
『苔のむすまで』
著者は現代美術作家の杉本博司。ロサンゼルスのアート・センター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学び、その後ニューヨークに移住し今も第一線で制作を続ける。代名詞である「海景」「劇場」「建築」シリーズは、メトロポリタン美術館をはじめ世界有数の美術館に収蔵されている。 経済学科出身ということもあり、エッセイの中には資本と欲望についての考察がある。マルクスの『資本論
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著者は現代美術作家の杉本博司。ロサンゼルスのアート・センター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学び、その後ニューヨークに移住し今も第一線で制作を続ける。代名詞である「海景」「劇場」「建築」シリーズは、メトロポリタン美術館をはじめ世界有数の美術館に収蔵されている。 経済学科出身ということもあり、エッセイの中には資本と欲望についての考察がある。マルクスの『資本論

《鳥ものノンフィクションに外れなし》 予てから私が提唱している法則だ。鳥に関する、あるいは鳥に関わる人物を取材した本はほぼ100%面白い。鳥を愛する人は熱意にあふれ、少しだけ常人とは違っている。世間に染まらず、かといって拒むわけでもない。 本書は3年ほど前に出版された、日本最後、唯一無二の鷹使い、松原英俊に密着取材したルポルタージュだ。松原は大型の猛禽類クマ

2006年にちくまプリマー新書で出た本が再刊された。Kindleでも読めるし、新刊書店で簡単に手に入るようになったのは喜ばしい。感染症を解説した本はいろいろあるが、本書はちょっと特殊だ。メアリーを我が身に置き換えると震え上がるほど恐ろしい。 約100年前のニューヨークで、腸チフスの無症候性キャリアであった女性が、離島に合計で25年余り隔離された事実を追った物

この本の発売時に、まさか世の中がパンデミックの恐怖にさらされているとは、製作者は誰も思ってなかっただろう。しかし、感染症の歴史のアウトラインを知りたいという人にはぴったり。かなり重いので持ち運びはできないけど。 日本は海に囲まれて、いわば離れ小島のような存在だから、かつて歴史上で世界的な流行をした伝染病も、外からの災いであるという受け止め方をしていた。毎年騒

人物 / プレミアム・レビュー
平成最後の夏、甲子園は100回目の記念大会、全国から集った56校が熱戦を繰り広げている。おもわぬ伏兵による逆転ホームラン、大差を諦めずに追いつき逆転した試合、2ランスクイズによる逆転サヨナラなど、とにかくドラマチックな試合が多い。そして、メディアは選手やチームに隠されたストーリーを掘り起こし、盛り上がりに加勢する。また、アルプススタンドもアツい。補欠の野球部

14世紀、21歳のイブン・バットゥータは、巡礼とイスラーム法の研究のため、現在のモロッコを旅立ち、30年間におよび、北アフリカ、中東、インド、中国を巡る。その旅は『大旅行記』(東洋文庫)全8巻となっているが、道中に滞在したインドの王様との8年間を後に語り、まとめられたのがこの5巻だ。稀代の旅人と「インドの織田信長」が織りなす、展開が予想の斜め上どころか別次元

家臣が同時代に書いた、織田信長の一代記『信長公記』。これを歴史小説家が現代語で訳したのが本書だ。本能寺の変で自害するまでの15年間がつぶさに記された、歴史資料としても、読み物としても第一級の一冊。これがまあ、おもしろくて一気読み! 時には歴史の海へ身を投げ出して、戦国時代にタイムトリップをしてみるのもいいぞ。 著者の太田牛一は、尾張の田舎(といっても、現在の

2003年、全国で初めて「教師によるいじめ」と認定される体罰事件が福岡で起きた。ひとりの教師が担任の児童を執拗に苛め続けて、「早く死ね、自分で死ね」自殺を強要し、その子供はPTSDによる長期入院に追い込まれてしまった……。 この報道がなされると、雑誌やテレビでは鬼か悪魔かというくらいの勢いで「殺人教師」について大きく特集を割いた。両親、特に母親からの訴えは、

転がりながら、つかんだその細い木が手のひらからずるりと抜けていくのが見えた。絶望的な光景だった。その瞬間、自分は死ぬんだと分かったのだ。これから川まで一直線に投げ飛ばされ、激流にもまれながらインドまで流されるのだ。 前回レビューを書いた 『冒険歌手』 を読んでからというもの「冒険ってなんだろう」とモヤモヤし続けていた私は、その簡単には出そうにない答えを求めて

「GDPは20世紀でもっとも偉大な発明のひとつ」 アメリカ商務省がここまで賛辞を贈るのは異例だ。しかしそれもその筈、GDP(国内総生産)以上に国の経済規模を測れる指標は存在せず、マクロ経済政策はGDPに依拠しながら策定せざるをえない。GDPは、アメリカ商務省だけでなく各国政府にとって経済政策を考える上で必要不可欠な経済指標である。一方で、これほど各国経済に多

大村智先生、ノーベル医学生理学賞ご受賞、まことにおめでとうございます! この本、3年前の出版当時、HONZデビューでとりあげた思い出の本だ。全面改訂にしようかと思って、本をもう一度読んでみたのだけれど、書き加えるとすると、すでに受賞報道で聞いたようなことになりそうだ。それならば、初読の時の驚きを伝えたほうがよかろう。ということで、メインの本文にあまり手を入れ

日本では馴染みがないが、神経犯罪学=neurocriminologyという分野がある。犯罪の原因には社会環境的な要因だけでなく、生物学的要因が密接に関わっているのではないかという見地から、遺伝的要因、胎児期・周産期の影響、外傷を含む後天的脳障害、自律神経系の異常、栄養不良や金属などの脳への影響などを研究する学問だ。 一般に凶悪な犯罪が起こった場合、虐待などを

2015年は第二次世界大戦終戦後、70年目という節目である。経験者は少なくなり、語り継がれてることも少なくなってきた。だが、毎年膨大な数の関係書は出版されている。正直、どれを読んだらいいか、まったくわからないのが実情だろう。 2011年7月から始まったHONZでは、第二次世界大戦関係の本をたくさん取り上げてきた。終戦70周年の記念に、この4年間で紹介してきた

シズル感という言葉は、もともと広告代理店界隈の用語だったように思う。sizzle、すなわち肉がジュージューと焼けている音が語源で、「シズル感のある写真」とは、そんな臨場感の伝わってくる写真という意味。料理本業界では、シズル感のある写真は売れ行きを左右する、必須のものと言っていい。 料理の表面は乾かないようにし、できれば湯気なども写るようにする。光は料理の斜め

人は一生に平均200回の風邪をひくという。しかし予防薬もなければ特効薬だって現れない。もし一発で風邪が治る薬が発明されたら、それだけでノーベル賞ものなのだそうだ。風邪の一種だと思われていたインフルエンザはワクチンもでき、治療薬も数種類見つかっているのに、ポピュラーな風邪はどうして治せないの? そもそも風邪ってどんな病気で、もし罹ってしまったらどうするのが正し

社会 / プレミアム・レビュー
仕事で必要があり、終戦直後の日本を映した写真を探していて出くわしたのが、この写真集だった。その時に「スミソニアンで実現しなかった幻の写真展をここに再現。」という帯の言葉に思い出したのが、在郷米軍人の圧力でキャンセルされた、ワシントンのスミソニアン博物館での原爆写真展のニュースだ。なにしろ20数年前のことなのでうろ覚えだが(子供だったんで……)、新聞でニュース

最近は、小学生からクリティカルシンキングを教える学校もあるらしい。 批判的思考能力とも訳されるが、これは複眼的にものを見て、それぞれのケースを批判的に読み込み、その上で自分の意見を作って、他人に伝えられる能力といった発展的な思考法だ。よく単純な計算練習とか書き取りとか、反復練習に対する反対概念として言われることが多い。あるものの受容よりも理解が大切なのだ。

『 背信の科学者たち 』、この刺激的なタイトルの本が 化学同人から出版された のは四半世紀前。1988年のことである。かけだし研究者であったころにこの本を読んだ。驚いた。捏造をはじめとする論文不正を中心に、科学者のダークな事件をあらいだし、その欺瞞から科学をとらえなおそうという試みである。最初におことわりしておくが、この本、後に講談社ブルーバックスとして出版

「男の子の理想の人生」――本書の読後感はこの一言に尽きる。 国家、産業、技術、芸術――なんでもいい。あるものの勃興期に生まれ合わせ、その盛り上がりと共に人生をおくるというのは素晴らしい、得難い幸運である。 本書のタイトルとこの解説文に惹かれて、本書の購入を決意。早速、家に帰って本書のページをめくってみると、期待通り読んでいてワクワクする夢のような人生が描かれ

ここ10年くらいでしょうか。そういえば、ちんどん屋さんを街で見かけることがほとんどなくなりました。ましてや、個人宅の玄関先で歌や舞いを披露するべく、別の土地からやってくる人たちも、それを待つ人もいなくなってしまったようです。そんな身近にいた「芸人」の姿を写真で紹介するのが、この新書です。 「芸人」といっても、テレビで活躍しているお笑いの方々を思い浮かべてはい

年末『殺人犯はそこにいる』を読んで、足元からじわじわと滲み込んでくるような恐怖を感じた。もし、この本に書かれていることが本当なら、いや、本当にしか思えないのだが、幼女連続殺人犯は今ものうのうをと暮らしていることになる。日本の警察は世界一だ、と言われたのはいつの時代だっただろう。そしてマスコミは、事件記者は、いまどんな規範で動いているのだろう。 著者の清水潔の

「やっと、文庫化だよ」 「これは一気読みでした」 「ロンドンにあるハンターの博物館、行ってみたいんだよね」 「原題って、the knife manなんだ。迫力あるなあ」 好き勝手なことを口々にHONZメンバーがつぶやき合ったのは、2013年の8月7日、午前8時25分。早朝7時から9時まで、自分の読みたいお勧め本を持ち寄り、語り合う 「朝会」 でのことだ。 単

本書は「朝日新聞 土曜版〈be〉」に2009年から2011年にかけて連載されていた歴史エッセイをまとめたものだ。著者はNHK「BS歴史館」でお馴染みの磯田道史。この人の解説から歴史が好きになった人も多いのではないだろうか。『武士の家計簿』や『殿様の通信簿』などの著作も好評で、すべての作品からは丹念に資料を追う著者の姿勢がにじみ出ている。 本書でも慶長時代の小
とざい、と~ざい。本日はぁ、HONZはじめてのだしものぉ、HONZプレミアム。レビューしまするは、なかのとぉ~るぅ。(知ってる人は、文楽の口上風に声を出してよんでみてください。) ということで、HONZプレミアム、記念すべき第一回である。日本のノンフィクションを盛り上げようという崇高な使命をもったレビュー軍団HONZには、いくつかのルールがある。その一つは、