
コロナ禍で「おくりびと」になる。『親父の納棺』
コロナに右往左往させられるこのご時世、ロクに会えなかった父親が逝ってしまったとしたら。そんなとき、自分なら何ができるだろう? 父親を葬るという、誰にでも起こりうる人生の1ページを、『国道16号線』などの著作でも知られるメディア論の教授が綴った。こんな見送りの方法もあるのだ、と優しい気持ちになるエッセイのような一冊だ。 2020年の9月、著者の柳瀬さんは、故郷
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コロナに右往左往させられるこのご時世、ロクに会えなかった父親が逝ってしまったとしたら。そんなとき、自分なら何ができるだろう? 父親を葬るという、誰にでも起こりうる人生の1ページを、『国道16号線』などの著作でも知られるメディア論の教授が綴った。こんな見送りの方法もあるのだ、と優しい気持ちになるエッセイのような一冊だ。 2020年の9月、著者の柳瀬さんは、故郷

米連邦最高裁判所は2022年6月24日、約半世紀ぶりに人工妊娠中絶の禁止を認めない判断を下した。全米50州のうち約半数で中絶が規制される見通しという。アメリカでは「母になるかどうか」を自分で決められなくなったのだ。 『母親になって後悔してる』 はイスラエルの社会学者が、平均三人の子をもつイスラエル人女性の中から、母になったことを後悔している人を厳選し、聞き取

もしあなたが子育て中なら、「大学を出て、企業に就職して、定年まで勤めあげる」人生をわが子に教え込まないほうが良いだろう。素直で親孝行な子であるほど、将来、親の期待を裏切って罪の意識に苛まれる可能性が高いからだ。時代は音を立てて変わっていて、もはや「過去の方程式」は通用しないのである。 本書の著者はリーマンショックの影響を受けた就職活動で、60社から不採用をも

あつい。 この夏の「暑さ」に負けない「あつさ」を『昭和の参謀』は持っている。 444ページという新書には破格の「厚さ」、テーマにたいする著者の「熱さ」、そして、取材相手への真摯な「篤さ」、この3点を、読者は、じゅうぶんすぎるほど堪能できるにちがいない。 陸軍で、その名をとどろかせた7人の参謀(石原莞爾、服部卓四郎、辻政信、瀬島龍三、池田純久、堀栄三、八原博通

本書には信じがたい話がいくつも出てくる。以下にその一例をあげよう。 子供が母親にこんなことを言われた。 「ゲームばかりしているとお父さんに怒られるよ。まぁ、今日はいいか。勉強もしたしね」 どこの家庭でもありそうな場面だ。母親は決して叱っているわけではなく、勉強を頑張ったご褒美に今日は特別にゲームをしてもいいよ、と言っている。むしろ子供への優しさを感じる言葉だ

沈静化するかと思われていたコロナ禍でしたが、7月後半から罹患者が急増。身の回りでも「陽性になりました」という報告が当たり前のように聞かれるようになりました。酷暑もあり外出が控えられているのか、出版業界は少し活気づいてきています。7月はどんな本が話題になったのでしょう。 発売と同時に注目を集めているのがこの『ストーリーが世界を滅ぼす――物語があなたの脳を操作す

医者という職業は私たちの身近に存在する。多くの人が何度となく医療機関を受診した経験があるだろう。しかし本書の著者であるリチャード・シェパードは私たちが想像する医者とは少し異なる。彼の患者は死者だ。リチャード・シェパードはイギリスの高名な法病理学者なのだ。不幸な事故や事件に巻き込まれた人々の遺体を解剖し、なぜ被害者が死に至ったのかを突きとめるのが彼の仕事だ。彼

思考というと、多くの人は難しいものと考えがちだ。しかし、決してそのようなことはない。とりわけ、科学的な論理思考というのはシンプルだ。いや、シンプルであるべきだ。そうでないと他の人に理解してもらえない。 多くの大学院生を教えてきた。同じ事を繰り返し言うのは嫌いなのだが、何度も何度も繰り返したフレーズがある。それは、「これは前にも言うたやろ」である。多くの場合、

私はふるさと九州をこよなく愛する人間だが、ひとつだけ、どうしても好きになれないところがある。ヤクザが幅を利かせているところだ。 九州は観光地も多い。「人と金が集まるところに暴力団あり」で、地元に根をはるヤクザが各地にいる。暴力団といえば、山口組や稲川会、住吉会などの指定暴力団を思い浮かべる人が多いだろうが、地場の暴力団の中には、そうした全国組織が容易には入っ

2022年4月1日、大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)で入学式が行われた。そこに学長である出口治明さんが登壇され祝辞を述べた。 2021年1月9日、出口さんは脳出血で倒れた。一命はとりとめたが、右半身麻痺と失語症が残った。失語症は「聞く」「話す」「読む」「書く」という言葉を使った働きが上手く出来なくなる状態で、出口さんは相手の話している内容は

生々しいロシア-ウクライナの攻防が日々ニュース映像を通して伝わってくる。ただ、今回の戦争はそれが全てではない。目に見えない攻防が今まで以上に激しさを増している。 今回の戦争が一線を画すのは、両陣営ともにサイバー空間を多用し、「ハイブリッド戦」というサイバー攻撃と武力攻撃を組み合わせた戦いを繰り広げていることである。ハッキングなどのサイバー攻撃だけでなく、スパ

世の中がなんだかギスギスしているなぁと感じるようになったのは、いつ頃からだろう。電車でわずかに肩が触れただけで舌打ちされたり、高速道路で妙に煽ってくる奴がいたり、そんな些細な個人的体験だけでなく、ネットでも誰かの足を引っ張るような言説が目立つようになった。みんな何かにイラつき、余裕を失くしていた。一見、攻撃的な姿勢の裏に、人々の不安が見え隠れしているような気

深海は調査が進んでおらず、海底よりも月の表面の方がわかっていることの方が多いとさえ言われる世界だ。だが、近年深海用の潜水艇などの高性能機材が開発され、深海が想像されてきたより広く複雑な世界であることが明らかになってきた。本書はその書名通りに、深海にまつわるさまざまなトピックを扱った一冊だ。 生物の話からはじまって、地球温暖化と深海の関係性、深海底ビジネスが深

ある事柄について語ろうとする時、いわく言いがたい居心地の悪さを感じることがある。たとえば「民主主義」がそうだ。「民主主義は大切だと思うか」と問われれば、迷わず「大切」と答えるが、そう即答しながらも、どこか口先だけでものを言っているような違和感が拭えない。まるでサイズのあわない借り物の服を着ているような収まりの悪さを感じてしまうのだ。 よく言われるようにそれは

シュートが連続で何本も決まる。賭け事で勝ちが続く。名案が次々と浮かんでくる。そんな「ツイている」「波に乗っている」状況は、誰しも身に覚えがあるだろう。 ひとつの成功がさらなる成功を呼び込む。そんな神がかった状態は「ホットハンド」と呼ばれる。この絶好調な感覚が本物であることを、統計的に証明しようとする試みがあった。 ホットハンドは実在するのか。この謎にまつわる

本書には冒頭から最後までアザラシへの愛が詰まっている。 小学生で出会い恋い焦がれ、現在は日本で唯一のアザラシ保護施設 「オホーツクとっかりセンター」 の飼育員として働く著者のアザラシ愛は飼育員仲間でさえ「ちょっと理解できません……(笑)」というほどのものらしい。 アザラシ科、アシカ科、セイウチ科に分かれる海棲哺乳類 鰭 脚 類はヒレ状の脚を持つ。耳たぶがあっ

広大な宇宙で生命は地球だけに存在するか否かは、古来より人の大きな関心事だった。一九世紀英国の作家ウェルズはSF小説『宇宙戦争』にタコのような火星人を登場させ、地球外生命の一般的なイメージとなった。そして20世紀に入って宇宙飛行が実現すると、地球外へ積極的に生命を探索する研究が始まった。 地球外生命の探求は、生命はどのように誕生したかという生命起源をめぐる根本

『生命機械が未来を変える』ご恵送いただいたこの本、たいそうなタイトルやなぁと思いつつ軽い気持ちで読み始めたのだが、一気に読了。そして、ふたつのことに驚愕した。ひとつは、もちろんその内容だ。 MIT(マサチューセッツ工科大学) においておこなわれている研究を中心に、生物学と工学を本当の意味で融合させた研究、「エネルギー」、「浄水」、「医療」、「身体」、「食料」

協力的コミュニケーションのひとつに、指さしジェスチャーがある。わたしたち人間は何かを指さすことによって、「あれを見て」という自分の意図を他人に伝えることができる。至極簡単に思えるそのコミュニケーションも、しかしながら、ほかの動物にとってはことのほかむずかしいようだ。実際、ヘアらの実験によって、チンパンジーでさえも指さしを理解できないことが明らかになっている。

知識が好奇心を育むのだ。好奇心を持続させるために、ノンフィクションを読み続ける。あらためて学ぶことの楽しさを実感したのは、本書『子どもは40000回質問する』を読んだからだ。 本書によると、好奇心は、少し知っていることが肝心だと言う。全く知らないのでは手が伸びない。反対に知りすぎていても好奇心は育たない。その塩梅が大事で、だからこそ広く浅く興味を持つことは、

スタジオジブリが出している『熱風』という小冊子に、ジャーナリストの青木理さんが聞き手をつとめる「日本人と戦後70年」という連載がある。ここに2021年8月号と9月号にわたり著者との対談が掲載された。 一読して驚いた。朝日新聞が生き残りをかけて調査報道を新たな看板に据えようとしていたこと、そのチャレンジが経営陣によって潰されたことが、生々しく語られていたからだ

連休。なんと甘美な響きだろう。 ラジオの番組作りの仕事は面白いのだが、ネックは休みがとりづらいことかもしれない。先日のゴールデンウィークも、「最大10連休」なんてニュースで伝えながらまるで他人事だった。10日なんて贅沢は言わない。3日間でいいから続けて休んでみたい。 わずか3連休でも羨ましく感じるくらいだから、2000連休なんて桁が違いすぎて想像することすら

ウクライナについてのニュースを連日見ているのに、その国について何も知らなかった。恥ずかしい限りである。いかに知識がないかを思い知らされながら、新型コロナウイルス感染症 COVID-19のことを思い浮かべていた。医学を学んだのだから、それについては相当な基礎知識がある。なので、一般の人のウイルスについての知識の貧弱さや、ワイドショーなどでのとんでもないコメント

あなたのまわりに「叱る」人はいるだろうか。「怒る」ではなく「叱る」人だ。 叱るには「親や上司など指導する立場の人が、未熟な人を注意する」というニュアンスがあることを、きっと多くの人が賛同するだろう。「叱る」という言葉には=人を育てるというような意味を含んでいる。 「叱る」と「怒る」のふたつの言葉にあるこの差は大きい。「叱る」の持つ意味には、叱る人は悪くなく、

科学にとって意識ほど難物なものはあるまい。赤いリンゴを見たときの、あの「赤い感じ」はどのようにして生じるのか。身体を所有し、自由意志によって行動をコントロールする、この「私」とは何なのか。意識のそうした主観的な性質は、客観的な記述を旨とする科学的説明を寄せつけないように思われる。 そのように、意識の科学の道のりはきわめて険しい。だが、この30年ほど、その科学

一時的なのか、それとも集団免疫を獲得したからか、新型コロナの発症数は減少している。世の中は、おそるおそるだがコロナ前の生活に戻ろうとしている。 果たしてこの「新型コロナウイルス」はどこからきたのか?2019年末に中国の武漢市から始まり、世界中を席捲し、感染者5億人以上、死者600万人以上(2022年6月1日現在)というパンデミックの最初のひとりは誰で、どうし

「ねえねえ、ちょっと聞いて。おもろい話が、あんねんけど」。そう話しかけられたような、「京都の下町」での上質な、極上の、世間話を聞いているような、そんな親しみの湧く本です。 著者の通崎睦美さんは、1967年京都市生まれの「クラシック音楽の分野で世界唯一の木琴奏者」であるだけではありません。 木琴の巨匠・平岡養一さん(1907~1981)の評伝『 木琴デイズ 平

顰蹙を買うのを恐れずに言えば、生死の境で闘う人の闘病記が好きだ。 花村萬月さんが厄介な病気に罹っていると知ったのは三年ほど前のことか。本書は花村さんの〈骨髄異形成症候群〉の発症から現在までを克明に綴った記録である。『くすぶり型白血病』、『前白血病状態』と称され放置すれば数年後には白血病になり間違いなく死ぬと宣告を受ける。 彼の小説には両親との軋轢や不良時代の

これほどシビれる本に出合うことはそうそうない。それは、真の知的好奇心と創造力を兼ね備えた上に深い思索をできる人がめったにいないからに違いない。そのような希有なる人物、エルノー・ルービック(正しい発音は ルビク・エルネー らしいが)の自伝である。名前を見たらおわかりだろう。誰もが一度は手に取ったことがある ルービックキューブ を発明した人である。 1944年、

ロシアのウクライナ侵攻により核戦争の脅威が現実味を持って語られるようになっている。こうした緊張感のある状態は東西冷戦以来であろう。実は冷戦を生み出すにいたる、核の軍事バランスを作りだすのに、大きな役割を果たした一人の主婦がいたことはあまり知られていない。彼女のコードネームはソーニャ。三人の子供の母であり、妻であり、ソ連軍情報部(GRU)の将校であり、腕利きの

「その悩み、○○学ではすでに解決しています」みたいなタイトルの本を見かけることがある。あなたが日々の仕事で直面する悩みや課題は、すでに最新の学説や理論で解決済みですよ、というわけだ。 だが本当にそうだろうか。最新の学説や理論を応用すれば、世の中の問題はたちどころに解決するものだろうか。 著者は政治学を専門とする大学教授である。「話すも涙、聞くも大笑いの人生の

2022年2月24日、ロシアが隣国のウクライナに全面的な侵攻を開始した。ウクライナ国民の多くは国境を越え難民となっている。この現実を目の当たりにして、もし緒方貞子だったらという思いが頭を駆け巡る。 UNHCRとは国連難民高等弁務官事務所の略称。紛争などで難民となった人々を国際的に保護・支援し問題解決を図る国連機関だ。緒方貞子は1991年から10年間、第八代国

NJBを知っていますか? って知らないだろう。私も初めて知った。 人形浄瑠璃文楽、のことだ。 普通の入門書ならまず最初に、文楽とは何か、という定義があるのかもしれない。が、そこは、ただいま現在舞台で声を張って活躍する人がまとめた本だけあって、そうはならない。14歳ってこんなことあるよね、という呼びかけから始まるのだ。 著者の竹本織太夫(おりたゆう)さんのこと

YouTubeやNetflixで映画やドラマを1.5倍速で視聴するユーザーが急増しているという。それもそのはず、今やYouTubeにもNetflixにも倍速視聴機能や10秒スキップ機能が標準搭載されている時代だ。 しかし倍速視聴という行為だけを見れば表面化している些細な現象に過ぎないが、プラットフォーマー、コンテンツの作り手、社会、そしてユーザーを取り巻く様

中野の街にはランドマークがふたつある。ひとつは「アイドルの聖地」として知られる中野サンプラザ。もうひとつは中野ブロードウェイだ。 中野ブロードウェイは、中野駅北口からのびるサンモール商店街の突き当たりにある。地下1階から4階は商業施設で、大小さまざま、ジャンルも雑多な店が所狭しと並ぶ。その数は300軒とも350軒とも言われるが、誰も正確な数がわからない。権利

川崎市の自宅で長男(当時37)を4カ月にわたって監禁したとして、両親と妹の3人が逮捕監禁容疑で逮捕された。長男には精神疾患があったとみられるが、医療機関は受診していなかったという。父親は容疑を認め「外に出して迷惑をかけたくないと思った」と供述しているという。(2022年2月1日朝日新聞) 世間は精神障害者に優しくない。世間体や迷惑をかけたくないと家族だけで精

(知らなかった。こんなことになっていたなんて……。) 読みはじめてすぐにそう思った。かつて脚光を浴びた人物の驚くべきその後が記されていたからだ。 東京メトロ日比谷線の南千住駅の南口を出てしばらく歩くと、泪橋の交差点にさしかかる。かつてはここに思川という川が流れていた。漫画『あしたのジョー』では、丹下段平のボクシングジムは泪橋の下にあるという設定だったが、現在

ありのままに書く。むずかしさと尊さ、2つを見事に両立させた著者に敬服するほかない。 朝日新聞記者である著者は、妻の、そして、みずからの20年を記録する。みじかくない年月は、彼女が、摂食障害にはじまり、性被害、アルコール依存から水中毒、そして、40代での認知症にいたる時間だった。 語弊を承知のうえでいえば、この夫婦は幸せなのだと思う。 著者を、妻を、「大変」と

科学者がときとして見事な文章を書くことがある。本書は寺田寅彦(1878-1935)や湯川秀樹(1907-1981)など世界的科学者が残した名エッセイから厳選し、文庫オリジナルとして編まれたものである。 しばしば教科書に掲載されてきた科学の随筆だが、実は私自身、国語の時間に中谷宇吉郎(1900-1962)の文章と出会って物理学という非常におもしろい世界があるこ

「ぼけますから、よろしくお願いします。」――これは2017年のお正月に著者の母親が言った言葉です。当時87歳の母親は、この時すでに認知症を患っていました。当事者が自ら「ぼけます」宣言をするなんて、なんともとぼけたユーモアがあります。 著者はこれまでテレビで数多くのドキュメンタリー番組を手がけてきました。広島県呉市で暮らす両親の老老介護を取り上げ放送したところ