ノンフィクションはこれを読め!

西野 智紀

1992年生まれ、長野県出身。大学卒業後、ぽつぽつ書いていたブログ「「活字耽溺者の書評集」」 をきっかけに仕事の話をいただき、以後書評家を名乗る。産経新聞、週刊読書人ほか、いくつかの媒体に寄稿。海外文学(ミステリ、サスペンス等)の紹介が中心だが、基本はフィクション、ノンフィクションを問わず濫読。好きなジャンルは、事件、ルポ、自然科学などの探求(探究)もの。

(2024年当時)

西野 智紀の記事

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43記事

『空想地図帳 架空のまちが描く世界のリアル』最高密度かつ圧倒的熱量の密室趣味 書影

教養・雑学 / 社会

『空想地図帳 架空のまちが描く世界のリアル』最高密度かつ圧倒的熱量の密室趣味

思い出話だが、評者は小学生のとき、空想の街を考えるのが好きだった。自由帳にRPGの地図ような架空世界を描いたり、家にあるレゴブロックやオモチャを並べて街に見立てたり。シムシティやシティーズスカイラインといった街づくりゲームにハマり、寝食も忘れてプレイした記憶もある。 そうした、実在しない街や地域を大人になっても地図に描き、追究し続ける人々がいる。それも、描き

『土偶を読むを読む』縄文研究の最前線を伝える、肝の据わったまたとない反論本 書影

社会 / 日本史

『土偶を読むを読む』縄文研究の最前線を伝える、肝の据わったまたとない反論本

今やあまりお目にかかれない書籍が出た。本書は、2021年4月に出版された竹倉史人『土偶を読む』(晶文社)への反論本である。それも、明確な事実と論拠に基づいて真っ向からメッタ斬りにする、恐ろしく肝の据わった一冊だ。 まず、当時の『土偶を読む』現象をおさらいしよう。同書は刊行直後からNHKを中心とする各メディアで注目を集め、SNSでも紹介記事や書評が大きくバズり

『欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア』あなたが何かを欲しいと思う気持ちは、本当にあなた自身の欲望なのか? 書影

社会 / ビジネス

『欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア』あなたが何かを欲しいと思う気持ちは、本当にあなた自身の欲望なのか?

タイトルも装幀も、いかにも自己啓発本といった趣向だが、読み始めるとまるで見当違いだったと気付かされる。本書の書き出しを引用しよう。 この本は人がなぜそれを欲するかについて書いたものだ。あなたが欲しいと思うものを、あなたはなぜ欲しいのか。 人間は欲望で動いている。年収1000万になりたい。タワーマンションで快適な暮らしをしたい。早めに結婚して平和な家庭をつくり

『霞が関の人になってみた 知られざる国家公務員の世界』「官僚」の魅力とシビアな現実をゆるーく語るエッセイ 書影

教養・雑学 / 社会

『霞が関の人になってみた 知られざる国家公務員の世界』「官僚」の魅力とシビアな現実をゆるーく語るエッセイ

国会中、大臣や議員の背後で控えている人々。どこか厳めしく無機質で、原稿を読むときもぼかしたような言い回しをする。「官僚主義」といったネガティブワードに代表されるように、彼ら官僚に好印象を持っている人は少ないと推測する。近年はツイッター等で霞が関の人たちによる暴露が耳目を集め、そのブラックな労働環境に同情されると同時に忌避感も強まっているのは否めない。 そんな

『テキヤの掟 祭りを担った文化、組織、慣習』「暴力団博士」が調査する、共同体を成し、落伍者でも受容する商売人たちの貴重な回顧録 書影

社会 / 民俗・風俗

『テキヤの掟 祭りを担った文化、組織、慣習』「暴力団博士」が調査する、共同体を成し、落伍者でも受容する商売人たちの貴重な回顧録

縁日やお祭りの日の思い出の風景といえば、寺社仏閣の境内・参道に立ち並ぶ露店である。焼きそば、お好み焼き、ベビーカステラ、チョコバナナ、等々。ちょっと強面のおじさんが調理してて近寄りがたいけど、周囲の喧噪に呑まれてつい買ってしまう。その後、風の噂で、あのおじさんヤクザらしいよと聞いて、幼心は震え上がる。 しかし、露天商――テキヤを暴力団と同一視するのは誤りであ

『傷つきやすいアメリカの大学生たち』「自分の気持ちの安全」が育む激しいキャンセル活動の根源を探る 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『傷つきやすいアメリカの大学生たち』「自分の気持ちの安全」が育む激しいキャンセル活動の根源を探る

昨今話題に欠かないテーマの本なので、まずは著者2人の紹介から始めよう。グレッグ・ルキアノフはアメリカの教育財団FIREの会長兼CEOで、進歩主義者(リベラル)。ジョナサン・ハイトはニューヨーク大学で社会心理学に精通する教授で、中道派。お互い共和党に票を投じたことはないが、保守派知識人の書物も多く読み学んできた、という。 その2人が問題提起するのは、2013年

『人生はそれでも続く』22人の「時の人」のその後を追う調査報道 書影

社会 / 事件・事故

『人生はそれでも続く』22人の「時の人」のその後を追う調査報道

我々は連日のニュースの多くを娯楽として消費している。事件・事故・災害に憂い悲しみ、スポーツ選手の活躍に喜び、可愛らしい動物の映像に癒やされ、職場や飲み会、SNSにて好き勝手に意見感想を述べる。そして時が経つにつれてあっさり忘れられ、次の話題に移っていく。 しかし、当然ながらどのようなニュースにも当事者がおり、彼らの人生もまた同じように続いている。 あれから、

『キツネ潰し 誰も覚えていない、奇妙で残酷で間抜けなスポーツ』動物虐待とトライアル&エラーの娯楽史 書影

教養・雑学 / アート・スポーツ

『キツネ潰し 誰も覚えていない、奇妙で残酷で間抜けなスポーツ』動物虐待とトライアル&エラーの娯楽史

競技場に、細長い布の両端を持った男女のペアが十数組立っている。合図とともに、会場にキツネが放たれる。怯えたキツネは競技場を走り回り、やがて布を踏む。その瞬間、男女は力を合わせて布を引っ張り、キツネを宙に飛ばす。繰り返し空に投げられるキツネたちは当然のごとく怪我をしていくが、誰も手当などしない。そして競技が終了に近づくと、参加者は弱ったキツネを憐れみながら撲殺

『大人のいじめ』それはリベラル競争社会の裏の顔 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『大人のいじめ』それはリベラル競争社会の裏の顔

激辛カレーを無理矢理食べさせる。校内の物置小屋に閉じ込める。プール清掃時に石を投げつけたり泥水をかけたりする。殴る、蹴るは日常茶飯事……。2019年、神戸市立東須磨小学校で起きていたいじめの一部だ。子供同士ではない。教員のあいだで発生した大人のいじめである。記憶に新しい方も多いのではないか。 この不祥事の紹介を皮切りに、増加の一途をたどる職場いじめのメカニズ

『探偵はここにいる』解き明かされる探偵たちの実像、妖しい不倫現場、そして社会の闇の断片 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『探偵はここにいる』解き明かされる探偵たちの実像、妖しい不倫現場、そして社会の闇の断片

探偵の人生にじっくり焦点を当てた本をずっと読みたいと思っていた。フィクションではなくノンフィクションでだ。結論を先に書いてしまうと、大満足の読書となった。 詳説していこう。本書は、表舞台ではまずお目にかかることのないリアルの探偵9名(と依頼者1名)にインタビューを行い、彼らの仕事内容と複雑な半生を解き明かしたルポルタージュである。著者はフリーランスの編集者で

『罪を償うということ 自ら獄死を選んだ無期懲役囚の覚悟』無反省は凶悪犯への第一歩 書影

社会 / 事件・事故

『罪を償うということ 自ら獄死を選んだ無期懲役囚の覚悟』無反省は凶悪犯への第一歩

帯にある身も蓋もない惹句のとおり、本書は刑務所に服役する凶悪犯の大多数が自らの犯した罪について何ら反省していないと指摘する一冊である。 著者は、2件の殺人によって無期懲役判決を受け、すでに四半世紀以上服役中の人物。刑期が10年以上で犯罪傾向の進んでいる受刑者を対象とする「LB級刑務所」で日々を過ごす。たいへんな読書家で、支援者を通じて自身の読書遍歴や死刑存廃

『潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景』宮城の海に潜り続けた男の濃密な半生を描く評伝 書影

人物 / 事件・事故

『潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景』宮城の海に潜り続けた男の濃密な半生を描く評伝

その人にしか語り得ない境地というものがある。人生は十人十色だが、特殊な技能が必要で、なおかつ特異な環境に我が身を起き続けた人の軌跡はとりわけ面白い。 本書は、若くして潜水の才能を発揮し、宮城の海から無数の遺体を引き上げてきた男・吉田浩文の激動の半生を綴る克明の記録である。 初めての遺体引き上げは1996年。死者は交番勤務の男性警察官で、車ごと海中に突っ込む入

『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露本 書影

社会 / ビジネス

『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露本

この本をここで紹介していいものか迷ったが、著者の真摯な姿勢に心を動かされたので、おもねらずにレビューしてみたい。 本書は、ベストセラー『7つの習慣 最優先事項』の訳で一躍売れっ子翻訳家になった著者が、出版社との様々なトラブルを経て業界に背を向けるまでの顛末を綴った、げに恐ろしきドキュメントだ。 驚くことに、名前こそ伏せてあるが、理不尽な目に遭わされた出版社の

『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない

この著者の本を読むのは初めてではない。なので、怖さはある程度予測できた。それでも、幾度となく背筋が凍る思いがした。この本で語られている現実は、人生の選択において誰もが避けたいと考える結末である。社会からの孤立。家族と無縁で、友達はゼロ。そして、誰にも気づかれることなく、自室でもがき苦しみながら溶けていく孤独死。 本書は、 前著『超孤独死社会』 に引き続いて、

『南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊』逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて 書影

サイエンス / 生物・自然

『南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊』逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて

南極大陸。平均標高は2020メートルと高く、95パーセント以上が雪と氷に覆われた大地。内陸に行けば行くほど気温が低くなり、常時マイナス30℃を下回る。冬場には驚異のマイナス80℃を記録することもある。 そんな南極大陸内陸部、人間がいなければどんな生物もいない場所で、風すら吹かない時は、あまりの静寂ゆえに、己の心臓の脈打つ音や、血管を血が流れる音が聞こえてくる

『ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち』大志を抱かない生き方は許容されるか? 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち』大志を抱かない生き方は許容されるか?

本書は、大人たちの「夢を持て」「大志を抱け」という温かなアドバイスが数多の若者たちを苦しめている事実を剔出する一冊である。なんだそりゃ、軟弱すぎる、大袈裟だ、そんなわけない……などと憤る方は多いだろう。だが、大学の事務職員として学生のキャリア支援と講演活動を精力的に行ってきた著者は、一万人以上の若者の生の声を聞き、もはや看過できない域に達していると痛感する。

『まどわされない思考 非論理的な社会を批判的思考で生き抜くために』陰謀論や疑似科学のあやしげな論理を見抜く 書影

サイエンス / 社会

『まどわされない思考 非論理的な社会を批判的思考で生き抜くために』陰謀論や疑似科学のあやしげな論理を見抜く

著者の紹介から始めたい。デヴィッド・ロバート・グライムスは1985年アイルランド生まれの物理学者・ガン研究者で、BBCとアイルランド放送協会でコメンテーターとして活躍する傍ら、ガーディアン紙やアイリッシュ・タイムズ等で記事を執筆する科学ジャーナリストでもある。世論を正しい方向に導いた功績として2014年にジョン・マドックス賞を受賞した経歴も持つ、まさしく気鋭

『夢の正体 夜の旅を科学する』今こそ、夢を楽しむべき時 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

『夢の正体 夜の旅を科学する』今こそ、夢を楽しむべき時

まさかなるべく家に引きこもってろと叫ばれる時代が到来するとは思わなかった。評者はどちらかと言えばインドア人間なのでそこまで苦ではないが、あちこち出かけて買い物したり映画を観たり飲み歩いたりするのが楽しみな人にとってはつらい日々だと想像する。このうえ毎日暗いニュースばかり流れてくるし、世界も日本も自分の生活もどう変容していくかわからないし、気が滅入る一方である

『探偵の現場』依頼の77%は不倫調査! 奇々怪々な日本の不倫現場ノンフィクション 書影

教養・雑学 / 社会

『探偵の現場』依頼の77%は不倫調査! 奇々怪々な日本の不倫現場ノンフィクション

探偵と聞くと、即座にユニークな名探偵たちの姿が思い浮かぶ。明晰な頭脳と驚異の観察眼を持ち、ヘビースモーカーで薬物中毒でもある世界一有名なあの顧問探偵。同じく英国発で灰色の脳細胞が自慢の小男。日本発ならボサボサの蓬髪に形の崩れた帽子を被りよれよれの着物を着た清潔感のない中年男、等々。 だが、悲しいことに彼らは架空の人物だ。実際のところ、街角で探偵社のポスターや

『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』人生がどうしようもないほど暗くむなしいときに悲観を楽しむ方法論 書影

人物 / 社会

『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』人生がどうしようもないほど暗くむなしいときに悲観を楽しむ方法論

告白しよう。評者はずっと、なるべく他人と関わりたくないと祈りながら生きてきた。楽しいことも悲しいことも何も経験したいと思わない。誰かと揉めたり争ったりするなどもってのほかだ。人生の糧になる? 知るか。全部ストレスだ。願いは一つ、社会的接点を一切放棄して、永遠に寝床で布団にくるまっていたい……。 こんな暗い感情を披瀝したところで会話が盛り上がるはずがなく、賛同

『毒薬の手帖』それはダーティな1920年代アメリカで躍動する鉄人毒物学者二人の泥臭く革新的な功績 書影

サイエンス / 事件・事故

『毒薬の手帖』それはダーティな1920年代アメリカで躍動する鉄人毒物学者二人の泥臭く革新的な功績

たまらなく渋くてカッコいい主人公の紹介から始めたい。表紙の写真左、試験管を持つちょっと神経質そうな男が化学者アレグザンダー・ゲトラー、その隣にいる大柄のヤギひげおじさんが病理学者でありニューヨーク市監察医務局長も務めるチャールズ・ノリスだ。本書『毒薬の手帖』は、現代科学捜査の基礎を築いたこの毒物学者二人が力を合わせて人間の暗い欲望が充溢する1920年代アメリ

『宇宙から帰ってきた日本人』あの名著から36年、宇宙は近くなりにけり 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

『宇宙から帰ってきた日本人』あの名著から36年、宇宙は近くなりにけり

1983年、知的欲求旺盛なあるジャーナリストが一冊の本を上梓した。それは、米ソが宇宙開発戦争に明け暮れていた時代、母なる地球を離れ、宇宙へと向かった飛行士たちの精神的変化に着目し、幅広い知識をベースに、インタビューイを搾り尽くさんばかりに貪欲な取材を重ねまとめ上げたノンフィクション――立花隆『宇宙からの帰還』である。 人類は今の地上の支配者だ……と書いても過

『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』難問と相対する白熱の全記録 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』難問と相対する白熱の全記録

今年1月14日、ツイッターである話題がトレンドを席巻した。「#古典は本当に必要なのか」というハッシュタグに連なる論争である。震源は明星大学人文学部日本文学科が主催した同名シンポジウムだ。 この催しの趣旨は以下のとおりだ。2015年の文系学部廃止報道以降、日本の古典文学研究・教育は縮小の一途をたどっている。この危機に対して、古典(本書では主に古文・漢文を指す)

『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』膨大な弱いつながりを見つめ直し人間らしく生きる哲学 書影

社会 / ビジネス

『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』膨大な弱いつながりを見つめ直し人間らしく生きる哲学

我々はSNSやソーシャルゲームに備わる巧妙で強い依存性のある仕掛けに心を絡め取られている――というのは、 評者が先月レビューしたアダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない』(ダイヤモンド社) の主張である。記事への反応を見るに、こうしたテクノロジーの利用法にモヤモヤしている方は大勢いるんだなあ……と思わずにはいられなかった。 さて本書『デジタル・ミニマリスト

『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』誘惑に勝てないのは意志が弱いせいじゃない 書影

社会 / ビジネス

『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』誘惑に勝てないのは意志が弱いせいじゃない

スティーブ・ジョブズは自分の子供たちにiPadを使わせていなかった――彼はその影響力をもって世界中に自社のテクノロジーを広める一方で、プライベートでは極端なほどテクノロジーを避ける生活をしていた。デジタルデバイスの危険性を知っていたから。彼だけでなく、IT業界の大物の多くが似たようなルールを守っている。まるで自分の商売道具でハイにならぬよう立ち回る薬物売人み

暗い好奇心を満たす豪華絢爛の著『犯罪学大図鑑』 書影

事件・事故 / 世界史

暗い好奇心を満たす豪華絢爛の著『犯罪学大図鑑』

つらい話は聞きたくない。陰惨なニュースなどもっと見たくない。気持ちが沈んでしまうから。しかしながらその一方で、我々はついついネガティヴな情報に耳をそばだてたり、詳報を集めたりしてしまう。つまるところ悲観とは、自分と関係がない事象であれば、中毒性のある一種の娯楽なのかもしれない。 そんな中でも、ひときわ暗い好奇心を呼び覚ましてくれるのが、凶悪犯罪だ。事件のあら

忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』 書影

日本史 / 小説

忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』

もうタイトルからして「なんじゃこりゃ」だが、読み終わっても「なんじゃこりゃ」である。でも面白いんだから書評するより仕方ない。本書(通称・まいボコ)を一言で説明するならば、明治時代、夏目漱石や森鴎外といった純文学作家の作品よりも人気を博した忘れ去られしエンタメ作品(著者は「明治娯楽物語」と呼ぶ)が多数存在し、それらをツッコミ入れつつざっくばらんに紹介しまくる本

『ネコ・かわいい殺し屋 生態系への影響を科学する』野良ネコへの愛情はリスクを孕む 書影

生物・自然 / おすすめ本レビュー

『ネコ・かわいい殺し屋 生態系への影響を科学する』野良ネコへの愛情はリスクを孕む

本書を読む少し前、環境省による奄美大島のノネコ(野生化したネコ)への対策が議論を呼んでいるとのニュース記事を読んだ。ノネコが国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギなどを捕食するため、昨年夏から捕獲が始まり、引き取り手が見つからなければ殺処分される。そのために動物愛護団体との対立が深まっているというものだ。野良とはいえ、あんな気ままでのんびり屋のネコがそこ

『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』つらく、悲しく、身近に迫る死 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』つらく、悲しく、身近に迫る死

読み進めるのが苦しい一冊だった。登場する人々が長く抱えてきた生きづらさが、とても他人事に思えなかったからだ。壮絶な「現場」の描写も相まって、一読するだけでも相当な根気がいる本であることは、あらかじめ断っておきたい。 本書は日本の社会問題の一つである孤独死の現状と特殊清掃の現場、そして亡くなった人々と特殊清掃人たちの人生を綿密な取材によって浮き彫りにした迫真の

『9つの脳の不思議な物語』脳が脳自身を理解できた日はきっと最高にロマンティック 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

『9つの脳の不思議な物語』脳が脳自身を理解できた日はきっと最高にロマンティック

変だと思われるかもしれないが、評者は自分の人生より他人の人生に興味がある。自分の中では考えもしなかった生き方や着眼点、思考法を知ることにえもいわれぬスリルを感じるのである。読書が好きなのもそういう理由だ。 本書の著者も、人々の人生にずっと関心を持ってきた。その好奇心が高じて、イギリスのブリストル大学では脳の研究に没頭し、神経学の学位を取得。卒業後は科学雑誌で

『ぼくと数学の旅に出よう 真理を追い求めた1万年の物語』「数」に秘められた歴史と驚異、そして情熱 書影

サイエンス / 世界史

『ぼくと数学の旅に出よう 真理を追い求めた1万年の物語』「数」に秘められた歴史と驚異、そして情熱

告白するが、筆者は数学が嫌いだ。大がつくほどに。中学時代は試験で平均点付近と、なんとかついて行けていたが、高校入学以後は赤点・追試続き。もううんざりだと、大学の進路ははやばやと私立文系で気持ちをかため、授業選択が可能となると数学・化学・物理は一切取らず、尻尾を巻いて逃げてしまった。そのコンプレックスと敗北感を引きずってか、今でも数式を見るとなにやら怖気立って

『辞書編集、三十七年』ことばを編むとき、人間模様が見えてくる 書影

人物 / 社会

『辞書編集、三十七年』ことばを編むとき、人間模様が見えてくる

本書の帯に、心惹かれるこんな一文がある。 辞書編集とは“刑罰”である。 これは、『日本国語大辞典(日国)』の第二版編集作業中の1999年11月、小学館辞書編集部にふらりと現れた作家の井上ひさしさんが言い残していった話だ。真偽は不明だが、なんでも、19世紀のイギリスでは辞書編集が重い刑罰だったそうである。辞書編集は、語彙採集・用例採集、ゲラ(校正刷り)のチェッ

『「日本の伝統」という幻想』時代の変わり目を前にして 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『「日本の伝統」という幻想』時代の変わり目を前にして

平成の終わりが近づいている。といっても、元号が変わるだけで、生活にドラスティックな変化が訪れるわけではない。が、それでも、平成の世、もっと言えば日本がたどってきた道のりに思いを馳せてしまう人は多いのではないか。受け継がれてきた行事や慣習も一つの節目だ。どんな時代が来ようと大切に守っていかねばならない、でも中にはなんかモヤモヤするものもある――もしかしたら、今

『東西ベルリン動物園大戦争』きわめて人間くさい動物園の物語 書影

世界史 / おすすめ本レビュー

『東西ベルリン動物園大戦争』きわめて人間くさい動物園の物語

動物園業界には、「動物園人」という言葉があるらしい。動物や動物園のことを心から愛し、常に探究心と誇りを持って一生懸命動物園のために取り組む人のことを指し、時として人よりも動物相手のほうがうまくやっていける人間でもある。 本書はこの動物園人たちを主人公とする骨太ノンフィクションだ。舞台は東西に分断されていた時代のドイツ・ベルリン。この都市には、壁を挟んで、二つ

『進歩 人類の未来が明るい10の理由』悲観に入れ込みすぎないように 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『進歩 人類の未来が明るい10の理由』悲観に入れ込みすぎないように

ニュース番組を見て憂鬱になる。新聞やインターネットの記事を読んでげんなりする。暗い内容ばかりだからだ。シリア情勢、温暖化、テロに凶悪犯罪、不況、所得格差、貧困、差別、少子化・高齢化、災害。マスメディアは脅威を報道するのが基本だし、これらすべて顕在化している問題であるとはいえ、連日こうしたニュースを見ていると、そんなにメンタルの強くない筆者などはすぐ気が滅入っ

『「日本の伝統」の正体』著者インタビュー 書影

日本史 / 著者インタビュー

『「日本の伝統」の正体』著者インタビュー

去る1月中旬、こんなメールが筆者のもとに届いた。「追加取材をしませんか」 柏書房の編集部からのものだった。文面によれば、筆者が年初にHONZで書いた 『「日本の伝統」の正体』(藤井青銅/柏書房)のレビュー を皮切りに、正月中にAmazonは在庫切れ、紀伊国屋新宿本店では完売、記事を見た他書店からも追加注文がぞくぞくと入ってきている……という状態だったそうだ。

『「日本の伝統」の正体』言葉の魔力に振り回されないために 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

『「日本の伝統」の正体』言葉の魔力に振り回されないために

周りのみんながやっているから、乗り遅れないように私もやる――誰しも一度はこうした経験をしたことがあるのではないか。仲間外れは怖いものだ。多少ヘンな流行であっても、ついつい乗ってしまうのが人間の性である。 だが、そうして広まったブームも、時間が経つにつれて一つの風習・行事として根付く場合がある。「伝統」だなんて言葉がついていれば、説得力倍増だ。「古くから伝わる

『どうしても欲しい! 美術品蒐集家たちの執念とあやまちに関する研究』理想の自分に近づきたくて 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

『どうしても欲しい! 美術品蒐集家たちの執念とあやまちに関する研究』理想の自分に近づきたくて

世の中にはコレクターと呼ばれる人たちがいる。特定の事物を徹底的に蒐集する人々のことだ。切手や古いコイン、宝石といった貴重品から、食玩フィギュアのような玩具、映画の半券、果ては牛乳瓶のフタやら変な形の小石やら、ありとあらゆるジャンルに彼らは存在する。 そうした蒐集の中で、おそらく最も長い由緒を持つのが、古美術品蒐集だ。本書は、古美術品の私的コレクションを築き上

『森の探偵 無人カメラがとらえた日本の自然』人間社会に急接近する動物たち 書影

生物・自然 / おすすめ本レビュー

『森の探偵 無人カメラがとらえた日本の自然』人間社会に急接近する動物たち

長野県南部、中央アルプスと南アルプスに挟まれた伊那谷。この地を拠点に、半世紀にわたって活動してきた写真家がいる。本書の著者、宮崎学である。1947年、長野県の中川村に生まれた彼は、精密機械会社に勤めた後、72年に写真家として独立し、「自然界の報道写真家」として現在も日本中の自然を観察している。 宮崎さんの写真の特徴は、何といっても「無人カメラ」を用いている点

『科学捜査ケースファイル 難事件はいかにして解決されたか』凶悪犯罪と法科学の歴史200年 書影

事件・事故 / おすすめ本レビュー

『科学捜査ケースファイル 難事件はいかにして解決されたか』凶悪犯罪と法科学の歴史200年

科学捜査は、多くのミステリードラマや推理小説の題材として扱われてきた。代表的なのは、アメリカ発のテレビドラマ『CSI:科学捜査班』や『BONES─骨は語る─』シリーズだ。日本でも『科捜研の女』が安定した人気を誇っている。推理小説は枚挙に暇がないが、アーサー・コナン・ドイルが1887年に発表した探偵シャーロック・ホームズ初登場作『緋色の研究』で、ホームズが行う