ノンフィクションはこれを読め!

仲野 徹

1957年、「主婦の店ダイエー」と同じ年に同じ町(大阪市旭区千林)に生まれる。大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ。京都大学医学部講師などを経て、大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/nakano/
ノンフィクション、とりわけ伝記が好き。それが昂じて専門誌に「なかのとおるの生命科学者の伝記を読む」を連載。単行本(学研メディカル秀潤社)として上梓したところ、成毛代表の目にとまりHONZに参加。書籍購入費の抑制、および、仕事と飲酒と読書のバランスとれた鼎立、が永遠の課題。

(2024年当時)

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『老いを育む』ために必要なこと 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

『老いを育む』ために必要なこと

残念ながら一度しかお目にかかったことがないのだけれど、柏木哲夫先生は大阪大学医学部の大先輩である。いうまでもなくホスピスのパイオニアで、母校の人間科学部教授として「老いと死」を教えておられたこともある。その柏木先生が老いについての本を書かれた。 タイトルにあるように、老いは「育む」のがいいのではないかという考えが本全体にいきわたっている。「育む」=「大事に育

感動!夢ってかなうものなんや『さばの缶詰、宇宙へいく』 書影

ビジネス / おすすめ本レビュー

感動!夢ってかなうものなんや『さばの缶詰、宇宙へいく』

それやったら、ここで作ったさば缶を宇宙に飛ばせるんちゃう? 宇宙食、つくれるんちゃう? 小浜水産高校、失礼ながら地方の底辺職業高校だった、の生徒がつぶやいたひと言だ。それが17年間の歳月を経て実現した。こう書いているだけで、本の内容を思い出しながら涙がにじんできてしまう。 主人公は、福井県立小浜水産高校「浜水」-後に高校再編に伴って若狭高校海洋科学科になる-

マッチョ系(?)医師の正しき患者道『ぼくとがんの7年』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

マッチョ系(?)医師の正しき患者道『ぼくとがんの7年』

闘病記というものは,どのような人がどのような気持ちで読むのだろう。自分が,あるいは親戚や友人が病気になったときに参考にする,あるいは共感を得たいがためにといったところだろうか。しかし,『ぼくとがんの7年』はよくある闘病記とは少し違う。より幅広い人たちにとって読む価値のある<闘病記>に仕上がっている。 数年前に上梓した『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社,

あの ”THE わきまえない女” 谷口真由美の大問題作!『おっさんの掟:「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」』 書影

社会 / 新刊超速レビュー

あの ”THE わきまえない女” 谷口真由美の大問題作!『おっさんの掟:「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」』

ヒョウ柄の似合うおばちゃん、 谷口真由美 さんをご存じだろうか。日曜の朝に放映されている「サンデーモーニング」(TBS系)でコメンテーターをしておられるのをご覧になった方もおられるだろう。厳しい意見をバシッと述べられるので、恐ろしい人だと感じている人が多いかもしれない。無理もない。じつは、私もお目にかかる前まではそう思っていた。しかし、その実態はまったく違う

ここまで来ている脳とAIの関係『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』と『生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方』をあわせ読み 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

ここまで来ている脳とAIの関係『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』と『生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方』をあわせ読み

脳科学はおもしろい。なにしろ新しい知見がどんどん発表されるし、それを紹介する本も目白押しだ。今回はそんな中から脳と人工知能について書かれた本を二冊まとめて紹介したい。 一冊は、『新・情報7DAYSニュースキャスター』(TBS系)のコメンテーターとしても活躍する東大薬学部教授・池谷裕二と、その共同研究者である東大附属病院の医師・紺野大地による『脳と人工知能をつ

「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』

バイオベンチャー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチン開発秘録だ。その疾走感が半端ではない。なにしろ、ワクチン開発に取り組むチームを組織した日からヒトに投与するまでわずか88日しか要さなかった。このことからだけでも、その猛烈なスピードが想像できるだろう。 え?ワクチンといえばファイザーとモデルナのmRNAワクチン、それにアストラゼネカとかで、ビオンテッ

トムとジェリーも計測に大活躍!なんも知らんかった『南極の氷に何が起きているか』 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

トムとジェリーも計測に大活躍!なんも知らんかった『南極の氷に何が起きているか』

いうまでもなく、地球温暖化が問題になっている。気候変動、動植物の分布、疾病構造の変化などと並んで、海面上昇も大きく影響をうける現象のひとつだ。「温暖化→氷の融解→海面上昇」という流れはわかりやすい。では、そこに南極の氷がどれくらい寄与するのか?その答を知っている人は多くないだろう。 現時点ではほぼ無視できるが、いずれ大きな影響を及ぼすに違いない、というのが正

役立たずだがおもろい研究!『いきもののカタチ-多彩なデザインを創り出すシンプルな法則』 書影

サイエンス / 生物・自然

役立たずだがおもろい研究!『いきもののカタチ-多彩なデザインを創り出すシンプルな法則』

研究にはいろいろな分け方がある。ひとつは、役に立つか立たないかという分類だ。よく議論になるが、これは落とし所はほぼ決まっていて、現時点では役に立たないかもしれないけれども、将来的に役に立つかもしれないからやるべき、ということになっている。極めて反対しにくい結論であるが、いささかの嘘が入っていると言わざるをえまい。実際にやってきた本人が言うのだから間違いない。

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』は、こわいもの知らずのぶつかり稽古だ! 書影

人物 / 社会

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』は、こわいもの知らずのぶつかり稽古だ!

自民党総裁選のニュースが連日報じられている。前回に比べれば、四人が立候補して政策論戦が交わされているのは望ましいことだ。しかし、報道はいつもどおり、政治内容そのものよりも政局に偏っている。政治は何のためにあるのか。それこそが重要問題であるはずなのに、真っ正面から問われることはあまりない。 ライターの和田靜香が、立憲民主党の衆議院議員である小川淳也にそれを問う

天才的科学者の華麗なる研究『猫が30歳まで生きる日』 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

天才的科学者の華麗なる研究『猫が30歳まで生きる日』

世の中に猫好きが多いのは知っていたけれど、ここまでとは思わなかった。猫の腎臓病の治療薬開発をめざす東大のクラウドファンディングに1カ月で約1億7600万円もの寄付が集まったというのだ。大口の寄付もあるだろうけれど、申し込み件数が約1万3400というのもすごい(朝日新聞より)。 その開発者である東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授が自ら書かれた本である。鍵と

”素人にこんなオモロイ本を書かれたら困るがな” 的な医学エンタメ『人体大全』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

”素人にこんなオモロイ本を書かれたら困るがな” 的な医学エンタメ『人体大全』

医学系書籍の現状と将来について講演する機会に、いくつかの提案をしたことがある。その時、特に重要性を強調したのは、良き書き手の育成である。売れ筋の医学系書籍をしらべてみると「トンデモ本」が並んでいて愕然とする。その理由のひとつは、まともな医学系書籍は面白くない、あるいは、面白く書ける人が少ないということにある。できれば「このようなオモロイ本を書けるような著者を

痩せたいならばこれを読め!『ダイエットをしたら太ります。 最新医学データが示す不都合な真実』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

痩せたいならばこれを読め!『ダイエットをしたら太ります。 最新医学データが示す不都合な真実』

画期的な「ダイエット本」だ。なにしろタイトルがすごい。すべてのダイエット法を敵にまわしている。そして、内容はあまりに正しい。体重を減らすことに興味があるすべての人に読んでほしい。 ほとんのど場合、ダイエットは成功しません。どうしてって、ダイエットには「ダイエットすると太る」という、“不都合な真実”があるからです。 「はじめに」に書かれている文章だ。この本の内

エッセイ集『笑う門には病なし!』、その内容の幅広さ日本一!(と思います) 書影

教養・雑学 / 著者自画自賛

エッセイ集『笑う門には病なし!』、その内容の幅広さ日本一!(と思います)

***************************************** 初エッセイ集の「まえがき」であります。みなさん、よろしくお願いいたします! ***************************************** エッセイ集を出すことになりました。って、「はじめに」を読んでるんやからわかってるわ! と言われそうですが、なにしろそ

『働くことの人類学【活字版】 仕事と自由をめぐる8つの対話』で「働き方改革」を笑い飛ばす 書影

民俗・風俗 / おすすめ本レビュー

『働くことの人類学【活字版】 仕事と自由をめぐる8つの対話』で「働き方改革」を笑い飛ばす

「交通や通信が発達してきたし、世界中で文明化が進んできてるし、文化人類学でやることがなくなるっちゅうことはないんですか」という不躾な質問を、この本の編者である文化人類学者の松村圭一郎さんにぶつけたことがある。答えはもちろんNO。旧来とはちがった視点からの新しいテーマがいくらでもあるということだった。土佐の居酒屋で飲みながらのことだったので、その鋭い(?)質疑

薬物依存症のイメージが根底から覆されたぞ『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

薬物依存症のイメージが根底から覆されたぞ『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』

『誰がために医師はいる クスリとヒトの現代論』(みすず書房)は、アディクション(嗜癖障害)治療を専門とされる松本俊彦医師による本だ。少なくとも私にとってはかなり衝撃的な内容だった。薬物依存に抱いていたイメージが大きく覆された。ほとんどの人も、読めばきっとそうなるだろう。 自伝的な語りを軸に、経験に基づいた考えが綴られていく。自ら進んだ道ではない、「左遷」かと

やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか? 書影

日本史 / おすすめ本レビュー

やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか?

アバウトにしてアナーキー。ざっくりまとめるとこうなるのだろうか。なんだかやたらと凶暴でハードボイルドな室町時代。日本人は律儀で柔和などという言い方は絶対に通用しない。室町時代の後半は戦国時代だったから、というわけではない。武士たちだけでなく、農民や女性、僧侶までもがなんだか殺気立っているのだ。まずは『びわ湖無差別殺傷事件』から。 びわ湖がくびれていちばん細く

愛と知性が奇跡を呼んだ!『悪魔の細菌-超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦い』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

愛と知性が奇跡を呼んだ!『悪魔の細菌-超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦い』

「スーパーバグ superbug」という言葉をご存じだろうか。日本語だと「超多剤耐性菌」とか「スーパー耐性菌」という訳なのでなんとなくわかる。ほとんどの抗生物質に反応しない病原性細菌のことだ。CDCによると、米国では毎年280万人が感染し、うち3万5000人が命を落とすとされている。 カリフォルニア大学サンディエゴ校で教授を務める夫婦、社会生物学・心理学のト

そうだったのか! 新しい知識を得る快感ここにあり『西暦一〇〇〇年 グローバリゼーションの誕生 』 書影

世界史 / おすすめ本レビュー

そうだったのか! 新しい知識を得る快感ここにあり『西暦一〇〇〇年 グローバリゼーションの誕生 』

本を読む楽しみはいくつもあるが、全く知らなかった知識を得るのは最大の醍醐味ではないか。この『西暦1000年 グローバリゼーションの誕生』は、そんな一冊。これまで脳に蓄えてきた常識が一気に覆さえていくような快感を味わうことができる。 一般的にグローバリゼーションといえば、15世紀中頃の大航海時代から始まるとされる。しかし、この本の著者、イェール大学歴史学教授の

ジェンダーを越え、世界に広がる「おすもう」の世界『世界のおすもうさん』 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

ジェンダーを越え、世界に広がる「おすもう」の世界『世界のおすもうさん』

力士というと、いかついイメージがある。でも、おすもうさんというと、なんだかほのぼのした感じがする。タイトルどおり、世界のおすもうさん、いろんな場所でおこなわれるさまざまな相撲についてのイラスト付きルポルタージュだ。 執筆は女性ライターがふたり。ひとりは、音楽や相撲についてのライターである和田静香さんで、相撲道場で稽古をつんだことがあり「マイまわし」まで持って

世紀の奇書?『土葬の村』は貴重な民俗的資料である 書影

民俗・風俗 / おすすめ本レビュー

世紀の奇書?『土葬の村』は貴重な民俗的資料である

埋葬には宗教による違いがある。イスラム経は土葬のみだし、キリスト教でも死者の復活という教えがあるので土葬が望まれる。国、地域別の火葬率は、米国52%、イギリス77%、ドイツ62%、フランス40%、イタリア24%、カナダ71%、ロシア10%、台湾97%、香港93%、韓国84%、タイ80%( 2016年、2017年の資料 )である。日本では、いまやほとんどが火葬

「『考える、書く、伝える 生きぬくための科学的思考法』は、大学生にとってのバイブルだ!」というようになってほしいぞ(著者談) 書影

教養・雑学 / 著者自画自賛

「『考える、書く、伝える 生きぬくための科学的思考法』は、大学生にとってのバイブルだ!」というようになってほしいぞ(著者談)

なんやかんやで25年間も大学教授をやってきました。定年までカウントダウンになって、あらためて、大学って何をするところなのかと考えることがよくあります。ひとことで言うと、学問をする場、でしょうか。あるいは、昨今の大学をとりまく状況を考えると、「そうあるべき場」と言ったほうが正しいかもしれません。 大学の二大ミッションは教育と研究です。ならば、学問=研究+教育か

あらゆるコミュニケーションに応用できる方法論『患者の話は医師にどう聞こえるのか』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

あらゆるコミュニケーションに応用できる方法論『患者の話は医師にどう聞こえるのか』

なるほど、医業というのは難しいものだ。この本を読んで、いちばんの感想はそれだ。「病気を治す」ことと、「患者を治す」ことの間には大きな隔たりがある。その間に横たわる最大のものは、医師と患者のコミュニケーションなのかもしれない。 「医学が技術的に進歩すればするほど、私たちはストーリーのはたす役割の重要性を再認識させられる」医師・患者のコミュニケーション、より正し

科学の真髄ここにあり!?『ヘンな科学”イグノーベル賞” 研究40講』がおもろすぎるぞ。 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

科学の真髄ここにあり!?『ヘンな科学”イグノーベル賞” 研究40講』がおもろすぎるぞ。

あと1年少しで定年を迎える。その後は、『こぐこぐ自転車』以来、勝手に師匠と仰いでいる英文学者・伊藤礼先生の『ダダダダ菜園記 明るい都市農業』を片手にちっさい畑での農業にいそしもうと思っている。あこがれの、晴耕雨読、ときどき物書き生活。 もうひとつ、秘かにイグ・ノーベル賞を狙った研究をおこなうつもりだ。もうネタは決まっている。どう測定するかがちょっと難しいのだ

こんなに違う、日米医学事情『医療現場は地獄の戦場だった』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

こんなに違う、日米医学事情『医療現場は地獄の戦場だった』

本の紹介は1回だけと決めているのだが、今回の『医療現場は地獄の戦場だった!』は例外的に 読売新聞 に次いで2回目。ハーバード・メディカルスクール第2の教育病院、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の救急治療室、ERに勤務する大内啓医師の本である。 前半は新型コロナウイルス禍におけるERでの出来事の紹介で、信じられないほど凄まじい。文字どおり息をのむような緊迫感だ

ギネスに届け!爆笑『明石家さんまヒストリー1、1955~1981 「明石家さんま」の誕生 』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

ギネスに届け!爆笑『明石家さんまヒストリー1、1955~1981 「明石家さんま」の誕生 』

かつて『 ヤングおー!おー! 』というテレビ番組があった。大阪の毎日放送が1969年から10年あまりにわたって制作した公開バラエティーで、視聴率が30%を越えたこともある驚異的な番組だった。日曜夕方6時からの1時間番組で、最盛期には、大阪の中高生は全員が見ていたのではないかと思えるほどの人気だった。 スタート時は笑福亭仁鶴と桂三枝(現在の文枝)が司会を務め、

しなやかに死を語る軽やかな対談 『いつか来る死』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

しなやかに死を語る軽やかな対談 『いつか来る死』

『死を生きた人びと─訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)、2年ほど前に本屋さんで購入した。著者の名前、小堀鷗一郎を見ると、わたしと同じく、ひょっとしたらと思われるかもしれない。ご明察、森鷗外の次女、小堀杏奴のご子息である。 食道がんを専門とする外科医であったが、定年後は在宅患者の訪問診療にたずさわっておられる。そして、サブタイトルにあるように355人の

誰もが当事者として考えるべきであるという問題提議 『ルポ 「命の選別」誰が弱者を切り捨てるのか?』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

誰もが当事者として考えるべきであるという問題提議 『ルポ 「命の選別」誰が弱者を切り捨てるのか?』

命の選別。重く響く言葉である。そして、その現実は暗くて深い。『ルポ「命の選別」 誰が弱者を切り捨てるのか?』では、「優生社会」のさまざまな問題点が明らかにされていく。 優生思想など過去の遺物と思われるかもしれないが、それは間違えている。国家が強制したトップダウンの優生学ではなく、リベラル優生学とも呼ばれる、個人が望むボトムアップの新しい優生学が横行し始めてい

最強&最恐のアートディレクターは時代を超える『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

最強&最恐のアートディレクターは時代を超える『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』

石岡瑛子 、どれくらいの知名度なのだろう。不覚にもまったく知らなかった。あるところで、この本のことが話題になった。誰です、それ?と尋ねたら、あんな有名なデザイナーを知らないのですか、作品は絶対に見覚えがあるはずです。いま展覧会をやってますから行ってみられたらどうですかと教えられた。 東京出張の折りに、 その展覧会 『血が、汗が、涙がデザインできるか』を東京都

『おばんでございます』サクラギシノを知っていますか? 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

『おばんでございます』サクラギシノを知っていますか?

サクラギシノを知っていますか? もちろんラブドール(旧名ダッチワイフ)の桜樹志乃ではなくて、今その受賞作、ラブホテルを舞台に繰り広げられる『ホテルローヤル』が上映中である直木賞作家の桜木紫乃の方。前者はともかくとして、後者をご存じの人は結構おられるだろう。 NHKの『 あさイチ 』に出演された10月23日、ツイッターのトレンディーワードに「桜木紫乃」が大躍進

あなたにはどんな色に見えていますか?『「色のふしぎ」と不思議な社会 ―2020年代の「色覚」原論 』 書影

生物・自然 / おすすめ本レビュー

あなたにはどんな色に見えていますか?『「色のふしぎ」と不思議な社会 ―2020年代の「色覚」原論 』

色覚異常の本、いや、この本の内容に即していうと「いわゆる色覚異常」の本と言うべきか。かつて色弱あるいは色盲と呼ばれたものについての本である。著者の川端裕人さんと同じく、私も「色覚異常」である。 最初に指摘されたのは小学校3年生か4年生の時。やたらと落ち着きがなく、怒られるために学校へ通うような毎日。そんな子だったので、色覚異常検査表の数字を「読めません」と答

天才・小田嶋ここにあり! 『災間の唄』と『日本語を、取り戻す。』 書影

社会 / おすすめ本レビュー

天才・小田嶋ここにあり! 『災間の唄』と『日本語を、取り戻す。』

読売新聞の読書委員を務めるようになってから、これまで以上にたくさんの本が送られてくるようになった。読みたかった本が送られてきたらすごく嬉しい。『炎間の唄』もお送りいただいた本だ。読みたかったし面白そう、だけれど読みきらないだろうと思った。 小田島隆( @tako_ashi )さんの過去10年間のツイートから、武田砂鉄さんが選んで一年ごとに簡単な解説がつけてあ

偉大な父の子、鷗外の三男坊『類』の物語 書影

人物 / おすすめ本レビュー

偉大な父の子、鷗外の三男坊『類』の物語

鷗外、森林太郎は5人の子をなし、上から順に、於菟(おと)、茉莉(まり)、不律(ふりつ)、杏奴(あんぬ)、類(るい)とそれぞれに欧風の名前をつけた。タイトルの『 類 』はLouis、鷗外の三男坊をモデルにした小説だ。 於菟は先妻の子であり、不律は夭逝(ようせい)しているので、類は3人姉弟の末っ子のように育てられた。大文豪であり陸軍軍医総監まで登り詰めた鷗外の子

ウンコするならこれを読め!『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか ―人糞地理学ことはじめ』 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

ウンコするならこれを読め!『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか ―人糞地理学ことはじめ』

いきなりだが、問題です。さて、あなたは「ウンコ」という言葉を聞いて、どんな言葉をイメージされるだろうか。「汚い」あるいは「臭い」だろうか?「嫌い」という人はいても「好き」という人はおられないかもしれない。しかし、この本を読めば、「好き」とまではいかなくとも、「偉い」、いや、「偉かった」くらいにまでイメージアップするはずだ。 まずは第一章「ウンコとはなにか?」

『闇の脳科学「完全な人間」をつくる』 その先駆者の栄光と悲劇、そして「脳操作」の現在と未来 書影

医学・心理学 / 人物

『闇の脳科学「完全な人間」をつくる』 その先駆者の栄光と悲劇、そして「脳操作」の現在と未来

同性愛の「治療」を受ける男。娼婦を相手に性的興奮を得ることができれば成功だ。男の頭には電極が差し込まれており、後頭部から4本のコードが隣の部屋まで延びている。その部屋では、研究者たちが電極から送られてくる計測値を見ながら、男の快楽中枢に適切な電気刺激を与える。 まるでSFだ。しかし、未来の話としてはおかしいと思われないだろうか。現在の状況を考えると、LGBT

我々は操られているのかもしれない『マインドハッキング:あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

我々は操られているのかもしれない『マインドハッキング:あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』

ソ連が西側のエージェントを使って米国の政治動向をコントロールする。冷戦時代にそんな小説が書かれていたら、とんでもなく陳腐なストーリーと思われたことただろう。しかし、現在は違う。ロシアがケンブリッジ・アナリティカ(CA)という会社を使って、トランプの大統領選に大きな影響を与えたのである。 そんなもの陰謀論のたぐいではないかという人にこそこの本を読んでほしい。ぶ

"不可能" を追い求めた科学者の冒険 『「第二の不可能」を追え! ― 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ』 書影

サイエンス / 人物

"不可能" を追い求めた科学者の冒険 『「第二の不可能」を追え! ― 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ』

ラジオ体操じゃあるまいし、不可能に第一とか第二とかあるのか。『「第二の不可能」を追え!』というタイトルを見たら誰しもがそう思うだろう。その違いは冒頭で説明される。第一の不可能とは、けっして1+1が3にならないように、絶対的な不可能のこと。未来永劫、可能になることがありえない不可能である。 それに対して、「第二の不可能」とは、必ずしも正しいとはいえない前提に基

誰でもわかる『みんなに話したくなる感染症のはなし』、みんな読んでね! <自著の前書きです 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

誰でもわかる『みんなに話したくなる感染症のはなし』、みんな読んでね! <自著の前書きです

こんにちは、仲野徹です。大阪大学医学部で病理学を教えています。病理学といってもなじみがないかもしれませんが、病気の理すなわち、どんなメカニズムで病気になるかを研究する学問です。 若い人って、あまり病気に興味がないように思います。この本を手に取ってくれた人はそんなことないはずですが、考えてみればあたりまえかもしれません。もちろん子どもにも病気はありますが、おお

『幻のオリンピック:戦争とアスリートの知られざる闘い』を読んで、スポーツと平和について考える 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

『幻のオリンピック:戦争とアスリートの知られざる闘い』を読んで、スポーツと平和について考える

1940年、皇紀2600年を記念して東京でオリンピックが開催されるはずだった。しかし、日本政府が開催を断念、中止された。それを巡って作成されたNHKスペシャル『戦争と“幻のオリンピック” アスリート 知られざる闘い』を元にした五章の物語がこの本である。 その内容は大きく三つ、戦没オリンピアン、幻の東京オリンピック、そして、1964年東京オリンピックの閉会式だ

なんたるガッツ!『明治を生きた男装の女医』がスゴすぎる 書影

医学・心理学 / 人物

なんたるガッツ!『明治を生きた男装の女医』がスゴすぎる

高橋瑞(たかはし みず)、嘉永5年(1852年)生まれ。その名を知っている人はどれくらいいるだろう。日本で三番目に医師国家資格を取得した女性である。『明治を生きた男装の女医』は、その人生を丹念に綴った伝記小説だ。 24歳にして家出、旅芸人の賄い、女中、短く不幸な結婚の後、産婆に弟子入りする。28歳の時、跡継ぎになれと誘われるが、女医になりたいと固辞する。しか