
『最後の角川春樹』角川文化を生み出した “メチャクチャ”な出版人
「あんなに有名な会社の社長がコカインを密輸して捕まるなんて。日本の大人は薬物まみれなのかもしれない」。1993年夏、世間知らずの12歳の私は角川春樹の「コカイン密輸事件」に衝撃を覚え、妄想を膨らませ続けていた。その1週間ほど前に角川が監督した映画『REX 恐竜物語』を見たばかりだった。一緒に見た友人は「社長だけど映画監督でもあるから薬物くらいやっていてもおか
SM編集長
(2024年当時)
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「あんなに有名な会社の社長がコカインを密輸して捕まるなんて。日本の大人は薬物まみれなのかもしれない」。1993年夏、世間知らずの12歳の私は角川春樹の「コカイン密輸事件」に衝撃を覚え、妄想を膨らませ続けていた。その1週間ほど前に角川が監督した映画『REX 恐竜物語』を見たばかりだった。一緒に見た友人は「社長だけど映画監督でもあるから薬物くらいやっていてもおか

「死人に口なし」というが、実は死体は雄弁だ。どんなに巧妙な殺人や、事故に偽装しようとした自殺であっても、死体は嘘をつかない。ドラマや小説の中で法医学者が遺体にメスを入れて死因を調べ、殺人事件を解決に導く様子は見慣れたものだ。 だが、死者の声に専門家が耳をしっかり傾ける場面は非常に限られている。医療機関以外での死亡は、「異状死」に分類される。2020年には国内

リサーチを重ね、丁寧に作成した企画書が通らない。書店に駆け込みノウハウ本をめくってみたものの、思いをうまく形にできない。企画をいかに立てればよいのか。実物の企画書満載の本書は頭を悩ますビジネスパーソンにとって「異色の教科書」になる可能性を秘めている。 著者はタレントとして広く知られているが、放送作家としても「天才・たけしの元気が出るテレビ‼」「風雲!たけし城

中学校の部活動は多くの人が経験する。それだけに個人の体験から語られがちな領域でもある。地獄のような日々の思い出しかない者もいれば、青春の美しい1ページ、いや青春そのものと捉えている人も少なくない。 評者自身は典型的な前者で「なんで土日も部活三昧なんだ」「別にプロになるわけではないし」と毎日の練習が苦痛でしかなかった。当時は周りを見渡しても、誰もが部活動に有無

不器用で一本気。昭和の日本映画界を支えた俳優、菅原文太の印象を聞かれたらこう答える人は多いのではないか。 1973年、菅原が39歳のときに1作目が公開された代表作『仁義なき戦い』シリーズでのアウトローでありながらも筋を通すヤクザ役や、広島弁で語りかけるCMでの頑固親父の印象が強い。 本書は菅原の生前の発言、俳優仲間や関係者の証言を積み上げ、「人間・菅原文太」

戦争にはお金がかかる。多くの燃料や弾薬が必要になるし、軍需補給にも人員や物資が大量に投入される。だが、国の一大事とはいえ、それらを湯水のように使えるわけではない。 軍隊も国の機関の1つだ。ほかの役所と同じで、予算がなければ動けない。では、戦前・戦中の日本では、いかに予算内で軍需品を調達していたのか。本書は日本陸軍の会計経理機能に着目し、軍におけるお金の流れを

「中世ヨーロッパ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。「疫病と飢饉」、「魔女狩り」、「異端審問」……。代表的なものを挙げたが、いずれにせよ、西ローマ帝国が滅んだ5世紀末からの約1000年間に明るく進歩的な印象を抱く人は少ないだろう。 だが著者は、そうしたネガティブなイメージはここ200年ほどの間に私たちに植え付けられた誤解だと説く。本書には、中世に関する11

日本の電機メーカーが半導体事業で世界を席巻した1980年代、蚊帳の外だったのがソニー(現ソニーグループ)だ。同社の半導体部門は、社内でも十数年前まで「お荷物」扱いだった。 それが今では、全社利益の約4分の1を稼ぎ出し、スマートフォンなどに使われる画像センサーでは世界シェアの約5割を握る。日本企業の半導体部門は事業縮小と撤退を重ね、世界の最前線から脱落したが、

寝る前に読む本、通勤時に読む本と状況に合わせて本を読み分けている人は少なくないだろう。私もそのひとりだが、意外に難しいのがトイレで読む本の選択だ。 トイレと聞いて馬鹿にしてはいけない。選書の難しさでは最高峰にある。トイレタイムには長短がある。拾い読みが可能で、間をあけても腐らないものでありながら、時には続けて読むに値する、そんな質の高さが求められる。真剣に選

大阪の中堅商社イトマンから数千億円ともいわれるバブルマネーが裏社会に流れ込んだ「イトマン事件」。2016年のベストセラー『住友銀行秘史』は、四半世紀を経てその内実を明らかにした。 イトマン事件をめぐり、バブル紳士の暗躍を描いた作品は少なくなかったが、同書は当事の経営幹部の姿を実名で詳述し、銀行組織の暗部に光を当てたため金融業界に衝撃が走った。著者で、当時住銀

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、世界の新型コロナによる死者数が170万人を超えたという(2020年12月22日時点)。最も多い米国では30万人を超え、1日の死者数が3000人以上の日もある。いまだ収束の気配は見えない。 医療現場は果たしてどのような状況にあるのか。本書は、米国で感染が爆発的に拡大する中、ボストンで救急現場に立ち続けた日本人医師の現地

元号が誰によって考案され、どのようにして決められるのかを知る人は多くない。「令和」の改元準備が約30年前の「平成」改元の頃からすでに始まっていたと聞けば驚くだろう。 本書の著者は、2011年から毎日新聞の政治部記者として7年半、元号取材に奔走した。最大の使命は、次の元号を他紙に先駆けてスクープすることだ。 とはいえ、元号取材は難しい。いつ元号が替わるかは想像

東京・新大久保といえば韓国のイメージが強い。韓流アイドルの関連グッズや化粧品を求めて客が押し寄せる光景はテレビでもおなじみだ。だが、コリアンタウンとしての顔は一面で、今や「東南アジアの下町」の様相が色濃くなっているというから驚く。本書では、新大久保に魅了され引っ越しまでしてしまった著者が、多国籍タウンの今を描いている。 階下から香辛料の匂いが立ち上り、民族調

「先が見えない時代には歴史を振り返れ」と、よく聞く。人間の本質は今も昔もそれほど変わらないからだろう。陳腐な言葉だが、歴史は繰り返す。 新型コロナウイルスを巡っては科学と政治・経済の対立が浮き彫りになった。感染拡大を徹底して抑えるべきか、経済を優先すべきか。コロナ対策と経済優先は二項対立なのか。議論は混迷した。 こうした中で、「今の政治が悪いんだ」と声高に叫

著者は編集者、ノンフィクション作家として多くの有名人を取材する中で、一つの仮説を立てるようになる。人の性格はスポーツ歴に影響を受けているのではないか。個人スポーツか集団スポーツか、そして、集団スポーツならばどのポジションを担ったか。本書では、多くの取材をもとに、マラソンに野球、サッカー、格闘技にラグビー、ゴルフ、水泳など、各競技の選手や経験者に共通する性格を

白いシャツにジーパン姿の約250人が室内で足を一斉に踏みならす。「ハイル、タノ」の大声とナチス式敬礼で指導者に忠誠を誓う。屋外に出れば、いちゃつくカップルを集団で取り囲み、「リア充、爆発しろ」と糾弾する。カップルを退散させた「田野帝国」の構成員は、拍手とともに目標達成を宣言する。 漫画のような光景だが、これは著者の田野大輔氏の授業の一コマだ。ファシズムを体験

プロ棋士への道は、険しい。かつて米長邦雄・永世棋聖が「兄たちは頭が悪いから東大に行った。私はよかったから棋士になった」と話したように、プロ棋士を目指す奨励会は日本有数の「頭脳集団」ともいわれる。だが、ひたすら将棋に打ち込むエリートたちの中でも、中学生にしてプロ入りした「天才」は長い歴史の中でわずか5人にすぎない。加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明、そして

運動でも始めようか、せめて食生活を変えようかと決意して何回目の春を迎えただろうか。実は、腹まわりがここ5年で10センチメートル増えた。かけ声だけは威勢がいいのだが、見た目が物語るように動きが重い。私のように、いま動かないでいつ動くんだ、と思いながらも動けない人に、本書は最適な一冊かもしれない。 50歳を過ぎたオジサンが、譜面の読み方も知らないところからピアノ

「昔よ、もう一度」とノスタルジーに浸っていては、革新は生まれない。過去よりも未来を知りたいという意見も、もっともだ。だが、1930年代生まれ、卒寿に近い方々に「思い出に浸るな」というのは酷だろう。むしろ、人生100年時代が現実になりつつある今、回顧に回顧を重ねる本書は「超高齢者による高齢者向けの書籍」という新たなジャンルを拓(ひら)く一冊になるかもしれない。

平成の終わりに、「子を持つ男子たる者、イクメンにあらずんば人にあらず」のような空気が一時流れたが、男性の育児休業の取得率は依然低調だ。厚生労働省の調べでは6%にとどまり、取得期間も5日未満が約6割を占める。「それでは有給休暇と変わらないのでは」という突っ込みはもっともだ。 とはいえ、世の父親は子を思っていないわけではない。時代が変わり始めたとはいえ、同調圧力

経団連(日本経済団体連合会)の1次集計では、大手企業に限れば冬のボーナスの平均額は過去最高なのだという。ほくほく顔の人もいれば、まったくピンと来ない人もいるだろう。不思議なことに、収入が少なくても貯める人は貯めているし、多くもらおうがカネがない人は常にない。それは会社員でも一芸に秀でた人でも同じであることが本書を読むとわかる。 作家の「お金」にまつわる約10

2019年のビジネス本で一番の奇書といっても過言ではないだろう。タイトルの長さに目を奪われるが、内容も語り口こそ熱いながら読み手のモチベーションは上がるどころか下がりかねない。「俺がラーメン屋を始める前にこの本を読んでいたら、絶対にラーメン屋だけはやらなかったよ!」と胸を張られても。失敗談から学び、起業を後押しするビジネス本は少なくないが、失敗から学んで起業

西洋近代における奴隷制の全体像を把握できる一冊だ。奴隷貿易の誕生から奴隷制廃止運動まで網羅しているが、本書の白眉は奴隷船にまつわる詳細なデータを提示することで、近代社会の実態を浮き彫りにしたところだろう。 奴隷船はその名のとおり、奴隷を運ぶ船であり、映画や小説で過酷な環境が描かれているように「移動する監獄」であった。 毎日16時間以上、鎖につながれ身動きでき

香港の中心街に立地するチョンキンマンション。安宿が密集するこの建物は、沢木耕太郎の『深夜特急』に登場したこともあり、今でも日本からの旅行客を引きつけている。 2016年に香港の大学に客員教授として所属した著者は、ひとりのタンザニア人、カラマと知り合う。彼は「チョンキンマンションのボス」と名乗った。 「ボス」の日常は怪しさに満ちあふれていた。毎日、昼ぐらいに起

1956年生まれの著者が思い入れのある雑誌や書籍の誕生秘話を探る旅だ。『冒険王』『少年画報』『平凡パンチ』から『古文研究法』『ノストラダムスの大予言』まで。緻密なマーケティングよりも、個人の熱意や勢いが世の中を動かしていた時代の出版物が並ぶ。 1942年に発売され、累計1700万部を超える「豆単」こと『英語基本単語熟語集』。編者で旺文社の創業者である赤尾好夫

タイトルにつられてクリックしたあなたは、きっと経験があるはずだ。気持ち悪くて起きられない。前の晩に二軒目、三軒目に行かなければ、いや、最後の一杯が余計だったか。そんなことを今更、寝床で悔いても問題は解決しない。 会社員は何もしなくても、会社にいることが重要と人生の諸先輩方が教えてくれたように、雨が降ろうが雪が降ろうが、はたまた槍が降ろうが会社を目指さなければ

交際8カ月で別れ話を切り出したら、スマートフォンの着信履歴が埋まり、LINEには恫喝のメッセージが届く。身の危険を感じ、警察に相談したら、交際相手は偽名で前科があることまで判明する。私が付き合っていたのは誰なのだろうか。もしかしたら凶悪犯なのか。これからどうなるのか──。 平成生まれの新たな犯罪の1つが「ストーカー」だ。昔からつきまといによる被害はあったもの

読者を選ぶ本だろう。タイトルからは内容を想像できず、目次を眺めたら困惑してしまうはずだ。第1章「どすこい貧乏、どすこいセックス─女力士はエイリアン」から始まり、この調子で第12章「ババア一擲─なにがわたしをこうさせたか」まで続く。あえて書評らしく紹介すれば、「アナキズム(無政府主義)を専門とする著者が現代の課題を先人の生き様と結びつけ、型にはまらない文体でそ

「爆買いから爆セックスへ」。手に取るのを敬遠してしまいそうな帯だが、先日、『八九六四』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した書き手の作品と聞けば買いの一手だ。とはいえ、「爆セックス」が受賞後第一作とは幸なのか不幸なのか。 「はじめに」で著者が指摘するように、カネや食のように人間の欲望を反映する営みで社会を読み解くのは非常に有効である。エロも然りである。いや、

よくわからない事象でも、響きの良い名前が付くと、人は考えるのをやめ、特定のイメージを信じこむことがある。説明が要らないような錯覚に陥ることもある。 労働や経済に関わる政策は理解するのが難しいだけに、なおさらだ。4月に関連法が施行される「働き方改革」はその一例ではないだろうか。 政府は「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」を訴える。「働く人が自由に働ける」も

73万人。日本に住む中国人の数だ。鳥取県、島根県の人口よりも多く、高知県とほぼ同数というから驚きだ。横浜市には全校児童の約4割が中国籍の公立小学校もある。 日常的にも中国人と接する機会は増えている。コンビニエンスストアや居酒屋の店員の多くは中国人だ。 日本の大企業が中国籍の大卒社員を積極的に採用し始めて久しい。繁華街でも店員と客の大半が中国人という料理店を目

徳間書店や幻冬舎にてエンターテインメント系小説でヒットを連発。今や大家となった浅田次郎に初めて単行本を書かせた男だ。帯には幻冬舎社長の見城徹が推薦文を寄せる。編集者の自伝となれば、熱い男を想像するだろうが、見事に期待を裏切ってくれる。 文芸の編集者と聞けば特殊な職業と思うかもしれないが、著者は営業マンと変わらないと語る。重要なのは志でなく部数。小説を作家と送

戦場は危機に満ちている。いつ敵の襲撃があるかわからない。やるかやられるか。だが、危機は敵だけではない。過酷な環境下、自らの体調を崩すこともある。大病に至らないまでも張り詰めた空気の中、兵士だって行軍中に戦闘中にお腹がいたくなることもある。一体、彼らはどのように内なる危機と向き合っていたのだろうか。 明治以降の日本の公衆衛生を丹念に調べた本書は、誰もがふと気に

2016年10月、東京・新橋の歓楽街の一角。資産家の女性の白骨遺体が発見された。自宅と隣家のせまい隙間に、うつぶせに倒れていた。これだけでも十分きな臭いが、驚くべきことに彼女の土地は何者かによって転売されていた。 地主になりすまして、不動産をだましとる「地面師」の存在は古くて新しい。戦後の混乱期やバブル期に暗躍し、アベノミクスで沸くここ数年、再びうごめき始め

最近、東京新宿のゴールデン街が外国人観光客に人気だ。狭小な建物が林立する飲み屋街は世界でも珍しいという。あのような安普請が立ち並んでいるのは、ゴールデン街がかつて非合法の売春地帯「青線」であったからだ。 色街の存在は街の活気の副産物であり、都市には濃淡はあっても、その痕跡が見え隠れする。スナックや小料理屋のような外観で売買春を行う「青線」の存在は都市の裾野の

ありふれた日常も描き方によっては人を惹きつけることを、本書に収められた22編は認識させてくれる。 主役の大半は市井の人々だ。風呂無しアパートにひとり住み、決まった時間に決まったことを日々こなす老人、公園のベンチに座っているタンクトップ姿の中年、新聞配達の男性。そこには大文字で語られるような出来事はなく映るが、一皮むけば我々が想像しないような苦悩も、喜びも転が

酷暑もお構いなしに開幕し、熱戦が繰り広げられる全国高校野球選手権大会。21日に決勝戦を迎える。今年は100回の記念大会ということもあり、開幕前から例年以上にメディアで特集が組まれ、書店には関連本が所狭しと並んだ。 本書もその一冊と言えるが、異色の存在だろう。著者はそもそもスポーツライターではない。色街や世界の辺境を取材してきた(前作は『ストリップの帝王』、9

「毒婦」と呼ばれる女性が世間を騒がすことはあるが、見るからに妖艶さを身に纏っていたり、いかにも男性がだまされたりするんだろうなという雰囲気を醸し出したりしている場合は意外に少ない。京都、大阪、兵庫3府県で起きた連続青酸死事件の犯人・筧千佐子(逮捕時67歳)も、どこにでもいそうな気さくなおばちゃん、どころか、おばあちゃんにしか見えない一人だろう。 事件は、20

日大アメフト部による悪質タックル問題がいまだに世間を騒がしている。監督からの直接的指示の有無があったかが最初の焦点だったが、世の中の関心は日大の広報対応や会見の司会者の素性、過去のアメフト部内での暴力問題にまで飛び火した。 もちろん、今回の問題は監督やコーチの属性による部分も少なくないだろう。だが、一方で全てを個人の問題として捉えてよいのか。日本の大学スポー

「巨人、大鵬、卵焼き」。1960年代、子どもに人気のあったものの代名詞だ。昭和の大横綱・大鵬が入っているあたりに時代を感じるが、恐ろしいのは大鵬が忘れ去られ、卵焼きに子どもが見向きもしなくなっても巨人は長い間人気を維持していたことだろう。 1980年代後半に小学生だった私は特定の球団のファンでなかった。百貨店で広島カープのユニフォームのデザインをしたパジャマ