びながら、縁が本当に切れてしまうことにためらいを覚え、結局行くのを

「他人の価値」から自分を取り戻す『当事者は嘘をつく』 書影

人物 / 社会

「他人の価値」から自分を取り戻す『当事者は嘘をつく』

すごい本が出た。 いきなりであるが、この本の最後の文を紹介したい。 でも、その窮屈な型を破って、新しい型を生み出すサバイバーがきっと出てくる。私の語りの型は、誰かの生き延びるための道具となり、破壊され、新しい型の創造の糧になる日を待っている。(200ページ) この締めくくりの文に、この本の性格が表されている。性暴力のサバイバーである著者は、さまざまな本を読み

『おもちゃ』彼女が転落した理由 書影

人物 / 社会

『おもちゃ』彼女が転落した理由

この人をみるたびに、「アンバランス」という言葉が思い浮かぶ。元参議院議員の河井案里である。芸能人や文化人にもアンバランスな人は多いが、そうした人々特有の才能の過剰さからくるバランスのなさと、彼女から感じるそれはニュアンスが異なる。 人目をひく派手な外見ながら、どこか無理をしているような雰囲気があるところがバランスを欠いた印象を与えるのかもしれない。本書を読ん