
日本人なら浄瑠璃を! ”渦 妹背山婦女庭訓 魂結び"
妹背山婦女庭訓は、浄瑠璃作者・近松半二による文楽や歌舞伎での大人気演目。そして、『渦』は、半二の生涯と妹背山婦女庭訓の成立を縦軸に、それをとりまく人々を横軸に描かれた物語。生き生きとした描写に、江戸時代の大坂、劇場街であった道頓堀かいわいの賑わいや、そこでうごめく人たちの姿が目に浮かんでくるようだ。 この世もあの世も渾然となった渦のなかで、この人の世の凄まじ
(2024年当時)
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妹背山婦女庭訓は、浄瑠璃作者・近松半二による文楽や歌舞伎での大人気演目。そして、『渦』は、半二の生涯と妹背山婦女庭訓の成立を縦軸に、それをとりまく人々を横軸に描かれた物語。生き生きとした描写に、江戸時代の大坂、劇場街であった道頓堀かいわいの賑わいや、そこでうごめく人たちの姿が目に浮かんでくるようだ。 この世もあの世も渾然となった渦のなかで、この人の世の凄まじ

あのDr.ヤンデルの本である。と言われても「?」の人が多いかもしれない。ツイッターのフォロワー数10万人近く、間違いなく日本でいちばん有名な病理医だ。ツイッターもブログも、これまでに出された本も、ちょっと意外な角度から医学を眺めている感じ。けれど、とても納得いく説明をしてくれる(たぶん)とてもいいお医者さんである。 そのヤンデル先生がヤムリエを買ってでてくれ

珍書というべきか奇書というべきか、何しろ驚愕の一冊である。『鼻から尿』??「♫チャラリー鼻から牛乳」の嘉門タツオもびっくりだ。それに『爆発する歯』??そんなことあるはずないやろ!という気がするのだが、いずれもがれっきとした医学雑誌に載っている症例報告なのである。17世紀から19世紀の医学雑誌に紹介されたさまざまな信じがたい論文を集めたのがこの本だ。さて、読め

「なんとかの危機」的な本はけっこう多い。執筆は専門家ではなくてジャーナリストだし、「煽り系」の本がまた出たかと思って読み始めた。しかし、まったく違っていた。生命科学研究におけるさまざまな問題点が、順を追って鋭く冷静に指摘されていく。 資料をまとめただけではない。そういった問題に関係するノーベル賞受賞者も含めた多くの研究者へのインタビューも満載だ。口はばったい

朝刊を見る楽しみのひとつはサンヤツ広告である。一面のいちばん下にずらっと並んでいる本の広告のことで、3段分のスペースを8つに分けてあるからサンヤツだ。ある日、そこに『ウイリアム・ウイリス伝』があるのを発見して即刻購入した。ウイリス、どれくらいの知名度なのだろう。 吉村昭が高木兼寛を描いた『白い航跡』を読んだ人なら覚えておられるだろうか。高木は、西洋風の食事が

魂の一冊である。『吃音 伝えられないもどかしさ』は、自らも吃音に悩んだ近藤雄生が80人以上の吃音者と対話し、その現実に迫る渾身(こんしん)のノンフィクションだ。 吃音について何も知らなかった。8割は自然に治るとはいえ、幼少期に悩む子どもは約5%にも及ぶ。だから、吃音のある人は約1%、日本だけで約100万人もいる計算になる。 近藤によると、吃音には「曖昧さ」と

ポモドーロ・テクニックをご存じだろうか。生産性をあげるための必殺技である。なんら難しいものではない。25分を一単位にして仕事を区切る。ただし、その25分の間は、これをやると決めたテーマに集中する。電話に出たり、メールをチェックしたり、ネットで遊んだり、といったことは絶対にしない。そして5分休憩。それだけだ。( 詳しくはここを ) そんな方法で生産性があがるの

これまで隠していたが、ガイドブックを読むのがうまいと自負している。多くの人は、旅行に出かける前と旅行中に読むだけだろう。わたしの場合は違う。旅行から帰ってきて、再度、必ずガイドプックを熟読する。 そうすることによって、ガイドブックに書かれていた怪しげな情報がわかる。それ以上に、自分が発見した、ガイドブックに載っていなかったことが浮き彫りになる。この経験を繰り

誰一人として、こんな普通の男が大統領になるなどとは思っていなかった。妻はおろか、本人さえも。しかし、それが現実になった。1945年4月12日、フランクリン・ルーズベルトの急逝に伴い、副大統領から大統領に昇任した『まさかの大統領』ハリー・トルーマンがその人だ。 貧しい農家に生まれ育ったトルーマン、若い頃は失敗の連続だった。しかし、40歳を前にして、地元のボスの

この本の原題『メルトダウン』には二つの意味がある。ひとつは文字通り原子炉の炉心融解、もうひとつはシステムが崩壊または故障してしまうこと。もちろんこの本のタイトルは後者を意味している。数多くの事例から、メルトダウン的な大事故はどこにでもおこりうること、そして、いかにすればそのような大事故を防ぎうるか、が豊富な事例を紹介しながら論じられていく。 まず第一部『失敗

すごい本だ。もしこれが小説なら、荒唐無稽と片付けられてしまうに違いない。ノンフィクションの醍醐味をこれほど味わえる本はない。今年最高の1冊と断言しよう。 旧ソ連、ウクライナ生まれの女性狙撃手、 リュドミラ・パヴリチェンコ の自伝である。軍需工場で射撃の経験があったリュドミラは、ドイツ軍のソ連侵攻の翌日、狙撃兵としての入隊を志願する。軍における女性の仕事は衛生

自己肯定感の強い男、と周囲から言われ続けている。まぁ、そんな気がしないでもない。しかし、多々異論はあるだろうけれど、主観的にはけっこう謙虚だと思っている。謙虚と自己肯定は必ずしも排他的ではない。謙虚にして自己肯定感がつよい。素晴らしいではないか。と、まぁ、こういうことを書いたりするから、やっぱり自己肯定男と思われるのである。 信じてもらえないだろうが、かなり

我々の体は、250~300種類、37兆個にもおよぶ細胞からできている。しかし、その複雑な構造は、精子と卵子が融合してできた受精卵たった一個からつくられてくる。受精卵が分裂し、さまざまな機能を持つ細胞へと分化し、適材が適所へと移動する。そして、相互に作用しならがさまざまな生命機能を営んでいる。 不思議だとは思われないだろうか。外部から栄養分が与えられるとはいえ

酒と放浪。若山牧水の歌といえばこの2つだろう。しかし、若いころには恋の歌をたくさん詠んでいる。その相手は2歳年上で、抜群の美人だったという園田小枝子。 しかし、いつまでも小枝子の態度は煮え切らなかった。そりゃそうだろう、人妻であることを隠していたうえ、従兄弟との三角関係もあったというモヤモヤ状態だったのだから。 そんな2人の関係が、牧水の歌に直截的に読み込ま

日本初の酒場ライター、バッキー井上が、いっとかなあかん店について書いた本である。京都の店の本か、関係ねえよ、と思ったあなた。考えをあらためたほうがいい。この本を読まなければ、酒場人生の楽しみの8割7分くらいを捨て去ることになる。 だいたい、この本、店の紹介らしい紹介があまり書かれていないのだから、店のありかが京都であろうがどこであろうが、たいした問題ではない

注意して欲しいのは、食事中に読まないこと。 中には強烈な刺激を伴うものもある。 冒頭のことばがすべてを物語っている。 サルの脳味噌の燻製、イモムシのピリ辛煮、ラクダ丼、羊の金玉と脳味噌のたたき、水牛の生肉と脊髄ちゅるりん炒め、タランチュラの素揚げ、虫イタリアン、田んぼフーズ、ニシキヘビの唐揚げ、ヤギの糞のスープ、ヒトの胎盤餃子、ヒキガエルジュース、巨大ネズミ

かつては釜ヶ崎とよばれ、いまは、あいりん地区とよばれるドヤ街が大阪・西成にある。 その中心にある三角公園から北東方向を撮影したのが表紙の写真だ。右奥にひときわ高くそびえているのが地上 300 メートル、日本一の高さを誇るビル「あべのハルカス」。左側に壁のように見えるが大阪市立大学医学部附属病院、そのすぐ向こう側は大阪市立天王寺動物園である。 土地勘のない人に

HONZ でレビュアーしてますと、いろんなところが本を送ってくれはります。ありがたいことですわ。買うつもりでいた本が送ってもらえたらむっちゃうれしいけど、買った本が送られてきたらちょっと悲しい。 そんなんとちごて、こんなん絶対に買わへんわ、という本が送られてくる時もあります。けっこう礼儀正しいから、お送りいただいた本は必ず目をとおします。けど、やっぱり、自分

文字通り、 元首の主治医は 裸の権力者を見続ける。そのためには、まず元首に気に入られなければならない。その上、お気に召すような治療をしなければならない。一方で、気にそまぬアドバイスをしなければならないこともあれば、病状をひた隠しにせねばならないこともある。権力者の主治医には、医術以外に相当な技量が要求される。 主治医によっては虎の威を借りて権力をふるおうとす

それは 相模原 事件 がきっかけだった。 知的障害者福祉施設・津久井やまゆり園で、元施設職員が入所者を次々と殺害したいたましい事件だ。犯行前に書かれた「障害者は不幸を作ることしかできません」という言葉を読んだ NHK のディレクター・坂川裕野が反応する。 障害者である妹・亜由未の介助をしながら、1ヶ月間にわたり家族にカメラを向けようというのだ。 「僕は、妹と

知る人ぞ知るノンフィクション作家・宮田珠己は『 日本列島津々うりゃうりゃ 』(幻冬舎)を旅する、もしかすると当代随一の紀行文作家である。ただし、その目的は『 いい感じの石ころを拾いに 』(河出書房新社)とか、『 晴れた日は巨大仏を見に 』(幻冬舎)とかなので、ちょっと変わっている。 あまりの緩さに心を入れ替えて、お遍路に出たと思ったら『 だいたい四国八十八カ

脳の不思議さを描いた古典的名著。VRは『脳の外の幽霊』といえるのかもしれない。 もっとあってもいいはずなのだが、VRについての一般向け書籍は意外と少ない。

羊水穿刺で胎児の染色体検査をうけた。告げられた結果は陰性。しかし、生まれた赤ちゃんはダウン症だった。産科の医師が検査結果を見落としていたのだ。天聖(てんせい)と名付けられたその子にはさまざまな合併症があり、三ヶ月で亡くなった。そして、訴訟がおこなわれた。こう書けばシンプルだが、ここには三つの大きなジレンマがある。 そのうちのひとつは、天聖君への慰謝料請求の妥

あなたは神を信じますか?こう訊ねられたらどう答えるだろう。日本だと、神様は存在しないと思うけど神頼みはする、というのが多数派だろうか。この本で問われるのは、我々が普段思い浮かべるようないたるところにいる神様ではない。キリスト教の神、創造主としての神である。 科学者のスタンスはどうだろう。『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンスは『神は妄想である』という著書

万一、日本に戻れたら、なによりもすき焼きを食べようと思った フィリピンのジャングルでの壮絶な飢餓体験こそが中内㓛の原点だ。終戦後、米軍の生活物資を見てその豊富さに圧倒され、庶民が豊かになり、美味しいものをたらふく食べられるようになるには流通が重要だと痛感する。 『闘う商人 中内㓛 ダイエーは何を目指したのか』 は、側近の一人であった 小榑雅章から見た、ダイエ

無名人の留学記である。そんなもん誰が読むねん、というのが、とりあえず大多数の人たちにとっての率直な感想だろう。ごもっともである。 それ以前に、留学記というものが読まれなくなってきているような気がする。かつては、小澤征爾の『ボクの音楽武者修行』や藤原正彦の『若き数学者のアメリカ』といった名作があって、いまも文庫におさめられている。もしかすると、情報が少なく、外

けったいなおっさんである。大阪駅から環状線で一駅目の福島駅近くにある、知る人ぞ知るフレンチレストラン『 ミチノ・ル・トゥールビヨン 』のオーナーシェフだ。つむじ風を意味する店名トゥールビヨンに込められているように、旋風をおこしたいと常にたくらんでいるおっさんが本を出した。 本の作りもけったいである。まず、表紙が普通じゃない。料理人の本なら、それらしいポーズを

2005年4月25日、死者107名・負傷者562名を出したJR西日本・福知山線の脱線事故。その事故で妻を亡くし娘が瀕死の重傷を負った淺野弥三一の言葉である。「どうやって事故直後の数日間を乗り切れたかのかわからない」、「火山の噴火口に取り残された気分だった」、「当時の心境をひと言で言えば……自暴自棄、やろうね」と振り返る「感情が断ち切られた空の状態」だった淺野

ある国際学会で、若手研究者プログラムの責任者を仰せつかったことがある。世界各国から 100 人程度の優秀な若手研究者が合宿形式で集い、成果を発表する。その中から、 5 名の優秀者を投票で選んで表彰しようという趣向である。 受賞者の顔ぶれを見て、学会トップで賞のプレゼンターである英国人女性研究者が、いきなり烈火のごとく怒り出した。どうして 5 名の中に女性が入

探検家・角幡唯介が、「そのときまでに得られた思考や認識をすべて注ぎ込み、それまでの自分自身を旅というかたちで問う」た大探検記である。 準備に四年をかけ、四ヶ月以上の間、真冬の北極圏を一人で歩く探検。それは極夜の暗闇の中である。極夜、聞き慣れない言葉であるが、白夜の逆といえばわかりやすい。太陽が顔を出さない暗闇の中を行こうというのである。 地味といえば地味であ

数字、ファクト、ロジック。立命館アジアパシフィック大学の学長にしてHONZ客員レビュアーでもある出口治明さんは、この三つで物事を決定するべきだと説かれている。これはサイエンスにおける研究の進め方でも同じである。なかでも最も重要なのは生の数字だ。相対値ではなくて、絶対的な数字。それがなければ話にならない。 日本国についてのそのような数字をこれでもかと惜しげもな

『遺伝子-親密なる人類史-』、タイトルのとおり遺伝子についての本である。遺伝子といえばもちろん生命科学の分野なのであるが、この本の内容はそこに留まらない。遺伝子についての科学的な解説だけでなく、人間社会におけるその意義と重要性についても広く論じられている。この本を読むと、二一世紀は、誰もが遺伝子について考えねばならない時代である、と強く印象づけられる。 著者

ここまでわかったのか。あらためてゲノム科学のインパクトを感じる一冊だ。 ゲノムとは、ある生物の全遺伝情報を指す。地球上の全生物の遺伝情報はDNAに蓄えられている。うんと簡略化して言うと、ゲノム情報とはACGTという四つの文字が延々と書き連ねられた書物のようなものである。そのサイズは生物によって異なるが、人間の場合は30億文字だ。 その配列を決定する方法は猛烈

タレント本の位置づけというのは、どういうところなのだろう。大型書店には必ず「タレント」の棚があるけれど、なんとなく近寄るのは気恥ずかしいような感じがする。しかし、振り返ってみると、タレント本の書評を結構たくさん書いている。 最近もドラマ化された黒柳徹子の『窓際のトットちゃん』は、本邦ベストセラー史上1位の堂々たるタレント本だ。さらに ランキング を見てみると

「久しぶりに本を書いた」冒頭の文に、いきなり驚愕だ。なんでも、あの超ベストセラー『バカの壁』以来、ずっと「語り下ろし」だったらしい。ちらっと聞いたことはあったが、噂だけではなかったのだ。そして十年以上ぶりで書き下ろされたのが、この『遺言。』である。はたして何が書かれているのか、いやます期待。 「はじめに」で、早くもその意図は明かされる。「いまの時代は、皆さん

科学者というのは、データを出すことが最も重要である。それに次いで、いや、それと同じくらい重要なのがデータを解釈することである。ライフネット生命創業者の出口治明さんが、物事を決める時に重要、と、おっしゃるところの『数字、ファクト、ロジック』は、科学者にとっての根幹でもある。 経済にはまったく疎い。なので、この二冊の本に書いてあることが真実なのかどうか、正しく判


『チャヴ』、聞き慣れない言葉である。もとはロマ族の「子供」を指す言葉「チャヴィ」から来た、英国において用いられる「粗野な下流階級」を指す蔑称である。いくつかの英語辞典を調べてみると、「生意気で粗野な態度によって類型化される若年下流階級(オクスフォード英語辞典)」、「教養の欠如や下流階級であることを、その衣服や話し方、行動があらわすような人を示す蔑称。通常は若

生きものによって人に好かれるのとそうでないのがある。それは、その生きもの固有の性質による場合もあれば、社会的なファクターによるものもある。たとえばアイアイを考えてみればよくわかる。 アイアイはその原産地・マダガスカルでは悪魔の使いとされており、忌み嫌われている。どれほど嫌われているかというと、一旦目撃すると、そのアイアイを殺さないと不幸になる、と言われていた

多くはないけれど、著者とタイトルを見ただけで絶対おもしろいだろうと思える本がある。この本がまさにそれだ。脳科学研究の第一人者であり、これまでに『海馬』や『単純な脳、複雑な「私」』といったヒット作をたくさんものにしている池谷裕二さんが、自分の育児について愛情たっぷりに書くんだから、おもしろくないはずがない。 もうひとつ、個人的にそそられる理由がある。1年少し前