
『「ちがい」のある子とその親の物語』世界23か国で読まれる当事者とその家族の声
本書は欧米で活躍するノンフィクション作家・アンドリュー・ソロモンが10年間に300組以上の親子を取材した壮大な記録だ。2012年に出版されると数々の賞を受賞し、世界23カ国で刊行。日本でも3巻目がいよいよ発売となり、完結した。 「ちがい」のある子とは、Ⅰでは「聴覚障害」「低身長症」「ダウン症」、Ⅱは「自閉症」「統合失調症」「重度障がい」「神童」、そしてⅢは「
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本書は欧米で活躍するノンフィクション作家・アンドリュー・ソロモンが10年間に300組以上の親子を取材した壮大な記録だ。2012年に出版されると数々の賞を受賞し、世界23カ国で刊行。日本でも3巻目がいよいよ発売となり、完結した。 「ちがい」のある子とは、Ⅰでは「聴覚障害」「低身長症」「ダウン症」、Ⅱは「自閉症」「統合失調症」「重度障がい」「神童」、そしてⅢは「

私の小学校時代、「道徳」の授業はあったろうか。本書を前にして思い出してみる。あった。確かにあった。だが2018年度から始まった(中学校は19年から)「特別の教科 道徳」は教科化され、通知表で評価が下されもするらしい。一体、何を学ぶのか。 誰もが疑問を持つ「道徳とは何か」を、著者は愚直なほどまっすぐに突き止めようと果敢に挑む。 最初が肝心。まずは小学一年生の教

メタ認知、最近よく聞くようになった言葉だ。辞書をめくると、「自分の行動・考え方・性格などを別の立場から見て認識する活動」と書いてあるが、うーん、わかるようでわからない。 サブタイトルの頭がよくなることとどんな関係があるのだろうか。著者はメタ認知の専門家であり、中学生入学段階からメタ認知を意識し始めたらしい。きっかけは、英語学習を通じて、頭の使い方を意識するよ

動物たちは天才だ! 心底驚いた。こんなに多様で素晴らしいナビゲーションシステムが動物に備わっているとは。 ナビゲーションというのは、採餌や生食などといった動物の生存に必須のものである。だから、何億年という単位での進化により、これくらい巧妙な仕組みが作り上げられても不思議ではないのかもしれない。また、無意識のうちに人間の能力と比較してしまうから、不思議さを感じ

映画業界の性加害報道が相次いでいる。週刊文春の報道をきっかけに被害にあった女性たちが次々に声をあげ、業界にはびこる性暴力の実態が明るみにでた。一部の良識ある映画監督や原作者たちも性暴力に反対するアクションを起こした。この流れは止まらない。かつてアメリカの映画業界を変え、世界にも影響を及ぼしたあの動きが、ようやく日本にも波及したのかもしれない。 本書の著者ロー

ジャーナリズムの使命は、「人々が本当に知りたいこと」を伝えることである。 それが唯一にして最大の役割といっていいかもしれない。だが「本当に知りたいこと」は隠されていることが多い。国家や権力者にとって知られては困る不都合な事実だからだ。 いま世界でもっとも注目されている調査報道機関が〈ベリングキャット〉である。その成果は驚くべきもので、彼らは国家や権力者が隠し

標準家族(世帯)という概念は、1960年代、家族構成としていちばん多かった会社員の夫と専業主婦の妻、子どもが二人の四人家族をいい、それが国の統計や税金に使われるようになったという。だがいまは、周りを見渡しても標準家族はほとんどいない。家族も様変わりした。 翻訳家でエッセイストの村井理子は、不仲だった兄の死の連絡を受ける。東北の地で一人、父子家庭を築いていた兄

本書の書き出しは穏やかではない。なにしろ京都で名高い縁切り神社の話から始まるのだ。そこは「悪縁」を切ることのできる最強の縁切り神社として知られる。訪れた人は、境内にある巨石が参拝者によって糊付けされた形代(白いお札)でびっしりと覆われているのに圧倒されるだろう。 著者は神社のすぐ近くまで足を運びながら、縁が本当に切れてしまうことにためらいを覚え、結局行くのを

すごい本が出た。 いきなりであるが、この本の最後の文を紹介したい。 でも、その窮屈な型を破って、新しい型を生み出すサバイバーがきっと出てくる。私の語りの型は、誰かの生き延びるための道具となり、破壊され、新しい型の創造の糧になる日を待っている。(200ページ) この締めくくりの文に、この本の性格が表されている。性暴力のサバイバーである著者は、さまざまな本を読み

ある種の快感を抱きながら読んだ。漠然とそうではないかと勘ぐっていたことを、ものの見事に説明してもらえたからだ。がんの新薬が次々と登場している。もちろん画期的な薬剤もあるが、喧伝されているほどのことはないのではないか。腫瘍内科医がその真実をさまざまな角度から検証していく。 第1部「がんの薬の効果はどれくらいで、値段はどれくらいか」の冒頭では、いかに「がんの薬は

「あなたはこの先、コロナ禍のことを忘れてしまうだろう」 もし面と向かってこんな予言をされたら、あなたはどんな反応を示すだろうか。「そんなのあり得ない」と反発するかもしれない。だがこれには先例がある。1918年から1920年にかけて猛威をふるったスペイン風邪である。 スペイン風邪は史上もっとも多くの人間を死に至らしめた感染症だ。にもかかわらず、同時代の表現者た

『すばらしきアカデミックワールド オモシロ論文ではじめる心理学研究』という真面目なタイトルに騙されてはいけない。ひかえめに言って、驚きにつぐ驚き、爆笑につぐ爆笑の一冊だ。 総論文数、数え間違えていなければ84編が真面目に紹介されている。必ずしも心理学に限定されている訳ではないが、すべての論文が素晴らしくおもろい。怪しげな論文がない訳ではないが、きちんとそう注

この『魔術師と予言者』は書名だけみるとファンタジィ小説だが、その実態は2050年、人口が100億に達した時の地球環境の危機について考察する大著である(総ページ数は700を超える)。現在の地球人口は約77億人だが、すでに限界ぎりぎりの地球の資源状況が人口が増えればここからさらに厳しくなっていくのは火を見るより明らかだ。 このままだと、食料も、エネルギーも、水も

“十年ひと区切り”と人は言う。時間的な里程標として、十年は目安になりやすいのかもしれない。 2021年3月、「震災から十年」という文字があちこちで躍った。 “もう”なのか“まだ”なのか、個人の気持ちを慮ることより、未曽有の天災に対して区切りをつけようという世間の思惑が垣間見えた。 本書は、宮城県を中心に東北6県を発行区域とする河北新報社が東日本大震災10年特

2022年3月10日から4月15日まで、日本橋浜町のHAMAHOUSEにてHONZ EXHIBITIONが開催中です。HONZでレビューした選りすぐりのノンフィクション500冊を壁いっぱいに展示し即売するという壮観な企画です。 2011年にHONZが誕生してから10年。昨年7月には10周年記念本を出版しましたが、折しも世の中は新型コロナの蔓延中で、イベントを

何かの入り口にいるような予感。芽吹く感じ。社会が、企業が、個人の生活がどんどん変わっていく。不確実な時代と呼ばれているが、芽吹きを肌で感じながら日々を生きている。 本書『自分で始めた人たち』にも、同じような空気感があった。政治に頼らず、市民が自治体と手を繋いで、地域を変える旅に出る。コロナ騒動の最中、また個人の尊厳が注目されている今、地域がどう動き出している

「アマチュアは勝ちを語り、プロは負けを語る」という。 本書は、捜査のプロが負けについて語ったものだ。負けた記憶は、警察を辞めた今もなお、棘のように刺さったまま著者を苛んでいる。 刑事にとって事件は「解決して当然」のものであり、未解決はすなわち敗北を意味する。著者が捜査一課として深く関与した2つの事件は、いずれも未解決に終わった。その事件とは、警察庁広域重要指

2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにし、世界に激震が走った。そしてその傍ら、エネルギー市場も世界的なショックの渦中にある。 戦時においての戦略物資、石油・天然ガスの重要性に私たちは改めて直面している。第二次世界大戦から80年がたつが、エネルギーを巡る地政学のダイナミズムという本質は、21世紀も変わっていない。 そんな絶妙なタイミングで「ピ

新型コロナウィルスCOVID-19のパンデミックは多くの人たちに災厄をもたらした。どうやら定期的に訪れるこのコロナウィルスのパンデミックに有効な予防方法は伝統的な公衆衛生の手法以外には人類は用意できていなかった。COVID-19に先立って地域的な流行を発生させたSARSコロナウィルスやMARSコロナウィルスは流行が終息したこともあったが、ワクチン開発の試みは

ウィルスの大きさでヒトを見てみたら? こうきたか。これが、養老孟司の視点だ。新型コロナウィルスの顕微鏡写真がテレビ画面に映し出されるのを何度見たことだろう。だが、あの倍率でアナウンサーの顔を映したらどうなるか。ウィルスの倍率でヒトを見ることのズレに着目するのである。 養老孟司という人物への説明は不要であろう。当たり前だと思っている事象に物申す。ミクロとマクロ

もしも、あなただったら、どのように書くだろうか? 児童養護施設で暮らす、その体験を、どうやってことばにするだろうか? 『児童養護施設で暮らすということ』の著者・楢原真也は、200ページにわたる文章で、いっかんして慎重さを失わず、「恥」や「闇」とされかねない部分に踏みこむ。 十数年前に、それまで深く知ることのなかった施設という現場に入ってから、思いもよらないよ

この人をみるたびに、「アンバランス」という言葉が思い浮かぶ。元参議院議員の河井案里である。芸能人や文化人にもアンバランスな人は多いが、そうした人々特有の才能の過剰さからくるバランスのなさと、彼女から感じるそれはニュアンスが異なる。 人目をひく派手な外見ながら、どこか無理をしているような雰囲気があるところがバランスを欠いた印象を与えるのかもしれない。本書を読ん

2020年に世界を襲った新型コロナウイルスは、人間という「コロニー(集団)」に何をもたらしたのだろうか?本書は進化生物学者がアリを対象として、マクロ生物学の観点から生物社会の本質をわかりやすく解説した秀逸な啓発書である。 アリ社会が持つ精妙な組織が、きわめて誠実で地道な観察によって明らかにされる。さらに自然界の正確な観察から炙り出されてくる、人間の持つ思い込

残念ながら一度しかお目にかかったことがないのだけれど、柏木哲夫先生は大阪大学医学部の大先輩である。いうまでもなくホスピスのパイオニアで、母校の人間科学部教授として「老いと死」を教えておられたこともある。その柏木先生が老いについての本を書かれた。 タイトルにあるように、老いは「育む」のがいいのではないかという考えが本全体にいきわたっている。「育む」=「大事に育


それやったら、ここで作ったさば缶を宇宙に飛ばせるんちゃう? 宇宙食、つくれるんちゃう? 小浜水産高校、失礼ながら地方の底辺職業高校だった、の生徒がつぶやいたひと言だ。それが17年間の歳月を経て実現した。こう書いているだけで、本の内容を思い出しながら涙がにじんできてしまう。 主人公は、福井県立小浜水産高校「浜水」-後に高校再編に伴って若狭高校海洋科学科になる-

ノンフィクション好き、とりわけ未開の地に住む部族の物語などが好きな人にとっては、実に役立つ一冊と言えるだろう。人類学的な思考法を獲得することが、ビジネスにおいて有効な知的ツールになりうるというのだ。 著者のジリアン・テットは、かつてフィナンシャル・タイムズの編集長も務めた人物。学生時代に文化人類学を専攻し、タジク人の婚姻儀礼を観察することで磨いたまなざしを、

1945年8月9日、ソ連の対日戦参戦によって満州開拓団の日本人移民は祖国に捨てられた。日本に引き揚げるまでの悲惨な生活は、さまざまな小説や手記によって明らかにされてきた。だが、女性たちの経験を語ることはタブーとされてきた。 著者は中国残留孤児の取材中、ソ連兵が日本人女性を襲うという蛮行の裏に、日本人集団内の支配関係によって強いられた犠牲があったことを知る。開

近所を散歩していて、なんだか最近お洒落な女の子が増えた気がするなぁと思っていたのだが、オープンまもない北欧カフェがお目当てらしいとわかり、なるほどと納得した。 世に北欧好きは多い。シンプルで温かみのあるデザインの家具、女性の社会進出が日本よりも進んでいること、子どもたちの高い学力などが好印象の理由だろうか。SpotifyやIKEA、H&M、LEGOといった企

遠い異国での出来事は、慣れている場所ではないからこそ記憶に残りやすいのだろうか。旅先で、そこに住む人の様々な親切や優しさ、悪意や意地の悪さなどが、子供の頃のような鮮烈な気持ちとともに、強く残った経験は多くの人にあるのではないだろうか。 この本は、そういった異国の地での強烈な経験とともに出会った、「忘れられない人」が書かれた本だ。作者の井口淳子さんは音楽学、民

読み始めてすぐ意外な記述を目にした。イスラム主義組織、タリバンの創設者であるムハンマド・ウマルの演説、それも彼が国際テロ組織、アルカイダを率いたウサマ・ビンラディンに騙され大量殺戮に加担したことを懺悔する演説の録音があるというのだ。さらに意外なのは、ウマルがアフガニスタンの社会を正し平和を求めて立ち上がった人物だった、という評価だ。ウマルは日本では多くのテロ

記者の仕事は過程がそのまま表に出てくるのが魅力的だ。記者が何に問題意識を持ち、どう行動して、どんなメッセージを込めるのか。好きな報道や作品には、記者の怒りや悲しみ、執念さえも感じることが出来る。記者一人ひとりの存在自体が物語性を帯びていて面白い。 では、「地方紙」の記者はどうか。全国紙の記者と地方紙の記者の違いについて、私は本書を読むまで考えたことがなかった

傷跡から血が滲み出ているような一冊だ。 読み終えた後もずっと「凄いものを読んだ」という余韻が消えない。早くも今年のベスト級の一冊に出会ってしまった。本書は当事者ノンフィクションの傑作である。 著者は「修復的司法」の研究者である。修復的司法というのは、1970年代に欧米を中心に広まった紛争解決のアプローチで、従来の刑事司法では、国家が犯罪者を処罰することで問題

アダム・スミスと言えば、「見えざる手」の『国富論』(1776年)で有名な、「近代経済学の父」である。『国富論』は、貿易による貴金属と貨幣の蓄積が国富だと考えられていた当時の重商主義に反対して、国民にとっての富の源泉は労働だと説いた、今日まで読み継がれている古典的名著である。 それにも関わらず、スミスは歴史上最も誤解された経済学者だと言われている。その理由は、

帯には赤字で「驚嘆必至の教養書」「エネルギーがわかると世界がわかる」、これは面白そうだ。しかもAmazon Audibleで聴けるとあって、移動中や家でくつろいでいる時に読みすすめられるのもうれしい。 著者はJX石油開発でオイル事業に長年携わってきた古館恒介さん。帯文にもあるとおり、エネルギーを軸にこれからの世界を理解するための必読の書だ。 正直、日本人でエ

本書は、梅田蔦屋書店で人文コンシェルジュを務める書店員・三砂慶明氏が200冊を超える古今東西の本を縦横無尽に紹介した本だ。「幸福」「生きづらさ」「働き方」「お金」「食」「死」といったテーマについて、まるで本棚の本を開陳するように自らの体験を交えながら血の通った論考を綴っている。 この本を読むと、自分が抱えている悩みは人類史上で必ず誰かが経験している、という事

「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」とは、ドイツの哲学者、テオドール・アドルノの言葉だ。アウシュヴィッツを生んだ文明の野蛮さを乗り越えることなしには、人間の存在も野蛮なままだと彼は考えた。 だが残念ながら21世紀も事態は変わっていない。それどころか「より洗練された野蛮」とでも呼ぶべき事態が出来している。本書は中国の新疆ウイグル自治区で進行中の恐

2019年NHK大河ドラマ『いだてん』に登場する「本庄」という男っぽい女性記者のモデルは本荘幽蘭ではないかと推測される。挿話収集家の平山亜佐子は当時の新聞記事を渉猟し、彼女の一生を克明に辿るスリリングな一冊を著した。 明治12年、幽蘭は元久留米藩士で実業家の本荘一行(かずつら)の二女として誕生した。本名は久代。元芸者の妾と暮らしていた父のもとで幼少期を過ごし

良い仕事をするには、頭をフルに使わなければならない。そのためには合間に効果的な休みを入れる工夫も必要だ。ポカンとして頭の活動を完全に休止するような時間である。仕事をしているのが「オン」とすれば、スイッチを切った「オフ」の状態だ。 人間は動物の中でも特に大きな脳を所有している生き物である。動物だから、頭だけでなく体の動きにも大いに制約される。頭ではオーケーを出

闘病記というものは,どのような人がどのような気持ちで読むのだろう。自分が,あるいは親戚や友人が病気になったときに参考にする,あるいは共感を得たいがためにといったところだろうか。しかし,『ぼくとがんの7年』はよくある闘病記とは少し違う。より幅広い人たちにとって読む価値のある<闘病記>に仕上がっている。 数年前に上梓した『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社,