
『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』誰の心の中にも、フロンティアがある
2023年3月、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地としてエスコンフィールド北海道が開業したことは多くの人に知られているところだろう。 本拠地が借家であることの限界を感じていた日本ハムファイターズは、数年前に札幌ドームを出ることを決め、札幌市と北広島市の誘致合戦が繰り広げられた結果、北広島市に新しいスタジアムを建設することが決定した。本書はその開業に
HONZ編集長
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2023年3月、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地としてエスコンフィールド北海道が開業したことは多くの人に知られているところだろう。 本拠地が借家であることの限界を感じていた日本ハムファイターズは、数年前に札幌ドームを出ることを決め、札幌市と北広島市の誘致合戦が繰り広げられた結果、北広島市に新しいスタジアムを建設することが決定した。本書はその開業に

HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊、今年で12回目を迎えるところとなりました。メンバーそれぞれが好きな本を、好きなタイミングで送ってくるので、毎回順番をどうしようかと頭を悩ませます…。今年は12回目を記念し(?)、基本に立ち返って名字を五十音順に並べてみました。 最大勢力となったのはア行とナ行。ア行が「うんこ→肉→防災アプリ→なめらかな社会→銀河文字」と美

カーストといえば、多くの方がインドを想起するかもしれないが、本書はアメリカの話である。カーストこそがアメリカ社会のヒエラルキー構造であり、社会秩序を維持するための手引きであり、対立の基盤でもあると著者は説く。 著者はアフリカ系アメリカ人の女性。ヒエラルキーに抗うことにより獲得した自由な視点で、自由の国アメリカの水面下に広がる、不自由や差別の構造を鬼気迫る筆致

世界はどんどん良くなっている。世界の人口のうち、極度の貧困状態にある人の割合は、過去20年で半分になった。そして自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年で半分以下にもなった。 一方で、世界はどんどん悪くなっている。政治の分極化、止まらない環境破壊、野放しのデマゴーグ、混迷きわめるウクライナ情勢、終わりの見えないコロナ禍。 一体どちらが、本当の姿なのだろう

YouTubeやNetflixで映画やドラマを1.5倍速で視聴するユーザーが急増しているという。それもそのはず、今やYouTubeにもNetflixにも倍速視聴機能や10秒スキップ機能が標準搭載されている時代だ。 しかし倍速視聴という行為だけを見れば表面化している些細な現象に過ぎないが、プラットフォーマー、コンテンツの作り手、社会、そしてユーザーを取り巻く様

ノンフィクション好き、とりわけ未開の地に住む部族の物語などが好きな人にとっては、実に役立つ一冊と言えるだろう。人類学的な思考法を獲得することが、ビジネスにおいて有効な知的ツールになりうるというのだ。 著者のジリアン・テットは、かつてフィナンシャル・タイムズの編集長も務めた人物。学生時代に文化人類学を専攻し、タジク人の婚姻儀礼を観察することで磨いたまなざしを、

「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか」という言葉がある。暗い場所から明るい場所はハッキリ見えるが、明るい場所から暗い場所は見えないだろうという意味だ。この言葉は、歴史の捉え方という観点から見ても、非常に示唆に富む。 中国古代史、中でも秦や漢の時代について語るとき、真っ先に脳裡に浮かぶのは、始皇帝、項羽と劉邦、三国志の武将など、その時代の太陽ともいえる人たち

HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊、今年で11回目を迎えるところとなりました。「この記事を読まないと、年を越せない!」といった声はまったく聞こえてきませんが、今年も勝手に開催させていただきます。 さすがにこれだけ長くやっていると、原稿を作成する際にメンバーのフルネームを何も見なくても正確に打てるようになっており、我ながらビックリしております。 ちなみにこの


本は速く読めるにこしたことはないと思っている。だが久しぶりに、1日1章のペースでじっくりと味わいたい1冊が現れた。人体のあらゆるパーツをさまざまな角度から語り尽くし、徹底的に不思議を思議する。一見、当たり前のことほど驚きは深く、身近なものほど奥が深い。こういう感覚を何日にもわたって感じることができるのは、まさに至福だ。 著者はビル・ブライソン。これまで数々の

ネコ好きの人はもちろん、そうでない人にとっても朗報だ。ネコを飼った経験のある方はご存じかもしれないが、ほとんどのネコは老齢になると腎臓病にかかり、その多くは長く苦しんだ末に死んでしまう。しかし今、この腎臓病を治すための研究が進んでいるという。 もしこれが実現すれば、ネコの寿命は現在の2倍、30歳程度まで延びる可能性がある。それだけでなく、ネコを対象としたこの

著者が今、最も旬な書き手であることを確信させられる一冊だ。世界を覆う社会的なテーマを生活者として語り、解決のヒントを暮らしの中に見出す。そのスタンスや主張は数年前からさほど変わらないはずだが、時代が追いついてきた印象もある。 ブレイディみかこ氏が本作で選んだテーマは「エンパシー」。これは他者の感情や経験などを理解する「能力」を指す。エンパシーは「意識的に他者

余計なお世話かもしれないが、本書を読み終えて、あることが心配になった。このままではSFというジャンルが消滅してしまうのではないか、ということだ。 かつてはSF映画の脚本めいたことを思い付いたとしても、それをフィクションとして記述するに留まったはずだ。しかし今や、あらゆることが現実に実装できる世の中になりつつある。どんな突飛なアイデアも、実装されてしまえば、ノ

HONZは今年の7月で、10周年を迎えます。 この10年でどれだけのレビュー記事を書いてきたのか、そしてどれだけの人が本を手にとってくれたのか、もはや我々にもよく分かりません。 その膨大なノンフィクション書籍の中から、よりすぐりの100冊をレビューとともに紹介する『決定版 HONZが選んだノンフィクション』が発売されることになりました。 HONZ10年間の集

未来は予測不能だ。そんなことは誰でもわかっているし、今ほどこの言葉が実感を伴うときもないだろう。しかし、である。世の中の仕組みの多くは「予測可能」を前提に成り立っているのが実態だ。 例えばルール。過去の経験に基づき作られたルールは、状況が予測不能に変化すると、まったく役に立たなくなる。それどころか、ルールの持つ硬直性が、新たな状況への適応を阻む結果にもつなが

本書を数ページめくっただけで、2つの驚きがあった。1つは、火葬が当たり前とされる今日でも、まだ土葬というスタイルが残っていたこと、2つ目は、その土葬がここ数年急激に減少しており、今まさに消えようとしていることだ。 意外なことに、国の定める墓地埋葬法では、土葬が禁じられているわけではない。しかし、ここ半世紀ほどの間に、全国で火葬場が整備され火葬が一気に広まった

テーマがテーマだけに、気分が落ち込んでいるときに読むべき本ではないだろう。しかし、気持ちが落ち着いているときに、自殺というテーマに関する知識を得ておくことは、いつの日かあなた自身やあなたの周りの大切な人を救うことになるかもしれない。そんなワクチンのような役割を果たす一冊である。 著者のジェシー・べリングは、前作『性倒錯者』と同様に、自分自身の実体験をカミング

現在、全世界で約5000万人の患者とその家族が苦しんでいるアルツハイマー病は、完全に治す方法がないことで知られている。高齢化が進む日本で、今後アルツハイマー病による認知症がさまざまな課題を発生させていくことは想像に難くない。 しかしこの病に関する研究が進み、現在では治療への大きな希望が見えてきているのだという。本書はそんなアルツハイマーという病の征服に挑んだ

HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊。コロナ一色だった2020年も、このコーナーがやってまいりました。 2011年から始まったこのコーナーも、なんと今年で10回目。歴代のラインナップは こちらから見られる のですが、「 2011年はメンバー12人しかいなかったのかよ 」とか「 やっぱり2017年の塩田春香を野グソで挟んだ年が神回だな 」とか、色々と感慨深いも

リベラル・アーツは、「教養」と訳されることが多い。しかしその語源は古代ギリシャにまでさかのぼり、「奴隷ではない自由人として生きるための技術」の意味を持つという。そんな大げさなと思われるかもしれないが、本書からはその意味を十分に感じとることができる。 モルモン教原理主義のサバイバリストである反政府的な両親の下、学校や病院とは無縁の環境で育った少女が、やがて大学

今年も1年を振り返る時期がやってきた。多くの人にとって、新型コロナウイルスにまつわる出来事が記憶に刻まれた年だったことは疑う余地もない。しかし、「コロナ」はそれだけじゃないとばかりに登場したのが、本書『コロナマニア』だ。 もちろん「コロナ」に関する本ではあるが、ウイルスについての本ではない。本書には、「コロナ」を名前に含む国内外のお店や企業がズラリと並ぶ。事

読書には、大きく分けると外在的読書と内在的読書の2種類が存在すると言われている。外在的読書とは読書の目的が本の外部にあって、本は手段の一つというケースを指す。一方、内在的読書は本を読むこと自体が目的化しているケースだ。これをたとえは悪いが、私は薬とヤクブツのような関係と解釈している。 一般的に「本好き」と言われる人は、内在的読書を実践しているケースが多いと思

遺伝子という単語は、個人の傑出した才能について語るときに使われることが多い。社会や個人を語る際にこの単語を使用することはセンシティブな問題をはらむが、「○○の遺伝子」という言い方には、努力では容易に到達できない才能に対する憧憬の気持ちが込められているのがつねだ。 しかし、遺伝子を単に才能や特徴など個人レベルの違いの源泉とするのは、一面的な捉え方でしかないと本
出版社の皆さまへ 昨今のコロナ禍の状況から、献本の受け取りをしばらく停止させていただいておりましたが、10月より事務局の体制を再構築することとなり、献本の受け取りも再開させていただくことになりました。 献本をお送りいただく際には、以下の住所へお送りいただければ幸いです。 ◆送付先 〒103-0007 東京都中央区日本橋浜町3-10−6 Hama House

米国の大物映画プロデューサーによる女優や自社従業員への数々の性的虐待が明るみに出た、ハーヴェイ・ワインスタイン事件。その衝撃から#MeToo運動に火がつき、世界中へ拡大していったことは記憶に新しい。 まさにダムが決壊するような事態となったわけだが、起点はニューヨーク・タイムズの調査報道による約3300語の記事であった。 ひと口に調査報道というが、調査すること
今や巨人となったスタートアップ企業の成功譚ではあるのだが、不思議な読後感をもたらす一冊だ。世間知らずの大学生によるウェブサービスが世界中へ広がっていく爽快感もなければ、急成長に浮かれて失敗するお茶目さもない。例えるなら、人気ファンタジードラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の重厚なタイトルBGMが延々流れているような世界観。その通奏低音の中に、人を物語へ強く引き

スーパーパワーの1つであり、世界でも存在感を増していく中国。しかしこの国の輪郭をつかむことは難しい。中国国家が語る中国と、中国人が語る中国との間には、同じ国とは思えないくらいの大きな差異が存在するはずだ。 しかしその差異をあぶり出すには、さらなる困難が伴う。ほかの国であればインターネット上の声を拾っていけば容易なはずだが、そこにはグレートファイアウォールと呼

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせである──よく耳にする言葉である。しかし、組み合わせの新しさにも程があるだろう。本書は新約聖書の物語を、なぜか広島ヤクザ風に語り直して紹介し、それらを題材とした美術作品の読み解き方を教えてくれる一冊なのだ。 かの有名な「最後の晩餐」のシーン。イエスは周囲の面々にこう告げる。「言うとくがの。この中にわしのことを密告(チン

競技ダンスの世界にまったく興味はなかったが、それでも本書を読んでみようと思ったのは、この著者の作品であったことが大きい。 著者の二宮敦人氏は『最後の秘境 東京藝大』や『世にも美しき数学者たちの日常』など、身近にある知られざる世界を紹介することに長けた作家である。 本作は著者の自伝的ドキュメントノベルという形式をとっているが、これはプライバシーへの配慮によるも

発売直後から、私のSNSのタイムラインには「あの名作がついに」「まさかのコミック化」と、賛辞のコメントが相次いだ。独ソ戦という、日本ではあまり知られることのなかった出来事が、なぜこんなに多くの人の心を動かすのか? 思わず手に取らずにはいられなかった一冊だ。 原作は、2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー作である。独ソ

ヒトはどこから来たのか? そしてどこへ行くのか? その答えを求めることは、人類にとって普遍的なテーマといえる。確かにわれわれは過去の歴史の中に答えを求め、そして行く末を夢想してきた。それは、時間感覚の中にこそ、われわれのアイデンティティーがあると固く信じてきたからだ。 しかし、この時間感覚というものは、時代によって移り変わるものである。室町時代のような中世に

HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊。令和元年となった2019年もこのコーナーがやってまいりました。 今年はHONZが始まって以来一番の、ノンフィクションの当たり年であったと言えるのではないでしょうか。こんなにも次から次へと面白そうな本が出ては読みきれません。そしてどこまでも自由なHONZメンバーたち。今年は初の試みとして、原稿の催促を一切しないでみましたが

動物とセックスをする人たち──そう聞けば、多くの人は激しい嫌悪感を覚えるだろう。しかし読み進めるにつれ、感情は目まぐるしく移り変わっていく。驚愕、好奇、悲哀、困惑、感嘆……。 本書は、ズーと呼ばれる動物性愛者たちの実像に迫った一冊だ。著者は、かつてパートナーからDV(ドメスティックバイオレンス)を受けていた過去を持つ人物。自らの身に降りかかった経験からセクシ

著者のウォルター・アイザックソンは評伝の名手だ。これまでにもアインシュタイン、スティーブ・ジョブズ、レオナルド・ダ・ヴィンチといった歴史に名を残す天才たちの生涯を、独自の視点から描き出してきた。 しかし本書は、これまでの彼の作品とは一味違う。何といっても登場人物が220人を超えるというスケール感だ。チューリング、ENIACでのプログラミングを扱った6人の理系

ここ最近の10年間で新聞の部数は約1000万部減り、売上は5645億円減少したという。これは新聞社一社が、まるまるなくなるほどのスケール感を持つ数字だ。 これほどまでに、急速に市場がシュリンクすることのインパクトは大きい。多くの場合、このようなケースにおいていは、古参同士が潰しあいをしながら新規参入組も迎え撃つという挟み撃ちの状況が強いられるのだ。プレーヤー

山口連続殺人事件は、2013年に山口県周南市の小さな集落で起きた凄惨な事件である。住民わずか8世帯12人、半数以上が65歳以上という限界集落で、ある日突然5人の連続殺人と放火が起きた。 事件からほどなく犯人として名が挙がり、現場付近の林道で捕まった保見光成もまた、集落の住民の1人であった。 後にこの事件が大きな話題になっていった背景には、この村をめぐりさまざ

かつてノーベル賞物理学者のリチャード・ファインマンはこう言った。「自分で作れないものを、私は理解していない」。 このようなDIY精神こそが、世の中のイノベーションを加速させてきたことは言うまでもないだろう。情報科学しかり、ゲノム科学しかり。しかしこの潮流が、宇宙科学の領域にまで及んでいるとは知らなかった。 実験室で宇宙を作る。そんなことが、理論的には実現可能

どんなに有名な大企業であっても、始まりはちっぽけなスタートアップにすぎない。今や世界中の人に知られる存在となったNETFLIXであっても、それは同様だった。 本書は世界を熱狂させる数々のエンターテインメント作品を手がけてきた同社における、創業当時の物語である。まだストリーミング配信というものが主流ではなく、宅配DVDレンタル業を営んでいた時代が舞台だ。 彼ら

生命とは何か? こう問われたら、多くの人は生物学というフレームワークを用いて解を導こうとするだろう。しかし、本書のアプローチは一味違う。徹底的に物理学からアプローチして、この問いに挑もうとするのだ。 著者は2018年に米国版ノーベル賞と言われるベンジャミン・フランクリン・メダルを受賞した科学者。これだけ聞けば、本書には難解な数式が多く出てくると思うかもしれな

「虚実皮膜」とは、芸術は虚構と事実との、皮と膜とのようなほんのわずかな間にあるという意味で、近松門左衛門が語ったとされる言葉だ。しかし、実際にそうかは時と場合によるだろう。本書で扱われる「ロックフェラー失踪事件」について知れば、「虚実の皮膜」にあるのは悲劇でしかないということを痛感する。 事件は1961年のオランダ領ニューギニアで起きた。ロックフェラー家の一