ノンフィクションはこれを読め!

東 えりか

HONZ副代表

書評家。千葉県生まれ。信州大学農学部卒。幼い頃から本が友だちで、片っ端から読み漁っていた。動物用医療器具関連会社の開発部に勤務の後1985年より小説家・北方謙三氏の秘書を務める。
2008年に書評家として独立。「週刊新潮」と「ミステリーマガジン」などでノンフィクションの書評担当のほか、「信濃毎日新聞」の書評委員。現在は小説の書評の仕事と半々。「NEWS本の雑誌」の記者でもある。好んで読むのは科学もの、歴史、古典芸能、冒険譚など。

(2024年当時)

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『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』余命10年、娘を救う人工心臓の開発に挑んだ町工場の矜持

新型コロナパンデミックのころ、通常では救命困難な重症呼吸不全患者のためECMO(体外式膜型人工肺)を装着した姿がニューズ映像となった。あんなにも大規模な装置でなれば救命できないのか、と驚かされた人も多いだろう。命を助ける装置の開発は困難を極める、ということは想像に難くない。 本書は先天的な心臓の難病を抱えて生まれた娘を持つ、本来医療とは無縁の町工場の社長と家

『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』著者、小林照幸にあの頃のこと訊く 書影

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『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』著者、小林照幸にあの頃のこと訊く

小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との闘い 』(新潮文庫)が注目されている。4月24日に上梓されて以来、現在4刷、累計2万6千冊のスマッシュヒットだ。26年前の1998年に出版された本が、なぜいまこんなに注目を浴びているのか。以前より小林照幸の本を”激推し”してきた東えりかと、医学者・仲野徹が話を聞いた 仲野 『死の貝』は昔読んだ記憶があったけれど、文庫化され

『シャーロック・ホームズの護身術 バリツ 英国紳士がたしなむ幻の武術』その正体とは? 書影

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「明鏡止水 武のKAMIWAZA」というNHKの番組をご存知だろうか。格闘家でもある俳優の岡田准一が司会を務め、武道各流派を率いる一流の武術家たちが集結し、真髄を語り秘儀を披露していく。録画をして繰り返し観るほど私の好きな番組だ。 『シャーロック・ホームズの護身術バリツ:英国紳士がたしなむ幻の武術』には技の説明のため120点を超える写真が掲載され、中には袴を

『ライチョウ、翔んだ。』このままでは絶滅する…。難題を解決することはできるのか? 書影

生物・自然 / おすすめ本レビュー

『ライチョウ、翔んだ。』このままでは絶滅する…。難題を解決することはできるのか?

2015年8月、衝撃的な写真が新聞に掲載された。北アルプスのライチョウがニホンザルに捕食されている姿が初めて撮られたのだ。ライチョウの生息数は激減している。そこに新たな天敵としてサルが加わることは大きな脅威となる。 世界的なライチョウの研究者で信州大学名誉教授の中村浩志は緊急記者会見を開き、マスコミを使って警告した。このままでは絶滅すると。 信州大学農学部卒

『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』今も1万人の遺骨が見つからない。日本政府に遺骨収集への考え方を問う 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』今も1万人の遺骨が見つからない。日本政府に遺骨収集への考え方を問う

太平洋戦争末期、小笠原諸島の硫黄島でアメリカ軍と栗林忠道陸軍中将率いる日本軍の激戦があったことは、クリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』で若い人にまで広く知られている。 日本軍兵士約2万3000人のうち戦死者は約2万2000人。だが1万人分の遺骨がいまもなお見つかっていないということを知っているだろうか。 著者の祖父は小笠原諸島父島の防衛に携

ボクシングから駅伝までスポーツ三昧だ!(本の雑誌3月 春宵かくれんぼ号) 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

ボクシングから駅伝までスポーツ三昧だ!(本の雑誌3月 春宵かくれんぼ号)

ボクシング、駅伝、サッカー、ラグビー...。年末年始はスポーツ観戦三昧という人は多かっただろう。 森合正範『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』(講談社)はスポーツノンフィクションとはこうでなくちゃという熱い作品だ。 言わずもがなだが、井上尚弥は日本が誇る天才プロボクサーで、2023年12月26日、主要四団体(WBA、WBC、IBF、WBO)のバンタ

味の素営業マンの密着ルポ『地球行商人』がすごい!(本の雑誌2024年2月 綿入れ雪おろし号) 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

味の素営業マンの密着ルポ『地球行商人』がすごい!(本の雑誌2024年2月 綿入れ雪おろし号)

外国人が日本を観光したいという大きな目的のひとつが「食」だという。一昔前のようにスシ、テンプラの時代は過ぎ去り、ラーメンや牛丼など、ネットで紹介されたファーストフードにも人気が集まっている。確かに日本は何を食べても美味しい。 ならば世界に日本の食を紹介しようという大規模な試みをしているのが味の素食品である。 『地球行商人 味の素グリーンベレー』(中央公論新社

マレーシア出身医師の一代記『逆転力、激らせろ』が面白い!(本の雑誌2024年1月 鏡餅てんてこ舞い号) 書影

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マレーシア出身医師の一代記『逆転力、激らせろ』が面白い!(本の雑誌2024年1月 鏡餅てんてこ舞い号)

なんと16年ぶりにこのコーナーを担当させてもらうことになった。北上さんのいない本の雑誌にまだ違和感があるけれど、全力で面白いノンフィクションを紹介していくつもりだ。よろしくお願いします。 現在、巷のノンフィクション本で流行っているのは、 ウォルター・アイザックソン『イーロン・マスク』 (井口耕二訳/文藝春秋)と 黒柳徹子『続 窓ぎわのトットちゃん』 (講談社

『もしも世界からカラスが消えたら』『カワセミ都市トーキョー』”鳥ノンフィクションに外れなし!” 書影

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『もしも世界からカラスが消えたら』『カワセミ都市トーキョー』”鳥ノンフィクションに外れなし!”

鳥ノンフィクションに外れなし 長くノンフィクションを読んでいるからこそ、確信をもっていえる。私は鳥好きではないが、「鳥」が魅力的な生き物なのは認める。だがそれよりも鳥の研究者が熱意に満ちた変人、いや硬骨漢なのだと思う。 カラスの研究者である 松原始 もその一人。『もしも世界からカラスが消えたら』(エクスナレッジ)では、生物の進化史に、カラスという種がいなかっ

『私がしたことは殺人ですか?』25年の時を超え、もう一度「尊厳死」を問う 書影

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『私がしたことは殺人ですか?』25年の時を超え、もう一度「尊厳死」を問う

2024年3月5日、京都地裁はALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者に関する嘱託殺人及び別の殺人罪に問われた医師、大久保愉一被告に懲役18年(求刑懲役23年)を言い渡した。「生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」としながらも、現代の医学では治療不可能で身体的自由がきかない患者に対する嘱託による死の定義を示した。 それは、治療や検査を尽くし、他の医師の

『涙にも国籍はあるのでしょうか 津波で亡くなった外国人をたどって』東日本大震災13年目にあの人を思い出す 書影

事件・事故 / おすすめ本レビュー

『涙にも国籍はあるのでしょうか 津波で亡くなった外国人をたどって』東日本大震災13年目にあの人を思い出す

新聞や放送局といった組織に属する記者と、フリーランスのジャーナリストの立場は全く違っている。大手メディアを背中に負う取材陣は恵まれた立場にいることをもっと自覚すべきだろう。 思いもかけない不幸に見舞われた人たちが、取材に来たと言われてはじめて会う人を信用する担保は、出された名刺の○〇新聞、××テレビという肩書しかない。どんなに著名で優秀な書き手でも、どこの誰

『MOCT 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人』日露をつなぐラジオの架け橋 書影

世界史 / おすすめ本レビュー

『MOCT 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人』日露をつなぐラジオの架け橋

2022年2月24日、ロシア連邦がウクライナへ軍事侵攻を開始した。ロシアは東側諸国の多くを敵にまわし、カレンダーなどでマッチョな姿を披露していたプーチン大統領は、今では悪の首領のようにとらえられている。インターネットが発達した今、ロシアの中にも反体制派がいることを多くの人は知っているが、戦争が始まり1年が経っても和平への道は見えてこない。 東西冷戦時代、日本

『それでも私は介護の仕事を続けていく』追い詰められても立ち上がる施設利用者と介護者たち 書影

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『それでも私は介護の仕事を続けていく』追い詰められても立ち上がる施設利用者と介護者たち

12年前『驚きの介護民俗学』(医学書院)という本を書店で見つけた。著者の六車由実さんは『神、人を喰う』でサントリー学芸賞を受賞した民俗学者ではないか。なぜ介護の世界に身を置くことになったのか。 その経緯は『驚きの介護民俗学』に詳しく書かれているが、介護の現場に民俗学の手法である「聞き書き」を取り入れた六車さんは、高齢者との間に強固な信頼関係を築きあげた。現在

『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』競馬業界のタブーに挑む衝撃のルポルタージュ 書影

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『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』競馬業界のタブーに挑む衝撃のルポルタージュ

2023年の有馬記念を制したのは前年の日本ダービー馬 「ドゥデュース」 だった。騎乗の武豊に「千両役者ここにあり」とアナウンサーが叫ぶほど見事なレース運びだった。 このような中央競馬会の重賞レースに出走できる馬はごく一部だ。 競馬業界では毎年約7000頭のサラブレッドが生産され、一方では約6000頭が引退する。ではその引退馬はどこへ行ってしまうのか。 この話

『The Tokyo Toilet』「PERFECT DAYS」が作る新しき聖地巡礼の旅 書影

教養・雑学 / アート・スポーツ

『The Tokyo Toilet』「PERFECT DAYS」が作る新しき聖地巡礼の旅

2023年も押し詰まった、ある日のあさイチの映画館。シネコンで一番広いスクリーンなのにほぼ満席だ。「PERFECT DAYS」が公開されて1週間で評判はうなぎのぼりである。年末の仕事を終えて私が3日前に予約したときは1/3ほどの埋まり方だった。 中高年のカップルが多い。ポップコーンと飲み物はだいたい女性が持っている。男性は座席の場所を探し奥に入ろうとして「こ

『私の体がなくなっても私の作品は生き続ける』桃紅が人生の弟子に残した作品と言葉をかみしめる。 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

『私の体がなくなっても私の作品は生き続ける』桃紅が人生の弟子に残した作品と言葉をかみしめる。

2021年3月初旬「美術家」の篠田桃紅さんが亡くなったというニュースが流れた。享年107。一世紀以上、日本の美術界で独特の光を放ちつづけた存在である。5歳のときに父親から書の手ほどきをうけ、戦後まもなく墨を用いた抽象表現という新たな地平を切り開き、1956年に渡米。ニューヨークで評価され日本に帰国後は、膨大な作品を制作した。 言わずもがな、だが、このプロフィ

『災害の記憶を解きほぐす』『異邦人のロンドン』記憶の風化を止めるためには…。 書影

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『災害の記憶を解きほぐす』『異邦人のロンドン』記憶の風化を止めるためには…。

記憶の風化を止めるには新しい世代に記憶を移植するしかない。誰かに継代されることで災害の防御にも繋がっていく。 『災害の記憶を解きほぐす』(新曜社)は関西学院大学社会学部、金菱清ゼミの学生たちが、28年前に起こった阪神淡路大震災の体験者たちに当時と現在の状況、その間の経緯を取材しまとめた一冊だ。 金菱清教授は東北学院大学在籍中、専門の災害社会学研究の一環として

『映画館を再生します。小倉昭和館、火災から復活までの477日』奇跡の復活を追った胸アツのドキュメント! 書影

アート・スポーツ / 事件・事故

『映画館を再生します。小倉昭和館、火災から復活までの477日』奇跡の復活を追った胸アツのドキュメント!

2022年8月10日、北九州市小倉駅近くの旦過市場に隣接する「昭和館」という映画館が焼失した。もらい火ではあったが、創業83年の歴史を見てきた映写機もフィルムもスクリーンも、たくさんの映画スターのサインや小説家の手紙も何もかもが燃えて無くなってしまったのだ。 残ったのは「昭和館①②」というネオンサインとチケット売り場の表札だけ。 祖父が創業し、父から後を継い

『続 窓ぎわのトットちゃん』続編はパパとママの話から 少女から大人へ 書影

人物 / 社会

『続 窓ぎわのトットちゃん』続編はパパとママの話から 少女から大人へ

1981年に刊行された 『窓ぎわのトットちゃん』 は現在まで読み継がれ空前のベストセラー、ロングセラーとなっている。日本人のほとんどが「トットちゃん」は黒柳徹子のことだと知っているってすごいことだ。 さらに芸歴70年で今も第一線で活躍し、冠番組の「徹子の部屋」は2023年9月に、同一司会者によるテレビ番組最多放送のギネス記録を更新した。黒柳徹子さんは生ける芸

『遺伝と平等』刊行記念!4年ぶりのリアル朝会を開催しました。(その2) 書影

今月読む本

『遺伝と平等』刊行記念!4年ぶりのリアル朝会を開催しました。(その2)

その1はこちらをご覧ください。 この度、青木薫さんは『科学革命の構造 新版」で2023年日本翻訳家協会翻訳特別賞を受賞されました。なんと18年もの間、恋焦がれてプロポーズをしてきた本だそうです。詳しい経緯は 東えりかとの対談内 で話していますので、ぜひご一読ください。 さて朝会の続きである。リアルに参加したメンバーの一巡目が終わりましたが、何冊か隠し持ってき

『遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる』刊行記念 翻訳者:青木薫さんに聞く! 書影

サイエンス / 社会

『遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる』刊行記念 翻訳者:青木薫さんに聞く!

青森から、HONZメンバーの青木薫さんが上京されると聞き及んだ。骨太な新刊『遺伝と平等』の翻訳について、日本の代表的な書店のひとつ、紀伊國屋書店新宿本店にて語り尽くすという(青木薫の推薦本フェアは3階人文書コーナーレジ前で開催中 期間はお店に確認してください)。何を隠そう、聞き手は私、HONZ副代表の東えりかである。『フェルマーの最終定理』を始めとるするサイ

『遺伝と平等』刊行記念! 4年ぶりのリアル朝会を開催しました。 書影

今月読む本

『遺伝と平等』刊行記念! 4年ぶりのリアル朝会を開催しました。

祝!青木薫さん翻訳『遺伝と平等』発売! というわけで、HONZの 「青木薫のサイエンス通信」 でお馴染み、翻訳家の青木薫さんの翻訳新刊出版および『新版 科学革命の構造』が日本翻訳家協会翻訳特別賞を受賞された記念に上京されました。トークイベントを開催されるなら、ついでにHONZメンバーと初お目見えしましょう!ということになり、なんと4年ぶりのリアル朝会が開催さ

『イラク水滸伝』向かうは古代から続く元祖”梁山泊”! 書影

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『イラク水滸伝』向かうは古代から続く元祖”梁山泊”!

約480ページ。もはや本の厚さごときでは驚かない高野秀行の新作冒険譚の舞台はイラクの南東部、ティグリス川とユーフラテス川の合流地点に四国ほどの大きさで広がる巨大湿地帯〈アフワール〉である。 著者は現代でも謎に満ちた民族が生活し、迫害された人々が逃げ込むという、迷路のように水路が入り組む世界遺産。著者は2017年にこの場所を知り、「行ってみるしかない」と決意し

『ロバのスーコと旅をする』相棒ありの放浪 書影

生物・自然 / 社会

『ロバのスーコと旅をする』相棒ありの放浪

うんと幼い頃、ロバのパン屋さんという行商があった。記憶は遠く、かすかに覚えているのはロバの瞳だ。大きな目の中の全部が黒くてまつ毛が長かった。考えてみれば、自分の生活圏の中で働く動物を見たのはあれが最初のことだし、犬以外の動物では最後だったのではないか。 会社を辞め海外を一人旅していた著者は、モロッコで使役されるロバの姿を見た。あいつに荷物を載せて旅をしてみよ

『師弟八景』『師匠はつらいよ』悩み多きイマドキの師匠たち 書影

教養・雑学 / 社会

『師弟八景』『師匠はつらいよ』悩み多きイマドキの師匠たち

「働き方改革」が叫ばれている。厚生労働書のHPによると、「現代日本が抱える少子高齢化や介護育児との両立などの問題にたいして働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し(後略)」とある。だが現実は多様な働き方に対応しているとは言い難い。 確かに伝統的な徒弟制度には問題があっただろう。長時間労働を強いられたうえ、賃金は安く、技術習得は「

北方謙三、全ての記録『完全版 十字路が見えるⅠ-Ⅳ』 書影

人物 / おすすめ本レビュー

北方謙三、全ての記録『完全版 十字路が見えるⅠ-Ⅳ』

「北方謙三は長篇作家」。たしかにそのイメージは強い。 『三国志』 から始まった中国史シリーズはユーラシア大陸を駆け抜けた 『チンギス紀』 が2023年7月に完結を見る。男が抱く歴史の大ロマンを25年に渡り書き続けてきたことになる。まさに偉業だ。 だが純文学出身で和製ハードボイルドブームの立役者であったころに培った、情景描写と短いセンテンスで構成された短篇小説

『射精責任』望まない妊娠の全ての原因は男性にある! 書影

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『射精責任』望まない妊娠の全ての原因は男性にある!

きっかけは以下のツイートから始まる63個からなる一連のスレッドだった。 私は6児の母であり、モルモン教徒です。宗教的なことも含めて、私は中絶についてよく理解しています。これまで男性たちが女性のリプロダクティブ・ライツについて、女性に代わって好き勝手に議論してきたことを聞いていました。私は、男性が実際のところ中絶をなくすことには全く関心がないことを確信していま

『ニッポン美食立国論』食の「ヘンタイ」を発掘せよ!ネット時代の「美食」ツーリズム 書影

社会 / ビジネス

『ニッポン美食立国論』食の「ヘンタイ」を発掘せよ!ネット時代の「美食」ツーリズム

もはや新型コロナは過ぎ去ったかのように、人は旅を楽しんでいる。異国への興味はどの国の人も等しく持っているらしく日本の観光地は外国人で溢れている。 とくに日本の「食」は世界中の憧れだと言われている。インバウンドや富裕層を対象に美食を核に据えた観光立国論を語るのが本書である。 いまや世界のどんな辺鄙な場所のレストランであろうとも、魅力があればその情報はネットで拡

『からだの美』その生きものが輝くとき神が身体に宿るのだ 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

『からだの美』その生きものが輝くとき神が身体に宿るのだ

小川洋子さんが綴る物語は美しい。小説も随筆も、ざわついた心を落ち着かせてくれる。一言一言考え抜かれたであろう言葉に、忘れていた思い出が呼び覚まされる。 16篇の随筆で作られた本書は、身体の一部分や切り取られた一瞬の動きを描く。それぞれに添えられた一枚の写真が、その物語が本当にあったことを裏付けてくれる。 私は60代の小川さんと同年代なので、本書に書かれている

『くもをさがす』異国の地で経験した祈りと感謝 書影

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『くもをさがす』異国の地で経験した祈りと感謝

テヘラン生まれ大阪育ちの直木賞作家、西加奈子さんがカナダのバンクーバーで乳がんに罹った。本書はその治療過程の経験談とともに、カナダの医療行政や、生活に関する考え方などを時系列で記したノンフィクションだ。 家族3人で住むブリティッシュ・コロンビア州は外国人でも健康保険に入っていれば医療が無料で受けられる。だが最初は総合医であるファミリードクターか、誰でも受け入

『高倉健、最後の季節。』ある映画俳優の最期。 書影

人物 / おすすめ本レビュー

『高倉健、最後の季節。』ある映画俳優の最期。

一度だけ、高倉健さんにお会いしたことがある。 私が北方謙三氏の秘書をしていた時のことだ。イベントで北方ボスと高倉さんが話をしているところに、何かを伝えに行かなければならなくなった。誰でも知っている俳優さんにご挨拶するのはいつも緊張して足が震えた。ほとんどの方は当然のことながら私のことなど歯牙にもかけない。だがたったひとり、高倉健さんだけは、きちんと頭を下げて

『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って  ーUDデジタル教科書体 開発物語』書体デザイナー、渾身のドキュメント! 書影

教養・雑学 / 社会

『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って  ーUDデジタル教科書体 開発物語』書体デザイナー、渾身のドキュメント!

「ディスレクシア(発達性読み書き障害)」という障害があることを知ったのは、ほんの数年前のことだ。トム・クルーズがこの学習障害で、台本を読むことが出来ず、マネージャーに読んでもらって暗記する、と聞いたときには、そんなことがあるのかと驚いた。 文字をすばやく、正しく、疲れずに読むことに困難のある人を言い、そのメカニズムは完全に解明されていないという。 この障害は

『母は死ねない』“子のために”という重荷 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

『母は死ねない』“子のために”という重荷

2022年、イスラエルの社会学者が著した 『母親になって後悔してる』 が、メディアで大きく取り上げられた。母親という呪縛に囚われた世間へ一石を投じた一冊だ。 本書は、多くの日本人が持つステロタイプの「母親」のイメージに苦しめられる様々な女性たちを取材したルポルタージュだ。 血を吐くがごとく語る彼女たちの経験を、自分がさらに傷つきながら著者の河合さんは受け止め

『黒い海 船は突然深海へ消えた』船はなぜ沈没したのか、その真実とは 書影

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『黒い海 船は突然深海へ消えた』船はなぜ沈没したのか、その真実とは

海難事故といえば古くはタイタニック号事件、最近だと韓国のセウォル号沈没事故を覚えている人も多いだろう。この船には多くの修学旅行生が乗船しており、緊迫の船内の様子が世界に発信された。日本では2022年4月に起こった知床観光船「観光船KAZU1」沈没事故が記憶に新しい。 『黒い船 船は突然。深海に消えた』は事故当時もほとんど報道されなかった日本の中型漁船沈没事故

『失くした「言葉」を取り戻すまで 脳梗塞で左脳の1/4が壊れた私』家族一丸で取り組む前向き闘病記 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

『失くした「言葉」を取り戻すまで 脳梗塞で左脳の1/4が壊れた私』家族一丸で取り組む前向き闘病記

清水ちなみは1987年に『週刊文春』で始まった「おじさん改造講座」というコラムの著者である。会社という閉じた世界に棲息する「おじさん」たちを観察したものだ。 最初は好奇心で友だちへアンケートをとったことから始まった。 あなたの会社のおじさんは奇妙なネクタイをしていませんか? この問いには〈登り龍〉、〈土星とロケット〉など珍妙な解答が送られてきた。面白がって続

『ボーダー 移民と難民』『北関東「移民」アンダーグラウンド』 日本に住む“移民たち”の裏表 書影

社会 / 事件・事故

『ボーダー 移民と難民』『北関東「移民」アンダーグラウンド』 日本に住む“移民たち”の裏表

日本が難民の受け入れに厳しいことは知っていた。しかし生活圏内のコンビニや建築現場などに外国人がたくさん働いていて、いまやなくてはならない存在になっている。 日本人が普通に暮らしている限り、非正規滞在者を収容する出入国在留管理庁の施設、通称「入管」のことはほとんど知る機会がなかった。だが2021年3月、名古屋の入管で収容中のスリランカ人、ウィシュマ・サンダマリ

『おやじはニーチェ 認知症の父と過ごした436日』ボケた父親との会話は禅問答 書影

医学・心理学 / 社会

『おやじはニーチェ 認知症の父と過ごした436日』ボケた父親との会話は禅問答

超高齢者社会をひた走る日本では、親族に認知症がいるのは珍しくない。コロナ禍で人に会わなくなって発症者が増えたのか、街中で怒鳴る老紳士を頻繁に見るようになった。小さくなって周りに謝る夫人が不憫だ。 ノンフィクション作家の高橋秀実の父親、昭二が認知症と診断された。母が病死したのに、死んだことを認識していないようなのだ。 記憶障害、見当識障害、思考障害などいくつか

『巨大おけを絶やすな!日本の食文化を未来につなぐ』最後の桶屋に弟子入りし大桶作りを習う波乱万丈の奮闘記 書影

民俗・風俗 / ビジネス

『巨大おけを絶やすな!日本の食文化を未来につなぐ』最後の桶屋に弟子入りし大桶作りを習う波乱万丈の奮闘記

日本酒、味噌、醤油。木の大桶で仕込む日本古来の伝統食材だ。 ここ数年、こだわりの食品を好む消費者が増え、ステンレスやホーローなど近代設備で作られた量産品ではなく、“本物”の味が求められているという。 それなのにその大もとになる木桶をつくる職人や工場がなくなっている。著者は食品管理の仕事をしていた20年前にその声を聞いていた。 高さ約2メートル、直径約2メート

『ある行旅死亡人の物語』あなたは誰?身元をたどる渾身のルポルタージュ 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『ある行旅死亡人の物語』あなたは誰?身元をたどる渾身のルポルタージュ

「行旅死亡人」とは病気や行き倒れ、自殺等で亡くなった身元不明の死者を表す法律用語である。死亡人は身体的特徴や発見時の状況を官報に公告される。 映画やミステリー小説でも良く登場する”誰かわからない”遺体。その身元を新聞記者が突き止める過程を記したのが『ある行旅死亡人の物語』だ。 共同通信大阪社会部の遊軍記者、武田惇志は記事のネタ探しのため官報に掲載されている「

『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』子どもたちは生きている。父親に切り捨てられても。 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』子どもたちは生きている。父親に切り捨てられても。

アフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国(旧ザイール)は地下資源に富んだ国だ。1970年代、日本企業はこの地に進出し鉱山を開設、多数の日本人労働者が就業していた。 2016年、朝日新聞のアフリカ特派員だった著者にツイッターを通じてメッセージが送られてきた。当時、コンゴでは日本人労働者と現地女性の間に生まれた子を、日本人医師と看護師が毒殺していた、と報道したこと