
『フランソワ一世』by 出口 治明
大航海時代(もっとも鄭和艦隊に比べれば小航海に過ぎない)が、実質的に始まった16世紀前半のヨーロッパには、個性豊かな君主たちがひしめきあっていた。ヘンリー8世、カール5世、フランソワ1世の三つ巴の争い、それにスレイマン大帝やマルティン・ルター、メディチ家のレオ10世が絡むのだ。役者を一瞥しただけでも面白くないわけがない。ところが、この豪華絢爛たる顔ぶれの中で
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大航海時代(もっとも鄭和艦隊に比べれば小航海に過ぎない)が、実質的に始まった16世紀前半のヨーロッパには、個性豊かな君主たちがひしめきあっていた。ヘンリー8世、カール5世、フランソワ1世の三つ巴の争い、それにスレイマン大帝やマルティン・ルター、メディチ家のレオ10世が絡むのだ。役者を一瞥しただけでも面白くないわけがない。ところが、この豪華絢爛たる顔ぶれの中で

力作である。鎌倉幕府は蒙古襲来に全精力を使い果たしてやがて滅んだが、蒙古襲来の実相については、あまり語られることは無く、漠然と神風(台風)が吹いて蒙古の船が沈んだ(ほぼ全滅した)という常識が長い間罷り通ってきた。本書は、日本、朝鮮、中国の史料を丁寧に渉猟して、蒙古襲来の実像をできる限り正確に(合理的に)復原しようとする意欲的な試みである。そして、著者は「蒙古

人間は、「パウロの回心」のように、何か画期的な出来事があって初めて次のステージへ進めるという思考に囚われ易い。「起業を目指したそもそものきっかけは何か」などの質問や「ヨーロッパでは、西ローマ帝国が滅びて暗黒の中世が始まり、輝かしいルネッサンスが起こって近代が始まる」といった思考がその典型だろう。 アナール派の重鎮である著者は、歴史を、不連続(断絶、画期)では

どうしてこの本を手に取ったのだろうか。それは塚本靑史の愛読者であったからだ。父君が超有名な歌人であることは知っていた。しかし僕は短歌や俳句にはほとんど興味がない。それにも関わらず、この本はとても面白かった。実の親子でしか語れない日常生活の卑近な部分が、素直にしかもクールに書かれていて読者の興趣をそそるのだ。 ところで、邦雄はどんな人だったのか。「一番嫌うのは

かつて「コンスタンティヌスの寄進状」と呼ばれた世紀の偽書があった。その内容は「ローマ司教(ローマ教皇)に自分(ローマ皇帝)と等しい権力を与え、全西方世界を委ねて、自分はコンスタンティノープルに隠居する」というものであった。もちろん、ガリア(フランス)を根拠地としたローマ皇帝たるコンスタンティヌス大帝がそのような文書を残すはずもなく、これは8世紀ごろにローマ教

「私たちはなにもので、どこから来て、どこへ行くのだろう」有史以来人間はずっとこの根源的な問いを考え続けてきた。人間は動物で星のかけらから作られている、そして進化を続けてきて今日の姿になったのだ、ということを現在の僕たちはよく知っている。僕たちが宇宙論や生物学や進化論が好きなのは、きっとどこかに自身のルーツを確かめたい気持ちがあるからに違いない。 本書は、とり

意欲作の多いミネルヴァ日本評伝選の1冊である。異例の女性皇太子を経て即位、恵美押勝の乱に勝利し、道鏡を用いて仏教を基軸とする政治を推進した奈良時代最後の天皇を描いた力作である。専門書に近い内容で簡単に読み進める訳ではないが、この個性的な女帝の評伝としては本書の右に出るものはないのではないか。 奈良時代は女帝の世紀と呼ばれたりするが、持統、元明、元正、孝謙・称

人間と同じように、本にも「出会い頭」というものがある。シエナの至宝の1つで、ミケランジェロが感服したルネサンス最高の女性画家アンギッソーラの表紙を見た瞬間、「これは読むしかない」と観念してしまった。頁を開いてみると、とても読みやすい本で、通勤の地下鉄など移動時間中に読み終えてしまった。でも、なかなかに面白い。 本書は自画像を読み解いたものである。自画像は「演

ジョニー・デップ扮する海賊ジャック・スパロウは世界中で大変な人気者である。僕も大好きだ。それは何故だろうか。本書を読めばその答が分かるというものだ。なるほど、そうだったのか。合点がいった。 海賊の黄金時代は1710年代・20年代だった。スペイン継承戦争(1702~13)の後、海賊が急増したのは、連合王国の王立海軍が約3万6千人の人員削減を行い、また私掠免許状

小説 / HONZ客員レビュー
僕が小説を読む時のクセの1つだが、テーマと構成とテクニックを考えながら読むというのがある。この3つを高い完成度で兼ね備えた小説には、そうそうお目にかかれるものではない。それだけに3つが揃った素晴らしい小説に遭遇すると、とても嬉しくなるのだ。 「水声」のテーマは、おそらく、現代人の孤独(寂寥)である。動物である人間は長い間群れの中で次の世代(子ども)を育てなが

ややペダンチックな本ではある。でも美術好きにはたまらないだろう。なにしろ、扉絵がダ・ヴィンチから始まるのだから。光がない光源色としての黒、光の反射率がゼロですべての波長の光を吸収する物体色としての黒、黒は生命に敵対する色とも言われるが、世界の喪服には黒と白がある。また結婚式の礼服も白と黒。本書はこのように、極めて多義的な(両極端の意味とも結びつく)黒に捧げら

1328年、フランスでは、341年続いたカペー朝が断絶し、261年続くヴァロワ朝が始まった。ところで、新王フィリップ6世は、カペー朝最後の王シャルル4世の従兄なのだ。それが、何故王朝交替と呼ばれるのか。本書は、そこから筆を起こして、ヴァロワ朝13人の王の事跡を順に紐解いていく。 幸運王フィリップ6世は、しかし、我こそ王位継承権者だと名乗るイングランド王エドワ

人間誰しも、自分のことは実はよく分からない。第3者の目を通して、初めて自分のことがよく分かる。本書は、日本をこよなく愛するアメリカ人が、日本の景観を「国際的な目線」で、縦横に論じたものである。指摘が全て的確で痛快極まりなく、またそれだけに読み終えて、とても恥ずかしくなった。 日本で暮らしているとなかなか気がつかないが、「日本は電線・鉄塔の無法地帯」である(第

『 知ろうとすること。 』を読んで、僕の心に一番強く残ったのは、「トンデモ論に対して、正しいデータを出して、誠実で揺るぎない態度で撃破することが大切だ」という趣旨のところだった。まさにそれを文字通り実践した本に出合った。それが本書である。 「江戸しぐさ」については、昔、確か地下鉄の広告で見かけた記憶がある。「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」が3大江戸し

中国文学の面白さを縦横無尽に語ってきた最高の語り部、井波律子が中国人物伝(全4巻)を出すという。その話を聞いただけで、これはもう読むしかないと観念した。第1巻は、春秋戦国時代から秦漢帝国まで、春秋五覇の斉の桓公から東漢の班超までを取り扱っている。 本書は2部構成をとる。第一部は「乱世の生きざま-春秋戦国時代」。まず呉越の戦い。何回読んでも臥薪嘗胆の物語は面白

もう35年ほど昔のことになるだろうか、アンリ・トロワイヤの「女帝エカテリーナ」を読んだのは。トロワイヤのペンの力に魅せられて、「大帝ピョートル」「アレクサンドル1世」「イヴァン雷帝」などロシア宮廷を題材にした一連の著作をむさぼり読んだことを懐かしく思い出す。そう言えば、池田理代子の「女帝エカテリーナ」もトロワイヤを下敷きにした作品だった。本書は、トロワイヤを

社会 / HONZ客員レビュー
東日本大震災の直後、小さいベンチャー企業を経営している僕のところにも様々な情報がもたらされた。中には、放射能汚染のリスクが高いので従業員を東京からすぐに避難させた方がいい、と真顔でアドバイスしてくれた人もいた。最終的には、平常通り業務を行おうと決断したが、その際、最大の拠り所となったのは、実は早野龍五先生(以下敬称略)のツイッターだった。 誰よりも僕の心に響

間野英二先生の「バーブル・ナーマの研究<3> 訳注」が、松香堂から出版されたのは1998年。初めて読み終えた時の感動は今でも忘れることができない。間違いなく人類が書き残した自伝の最高傑作だと確信したものである。松香堂本は絶版となって久しく、長らく復刊が待ち望まれていたが、ついに東洋文庫から改訂新版が出されることになった。なお、東洋文庫版は3巻に別れている。本

社会 / HONZ客員レビュー
少子高齢化が進む中、わが国では市民の2/3が日常生活での悩みや不安を感じているという。その内容を見ると、「老後の生活設計について」がトップだ。また、一説によると、市民のおよそ8割が年金不安を抱えているとも言われている。タイミング良く、わが国の年金制度の概要を過不足なく、しかも整合的に解説した良書が世に出た。それが本書である。 本書の1つの特徴は、木ではなく森

とても面白い本だ。「事実は小説より奇なり」という格言が本当によく実感できる。ロンドンに駐在していた時、日本から賓客が来られたら、よくクリヴデンにお連れしたものだ。ヒースロー空港に近く、豪華で典型的な貴族のカントリーハウスであったからである。現在はナショナルトラストが保有しているが、最後のオーナーがアスター卿であった。本書はそのアスター家の子爵夫人に仕えたメイ

生前から、死体を「有機物」と呼んでいた実直な無神論者の父(著者、サラはファと呼んでいた)が、癌との闘いを終えて旅立った後に残された手紙には「遺灰は旧友たちが眠るドーセットの村の教会の墓地に」と書かれていた。サラはとまどう。死んだ後はたんなる「有機物」と言い切っていたファが、なぜ最後の通過儀礼のようなものを重要と考えるに至ったのか。生と死の絆の意味を求めて、世

17世紀の中葉、ネーデルランドのデルフトという街に生まれ、そこでほぼ一生を過ごして死んだフェルメールという風俗画家がいた。18世紀に入るとほとんど忘れ去られたものの、19世紀に再発見され現在では史上最も著名な画家の1人とされている。著者はフェルメールの名画を俎上に載せ、17世紀の世界、いやグローバリゼーションを活写しようと試みた。 20歳の夏、アムステルダム

タイトルは正確ではない。なぜなら、「張学良と宋美齢、66年目の告白」と副題にあるが、本書はこの2人のことを主として書いた本ではないからだ。また率直に述べれば、本としての完成度が特に高い訳でもないと思う。それにもかかわらず、この本は一挙に読ませてしまう強さを持っている。1992年、ふとした偶然から還暦を超えた著者は92才の張学良に取材する。初対面の著者に示した

時宜を得た本だ。わが国の最大の政策課題は、少子高齢化対策、即ち人口問題にある。本書は、なかなか一筋縄ではいかない結構厄介な人口問題の全貌を、広く高いスパンから一望のもとに俯瞰するまたとない入門書である。 「人間の歴史を通して、人口は繁栄、安定、安全と同義だった。」本書はこの胸のすくような一文から始まる。期待が否が応にも高まる。世に竜頭蛇尾の本は絶えてないから

小説 / HONZ客員レビュー
昨年は HHhH 、そして今年はQ。ローマ字をタイトルにした本には、このところ傑作が多い。16世紀のヨーロッパ。ローマ教会の腐敗に敢然とルターが立ち上がる。宗教改革という大きな振り子が振れ始めたのだ。しかし、振り子は行き着くところまで振れないと止まれない、という厄介な性格を持っている。ドイツでは、穏健なルターを早くも置き去りにして、農民の指導者トマス・ミュン

このほど、岩波の「現代の起点 第一次世界大戦」全4巻が完結した。第1巻は世界戦争、2巻は総力戦、3巻は精神の変容、4巻は遺産、と名付けられ、夫々約10編の論文から構成されている。今年はサラエボの銃声からちょうど100年、いかにも岩波らしいオーソドックスな取組である。各巻ともとても面白く、改めて大変勉強になったが、ここでは主に「第2巻総力戦」を取り上げたい。

人物 / HONZ客員レビュー
本が本を呼ぶ、とでもいうのだろうか。 「源氏物語」 に引かれて、面白い「枕草子」に出会った。内大臣が当時としては貴重な紙を一条天皇と中宮(定子。以下、宮)に献上した。天皇は史記をその紙に書くという。そこで宮は清少納言(以下、少納言)に、こちらは何を書こうかと尋ねた。少納言はそれに応じて「四季」を枕にして書きましょう、と。こうして「春はあけぼの」が生まれた、と

クラシックが好きな人間なら、バッハの「音楽の捧げもの」という名曲を少なくとも一度は聞いたことがあるはずだ。この曲は、老バッハがフリードリヒ2世の宮廷を訪ねた時、若き君主が与えた主題にバッハが曲をつけ、献辞をつけて献呈したと言われている。心温まるエピソードのように聞こえるが、著者は、王はバッハを困らせようとして、この主題を与えたのではないかと推論する。しかもそ

友人が「超絶的に面白い」と言っていたのは、まさしく本当だった。30年ほど前に、初めてドーキンスの利己的な遺伝子を読んだ時の衝撃は、今でも忘れることはできない。すべての生物は遺伝子によって利用される単なる乗り物に過ぎない、というドーキンスの考え方は、30歳になったばかりの僕にとって1つの天啓のように思えたものだった。「攻撃」のローレンツとドーキンスは、しばらく

マクロ経済学は「ルーカス批判(1976年)」の前後では全く様相を異にする、と言われているが、歴史学も、おそらくウォーラーステインの「近代世界システム(1974年)」前後では同じことが言えるだろう。その後、ウォーラーステインに触発されてすばらしい研究が相次いだが、本書はその中でも最も印象に残った1冊であった。10余年振りに再刊されたので改めて再読してみたが、4

漢字を指して、誰が言ったのだったか、「世界で最も美しい文字」、と。本書はその漢字の成り立ち(字源)を解説した入門書である。ただし入門書ではあるが、著者の異才が如何なく発揮されており、快刀乱麻、当たるを幸い薙ぎ倒す勢いが、なんとも面白い。漢字に興味を持つ人にとっては、堪えられないだろう。 本書は7章から成る。第1章では、漢字の誕生と継承が概説される。漢字は紀元

ユーラシア大陸の東西を、自ら先頭に立ち何千里にも渡って踏破して、大帝国を築き上げた英傑は、アレクサンドロス大王(イスカンダル)以降、わずかに3名を数えるのみである。バトゥ(ジョチ・ウルス)、フレグ(フレグ・ウルス)そしてティムールである。著者は、その中で「わが国ではその人物像はほとんど知られていない」ティムールを取り上げたのである。 ティムールは、1336年

小説 / HONZ客員レビュー
重くて悲しい、それでいてみずみずしい物語が、抑制された美しい格調のある文体で淡々と綴られる。多用される現地語も彩りを添える。そして、構成も完璧だ。植民地時代のケニアを中心とする東アフリカ。支配者の英国人にとって、インド人は便利で使い勝手のいい中間層だった。過激なアフリカ人マウマウは凄惨なテロで対抗する。独立を果たした後、ヨーロッパ人は去り、インド人は残った。

向こうから僕の眼の中に「読んでください」と飛び込んでくる本がたまにある。この本もそうだった。不思議な形の志野の装幀に加え、骨董と葛藤という副題を垣間見た瞬間、これはもう読むしかないと観念してしまった。 本書は「古物を愛し、古物に憑かれ、古物に翻弄された6人の『物数寄』たちをめぐる物語である。」つまりフェティシズムを扱った本である。僕は、昔は、本に対してフェテ

僕は、確か小学生の頃、平家物語を読んで感動し、同じ感動を味わおうと思って源氏物語に取り組んだ。田舎の少年は、源氏物語は武家としての源氏の盛衰を描いたものに違いないと勝手に決め込んでいたのである。読み始めて、おそろしく拍子抜けしたことが記憶に残っている。途中で投げ出した源氏物語に、再び取り組んだのは高校生の頃ではなかったか。その時は漱石よりもむしろ惹かれるもの

人間はどこから来て、どこへ行くのか。間違いなく、これが、人間の永遠の問いの1つであろう。「僕たちの体は、星のかけらから出来ている」、そう教わった時の腹落ち感は半端なものではなかった。だからこそ、僕たちは宇宙論が大好きなのだろう。誰しも僕たちの体を形作っている物質がどこから来たのか、その始源の物語を突き詰めて聴いてみたいのだ。本書は碩学の手による理代宇宙論の優

人物 / HONZ客員レビュー
ブラームス派であるにも関わらず、昔からワーグナーは何故か気になる存在だった。一言で言えば、癇に障るのだ。完成までに4半世紀を費やした「指輪」を含めほとんどの作品も観た。それでも好きにはなれなかった。第1、よく分からなかったのだ。でも、僕の大好きなトーマス・マンやプルーストがワーグナーを評価しているのは何故だろう。著名な音楽学者マルティン・ゲックの新作を読めば

名作、「 生命40億年全史 」「 地球46億年全史 」の著者が、太古の昔から姿も変えずいまなお生き残っている生物を対象に、「いかにして生き延びたのか」を論じた本である。前作同様、本書も著者が現場に出向いた探求の旅をまとめた体裁をとっている。読み進むうちに、最高の旅ガイドに手をとられて、現地を旅しているような臨場感におそわれる。 本書は10章から成り立っている

フランスのアンジェ城で、薄暗い光の中、壁一面にかけられたアンジェの黙示録を初めて見た時の、摩訶不思議な感動は、まるで昨日のことのようによく覚えている。聖書の最後に置かれた、わずか35ページ(新共同訳)のヨハネの黙示録(アポカリプス)。「イエス・キリストの黙示」で始まるこの両義的でおどろおどろしい不思議な物語のまたとない解説書が現れた。それが本書である。 著者

日本一小さな大学院、慶應SDM(システムデザイン・マネジメント研究科)のPR本である。しかし、PR本でありながら、とても面白いし、またストンと腹落ちするのだ。これから社会に巣立とうとしている若い皆さんはもちろん、社会人にも本書の一読をお薦めしたい。この本には、明日の仕事にすぐにでも役立つ考えるヒントがたくさん散りばめられているのだから。 システムデザインとは