
『創造性はどこからやってくるかーー天然表現の世界』創造とは外部を召喚すること
ワクチンを開発した科学者パスツールは「Chance favors the prepared mind.(幸運は用意された心のみに宿る)」という言葉を残している。準備する心によって偶然に気づくことができるのだということだろう。心構えはとしては納得できる、と同時に疑問が湧いてくる。チャンスそのものを増やしたり、再現性を高めることはは可能なのだろうか。 本書の射程
(2024年当時)
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ワクチンを開発した科学者パスツールは「Chance favors the prepared mind.(幸運は用意された心のみに宿る)」という言葉を残している。準備する心によって偶然に気づくことができるのだということだろう。心構えはとしては納得できる、と同時に疑問が湧いてくる。チャンスそのものを増やしたり、再現性を高めることはは可能なのだろうか。 本書の射程

スラッジ(SLUDGE)、直訳すると、泥、ぬかるみである。 煩雑な申請、長い待ち時間、何を書けばいいのかよくわからない書類など、摩擦が大きい故に、合理的に行動を阻むものである。ナッジを世間に広げた法学者が本書の著者である。スラッジとナッジは兄弟のような関係なので、まずはナッジの短い歴史をおさらいしよう。 1999年、アムステルダムのスキポール空港は経費削減を

メタ認知、最近よく聞くようになった言葉だ。辞書をめくると、「自分の行動・考え方・性格などを別の立場から見て認識する活動」と書いてあるが、うーん、わかるようでわからない。 サブタイトルの頭がよくなることとどんな関係があるのだろうか。著者はメタ認知の専門家であり、中学生入学段階からメタ認知を意識し始めたらしい。きっかけは、英語学習を通じて、頭の使い方を意識するよ

雪の上を遊ぶおもちゃの板を、一つのスポーツ、一つのビジネス、一つのカルチャーに育てあげたアメリカ人の自伝である。泥臭く地べたを這いつくばりながら0から1を作り上げたThis is Americaとも言えるストーリーである。その男の名は、ジェイク・バートン、スノーボードのメーカーとしてもっとも有名で巨大なブランドを立ち上げた男である。 はじめに断っておくが、評

反体制はカネになる。ん、どういうことだ?、違和感があると同時に居心地が悪い。だって、反体制の人たちはおカネよりも大切なもの、例えば、自然とか文化とか、コミュニティとか、スタイルとか色々とあるから。儲かることや経済とは一線を画して、独自路線を進んでいるのであって、おカネや儲かるという言葉とは縁遠いはずだ。 だけど、読み終えると、そんなやわな考えは吹き飛んでしま

差別はつねに、差別によって不利益をこうむる側の話である。差別のおかげで知らぬうちにメリットを得る側の人が、自ら立ち上がって差別を語ることはしない。ただ、よーく考えれば、差別される側になる可能性があるのであれば、差別する側になることだってあるはずということに気がつける。 「もうすっかり日本人ですね」 「希望を持ってください」 この2つの声がけは一見褒めていたり

コロナ禍が契機となり、自宅からでも学ぶことができるオンライン動画学習やコーチングサービスが活況に沸いている。学びたいけれど、時間がない、高額で払えない、仲間がいない、という悩みが解消され、学び直す人が増えているようだ。 新しい知識や技術を手に入れ満足はしたし、アウトプットや小さな実践・副業もした。だけれど、仕事が忙しくなって、元の木阿弥になってしまった。もし

北極圏は氷と雪と岩ばかりの地表である。季節ごとに雪が積もり、氷が溶け、景色は移ろいでいく。イヌイットはその中から場所を特定する手がかりを見つけ、獲物を探し、そして迷うことなく家に戻る。アボリジナルがオーストラリア大陸の広大な砂漠を横断するために実践するナビゲーションの技は、祖先たちの足跡を刻む曲がりくねった道を参照にすることだ。太平洋諸島のカヌー乗りたちは天

100万部を突破したハンス・ロスリング『ファクトフルネス』、ビル・ゲイツがここ10年で読んだ最高の一冊と評したスティーブン・ピンカー『暴力の人類史』、暗い時代に明るい未来を想像させてくれるマット・リドレーの『繁栄』、いずれも世界は良い方向に進んでいることを明らかにし、読者に希望を与える書籍である。また、ビル・ゲイツは自身でも「世界は良い方向に向かっている」と

読み始めて、すぐに気がついたことがある。これは、医療の本であると見せかけて、知識に大きな差がある人間関係におけるコミュニケーションの本である、ということだ。中高生に関わる仕事をしているためか、私自身は患者を生徒に、医師を先生に変換して読んだ。親と子、上司と部下、行政と市民など、他の形で変換することもできるだろう。このような関係性を振り返り、新しい関係性を構築

レーニン、トロツキー、ピカソ、マネ、ヘミングウェイ、サルトル、藤田嗣治、ボーヴォワール、後に天才と呼ばれる彼らが、まだ何者でもないころ、通いつめ議論した場所がある。パリのカフェ、モンパルナス界隈のドゥ・マゴやロトンド、モンマルトル界隈のラパン・アジルやラ・ヌーベル・アテヌなどである。 常連となった天才以前の彼らは、自分の仕事スペースを確保するために朝一番でカ

贈与論の本につい手が伸びてしまう。それは贈与が既存の経済の仕組みの辺縁にあり、もしかしたら新しい社会の仕組みを構想できる可能性を感じること、オルタナティブさに魅力を感じてしまうからだ。しかし、本書はその淡い期待に答える贈与を褒め称え、可能性を肥大化させる本ではない。むしろ、冷や水を浴びせ、冷静に贈与について考えるための構造を提示する。 贈与でよく語られるのは

タイトルが結論である。装丁は黒を背景に白文字、力強いフォント、白と黒を反転させた帯。脱線のない文章で、余計な虚飾もなく、淡々と展開される。表題の結論の骨格に、4人の経営者の物語で肉付けしていく。安藤百福、小倉昌男、本田宗一郎、西山彌太郎、それぞれチキンラーメン、宅急便、二輪車、銑鋼一貫の製鉄所を作り上げた名経営者である。 直感で発想し、論理で検証し、哲学で跳

人類学者が各々のフィールドで獲得した情報を綴った本は不思議と驚きの源泉である。世界にはまだまだ知らないことがあることに喜びを感じることができ、人類が辿ってきた進化の道筋への想像力を豊かにする。暗黙の前提を明るみにし、常識だと信じていた基礎をぐらつかせる。 人類学者がいなければ、聞かれることもなく、知られることもなかったフィールドの人々の知恵を集めてきた。フィ

2015年には全世界でのべ12億人が外国旅行をしたが、これは1950年の48倍に相当する数である。過去に3度の経済危機で海外旅行者は減ったことはあったが、今回のコロナ禍は、歴史に残る減少幅になるだろう。 多くの旅好きと同じように、このゴールデンウィークは旅行をする予定だった。柄でもなく、半年前もからどこに行こうか、思い巡らせていた。が、もちろん、すべて中止で

物心がつく頃になると、彼が世界のあちらこちらに散在する家族と電話で話すときに口にする様々な言語の響きを聴きながら、「一体この人にはどんな世界が見えているのだろう」と不思議に感じた 著者は、遺伝学上はアジア諸国の混血でありながら、東京でフランス国籍者として生まれた出自を持つ。さらに、子ども時代の言語獲得、濁音との共生、高校時代はパリでフランス語を、大学在学中は

そもそも、編集部からの無茶振りをよくも引き受けたものだ。100年前に『日本及日本人』という雑誌の臨時増刊号で前例があったといえども、100年後に思いを巡らせることなど、あまりに無謀だ。 100年後なら生きていないから、当たってもハズレても生きていないから結果は問われないと開き直るのは、上野千鶴子だ。そのまま現政権の批判に流れ込んでいく結論あは、読者の期待に答

イノベーションは、意味のあいまいなままに、いかにも新しい内容を伝えているかのように思わせる言葉として、多用されています。日本企業の「有価証券報告書」を調べると、1,100社以上がイノベーションという言葉を用いています。この10年で4倍以上(2006〜2007年では、262社)に増え、短期間で浸透しています。 時事用語辞典では、プラスティック・ワード(人工的で

本書のタイトルから、まずわかることは、子どもが思い通りに育ってくれたらいいなという期待、思い通りに育てたいという欲望があるということだろう。それは、なぜだろうか? 急がば回れ、その背景にある社会動向の変化を見てみよう。昨今、親になった世代は充実した教育を受けてはいるものの、子どもの世話をした経験はほとんどないという状況だ。家族構成の変化、要するに核家族化が進

「不確実な状況で、意思決定するのが経営者の仕事だ」と言われるが、実際にそれを実践することは非常に難しい。確実に答えがわかっていれば、意思決定は必要でない。また、ロジカルに考えて、生み出された確実性の高い施策は、おおよそ先駆者がおり、競争が激しく、莫大な利益を生む可能性は低い。 いっぽう、現場の社員は、現状を打破しようと、不確実性は高いが、おもしろそうなアイデ

分かれ道に立ったとき、右か左かどちらに行こうか、立ち止まって考え、そして、悩む。最終的にはどちらかに決めて、歩を進め、また、次の分岐点にぶち当たる。人生とはそんな分かれ道の連続である。そして、その決断はときに物語を生み出す。もし、あのとき、左に行っていたら、AではなくBを選んでいれば、、、タラレバの妄想は物語の源泉である。 また、人生の重大な決断は、突然やっ

どんな時代にも想像力は大事な意味を持つが、対局にある「効率」に打ち負かされる。効率はわかりやすく、想像力はわかりにくい。さらに、想像力はつかみどころがなく扱いが難しい。働き方改革で、わかりやすい業務の効率化が主要な施策で、想像力の出番はほぼない。目的がはっきりしない試行錯誤やぼんやり想像する時間は、短期的な効率追求を目指す組織の中では無駄扱いだ。 組織の中で

学びや教育を題材にした書籍に多いパターンは、起こっている問題を分析した後に、あるべき姿や改革案を提案する本である。しかし、本書はそのような種類の書籍とは一線を画し、理論的な背景とそれを具体化したアイデアとその実践で敷き詰められている。 クリエイティブ・ラーニングの前提は、時代の変化である。消費社会(Consumption)、情報社会(Communicatio

2019年早々に、記憶にまつわる驚きのニュースが発表された。忘れてしまった記憶を回復させる薬の開発が成功したというのだ。HONZでもときおり著作が紹介される東京大学池谷教授の研究で、記憶回復のメカニズムが解明され、今後ますます効果の高い薬が開発されるかもしれない。仮に記憶が回復できる未来がやってくるとしたら、私たちは脳内の記憶と、どのように付き合っていくこと

理系か文系か、この二分法は、日常に浸透し、まるで血液型のように、はじめて会う人同士の話題になることが多い。そして、文系であるか理系であるかでレッテルを貼り、個人を理解しようとする。Wikipediaの「文系と理系」というページで展開されている「文系と理系を巡る観念的な印象」は、その代表例である。 4.1数学のできない「普通の」文系、それ以外の「特殊な」理系

英語で最も頻出する名詞は「time」である。 いっぽう、時間をどう定義するかについての見解は一致していない。 時間という単語にはさまざまな意味が含まれているが、文章の中や日常の会話で、異なる意味を意識して使い分けることはほとんどない。下記の文章には「時間」という単語が3つ登場する。 時間の性質についてのミンコフスキーの講演は時間どおりに終わったが、長い時間が

「幸福とは何か」と思い耽ったときに、まっさきに読みたい本である。幸せの数値化にこだわる社会科学や幸せのメカニズムを科学するポジティブ心理学は、どういうときに幸福になるか、何が幸せの実例かは説明してくれるが、幸福の概念を過不足なく解明してくれるわけではない。本書の特徴は幸福の概略、そもそも論に取り組んでいることだ。そう、哲学しているのである。 幸福は、古今東西

本書はニューヨークで英語やジャーナリズムを教える高校教師が、成績を用いず、生徒を評価する挑戦を行った記録である。通知表を捨て、成績をつけないクラスの実験を5年ほど前にはじめた。 淡々とコンパクトに実践の記録をまとめているが、時折顔をのぞかせる著者の成績に対する意見は核心を射抜いている。 成績は、生徒を動機づけたり、罰したりするのに使われます。生徒がしたくない

人物 / プレミアム・レビュー
平成最後の夏、甲子園は100回目の記念大会、全国から集った56校が熱戦を繰り広げている。おもわぬ伏兵による逆転ホームラン、大差を諦めずに追いつき逆転した試合、2ランスクイズによる逆転サヨナラなど、とにかくドラマチックな試合が多い。そして、メディアは選手やチームに隠されたストーリーを掘り起こし、盛り上がりに加勢する。また、アルプススタンドもアツい。補欠の野球部

育児には神話がある。また、周囲の友人や口コミサイトからの情報に溺れ、真偽を判断する余裕もない。情報に溺れることなく、なるべく子どもと過ごす時間を増やしたいのだが、子どものためにやるべきことは尽きない。ギリギリまで手抜きしてズボラに育児がしたいが、それで、ちゃんと育児やっているんだろうか、できていると思えるのだろうか、悩む。 そんなふうに自分もなるんだろうなと

『 サピエンス全史 』ユヴァル・ノア・ハラリ激賞! と興奮気味に記されている割に、赤い帯には冷徹なメッセージが書かれている。 著者らが正しければ、有権者や消費者により良い情報を与えることは無意味に等しい 本書の核となる主張を簡潔にまとめたコメントである。 そして、ユヴァル・ノア・ハラリが疑っているように、果たして、著者らの言い分は正しいのだろうか。 そんな著

机は勉強する大学生や高校生に占領され、読みたい本はだいたい貸出中、音を立てれば「シーッ!」と怖い目で睨むメガネをかけた図書館員、映画で登場する図書館の典型である。 インターネットで検索すれば欲しい情報がすぐに手に入ってしまう時代に、日本を含む世界各国の図書館は生き残りをかけて、古いイメージから脱却しようと挑戦している。本の虫だけを相手にしたサービスでなく、幅

本書の主題は、レピュテーションである。原書のタイトルは「The Reputation Game The art of Changing How People See You」で、評判をゲームとしてモデル化し、そのゲームを勝ち抜くためのお作法をまとめている。流し読みするだけでも、周囲からの評価を得ようと躍起になり、他者からの評価に振り回される日常を冷静に俯瞰す

この原稿を書いている最中に、想定外のニュースが飛び込んできた。Facebookが新しい時間の単位を発表したというものだ。人類(のほとんど)は秒を共通の使用しているが、Facebookが提案した新しい時間の単位「フリック」は、7億560万分の1秒で、映像コンテンツを制作する際に、有用な単位となるらしい。 確かに時計の技術的な進歩により、時間の単位は変わっていな

退屈すれば脳はひらめく、というのはなんとなく、直感的に、そうだなぁと思えることである。例えば、皿洗いをしているとき、ベビーカーを押しているとき、シャワーをあびている時、車を運転しているときなどはよくちがった考えや新たな気づきが浮かぶ。 退屈で心がさまよっている状態を、心理学の用語でマインドワンダリングと言い、心がさまよっている状態の神経科学分野での研究ははじ

原書のタイトルは「Wanderlust」、旅への渇望という意味を持つ。著者レベッカ・ソルニットの代表作であり、著者自身が旅への渇望を持つ一人である。著者の名前が日本で知られるようになったのは、著作『災害ユートピア』が、2010年という運命的なタイミングで出版されたためである。 人生をかたちづくるのは、公式の出来事の隙間で起こる予期できない事件の数々だし、人生

もし、子育ての成功を定義できるのであれば、成功への道があるのならば、それを知りたいと思う人はたくさんいるはずだ。そして本書は、子育てにおいて、科学でわかっていることは何か、何を成功として定義して、その成功のために何をすればいいのか、を学習科学・発達心理学の知見を見事に体系化した本である。 「子育て」と「成功」という2つの言葉は相性が微妙で共鳴しづらいが、学習

国民総生産(GNP)が西ドイツを抜き、第2位になるのが1968年、その前年に本書は出版された。高度経済成長期の真っ只中であり、急速な成長の裏返しとして公害や環境破壊が世間の注目を集め、公害対策基本法が制定された。そこから版を80回以上重ね、現在までに80万部以上を売り上げている。 発想法とは、アイディアを創り出す方法である。問題提起から記録、分類、統合にいた

図書館の創意工夫を100種類紹介する書籍である。子供の頃から図書館につれられ、その工夫にひとり微笑んでいた私のような人間には面白おかしく読める本であるが、他に読者が存在するのだろうか。疑問に思って、本書を途中で閉じて、図書館に関する統計データを探ってみた。 2016年時点で公共図書館の数は3,300館弱、専任職員は1万人を超える程度である。他に私設の図書館も

アーティストは決まりきった体系や枠組みにはめられて、語られることを好まない。説明されること自体を嫌うこともあり、自ら進んで枠組みから逸脱する。自分で作った枠組みさえも捨て去ることもある。 一方でアートを鑑賞する側にとって、アートは感情が触発させ、見る人それぞれに異なる意味をもたらす。そして、見たものを咀嚼するために、新たな知を探索する欲望をもたらす。しかし、