
『海峡に立つ 泥と血の我が半生』生臭い社会を駆け抜けた「フィクサー」の半生
戦後最大の経済事件といわれる「イトマン事件」で逮捕された許永中が自身の半生を綴った自伝である。 許永中が語る戦後からバブル期までの日本は、現代のような漂白された潔癖な社会ではなく、政、財、官と裏社会が分かちがたく深く結びついた社会である。良しあしは別にして、混沌としながらもエネルギーに満ち溢れ、どこか生臭いにおいのする社会が、つい数十年前までこの国に存在して
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戦後最大の経済事件といわれる「イトマン事件」で逮捕された許永中が自身の半生を綴った自伝である。 許永中が語る戦後からバブル期までの日本は、現代のような漂白された潔癖な社会ではなく、政、財、官と裏社会が分かちがたく深く結びついた社会である。良しあしは別にして、混沌としながらもエネルギーに満ち溢れ、どこか生臭いにおいのする社会が、つい数十年前までこの国に存在して

『銃・病原菌・鉄』で一世を風靡したジャレド・ダイアモンドの最新刊がこの『危機と人類』である。主に七カ国を対象として、それぞれの国が陥ってきた危機と、それをどのようにして乗り越えてきたのか。また、今現在まさに危機にある国を取り上げ、比較しながら「国家的危機」についての枠組みについて考察しよう、という一冊だ。本書刊行時の著者はすでに80を超えているが、なおパワー

本書は、NHKドキュメンタリー『人間ってナンだ?超AI入門』の特別編として、『世界の知性が語るパラダイム転換』というタイトルで放送された、マックス・テグマーク(宇宙物理学)、ウェンデル・ウォラック(倫理学)、ダニエル・デネット(哲学)、ケヴィン・ケリー(編集学)という4人の世界的知性のインタビューを一冊にまとめたものである。 我々は今、AI(人工知能)の登場

ある日を境に急に有名人になってしまうなんて経験、そうそうないだろう。だがソフィーとアンディの人生にはそのめったにないことが起きた。本書は、しなやかな発想で世界を驚かせた女子高校生2人の成長物語である。 ソフィー・ハウザーは、授業中に手を挙げて発表することにもおびえるほどの極度のあがり症だ。気楽に自分を表現できる場は日記か親友の前だけ。そんな彼女は、スタートア

「『イノベーションか、死か』『テクノロジーか、死か』そういう時代を今、我々は否応なしに生きている」 こうした書き出しで始まる本書は、シンガポールを拠点として、長年にわたり世界各国のテクノロジーやイノベーションに投資してきたベンチャーキャピタリストの著者が、今、テクノロジーの最前線で何が起きているのかを、一般のビジネスマン向けにわかりやすく解説したものである。

西洋近代における奴隷制の全体像を把握できる一冊だ。奴隷貿易の誕生から奴隷制廃止運動まで網羅しているが、本書の白眉は奴隷船にまつわる詳細なデータを提示することで、近代社会の実態を浮き彫りにしたところだろう。 奴隷船はその名のとおり、奴隷を運ぶ船であり、映画や小説で過酷な環境が描かれているように「移動する監獄」であった。 毎日16時間以上、鎖につながれ身動きでき

ロケットが飛ぶのもエアコンを使えるのも大元の原理には物理学がある。現代社会の科学技術は全て物理で説明されるが、その根底を作った科学者の筆頭にアインシュタイン(1875-1955)がいる。 相対性理論を発表した物理学者としても有名だが、彼は1922年(大正11年)から翌年にかけて約1ヶ月半の間、妻エルザとともに日本を訪問したことがある。しかも彼は日本へ向かう船

先日、現代アートのコレクター会に参加した。特に予備知識も無く参加してみたら、これがとにかく面白い。 例えば多摩美術大学の先輩(50代)であるアートコレクターに、何故この作品を購入したのですか?と聞くと、「これは一見、絵の構成に思えるけど写真なんですよ。見たことない画面でしょう」と言う。なるほど、一見それは抽象画のようだが、近づいて見ると実はNASAの建物であ

「見えない」のは、何か力を失った状態ではなく、「視覚に頼らない」という力をもつことでもあるのだと、ここ数年、いろんなご縁のなかで感じている。 その”ご縁”のひとつが、東京都北区田端にある、20席ほどの小さな映画館、そして日本初の「ユニバーサルシアター」でもある Cinema Chupki Tabata(シネマ・チュプキ・タバタ) だ。 「ユニバーサルシアター

著者太田牛一は長寿の人であった。名古屋市北区に生まれ、大阪市中央区で亡くなった。享年86。死因はインフルエンザをこじらせたためだといわれる。 と、今日の人のように書いたのは、その筆致がじつに現代的だからだ。もちろん原文はいわゆる古文なのだが、現代語訳すると論理的な構成になっていることに驚かされる。中川太古氏の現代語訳が素晴らしいということはいうまでもない。

「教養」がブームになってひさしい。2010年代の前半から『教養としての○○』というタイトルの本も数えきれないほど発売されている。そんな中、『教養としてのヤクザ』というタイトルの本を書店で目にして、つい手に取ってしまった。完全にタイトル勝ちである。ヤクザの話がいったい教養になるのかどうか?はなはだ疑問ではあるが、著者の名前を見て、これは買いだと確信した。 なぜ

「ばっちゃん」をご存知だろうか。 中本忠子さん。84歳。広島市の基町アパートを拠点に、40年近くにわたって非行少年たちに無償で手料理を提供してきた人物だ。この活動と並行して、76歳の定年まで30年にわたり保護司も務めた。把握されているだけでも、これまで数百人を立ち直らせてきたという。こうした活動が評価され、国や各種団体からの表彰多数、その半生はNHKのドキュ

なるほど、これが教育というものなのか。 Education is what remains after one has forgotten what one has learned in school. 教育とは、学校で学んだことを忘れた後に残るものをいう 大学の医学部で教えているが、講義の最終回に伝える言葉のひとつだ。アルバート・アインシュタインの名言であ

恐竜についてまったく興味がないという人は珍しいだろう。地球上にさまざまな巨大生物が大量に跋扈している時代があったと思うだけでワクワクしてくる。 しかし、現在知られている恐竜たちは、子どものころ図鑑で見たイメージとはかなり違う。羽毛に覆われた恐竜がいたとか、鳥は生きた恐竜であるとか、まるでウソみたいだ。 これは、「恐竜化石の大発見時代」になり、さまざまなことが

いったいなぜ汚職が起こるのか、と言われても、それが発生する人間心理についてはそう不可思議な点はない。乱用できる権力があり、さらにそれを振りかざすことで利益が手に入るのであれば、そうすることもあるだろう、と容易く想像できてしまう。 「やるだろうな」と想像できる一方で、賄賂などを受け取ることによるリスク(法律違反による逮捕や、糾弾などの制裁)がある時、賄賂をため

映画プロデューサー・奥山和由といえば、強烈な個性とリーダーシップで数々のヒット作品を世に送り出す手腕が映画史に残る人物だ。 『丑三の村』『海燕ジョーの奇跡』『恋文』『ハチ公物語』『226』『遠き落日』『無能の人』『うなぎ』『地雷を踏んだらサヨウナラ』などなど。 これまでに100を超える作品を世に送り出した。 「世界の北野」を生み出したのも奥山さんである。『そ

見慣れた世界地図を、ちょっと視点を変えて色分けしてみると、思いも寄らない姿が浮かび上がってくることがある。たとえば「民主化」の度合いや「女性の社会進出」の進み具合で色分けすれば、欧米を中心にした国々を濃く塗りつぶすことになるだろうし、「政治的自由」の制限などを切り口にすれば、また違った国がクローズアップされるだろう。 では「霊」はどうだろうか? いや、唐突か

仕事の「ムダ」をなくすには、まずムダな仕事をしないことだ。本書のエッセンスを一言で表せばこうなる。いたってシンプル。そして「整理術」系の全てのビジネス書は、同じ内容を説く。 と言って、「ムダな仕事をしないこと」は、決して容易ではない。というのは、何が「ムダな仕事」かが分からないからだ。誰しもムダだと分からないから、ダラダラ仕事を続けてしまう。 これは人ごとで

著者の小林宙(そら)くんは、15歳でタネの会社を起業した。会社名は、「鶴頸(かくけい)種苗流通プロモーション」。どんな会社かというと、伝統野菜を主とするタネと苗の販売、そして農薬と化学肥料不使用の野菜(伝統野菜)の販売を生業としている。 本書は、宙くんが各地域の伝統野菜を守るために、「流通」を生業とした事業を立ち上げるまでの、ストーリーが綴られている。どうし

科学者ニュートンはだれでも知っているが、彼の著作を読んだ人はめったにいない。その理由は、300年以上も前に書かれた分厚い本で、内容が数学だらけで、翻訳してもとても読めたものではない、と信じられているからだ。 しかし、それは間違っている。このたび理工書の老舗、講談社ブルーバックスから日本語版(全3巻)が刊行され、何と意外に読めるのである。そこで「科学の伝道師」

第161回の直木賞候補作は全員女性であった。賞創設84年の歴史で初のことだと話題になったが文学の世界で性差を論じることは陳腐なことだと私は感じていた。 『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』は一般向けフェミニズム評論だ。著者の北村紗衣の専門はシェイクスピアのフェミニスト批評。東京大学で学士、修士を、キングズ・カレッジ・ロンドンで博士号を取得している。 北村は年に

うわさ話は甘美な娯楽だ。時にそれは人を追い詰め、取り返しのつかない事件を起こす。 2013年7月21日夜半、山口県周南市金峰地区の郷集落で連続殺人・放火事件が勃発した。この地区の住民はわずか12人、半数以上が高齢者の限界集落で5人の老人が撲殺されたのだ。犯人はすぐに捕まった。 保見光成63歳。その村に生まれ15歳で中学卒業後に東京へ出たが40歳を過ぎて戻って

『原子爆弾の誕生』でピュリッツァー賞を受賞したリチャード・ローズの最新作だ。薪が主要エネルギー源だった16世紀後半から、気候変動対策を気に留めながらエネルギーのベストミックスを追及する現在まで、という400年超にわたる人類のエネルギー変遷史を描く。 有名無名の人物の物語を大きなテーマへと昇華させていく著者の手法は本書でも健在で、今回も科学者や技術者など個々人

山口連続殺人事件は、2013年に山口県周南市の小さな集落で起きた凄惨な事件である。住民わずか8世帯12人、半数以上が65歳以上という限界集落で、ある日突然5人の連続殺人と放火が起きた。 事件からほどなく犯人として名が挙がり、現場付近の林道で捕まった保見光成もまた、集落の住民の1人であった。 後にこの事件が大きな話題になっていった背景には、この村をめぐりさまざ

我々はSNSやソーシャルゲームに備わる巧妙で強い依存性のある仕掛けに心を絡め取られている――というのは、 評者が先月レビューしたアダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない』(ダイヤモンド社) の主張である。記事への反応を見るに、こうしたテクノロジーの利用法にモヤモヤしている方は大勢いるんだなあ……と思わずにはいられなかった。 さて本書『デジタル・ミニマリスト

知る人ぞ知るサイエンス系ノンフィクションの名手、サイモン・ウィンチェスターの新作ということで、すぐ手にとった。 2004年に邦訳が出た『クラカトアの大噴火』は450ページを超える大部だったが、貪るように読んだ記憶がある。19世紀末スマトラ島近くのクラカトア火山が大爆発を起こし吹き飛んだ事件だ。巨大な津波が3万人を超える人々を飲み込んだ。衝撃波は地球を4周する

ロマン・ポランスキー監督作品『戦場のピアニスト』をご覧になったことがあるだろうか。実話を基にして作られた映画だ。私にとっては人生の中で最も感動した映画のひとつである。 舞台はドイツ占領下のポーランド。首都ワルシャワのラジオ局でピアニストをしているウワディスワフ・シュピルマンが主人公。ユダヤ人である彼はドイツ占領下のポーランドで恐ろしい迫害を経験する。彼は絶滅

1976年6月から86年5月まで、カリフォルニア州の各地で50人以上をレイプし、少なくとも13人を殺害、100件以上の強盗を行ったシリアルキラーがいた。犯行現場があまりに広範であったため、その地区ごとに「EAR(イーストエリアの強姦魔)」「バイセリア・ランサッカー」「オリジナル・ナイトストーカー」などの別称で呼ばれ恐れられた。 2001年、現場に残された体液

この『黄金州の殺人鬼』は、いわゆる連続殺人鬼を追った事件物のノンフィクションなのだけれども、まず様々な他の連続殺人事件と比較して凄いのはこの殺人鬼が犯した罪の量だ。 1970年代から1980年代にかけて、少なくとも12人を殺害、50人を暴行(レイプ)とその件数だけみてみても異常だが、時には一週間に一人などのハイペースで襲って、犯人の見た目、目撃情報なども出揃

金融界の人が書く経済の本は余りにも人間や社会の視点が欠けていて、しかも限定された場での理論的整合性を失わないために、専門分野以外のことは自分の守備範囲ではないとして、それ以上の対話を拒むような自己完結したものが多く、それだと現実の世界に照らし合わせて読むことはとてもできないが、本書は秀逸だった。 「近代経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスは、市場の調整機能を

このところ泣いてばかりいる。 開幕戦のキックオフで泣き、釜石のスタンドに並んだ子どもたちの笑顔に泣き、アイルランド戦の勝利で泣いてしまった。まったくいい歳をした大人がどうしちゃったのかと自分でも思う。 でも、涙はラグビーによく似合う。 だいいち当の選手がよく泣く。彼らは勝っては仲間と抱き合って泣き、負けては相手と健闘を讃えあって泣く。いや、そもそも戦う前に国

動物が人間を襲った事例でよく知られているのは、大正4(1915)年に北海道三毛別で起きたヒグマ襲撃事件だろう。これは8人が犠牲になった悲劇として語り継がれるが、それとほぼ同じ頃、ネパールとインドの国境地帯で人々を恐怖に陥れていた動物がいた。それが、チャンパーワットの人喰い虎――436人を殺害したとされる雌のベンガルトラである。 本書はそのベンガルトラの足跡を

「ネットが生まれた時代に居合わせていたら、今ごろIT長者になっていたかもよ」。ある日酒場でそんな会話を耳にした。酔客の戯言ではあるが、草創期が可能性に満ちあふれているのは確かだ。そこには誰にでも成功できるチャンスがある。 あいにくインターネット革命はとうの昔に終わっているが、もしあのときの客に、いま米国を震源とした革命の波が世界に広がりつつあると教えてあげた

たかのてるこ、『生きる』シリーズ第二作である。たかのてること言われてもピンとくる人は少ないだろう。しかし、『ガンジス河でバタフライ』の原作者といえば、一定以上の年齢の人にはイメージがわくかもしれない。長澤まさみ主演のテレビドラマになったノンフィクション旅行記である。 大阪の超名門・北野高校から日大芸術学部へ進学。「人にどう見られるかばかりを気にしてしまう、『

本書のタイトルから、まずわかることは、子どもが思い通りに育ってくれたらいいなという期待、思い通りに育てたいという欲望があるということだろう。それは、なぜだろうか? 急がば回れ、その背景にある社会動向の変化を見てみよう。昨今、親になった世代は充実した教育を受けてはいるものの、子どもの世話をした経験はほとんどないという状況だ。家族構成の変化、要するに核家族化が進

本書は、人間が行う悪的な行動について、それがどのような原因によって引き起こされるのかを科学的に解き明かしていこうと試みる一冊である。悪を科学的に解き明かす──といっても、その前段階にある問い、悪とはいったい何なのか、というのがまず難しい問題だ。正義は人の数だけあるというけれど、それは悪にだって当てはまるからで、容易に誰かが悪であるとは言えないし、今多くの人が

家族の形とはどうあるべきか。なかなか難しい。もちろん個人としてならば、自由に好きにすればいいのだ。その家族が納得しているのなら端がどうこういう問題ではない。私自身は、それが例えば娘であっても、口を出すつもりもない。成人して一人前になった娘が、この先どんな形の家庭を築こうと、あるいは築くまいと、一度きりの人生なのだからまあなんなりとやってみるべしと思う。 が、

待ってました!敬愛する出口治明さんがこの本を出されると聞いて、まずそう思った。『全世界史』などで十二分に楽しませてもらった知的興奮をもう一度味わうために、これほどのテーマはあるまい。 しかし、ご恵送いただいて、しばらくは机の上に飾っていた。もったいないから、ではない。こういった本は一気に読むべきだと考えたからである。出口さんのことだから、一本の道筋にそった論

香港の中心街に立地するチョンキンマンション。安宿が密集するこの建物は、沢木耕太郎の『深夜特急』に登場したこともあり、今でも日本からの旅行客を引きつけている。 2016年に香港の大学に客員教授として所属した著者は、ひとりのタンザニア人、カラマと知り合う。彼は「チョンキンマンションのボス」と名乗った。 「ボス」の日常は怪しさに満ちあふれていた。毎日、昼ぐらいに起

著者の出口治明さんは不思議な人である。何が不思議って、分厚い歴史書を何冊も出しているにも関わらず、真の正体はビジネスマンなのだ。今は、立命館アジア太平洋大学(APU)の学長をされている。どうして出口さんは何冊も歴史についての分厚い本を出版するのだろうか。趣味なのか、それとも哲学や宗教に疎い人が増えすぎた日本を危惧して、使命感を持って書かれているのだろうか。