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出口 治明の記事

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177記事

『中国 虫の奇聞録』 書影

生物・自然 / 民俗・風俗

『中国 虫の奇聞録』

大修館書店の「あじあブックス」にはキラリと光る好著が少なくないが、虫と人とが織りなすめくるめく物語を論じた本書もその1冊である。 古来、虫は生き物の総称で、万物が五つの元素からなるとする五行説に従い、中国では全ての生き物が五虫に分類されていた。羽虫(長は鳳凰)、毛虫(長は麒麟)、甲虫(長は霊亀)、鱗虫(長は龍)、倮虫(倮は裸に同じ。長は人間、特に聖人)である

『風土記の世界』 書影

民俗・風俗 / 日本史

『風土記の世界』

「風土記の世界」というタイトルから、かつての 「古事記の世界」 (西郷信綱)という名著を連想したが、本書も期待を裏切ることなく冒頭から引き込まれてしまった。 風土記とは何か。当初、わが国の史書の構想としては、紀・志・列伝の三部をもつ中国正史(「漢書」など)をお手本とした「日本書」がもくろまれていた。紀や列伝は国家の縦軸となる時間を保証するものであり、志は横軸

『アフガン・対テロ戦争の研究―タリバンはなぜ復活したのか』 書影

社会 / HONZ客員レビュー

『アフガン・対テロ戦争の研究―タリバンはなぜ復活したのか』

今日の世界は相次ぐ国際テロに見舞われているが、元をたどれば9.11(米国同時多発テロ事件)の復讐戦として始まったアメリカのアフガン・対テロ戦争に行き着く。アメリカは2001年以来、1兆ドルを超える巨費を投じ、アフガンで14年間にもわたる史上最長の戦争を戦い、2356人の米兵が死亡した(英兵453人、その他の諸国の677人の兵士が死亡)。 その結果どうなったか

『一人の詩人と二人の画家 D・H・ロレンスとニューメキシコ』 書影

アート・スポーツ / HONZ客員レビュー

『一人の詩人と二人の画家 D・H・ロレンスとニューメキシコ』

僕は、大学では憲法ゼミに入った。テーマは表現の自由。チャタレー裁判や悪徳の栄え裁判を勉強しているうちにD・H・ロレンスに興味を惹かれて、一時期、愛妻フリーダの「私ではなく風が」を始めとした関係書を貪り読んだ記憶がある。それ以来ロレンスはずっと気になる存在で、ラヴェッロ(イタリア)を訪ねたのもロレンス繋がりだった。 本書は、ロレンス夫妻としばし生活を共にしたデ

『うた合わせ 北村薫の百人一首』 書影

教養・雑学 / HONZ客員レビュー

『うた合わせ 北村薫の百人一首』

子どもの頃のお正月は凧上げと百人一首。子ども心に好きだった遍昭の歌などは、そっと近くに寄せておいたものである。本書は、「隣の赤」など興趣をそそるタイトル50組のもとに其々2首の現代短歌を選び合わせて百人一首としたものである。定家が本書を手にしたら、定めし喜んだことだろう。 読み始めるとこれがまた無類に面白い。冒頭の「隣の赤」というタイトルの何とも言えない不気

『ドイツ軍事史 その虚像と実像』 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『ドイツ軍事史 その虚像と実像』

著者は冒頭「序に代えて」で次のように述べる。「筆者は、(偉大なドイツ陸軍に係る)定説の否定、偶像破壊に走っている。読者は、そう感じられるかもしれない。しかしながら、筆者が述べることは、今年、2016年現在の常識、もしくは定説にすぎない。もし、それが衝撃を与えるとすれば、日本におけるドイツ軍事史理解の遅れがなさしめていることだとしか言いようがなかろう。そのよう

『マナス』 書影

小説 / HONZ客員レビュー

『マナス』

僕たちは、叙事詩をすっかり忘れてしまったのではないか。ギルガメシュ、イーリアス、シャー・ナーメなどに満ち溢れていたあの懐かしい英雄たちの雄叫びは消えて久しくなってしまった。ポーランド生まれのユダヤ人で、第二次世界大戦前のドイツで活躍した作家、デーブリーンは、本書、マナスで、叙事詩を見事に現代に甦らせた。端倪すべからざる力技である。 第一部、亡者が原。インド・

『古代東アジアの女帝』 書影

人物 / 世界史

『古代東アジアの女帝』

本書の冒頭で、80歳を超えた著者は、高らかにかつこの上なく明晰に述べる。「これまで女帝は中継ぎの存在にすぎない、あるいは巫女的な役割であったなどその存在を矮小化されてきた。しかし、それは古代社会を男性中心に考える歴史観の偏見にすぎないのではないだろうか。時系列に従って箇条書き的に事柄を並べる正史の底流を繋いでいくと、逆に、伝統に依存した男性支配の政治の停滞と

『ルポ 同性カップルの子どもたち アメリカ「ゲイビーブーム」を追う』 書影

社会 / HONZ客員レビュー

『ルポ 同性カップルの子どもたち アメリカ「ゲイビーブーム」を追う』

性的マイノリティ(LGBT)の権利保障の動きが世界的に進んでいる。LGBTとは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイ・セクシャル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字をとった総称であり、2000年のネーデルランド(オランダ)を皮切りに、ベルギーやスペイン、カナダ、南アフリカと同性婚を認める国が次々と出てきた。

『宇宙からいかにヒトは生まれたか 偶然と必然の138億年史』 書影

サイエンス / 生物・自然

『宇宙からいかにヒトは生まれたか 偶然と必然の138億年史』

第1部「宇宙の誕生」。宇宙は3種類しかない。僕たちの住む宇宙は「人間に都合よく調節された宇宙」だ。大部分は「調節されていない、人間のいない宇宙」だろう。「調整されているが人間はいない宇宙」もあるかもしれない。ビッグバンが138億年前に起こり太陽系が46億年前に形成された。 第2部「地球の形成」。地球が45.5億年前、月が45億年前、遅くとも38億年前までに海

『プラハの墓地』 書影

世界史 / 小説

『プラハの墓地』

僕が初めてプラハのユダヤ人墓地を訪ねたのは晩秋で、ベルリンの壁が崩れるずっと以前のことだった。薄暗い墓地を巡ったあと、小さいゴーレム人形を記念に買ったのを覚えている。ナチのホロコーストに霊感を与えた史上最悪の反ユダヤ主義の偽書「シオン賢者の議定書」は、誰が何処でどのように捏造したのか、本書はその謎に挑む諧謔に満ちたピカレスク小説である。エーコの小説として翻訳

『1493 世界を変えた大陸間の「交換」』 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『1493 世界を変えた大陸間の「交換」』

先コロンブス期のアメリカ大陸の常識を覆して(遅れた社会⇒ヨーロッパ以上の人口や洗練された大都市を持っていた文明社会)、全世界にセンセーションを巻き起こした『 1491 』の著者・マンが、再び世に問う問題作である。 前作がビフォーの高度なアメリカ文明を描いていたのに対し、『1493』はアフターの混乱する世界が描かれる。コロンブスのアメリカ到達(1492)によっ

『貨幣の条件 タカラガイの文明史 』 書影

社会 / HONZ客員レビュー

『貨幣の条件 タカラガイの文明史 』

交易から文明が生まれる。動物は棲息する生態環境の拘束から逃れることはできないが、ヒトだけが異なる生態環境からモノを移転して生態環境を自らの好むように改変したのである。交易を管理するために統一的な暦が編まれ、文字が発達し、交易の場所から都市が生まれた。異なる文化に交易ルールを強制し、違反者を取り締まるために権力が生まれ、その権力を正当化するために特定の宗教やイ

『ムハンマド 世界を変えた預言者の生涯』 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『ムハンマド 世界を変えた預言者の生涯』

第1章「マッカ」では、愛妻ハディージャと穏やかに暮らしていたムハンマドに、610年の運命の夜、神の啓示が下りるまでが描かれる。ムハンマドとハディージャの相互の深い信頼と愛情が平明な言葉で綴られる。何と温かな思いやりに満ちたカップルだろう。ハディージャがいたからこそ、ムハンマドは怯むことなくアッラー(神)と対峙できたのである。 第2章「ジャーヒリーヤ」(無明時

『メソポタミアとインダスのあいだ 知られざる海洋の古代文明』 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『メソポタミアとインダスのあいだ 知られざる海洋の古代文明』

僕が歴史を好きになったのは、間違いなく中央公論社の「世界の歴史(旧版、16巻+別巻)」を読んだことがきっかけだった。世界最古の文明、シュメールから始まる悠久の物語に中学生の胸が高鳴ったことをよく覚えている。本書は、農産物こそ豊富だったが木材、石材、金属などの必要物資に欠けていたメソポタミアになぜ世界最古の文明が誕生したのか、その秘密を交易ネットワークから解き

『天平の女帝 孝謙称徳』 書影

日本史 / HONZ客員レビュー

『天平の女帝 孝謙称徳』

7世紀の初めに拓跋国家の掉尾を飾る大唐世界帝国が成立して、最初の30年を太宗(李世民)が牽引、その後の半世紀を英邁な武則天が引き継いだ。武則天の時代に白村江の戦いが行われ高句麗が滅んで朝鮮半島が新羅によって統一され、わが国には激震が走った。そして、持統、元明、元正、孝謙称徳と女帝の世紀が出現した。おそらく武則天の活躍が彼女たちのロールモデルとなったであろうこ

『第三帝国の愛人 ヒトラーと対峙したアメリカ大使一家』 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『第三帝国の愛人 ヒトラーと対峙したアメリカ大使一家』

1933年6月、いくつもの偶然が重なってシカゴ大学教授のドッドは、ローズベルト大統領からナチ政権下となって初めての駐独アメリカ大使に任命される。ドッドは「旧南部の興亡」というライフワークを執筆するため、大学での多忙な役職に不満を覚えていた。ハーグやブリュッセルの大使なら執筆の時間が取れるのではないかと考え、閑職を求めて政府に働きかけたのだった。しかし、運命の

『わが記憶、わが記録 堤清二×辻井喬オーラルヒストリー』 書影

人物 / HONZ客員レビュー

『わが記憶、わが記録 堤清二×辻井喬オーラルヒストリー』

20年近く前、『 インタヴューズ 』(文藝春秋)という本を読んだことがある。マルクスからジョン・レノンまで84人のインタビューを集めたものだが、巨星の肉声がこれほどまでに面白いとは、と瞠目した記憶がある。本書は、堤清二×辻井喬という先見性に溢れた稀有な人物の29時間に及ぶロングインタビューを纏めたものである。しかもインタビュアーが3人の気鋭の学者であって、絶

『地球の履歴書』 書影

サイエンス / 生物・自然

『地球の履歴書』

科学と技術の力こそが人類発展の原動力であり、科学的思考は遊び心と挑発的な精神に満ち溢れているべきだ、自由な魂こそが人類の可能性を広げるのである。そのように考える著者の地球史が、とびきり面白いのは頷ける。本書は8章から成るが、科学的な叙述と人間の織り成す悲喜こもごものエピソードが絶妙にブレンドされており、時間の経つのを忘れてしまう。 45億7000万年前に生ま

『みんな彗星を見ていた』 書影

日本史 / HONZ客員レビュー

『みんな彗星を見ていた』

1549年にザビエルが鹿児島に到着、イエズス会が日本で布教を開始する。82年に巡察師ヴァリニャーノが4人の天正遣欧使節を連れて長崎を出港したが、その直後本能寺の変が起こりキリシタンに理解のあった信長が逝去、90年に帰国した時は秀吉が伴天連追放令を発布していた。1614年、家康による宣教師の大追放(マカオとマニラへ)。そして44年が記録に残る最後の殉教となる。

『ロマネスク美術革命』 書影

アート・スポーツ / 世界史

『ロマネスク美術革命』

従来は、「ゴシック至上主義者」エミール・マールに代表されるキリスト教図像学者が、「稚拙」なロマネスク美術を発想源とされるテクストとの関連で読み解いてきた。これに対して著者は、「書物よりも大理石を読み解こう」と考え、「反図像学的試み」を主張するマイケル・カミールに親近感を抱く。そして、ヨーロッパの古寺巡礼を始めたのだ。読みながら、ヴェズレ―やオータンなどのロマ

『ヒトはこうして増えてきた 20万年の人口変遷史』 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『ヒトはこうして増えてきた 20万年の人口変遷史』

少子高齢化に悩むわが国では、ようやく人口政策の是非が議論され始めた。しかし人口問題は難度が高い。昨年 「人口の世界史」 (マッシモ・リヴィ‐バッチ)という人口問題を考える上で極めて示唆に富む良書が出版されたが、20万年の人口変遷史を記述した本書もそれに劣らない出来栄えだ。 20万年前(世界人口5千人、以下同じ)に、東アフリカで誕生したヒトの出生と死亡の原像は

『書に法あり』 書影

教養・雑学 / HONZ客員レビュー

『書に法あり』

20年ぐらい前になるだろうか。石川九楊の「書とはどういう芸術か」(中公新書)を初めて読んだ時、書道に対する物の見方が180度変わったことをよく覚えている。本書は、その時に勝るとも劣らない知的でかつ心地よい「衝撃」を与えてくれた痛快極まりないかつそれでいて骨太で本格的な書道論である。書に興味のある人には、必読だろう。 本書は、いくつかのユニークな特徴を持ってい

『文明の誕生 メソポタミア、ローマ、そして日本へ』 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『文明の誕生 メソポタミア、ローマ、そして日本へ』

僕たち人類は、約20万年前に東アフリカのサバンナで生まれた単一種(ホモ・サピエンス)が、世界中に拡がっていったものである。それと同様に、よく知られている4大文明も別々に生まれたのではなく、世界最古のメソポタミア文明が四方に拡がっていったものであるという説が唱えられている。 「ものごとの本質は祖型にこそよくあらわれる」、そうであれば、僕たちの文明がどこへ行くの

『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』 書影

社会 / HONZ客員レビュー

『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』

わが国では社会の高齢化に伴って、毎年1~2兆円ほど社会保障関係費が増嵩していく。それに対応するためには、少なくとも費用を相殺する分だけでもGDPの成長が必要だ。さもなければ、わが国は年々貧しくなっていく他はない。では、どうするか。「議論に関しては、冷静に物事の真をつき自分の感情は一切挟まない英国人」の元アナリストである著者は、人口を増やすしかない、と言う。

『保存修復の技法と思想 古代芸術・ルネサンス絵画から現代アートまで』 書影

アート・スポーツ / HONZ客員レビュー

『保存修復の技法と思想 古代芸術・ルネサンス絵画から現代アートまで』

ウフィツィで修復後の「ヴィーナスの誕生」に再会した時、以前とは異なり余りにも画面が明るくて軽い眩暈のような違和感を覚えたことがある。再建なった薬師寺の西塔を観た時もそうだった。それ以来、文化財の修復とは何だろうとずっと考えてきたが、漸く納得のいく言説に出会えた。それがこの素晴しい本である。 本書は、介入(修復)の4大原則、「可逆性、判別可能性、適合性、最小限

『ティラノサウルスはすごい』by 出口 治明 書影

生物・自然 / HONZ客員レビュー

『ティラノサウルスはすごい』by 出口 治明

ところでティラノサウルスは、いつどこにいたのか?6600万年前までの600万年間、ララミディア(北米大陸の西)に住んでいた。最初の化石が発見されたのは1900年。そしてこれまでに50体弱が発掘されている(第1章)。ティラノサウルスはどのように描かれてきたか。最初はゴジラ型(僕の子どもの頃)。そして最近は水平型(第2章)。では、覇者の身体能力はどうか。圧倒的な

『重力との対話』by 出口 治明 書影

人物 / HONZ客員レビュー

『重力との対話』by 出口 治明

初めて山海塾の舞踏を観たのは、何年前になるだろうか。あれほどいやでも凝視せざるを得なかった濃密な舞台は、67年の人生の中でも数えるほどしか観た覚えがない。その山海塾の主宰者、天児牛大の半生記が初めて出たと聞けば、これはもう読むしかないではないか。そういえば、東京都現代美術館で6月28日まで開かれていた素晴らしい展覧会、「 山口小夜子 未来を着る人 」にも、山

『アルタイ』by 出口 治明 書影

小説 / HONZ客員レビュー

『アルタイ』by 出口 治明

ルネサンスの工房を彷彿とさせるルーサー・ブリセット・プロジェクトの4人組が傑作「Q」を世に問うて10年。本書は、後継ユニット(ウー・ミン)の4人組が、「Q」のいわば続編として構想したものである。一般に、傑作の続編は退屈なものが多い。しかし、「アルタイ」はそうではない。全く独立した物語として、極上のエンターテイメントに仕上がっているのは、さすがという他はない。

『老北京の胡同』by 出口 治朗 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『老北京の胡同』by 出口 治朗

僕は、本と旅の他にはさしたる趣味がない。初めて訪れた異国の町、特に下町をあてもなく歩き回るのが何よりも好きだ。そんな時、岐路にさしかかると、雑然とした方、怪しげな方に自然と足が向く。人間の都市とは何か、ジェイン・ジェイコブズの直観は正しかったのだ。20年ほど前、仕事で毎月のように北京に通ったことがあった。胡同と出会い、よく「胡同」歩きをしたものだ。本書は、そ

『後白河天皇』by 出口治明 書影

人物 / 日本史

『後白河天皇』by 出口治明

本書は、定評のある「ミネルヴァ日本評伝選」の1冊である。わが国で武家政権が成立する前夜、源平が相争う激動の時代に君臨した後白河天皇、稀代の暗君か謀略の策士か、評価の分れる「日本第一の大天狗」の生涯を描いた力作だ。 即位の可能性が低かった青少年時代、後白河は今様(流行歌)に狂う。陰謀の中、即位した後白河は、実兄の崇徳上皇と争う保元の乱に見舞われる。「保元の乱の

『殷』 by 出口 治明 書影

世界史 / HONZ客員レビュー

『殷』 by 出口 治明

遥か昔の物語には、何故かロマンをそそられる。チョガ・ザンビールのジッグラトに登った時、また、殷墟の王墓を訪ねた時の、あの高揚感は今でも忘れることができない。本書は、甲骨文字の第一人者が、膨大な数の甲骨文字を読み解いて中国最古の王朝、殷(商)の実像を詳らかにしたものである。殷はBC16世紀から500年以上続いた王朝である。前期の200年は安定して領域を拡大した

『電車道』by 出口 治明 書影

小説 / HONZ客員レビュー

『電車道』by 出口 治明

人はなぜ本を読むのか。それは、何よりも先ず面白いからだと、僕は思う。とりわけ小説を読むときはそうだ。頁をめくるのがもどかしいくらいに、急かされる時が最高だ。「電車道」はそんな小説である。一気に読み終えたのは去年の「水声」以来のことではないか。 ところで、「水声」の端正で古典的な佇まいに比べれば、「電車道」はむしろ読みにくい部類の小説だ。第一、章立てがない。文

『石の物語』by 出口 治明 書影

教養・雑学 / 小説

『石の物語』by 出口 治明

タイトルを一瞥しただけで、もうこれは読むしかないと観念させられるタイプの本がある。本書のサブタイトルに紅楼夢の文字を見出した瞬間に、紅迷の僕は観念した。本書は、中国の石伝説と、冒頭がいずれも石から始まる「紅楼夢(石頭記=石の物語)」「水滸伝」「西遊記」を論じたものである。 本書は6章からなる。第1章は「テクスト相関性と解釈」。先ず「他のテクストから完全に自由