
時系列に沿った「因果の物語」が通じなくなった世の中で生まれた新しい哲学『時間とテクノロジー』
たとえばあなたが会社員で、「あなたはなぜその部署で働いているのか」と質問されたとしよう。自分で志望した、先輩に推薦された、いきなり指名された、など様々な理由があると思う。そしてあなたは今、その理由を過去に遡り、上司や同僚との会話、これまでの人事移動、そして大学で勉強していた頃の風景を思い返しているかもしれない。 今の自分を鑑みる時、過去を振り返る。過去が今の
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たとえばあなたが会社員で、「あなたはなぜその部署で働いているのか」と質問されたとしよう。自分で志望した、先輩に推薦された、いきなり指名された、など様々な理由があると思う。そしてあなたは今、その理由を過去に遡り、上司や同僚との会話、これまでの人事移動、そして大学で勉強していた頃の風景を思い返しているかもしれない。 今の自分を鑑みる時、過去を振り返る。過去が今の

片手袋問題に私が触れたのは、少し前のことだ。街道沿いに軍手が片方だけ落ちているのはなぜか?を検討していたバラエティのテレビ番組を見たのだ。その時、出演していたのが本書の著者かどうかは定かではないのだが、トラックの脇腹にある給油口のキャップに被せていたものが、走行中に落ちるのだ、という結論に驚いたのを覚えている。 その後、タモリ倶楽部で著者を知った。考現学にも

本書は、本国ノルウェーで「彼女こそが脳の脳だ」と評されている、著名な神経科学者が書いた世界的ベストセラー“脳科学本”である。世界21か国で翻訳出版されている。本書がこれほど多くの読者を獲得できたのは、日々の出来事を使って科学を説明しているからだろう。読み手は、そこから具体的な思考を巡らすことができるのだ。 例えば、この本で紹介される脳科学の最新研究には、次の

本書は、マイクロソフト首席研究員兼イェール大学客員研究員のグレン・ワイルと、シカゴ大学ロースクール教授のエリック・ポズナーによる共著である。 34歳の社会工学者・経済学者ワイルは、本書を監訳している大阪大学の安田洋祐准教授のプリンストン大学留学時代のオフィスメートで、同大学を首席で卒業して直ぐに大学院に進学し、経済学博士号をわずか1年で取得した大秀才だと言う

現代アーティストとして世界中で活躍する草間彌生のコラージュ作品は30年前、原画が約15万円であった。それが現在では、版画作品で1000万円の値段がつくものもある。 資産として考えた場合、平山郁夫など巨匠の作品を購入するよりも単価が安かった彼女の作品を当時に大量購入しておけば、その利益率で莫大な富を得られたであろう。 ただ、これは結果論である。当時こうした結果

たまらなく渋くてカッコいい主人公の紹介から始めたい。表紙の写真左、試験管を持つちょっと神経質そうな男が化学者アレグザンダー・ゲトラー、その隣にいる大柄のヤギひげおじさんが病理学者でありニューヨーク市監察医務局長も務めるチャールズ・ノリスだ。本書『毒薬の手帖』は、現代科学捜査の基礎を築いたこの毒物学者二人が力を合わせて人間の暗い欲望が充溢する1920年代アメリ

今日1月4日は新日本プロレスにとってお祭りの日だ。毎年イッテンヨンと銘打って東京ドームで試合が行われている。今年はイッテンヨン、イッテンゴと2日連続で東京ドーム興行が行われる。普段であればメインイベントになるベルトをかけた戦いが、いくつもの試合であるという1年で1度のお祭りだ。そんな日にレビューするのは新日本プロレス(以下「新日」)の社長が書いた『百戦錬磨』

著者の落合陽一は、学者、メディアアーティスト、実業家など多くの顔を持ち、「現代の魔法使い」と呼ばれる若手マルチタレントである。30歳で筑波大学学長補佐に就任したことでも話題になった。 その著者が、2015年の国連サミットで採択された、持続可能な世界を実現するための共通目標であるSDGs(Sustainable Development Goals)について解説

いまからおよそ1万年前、人類は農業を発明した。農業が生まれると、人びとは必要な栄養を効率的に摂取できるようになり、移動性の狩猟採集生活から脱して、好適地に定住するようになった。そして、一部の集住地域では文明が興り、さらには、生産物の余剰を背景にして国家が形成された──。おそらくあなたもそんなストーリーを耳にし、学んだことがあるだろう。 しかし、かくも行き渡っ

厚生労働省は12月24日、2019年の人口動態統計の年間推計を発表し、それが大きなニュースになっている。2019年の日本人の国内出生数は、最少だった2018年の91万8400人を下回り、前年比5.92%減の86万4千人となり、1899年の統計開始以来初めて90万人を下回った。出生数が死亡数を下回る人口の自然減も51万2千人と初めて50万人を超えて、2017年

経団連(日本経済団体連合会)の1次集計では、大手企業に限れば冬のボーナスの平均額は過去最高なのだという。ほくほく顔の人もいれば、まったくピンと来ない人もいるだろう。不思議なことに、収入が少なくても貯める人は貯めているし、多くもらおうがカネがない人は常にない。それは会社員でも一芸に秀でた人でも同じであることが本書を読むとわかる。 作家の「お金」にまつわる約10

青山ゆみこは数多くの本の出版に携わってきた知る人ぞ知るライターだ。著者として出版した第一作、ホスピスでの「リクエスト食」をめぐるエピソードを綴った『人生最後のご馳走』を読めばその人柄がわかる。やさしくて聡明。誰もがそう思うだろう。 わたしが知る青山ゆみこもそうであるし、周りの皆にとってもそのはずだ。確かに今の青山ゆみこはそうである。しかし、どうやら昔の青山ゆ

大人になってから「美味しい」と感じたものの一つがようかんだ。子供の頃は和菓子、特にようかんには全く魅力を感じなかったが、ある日、濃いお茶とようかんに目覚めた。 『ようかん』は株式会社虎屋の資料室、 虎屋文庫 が編纂した類書なしの「ようかん全史」である。 おなじようかんでも、虎屋のものはありがたさが違う。カラーページには、ようかんの切り口に四季の景色や虎斑模様

歴史の本、特に最悪の医療の歴史などを読んでいると、あ〜現代に生まれてきてよかったなあと、身の回りに当たり前に存在する設備や技術に感謝することが多い。昔は治せなかった病気が今では治せるケースも多いし、瀉血やロボトミー手術など、痛みや苦しみを与えるだけで一切の効果のなかった治療も、科学的手法によって見分けることができるようになってきた。 だが、そうした幾つもの医

「中村喜四郎」という名を聞いて何を思い浮かべるだろうか。もはやかすかな記憶…「なにか汚職で捕まった人じゃなかったかしら」。若い人たちなら思い出す記憶もなく「だれ?」というだろう。 その「キシロー」の名を最近なぜか、チラチラと見かけるのである。それも思いがけないところで。「え?このキシローさんは、あのキシローさん?」 中村喜四郎氏は1949年生まれ。大学卒業後

東京屈指の人気の街、代官山。おしゃれなイメージを持っている人も多いだろう。実はこの街は、丹念に手入れされ、長年の努力の積み重ねでできあがっている。重要文化財指定の和風建造物があり、街自体が建築の有名な賞を受賞した、と聞けばどうだろう。その歴史と成り立ちは、都会に生まれた奇跡かも――街の秘密をとじこめた一冊を、今回はご紹介したい。 本の監修者は「ヒルサイドテラ

動物とセックスをする人たち──そう聞けば、多くの人は激しい嫌悪感を覚えるだろう。しかし読み進めるにつれ、感情は目まぐるしく移り変わっていく。驚愕、好奇、悲哀、困惑、感嘆……。 本書は、ズーと呼ばれる動物性愛者たちの実像に迫った一冊だ。著者は、かつてパートナーからDV(ドメスティックバイオレンス)を受けていた過去を持つ人物。自らの身に降りかかった経験からセクシ

今年は、ノンフィクションに動きがあった年だと思う。途轍もないビッグヒットがあったわけでも、当たり年だったわけでもない。エビデンス重視の世の中で私的な感覚を言うのも憚られるが、私は潮流の変化を感じた。 年末に読んだ開高健賞受賞作『聖なるズー』 は刺激的で今後さらに話題になる予感があるし、2年目をむかえた 本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞作『ぼくはイエローでホ

人間ではない者との結婚である異類婚姻譚は世界中に存在する。日本でも『鶴女房』や安倍晴明の母親、狐の「葛の葉」などが有名だ。多くは動物が人の形となって現れるが 『遠野物語』 で紹介された「オシラサマ」という民話は異質である。 東北地方の貧しい農家の娘が、飼っている馬に恋をして夫婦となる。だが父親はそれを許さず、馬を殺してしまうのだ。悲恋というより気味の悪い物語

生命の起源は現代科学の最重要テーマの一つである。地球上の生命は今から38億年ほど前に誕生し、幾多の進化を経て我々人類まで継続してきた。ところが、その発端がどうだったのかは長い間の謎で、世界中でいまだに論争が続く。 こうした根本的な疑問に答えるため、生命を実際にラボ(実験室)で作ってしまおうという企画が始まった。たとえば、飛行機がなぜ飛ぶかを知るには、まず紙飛

30年間毎日欠かさずに酒を飲み続けてきた作家、町田康の断酒エッセーである。こう書くと酒をやめて健康になった暮らしぶりを健やかにつづったエッセーを想像してしまうが、決してそんな生易しいものではない。 その証左としてまずは目次からいくつかの見出しを引用してみよう。〈飲酒とは人生の負債である〉〈私たちに幸福になる権利はない〉〈「私は普通の人間だ」と認識しよう〉〈「

日本の科学は失速している。一昨年の3月、ネイチャー誌に掲載されたレポートは大きな反響を呼んだ。一般の人たちには驚きを持って迎えられたようだが、多くの研究者にとっては、やはりそうかという感じであった。 『誰が科学を殺すのか』は、企業の「失われた10年」、「選択と集中」でゆがむ大学、「改革病」の源流を探る、海外の潮流、の4章から構成されている。毎日新聞に掲載され

本書は、2016年に「津久井やまゆり園」で障害者19人が殺害された相模原障害者施設殺傷事件*をきっかけに行われた、作家の雨宮処凛と以下の6人の識者との対談を一冊にまとめたものである。 ①神戸金史(RKB毎日放送記者) ②熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術センター准教授、小児科医) ③岩永直子(BuzzFeed Japan記者) ④杉田俊介(批評家、元障害者ヘル

1983年、知的欲求旺盛なあるジャーナリストが一冊の本を上梓した。それは、米ソが宇宙開発戦争に明け暮れていた時代、母なる地球を離れ、宇宙へと向かった飛行士たちの精神的変化に着目し、幅広い知識をベースに、インタビューイを搾り尽くさんばかりに貪欲な取材を重ねまとめ上げたノンフィクション――立花隆『宇宙からの帰還』である。 人類は今の地上の支配者だ……と書いても過

私たちは東京のことを知っているようで、実は何も知らないのかもしれない。吉祥寺に住む著者がそのことを実感したのは、ある新聞記事を目にしたときだった。井の頭公園の入り口に「いせや」という有名な焼き鳥店がある。2012年、建て替えのため店を取り壊したところ、跡地からなんと約1万5000年前の「焼き場」が見つかった。どうやら旧石器時代の人々も、同じ場所でこんがり焼け

本書の「中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか」というサブタイトルは非常に刺激的で、早くも各所で物議を醸している。 著者のデービッド・アトキンソン氏は、英オックスフォード大学で日本学を専攻し、米ゴールドマン・サックスの経済アナリストとして、1997年からの金融危機とその後の銀行大再編を予測して名をはせた、「伝説のアナリスト」である。 今は、縁あって文化

今年度の開高健ノンフィクション賞を受賞した傑作だ。京都大学大学院で「文化人類学におけるセクシュアリティ研究」に取り組む女性が、単身ドイツに渡り、複数の動物性愛者(ズー)の家を泊まり歩いて丹念に取材している。最初私は「動物性愛」ときいて腰が引けたが、興味が打ち勝って本書を開いた。すると、こんな書き出しが待っていた。 私には愛がわからない。 ひと口に愛といっても

海賊が跋扈するため、ソマリア沖ではマグロ漁ができなくなっていた。そこで漁をすれば一網打尽、一攫千金だ。しかし、そのためにはロジスティクスも安全も確保しなければならない。巨額の資金による、飛行場付き、傭兵が警護する完全武装の漁業基地建設が始まった。 全米で多くの医師や薬剤師がオンライン薬局での処方薬販売にかかわっていた。違法ぎりぎりの取引に気づいた麻薬捜査官に

イノベーションは、意味のあいまいなままに、いかにも新しい内容を伝えているかのように思わせる言葉として、多用されています。日本企業の「有価証券報告書」を調べると、1,100社以上がイノベーションという言葉を用いています。この10年で4倍以上(2006〜2007年では、262社)に増え、短期間で浸透しています。 時事用語辞典では、プラスティック・ワード(人工的で

コーヒーを日常的に飲む国が増えたこともあって、世界のコーヒー需要は年々あがっている。 一方で、大量生産と安価な供給を目指し大規模に工業化されたコーヒーの栽培、育成が大地に与える悪影響。また、全世界的な気候変動が伴って㉚年後には今のようにコーヒーを楽しむことはできないという研究者もいる。『世界からコーヒーがなくなるまえに』は、そんなコーヒー終了のお知らせの最中

2019年のビジネス本で一番の奇書といっても過言ではないだろう。タイトルの長さに目を奪われるが、内容も語り口こそ熱いながら読み手のモチベーションは上がるどころか下がりかねない。「俺がラーメン屋を始める前にこの本を読んでいたら、絶対にラーメン屋だけはやらなかったよ!」と胸を張られても。失敗談から学び、起業を後押しするビジネス本は少なくないが、失敗から学んで起業

日曜日に決勝が行われた野球の世界大会「プレミア12」は、ライバル韓国を下した日本の優勝で幕を閉じた。いよいよ本格的にオフシーズンが始まる。夏の甲子園期間に刊行された本書にもうひとつ読みどきがあるとしたら、まさにこの総括の時期がふさわしいといえるだろう。 「プレミア12」での侍ジャパンの戦いぶりは、言うまでもなくすばらしかった。辞退者やケガによる離脱で必ずしも

ローマ法王が38年ぶりに来日する。 滞在中は広島と長崎の訪問や、東日本大震災の被災者との面会などが予定されている。前回ヨハネ・パウロ2世が来日した時は、初めてローマ法王が日本を訪れたとあって、各地で熱狂的に迎えられた。今回はどうなるだろう。個人的に気になっているのは、東京ドームで行われるミサである。何か荘厳な雰囲気を出すための演出はあるのだろうか。いまから気

どうやら今の日本はパワー不足のようだ。元気のない状態が常態になりつつある。高度成長期のイケイケを知っている世代は若者に「覇気がない」だの「やる気がない」だのうだうだいうが、先行きに希望が見えないのなら、元気など出しようがないではないか。 せめてパワーをもらおうと「パワースポット」に向かうのは、何か縁(よすが)を得ようともがいてのことだと思うのだ。 もともと高

1994年、アフリカのルワンダで大虐殺(ジェノサイド)が起こった。フツ族によるツチ族の虐殺で、百万人もの死者が出た。 男も女も大人も子どもも、赤ちゃんでさえ犠牲者となった。生き残っても、手足を切り落とされたり地雷で吹き飛ばされたりして障害を負った人が何十万人と残された。 ルダシングワ真美さんは義肢装具士である。マラリヤによって足が不自由になったルワンダ人の夫

著者のウォルター・アイザックソンは評伝の名手だ。これまでにもアインシュタイン、スティーブ・ジョブズ、レオナルド・ダ・ヴィンチといった歴史に名を残す天才たちの生涯を、独自の視点から描き出してきた。 しかし本書は、これまでの彼の作品とは一味違う。何といっても登場人物が220人を超えるというスケール感だ。チューリング、ENIACでのプログラミングを扱った6人の理系

50年前の1969年11月、日本は初の液化天然ガス(LNG)の輸入を成功させた。日本初の輸入LNGは米国アラスカから出荷され、太平洋を渡って日本へやってきた。購入したのは東京ガス・東京電力の連合で、三菱商事が交渉を取りまとめた歴史的快挙だ。 1969年時点では未知のエネルギー源であり、価格競争力もなかったLNGであるが、50年経った今では日本の一次エネルギー

今年1月14日、ツイッターである話題がトレンドを席巻した。「#古典は本当に必要なのか」というハッシュタグに連なる論争である。震源は明星大学人文学部日本文学科が主催した同名シンポジウムだ。 この催しの趣旨は以下のとおりだ。2015年の文系学部廃止報道以降、日本の古典文学研究・教育は縮小の一途をたどっている。この危機に対して、古典(本書では主に古文・漢文を指す)

ここ最近の10年間で新聞の部数は約1000万部減り、売上は5645億円減少したという。これは新聞社一社が、まるまるなくなるほどのスケール感を持つ数字だ。 これほどまでに、急速に市場がシュリンクすることのインパクトは大きい。多くの場合、このようなケースにおいていは、古参同士が潰しあいをしながら新規参入組も迎え撃つという挟み撃ちの状況が強いられるのだ。プレーヤー

DNA鑑定と聞いて私がまず連想したのは、テレビドラマの犯罪捜査のシーンだ。「トレース」や「アンナチュラル」など、最近、その手のドラマをよく見かける。まるで水戸黄門の印籠のように、クライマックスでDNA鑑定結果と真実が提示される。 本書は、著者が手がけてきたDNA鑑定を紹介するだけでなく、「DNA」「染色体」「遺伝子」「ゲノム」といった言葉の使い分け方など、基