
『ジェンダーと脳──性別を超える脳の多様性』 女性的な特徴と男性的な特徴が入り混じったモザイク
「女性は親切で、コミュニケーション能力が高い。他方で、男性は攻撃的で、空間認識に長けている」。性差に関するそうした主張を、あなたもどこかで耳にしたことがあるだろう。さらにあなたは、そのような主張が展開されるなかで、「女脳」「男脳」といった言葉が使われているのを目にしたことがあるかもしれない。「女脳はコミュニケーションに関わる領域が大きく、男脳は空間認識能力が
3,647記事

「女性は親切で、コミュニケーション能力が高い。他方で、男性は攻撃的で、空間認識に長けている」。性差に関するそうした主張を、あなたもどこかで耳にしたことがあるだろう。さらにあなたは、そのような主張が展開されるなかで、「女脳」「男脳」といった言葉が使われているのを目にしたことがあるかもしれない。「女脳はコミュニケーションに関わる領域が大きく、男脳は空間認識能力が

不器用で一本気。昭和の日本映画界を支えた俳優、菅原文太の印象を聞かれたらこう答える人は多いのではないか。 1973年、菅原が39歳のときに1作目が公開された代表作『仁義なき戦い』シリーズでのアウトローでありながらも筋を通すヤクザ役や、広島弁で語りかけるCMでの頑固親父の印象が強い。 本書は菅原の生前の発言、俳優仲間や関係者の証言を積み上げ、「人間・菅原文太」

画期的な「ダイエット本」だ。なにしろタイトルがすごい。すべてのダイエット法を敵にまわしている。そして、内容はあまりに正しい。体重を減らすことに興味があるすべての人に読んでほしい。 ほとんのど場合、ダイエットは成功しません。どうしてって、ダイエットには「ダイエットすると太る」という、“不都合な真実”があるからです。 「はじめに」に書かれている文章だ。この本の内

新刊が出たと聞けば、迷わず購入する著者がいる。内容を事前に確かめることはない。なぜならその人が書くものに期待を裏切られたことはこれまで一度もないからだ。 堀川惠子氏は、当代最高のノンフィクションの書き手のひとりである。著作はいずれも高い評価を受け、受賞歴も数知れない。本書も凄い本だった。すでに膨大な文献が世に出ている太平洋戦争について、これまでにない新しい視

著者が今、最も旬な書き手であることを確信させられる一冊だ。世界を覆う社会的なテーマを生活者として語り、解決のヒントを暮らしの中に見出す。そのスタンスや主張は数年前からさほど変わらないはずだが、時代が追いついてきた印象もある。 ブレイディみかこ氏が本作で選んだテーマは「エンパシー」。これは他者の感情や経験などを理解する「能力」を指す。エンパシーは「意識的に他者

本書から得られるのは、海上での人権と労働問題、海洋汚染の実態、過剰漁業など表面上の知識だけではない。本気で取り組む際に人間はどこまでやれるかの挑戦であり、そのための準備や緊急時の冷静な対応、大量の情報と感情を文章にする熟練の技など、ジャーナリストがたどり着く1つの到達点だと思う。 私がノンフィクションを読み始めた動機のひとつに、世界のニュースの背景が知りたい

昔から家で酒は飲まない。宅飲みを愛する人も多いが、自分の場合は家で飲んでも楽しめないのである。楽しく酔えればどこで飲もうと関係ないのだろうが、幸か不幸かアルコールには強い体質だ。だから家だと延々飲み続けることになる。だったら家で飲むのは別にお茶でいいじゃないかと思ってしまうのだ。 外で酒を飲む理由はただひとつ。会いたい人に会うためである。 といっても人目をし

1945年8月6日午前8時15分、世界で初めて、広島に原子爆弾が落とされた。三日後、今度は長崎が標的となった。日本は世界で唯一、核兵器で攻撃を受けた国となった。 本書はキノコ雲の下で生き残った生存者の生の声を初めて報道した『HIROSHIMA』の著者ジョン・ハーシーと記事を掲載した〈ニューヨーカー〉誌編集部が、原爆の被害を隠蔽しようとするアメリカ政府と東京の

「ああ、ついに起きてしまった……」 そのニュースを知ったとき、思わずそうつぶやいた。今年6月、札幌市街地にヒグマが出没し、4人の方が襲われて負傷した。 数年前から札幌市街地でのヒグマの目撃情報は寄せられていたが、今年は異例と思えるほどヒグマによる人身事故が北海道各地で報じられ、複数の犠牲者も出している。 しかし、なぜヒグマは市街地に出没するようになったのか?

今から10年前の2011年は私のような地球科学者にとって青天の霹靂とも言える東日本大震災が発生した年だ。この年の7月15日、まだ震災の混乱が収まらぬ中でインターネット書評サイト「HONZ」が誕生した。 10周年を迎えた今夏、紹介した総計3000冊の中から100冊を厳選した『決定版-HONZが選んだノンフィクション』が中央公論新社から刊行された。科学・歴史・経

これからは音声がくる!という話をよく耳にする。ただその全体像を理解できている人が、一体どれだけいるだろう。少し前にクラブハウスが流行し「音声」に関する関心が一気に高まった。それ自体は一旦沈静化した感があるが、音声配信のプラットフォームの多くはCH流行後も再生回数を大きく伸ばしているという。 本書は、現在凄まじい勢いで再生回数を伸ばしている声のブログサービス「

情報の洪水の現在、私たちにとって何が正解でどれが間違いなのか。特に目に見えない「こころ」の問題はなおさらだ。 例えば1973年1月に『サイエンス』誌に掲載された米の心理学者デヴィッド・ローゼンハンの「狂気の場所で正気でいること」という現在でも版を重ね引用されている研究について。 これは実験者に偽の幻聴を訴えさせ精神病院に送り込み、統合失調症と診断させた実験で

帰還兵、復員軍人の精神面の問題は古くて新しいテーマだ。戦中、戦後は日本でも問題視されたし、現代ではイラクに派遣された自衛官の中にもPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し苦しんでいる人たちがいる。 9.11米国同時多発テロ事件以降、10年以上にわたりアフガニスタン、イラクとの非対称戦争を行ってきた米国には、かなりの数の帰還兵、復員軍人が存在する。そして彼ら

映画 「ラストタンゴ・イン・パリ」 が公開当時、私は中学生だった。映画に対する興味が湧き、一人で観に行くことが許された時期でもある。性に対しても敏感だったから、この映画のスキャンダラスな評判はよく覚えている。 中年男性と若い女性が大胆なセックスを繰り返すイタリア映画で、監督はベルナルド・ベルトルッチ。主役の中年男はマーロン・ブランドで女性を演じたのが『あなた

近年、ロケットのための計算に明け暮れていた女性たちを描き出したノンフィクション『ロケットガールの誕生』や、ディズニー初期の女性アニメータたちの活躍を取り上げた『アニメーションの女王たち』など、歴史の影で見過ごされてきた女性たちの活躍を取り上げるノンフィクションが増えてきている。今回紹介したい『コード・ガールズ』も、第二次世界大戦中にアメリカ軍に所属し暗号解読

1967年10月8日、ベトナム戦争反対を叫び佐藤栄作総理の南ベトナム訪問を阻止せんとする全学連と機動隊とが羽田・弁天橋で激突した。 当時18歳の京都大学一年生、山﨑博昭さんがこの争いの中で命を落とす。死因は学生たちが奪った装甲車に轢かれたとも、機動隊に殴られたからとも言われている。 全共闘世代の一まわり下「しらけ世代」である代島治彦監督はこの闘争をめぐって山

長靴の形をしているのはイタリアだけではない。米国のルイジアナ州もそうである。だが、現在のルイジアナ州の「靴底」はボロボロに破れ擦り切れている。靴底にあたる地域にはかつて広大な湿地帯があったが、海に変わってしまったのだ。 同州では1932年から2000年までの間に約4920平方キロメートルが失われたという(これは福岡県の面積約4987平方キロメートルに匹敵する

世界最大の「コロナ敗戦国」になったアメリカ。新型コロナウイルスの感染者数は3440万人。死亡者数は61万人を超えた。これは第一次世界大戦と第二次世界大戦、そしてベトナム戦争で亡くなった死者の合計よりも多い。CDC(疾病予防管理センター)やトランプ前大統領が楽観的だったこともあり、初期対応がまずかったのは間違いない。しかしアメリカは新型コロナウイルスに対して無

「交通や通信が発達してきたし、世界中で文明化が進んできてるし、文化人類学でやることがなくなるっちゅうことはないんですか」という不躾な質問を、この本の編者である文化人類学者の松村圭一郎さんにぶつけたことがある。答えはもちろんNO。旧来とはちがった視点からの新しいテーマがいくらでもあるということだった。土佐の居酒屋で飲みながらのことだったので、その鋭い(?)質疑

我が家で「G」といえば例のアレである。妻がこの世でもっとも苦手とし、名前すら口にしたくないということで、我が家では「G」と呼ばれている。「G」が出ると私の出番だ。悲鳴をあげる妻をよそに素手でぱっと捕まえる。妻によれば、「この人と一緒になって良かった」と思う唯一の瞬間らしい。ちなみに「G」が現れるのは年に一度あるかないかくらいなのだが。 ところで、東京都庁にも

『偉い人ほどすぐ逃げる』という、身も蓋もないタイトルだ。その「はじめに」には、日本の現状が次のように書かれている。 「いつも同じことが起きている。偉い人が、疑われているか、釈明しているか、逆にあなたたちはどうなんですかと反撃しているか、隠していたものが遂にバレたか、それはもう終わったことですからと開き直っているか、だ。/国家を揺るがす問題であっても、また別の

小説家・古川日出男は福島のシイタケ生産農家に生まれた。三人兄弟の末っ子で、兄と姉がいる。18歳で故郷を離れ家業は兄が継いだ。そして2011年3月11日、東日本大震災が彼の故郷を襲う。 冒頭は2019年12月に行われた母親の納骨風景だ。その直前、施設で寝たきりだった母の胃瘻をやめることを兄弟で決めたときに、躊躇っていた震災後の取材を兄に初めて申し出る。 第一部

『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』(みすず書房)は、アディクション(嗜癖障害)治療を専門とされる松本俊彦医師による本だ。少なくとも私にとってはかなり衝撃的な内容だった。薬物依存に抱いていたイメージが大きく覆された。ほとんどの人も、読めばきっとそうなるだろう。 自伝的な語りを軸に、経験に基づいた考えが綴られていく。自ら進んだ道ではない、「左遷」かと

戦争にはお金がかかる。多くの燃料や弾薬が必要になるし、軍需補給にも人員や物資が大量に投入される。だが、国の一大事とはいえ、それらを湯水のように使えるわけではない。 軍隊も国の機関の1つだ。ほかの役所と同じで、予算がなければ動けない。では、戦前・戦中の日本では、いかに予算内で軍需品を調達していたのか。本書は日本陸軍の会計経理機能に着目し、軍におけるお金の流れを

チャールズ・ラング・フリーア。知る人ぞ知る世界有数の日本美術コレクターだ。大富豪ロックフェラーとならぶ美術蒐集家で、世界有数の東アジア美術を収蔵する美術館が彼の名を冠して建てられている。 なかでも日本美術への思い入れが強く、数多くの日本美術をあつめている。コレクションは遺言にもとづき米国連邦政府に寄贈され、今ではワシントンDCのフリーア美術館としてアジア文化

若者の3年内離職率が過去10年で最高、というニュースがあった。記事によると、若い世代で成長性の高い分野をめざす動きが活発だという。私は非常に明るい変化だと感じたが、周囲には否定的に受け取る人がいた。いわく「とりあえず就職してその中で頑張る」という生き方が通用しなくなって、可哀想だというのである。 あなたはどう思うだろうか。経済の動きにあわせて動く数値なので、

新型コロナウィルス感染爆発の初期、台湾はIQ180の頭脳を持つデジタル担当相オードリー・タンによる的確な対策でパニックを免れた。昨年出版された評伝『Auオードリー・タン』(文藝春秋)では彼女の生い立ちから家族や仲間への思い、未来への展望などが詳述されている。 そのなかで、彼女の原点が、いじめにあった台湾の小学校を離れドイツで教育を受けたことだと知った。 オー

余計なお世話かもしれないが、本書を読み終えて、あることが心配になった。このままではSFというジャンルが消滅してしまうのではないか、ということだ。 かつてはSF映画の脚本めいたことを思い付いたとしても、それをフィクションとして記述するに留まったはずだ。しかし今や、あらゆることが現実に実装できる世の中になりつつある。どんな突飛なアイデアも、実装されてしまえば、ノ

コロナ禍が契機となり、自宅からでも学ぶことができるオンライン動画学習やコーチングサービスが活況に沸いている。学びたいけれど、時間がない、高額で払えない、仲間がいない、という悩みが解消され、学び直す人が増えているようだ。 新しい知識や技術を手に入れ満足はしたし、アウトプットや小さな実践・副業もした。だけれど、仕事が忙しくなって、元の木阿弥になってしまった。もし

ノンフィクション作家の溝口敦といえば、暴力団(ヤクザ)関連を中心に多くの著作を持つ、この分野では有名な書き手だ。『五代目山口組』の出版をめぐるトラブルから山口組関係者に背中を刺されるなど、危険な目にもあってきた。山口組を50年間ウォッチし続けてきた男なのだからさぞ任侠の世界に興味があったのだろうと思いきや、学生時代はヤクザにまったく関心がなかったという。 就

つくづく子どもは親の思い通りに育たないものだと思う。 息子が生まれた時、英才教育を施そうと思った。といっても、勉強やスポーツではない。あらゆるサブカルチャーに通暁した人間に育てようと思ったのだ。 本やマンガ、音楽、映画などに幼い頃から親しませ、各ジャンルの押さえておくべき名作や傑作などを順に与えていけば、ひとかどのサブカルエリートに育つのではないかと思ったの

アバウトにしてアナーキー。ざっくりまとめるとこうなるのだろうか。なんだかやたらと凶暴でハードボイルドな室町時代。日本人は律儀で柔和などという言い方は絶対に通用しない。室町時代の後半は戦国時代だったから、というわけではない。武士たちだけでなく、農民や女性、僧侶までもがなんだか殺気立っているのだ。まずは『びわ湖無差別殺傷事件』から。 びわ湖がくびれていちばん細く

「民泊」という言葉にどんなイメージがあるだろうか。住宅街に見知らぬ外国人が押し寄せ住民との間でゴミや騒音のトラブルが発生、とネガティブな印象を持つ人もいるかもしれない。実は本書の著者もその一人だった。英語の「バケーションレンタル」に比べると、「民泊」にはどことなく貧乏くさい響きもあって大嫌いだったという。 そんな著者自身が民泊を始めることになったのだから人生

本書『裏切り者』は、映画にもなった「ハイネケンCEO誘拐事件」の実行犯として知られ、その後も犯罪を重ね「オランダ史上最悪の犯罪者」と恐れられるまでになった男ウィレム・ホーレーダーについて書かれた犯罪ノンフィクション/体験記である。 現在ウィレムは逮捕され、終身刑を食らっているのだが、彼の罪を告発し終身刑にまで追い込んだのは実の妹で、本書の著者であるアストリッ

「運も実力のうち」という慣用句はよく聞くが、「実力も運のうち」というのはどうだろう。「実力」という言葉はフェアに聞こえるが、それが単に「生まれ」という「運」による幻想にすぎないとしたら。 そうした不都合な真実に切り込んだのが、米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による本書である。原題は“The Tyranny of Merit”、直訳すれば「能力の専制」

昨年、私は東京を離れ、某南の島に拠点を移した。周囲に、自生の葉物や果物を見分けて収穫する人や、自分で魚や猪を獲る人、潮の満ち引きや風の流れを読める人がぐんと増えたなかで、痛感しているのが「ああ、私何もできない」ということだ。頭でっかちで、「生きる力」「生きた知恵」が悲しいほどない…。 そんな反省の日々を送っていたなかで出会った本書『学校の枠をはずした』は、子

「スーパーバグ superbug」という言葉をご存じだろうか。日本語だと「超多剤耐性菌」とか「スーパー耐性菌」という訳なのでなんとなくわかる。ほとんどの抗生物質に反応しない病原性細菌のことだ。CDCによると、米国では毎年280万人が感染し、うち3万5000人が命を落とすとされている。 カリフォルニア大学サンディエゴ校で教授を務める夫婦、社会生物学・心理学のト

自分の研究を「何の役に立つか」と質問されたら科学者は明確に答えられるだろうか。「おもしろいから研究しているのだ」と堂々と言える人は少ないだろう。日常生活で研究者を直接知る機会は少なく、研究は象牙の塔の中だけで行われていると思われている。 それではいけないと本書の編者・柴藤亮介は考えた。彼は学術系クラウドファンディングサイト 「academist」 を立ち上げ

勉強法や学習術はベストセラーの定番である。世界が劇的に変化する中、仕事に未知の要素が激増することに危機感を抱くビジネスパーソンは少なくない。ここで余裕を持って取り組むには、新たな分野の効率的な学習は避けられない。本書の「LIMITLESS=リミットレス」とは、自分の能力と可能性に限界を設けず「ラクに」学習できる状態を言う。 そもそも制約や限界を感じるのは単な

「中世ヨーロッパ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。「疫病と飢饉」、「魔女狩り」、「異端審問」……。代表的なものを挙げたが、いずれにせよ、西ローマ帝国が滅んだ5世紀末からの約1000年間に明るく進歩的な印象を抱く人は少ないだろう。 だが著者は、そうしたネガティブなイメージはここ200年ほどの間に私たちに植え付けられた誤解だと説く。本書には、中世に関する11