ノンフィクションはこれを読め!

東 えりか

HONZ副代表

書評家。千葉県生まれ。信州大学農学部卒。幼い頃から本が友だちで、片っ端から読み漁っていた。動物用医療器具関連会社の開発部に勤務の後1985年より小説家・北方謙三氏の秘書を務める。
2008年に書評家として独立。「週刊新潮」と「ミステリーマガジン」などでノンフィクションの書評担当のほか、「信濃毎日新聞」の書評委員。現在は小説の書評の仕事と半々。「NEWS本の雑誌」の記者でもある。好んで読むのは科学もの、歴史、古典芸能、冒険譚など。

(2024年当時)

東 えりかの記事

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466記事

『印税稼いで三十年』キャリア30年、著書40冊!職業作家のサバイバル営業方法 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

『印税稼いで三十年』キャリア30年、著書40冊!職業作家のサバイバル営業方法

私が小説家の秘書として雇われて出版業界に入ってから35年になる。その間、あっという間に超売れっ子になった人、長い下積みのあとブレークした人、新人賞受賞作だけ注目された一発屋などいろいろな小説家を端から見てきた。 小説家という仕事は書いた物語が商品になると認められて初めて金になる。“食えない” “食うのがやっと” “稼げる”という三種類の小説家がいて、“稼げる

『ヒロシマを暴いた男 米国人ジャーナリスト、国家権力への挑戦』《世紀のスクープ》マッカーサーが隠した被爆者の真実 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『ヒロシマを暴いた男 米国人ジャーナリスト、国家権力への挑戦』《世紀のスクープ》マッカーサーが隠した被爆者の真実

1945年8月6日午前8時15分、世界で初めて、広島に原子爆弾が落とされた。三日後、今度は長崎が標的となった。日本は世界で唯一、核兵器で攻撃を受けた国となった。 本書はキノコ雲の下で生き残った生存者の生の声を初めて報道した『HIROSHIMA』の著者ジョン・ハーシーと記事を掲載した〈ニューヨーカー〉誌編集部が、原爆の被害を隠蔽しようとするアメリカ政府と東京の

「こころ」の深層に触れる3冊 『なりすまし』『誰がために医師はいる』『ネオ・ヒューマン』 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

「こころ」の深層に触れる3冊 『なりすまし』『誰がために医師はいる』『ネオ・ヒューマン』

情報の洪水の現在、私たちにとって何が正解でどれが間違いなのか。特に目に見えない「こころ」の問題はなおさらだ。 例えば1973年1月に『サイエンス』誌に掲載された米の心理学者デヴィッド・ローゼンハンの「狂気の場所で正気でいること」という現在でも版を重ね引用されている研究について。 これは実験者に偽の幻聴を訴えさせ精神病院に送り込み、統合失調症と診断させた実験で

『あなたの名はマリア・シュナイダー 「悲劇の女優」の素顔』親族の目線で綴る、一人の女優の生涯 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『あなたの名はマリア・シュナイダー 「悲劇の女優」の素顔』親族の目線で綴る、一人の女優の生涯

映画 「ラストタンゴ・イン・パリ」 が公開当時、私は中学生だった。映画に対する興味が湧き、一人で観に行くことが許された時期でもある。性に対しても敏感だったから、この映画のスキャンダラスな評判はよく覚えている。 中年男性と若い女性が大胆なセックスを繰り返すイタリア映画で、監督はベルナルド・ベルトルッチ。主役の中年男はマーロン・ブランドで女性を演じたのが『あなた

『きみが死んだあとで』羽田闘争で亡くなった京大生を悼む14人へのインタビュー 書影

人物 / 社会

『きみが死んだあとで』羽田闘争で亡くなった京大生を悼む14人へのインタビュー

1967年10月8日、ベトナム戦争反対を叫び佐藤栄作総理の南ベトナム訪問を阻止せんとする全学連と機動隊とが羽田・弁天橋で激突した。 当時18歳の京都大学一年生、山﨑博昭さんがこの争いの中で命を落とす。死因は学生たちが奪った装甲車に轢かれたとも、機動隊に殴られたからとも言われている。 全共闘世代の一まわり下「しらけ世代」である代島治彦監督はこの闘争をめぐって山

『ゼロエフ』東日本大震災の福島を踏破した小説家の思いを聞け! 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『ゼロエフ』東日本大震災の福島を踏破した小説家の思いを聞け!

小説家・古川日出男は福島のシイタケ生産農家に生まれた。三人兄弟の末っ子で、兄と姉がいる。18歳で故郷を離れ家業は兄が継いだ。そして2011年3月11日、東日本大震災が彼の故郷を襲う。 冒頭は2019年12月に行われた母親の納骨風景だ。その直前、施設で寝たきりだった母の胃瘻をやめることを兄弟で決めたときに、躊躇っていた震災後の取材を兄に初めて申し出る。 第一部

『天才IT相オードリー・タンの母に聴く、子どもを伸ばす接し方』日本の教育現場がかかえる問題を解決する糸口になるか? 書影

教養・雑学 / 社会

『天才IT相オードリー・タンの母に聴く、子どもを伸ばす接し方』日本の教育現場がかかえる問題を解決する糸口になるか?

新型コロナウィルス感染爆発の初期、台湾はIQ180の頭脳を持つデジタル担当相オードリー・タンによる的確な対策でパニックを免れた。昨年出版された評伝『Auオードリー・タン』(文藝春秋)では彼女の生い立ちから家族や仲間への思い、未来への展望などが詳述されている。 そのなかで、彼女の原点が、いじめにあった台湾の小学校を離れドイツで教育を受けたことだと知った。 オー

『「役に立たない」研究の未来』それを決めるのはいったい誰? 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

『「役に立たない」研究の未来』それを決めるのはいったい誰?

自分の研究を「何の役に立つか」と質問されたら科学者は明確に答えられるだろうか。「おもしろいから研究しているのだ」と堂々と言える人は少ないだろう。日常生活で研究者を直接知る機会は少なく、研究は象牙の塔の中だけで行われていると思われている。 それではいけないと本書の編者・柴藤亮介は考えた。彼は学術系クラウドファンディングサイト 「academist」 を立ち上げ

『沙林 偽りの王国』オウム事件を描いたノンフィクションノベル 書影

事件・事故 / 小説

『沙林 偽りの王国』オウム事件を描いたノンフィクションノベル

1995年3月20日の朝、あちこちの地下鉄で一斉に事件が起こり大混乱となった。後の「地下鉄サリン事件」といわれた前代未聞の毒ガス散布テロだ。 この事件以前からきな臭かった「オウム真理教」関係事件が、ここから一気に噴出する。教団関係者の連日のテレビ出演、識者のコメント、山梨県上九一色村(当時)からの中継、カナリアを先頭にした強制捜査、信者たちの逮捕、麻原彰晃の

『警視庁科学捜査官』平成から令和に渡る捜査現場のリアル 書影

社会 / 事件・事故

『警視庁科学捜査官』平成から令和に渡る捜査現場のリアル

著者はドラマなどでお馴染みの桜田門にある警視庁科学捜査研究所(科捜研)の係長時代、地下鉄サリン事件の緊急鑑定に携わることになる。鑑定資料として車輛床面を拭き取ったものを持ち込んだ捜査員が皆「暗い」と言い、目に縮瞳が起こっていることから有機リン酸系の毒物であると判断。ガスクロマトグラフ質量分析装置によって「サリン」が検出された。 その前年、松本で起こったサリン

『ダチョウはアホだが役に立つ』ダチョウ博士はお金儲けが上手! 書影

生物・自然 / おすすめ本レビュー

『ダチョウはアホだが役に立つ』ダチョウ博士はお金儲けが上手!

新型コロナウイルスの流行で世界中が注目し、日本の底力を見せた商品が「マスク」だ。一年前、自分と他人の感染予防に、日本人の多くは当たり前にマスクをつけた。そのため品薄になり買いだめが起こったのは記憶に新しい。 そのマスクの一種に、ダチョウの並外れた免疫力によって生成された抗体を処方した製品がある。医療関係者を始めアメリカ陸軍などでも利用されているこのマスクは、

『奴は・・・』写真で辿る小説家・北方謙三の40年 書影

アート・スポーツ / 人物

『奴は・・・』写真で辿る小説家・北方謙三の40年

今では中国ものの歴史小説家というイメージが強い北方謙三。だがデビューは大学時代に書いた純文学で、その後鳴かず飛ばず。十年余りボツ原稿を積み上げ腕を磨いた結果、エンターテインメントに転向、ハードボイルド作家として再デビューした。折からの冒険小説ブームにも助けられ次々と新刊を上梓。一時は年間に12冊の単行本を出し「月刊キタカタ」と呼ばれた時もあった。 それから4

『世界を敵に回しても、命のために闘う』『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』『新型コロナウイルス ナースたちの現場レポート』コロナ最前線 命を救う闘い 書影

医学・心理学 / 社会

『世界を敵に回しても、命のために闘う』『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』『新型コロナウイルス ナースたちの現場レポート』コロナ最前線 命を救う闘い

新型コロナウィルス感染症のパンデミックから1年以上が経過した。窮屈な生活にも慣れてきたが、流行初期の恐怖にかられた混乱の経験は多くの教訓と知恵を残している。 『世界を敵に回しても、命のために闘う』の副題は「ダイヤモンド・プリンセス号の真実」。大型クルーズ船内で起きた集団感染は日本が最初にコロナの危機に直面した事件だった。 多くの人は神戸大教授で感染症専門医の

『全員悪人』認知症は、大好きな人を攻撃してしまう病。 書影

医学・心理学 / 社会

『全員悪人』認知症は、大好きな人を攻撃してしまう病。

昨年秋から、姑の介護生活がにわかに始まった。 89歳で乳癌発覚!それだけでも驚くのに、特殊な癌なのですぐに全摘出をせよ、とのこと。衰えたりとはいえ、頭も身体も元気で病気のなかった母にとっては青天の霹靂だ。神戸で一人住まいなので、毎週の検査に付き添うため、遠距離を通うことになった。 そんな日々が続くうち、少しずつ母の言動がおかしくなってきた。そして手術後、想像

『世界のおすもうさん』エッセイとイラストで楽しむ相撲ルポルタージュ 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

『世界のおすもうさん』エッセイとイラストで楽しむ相撲ルポルタージュ

2021年の大相撲三月場所は関脇・照ノ富士の優勝で幕を閉じた。この一年、無観客開催や感染力士の休場など、新型コロナ禍で大相撲は大きな試練にさらされてきた。 だがファンは健在だ。おすもうさんへの愛と行動力は半端ない。「スー女」(相撲好き女子をこう呼ぶ)で名高いライター和田靜香さんとイラストレーター&文筆家の金井真紀さんが意気投合し、多種多様の相撲を国内ばかりか

『永訣 あの日のわたしへ手紙をつづる』 3月11日の自分に書く手紙 そこには希望が綴られている 書影

社会 / 民俗・風俗

『永訣 あの日のわたしへ手紙をつづる』 3月11日の自分に書く手紙 そこには希望が綴られている

東日本大震災から10年。10歳から20歳になるのと50歳から60歳になるのとでは体感時間の長さや意味が違うかもしれないが、それでも誰もが等しく10歳歳を取った。 「あの日のわたしへ手紙をつづる」と副題が付された本書は、SFやファンタジー小説のようなタイムワープができたら、という設定がなされている。あの大地震と原発事故の被災者であり、年齢も性別も違う31人が、

『存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』“女性は虐げられている”は勘違いじゃない! 書影

サイエンス / 社会

『存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』“女性は虐げられている”は勘違いじゃない!

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言、その後の辞任会見を見て、私は少し驚くほど怒りを感じていた。それと同時に、このような世の中を放置してきてしまった自分自身にも腹を立てていた。多分、同じように思った女性は多かっただろう。森元会長が実例として挙げられた日本ラグビー協会で、女性で初めて理事を務めた稲沢裕子・昭和女子大特命教授が 朝日新聞の

『「色のふしぎ」と不思議な社会 2020年代の「色覚」原論』最先端科学で探る、「色」の世界 書影

サイエンス / 医学・心理学

『「色のふしぎ」と不思議な社会 2020年代の「色覚」原論』最先端科学で探る、「色」の世界

はるか遠い記憶がある。 春うららかな小学校の教室で健康診断が行われている。順番に並んで身長、体重、座高などを測定し、最後に視力検査。さらにそのあと、変な絵を見せられた。 オレンジと緑で書き分けられた数字を読み取るという簡単なテストだ。それが分からない人がいるんだって、と帰宅してから親に言うと「色が分からない色盲っていう人がいるんだよ」と教えられた。同時に、決

2021年初のHONZ朝会、ZOOMにて開催しました。(その2) 書影

今月読む本

2021年初のHONZ朝会、ZOOMにて開催しました。(その2)

HONZ朝会の続きです。 ZOOMでの会合は意外とみんな自由です。声をミュートして本を読んだり、お茶を飲んだり、何か食べたり。しばらく写真が貼り付けてあるので「どうしたの?」と尋ねたら「お風呂入ってました!」にはちょっと驚きましたけど。 21人の紹介がぴったり2時間で終わるくらい、みんな話がうまくなっています。話に釣られて思わずポチするメンバーも多いみたい。

2021年初のHONZ朝会、ZOOMにて開催しました。(その1) 書影

今月読む本

2021年初のHONZ朝会、ZOOMにて開催しました。(その1)

巣ごもり生活も約1年になり、ZOOMで行われるHONZ朝会も第2回になります。出席者は21人と今回もなかなかの盛況でした。久しぶりに代表の成毛眞も顔を見せてくれました。 朝会ではHONZのメンバーが一人一冊、「これから読む本」を紹介します。まだ読んでいない本を紹介するというのがミソで、どうして興味を持ったかを話してもらいます。 さて、今回も新しく入会したメン

子はみな幸せであるように『「ちがい」がある子とその親の物語Ⅰ』『こどもホスピスの奇跡』『にほんでいきる』 書影

社会 / おすすめ本レビュー

子はみな幸せであるように『「ちがい」がある子とその親の物語Ⅰ』『こどもホスピスの奇跡』『にほんでいきる』

国籍や肌の色、病気や障害などに関わらず子どもは幸せになって欲しい。その願いを込めた本を紹介したい。 『「ちがい」がある子とその親の物語』 はアメリカなどで活躍するノンフィクション作家アンドリュー・ソロモンが10年をかけて300組以上の親子を取材し、2012年に出版された。日本では三巻に分られ、その一巻目が上梓された。 この巻で取り上げたのはろう(聴覚障がい)

『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』呪術合戦は、安倍晴明と蘆屋道満の戦いさながら! 書影

教養・雑学 / 社会

『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』呪術合戦は、安倍晴明と蘆屋道満の戦いさながら!

ミャンマーはタイと同じ敬虔な仏教国というイメージが強い。2011年には軍事政権から民主政権に移行した。長い軟禁状態から解放されたアウンサンスーチーが16年に国家顧問となって政権の中枢に立ち、昨年の総選挙では与党が過半数を獲得したことは記憶に新しい。 13年にヤンゴンに新聞記者として駐在していた著者は、情報省の中堅幹部との会談で「テインセン大統領の誕生日を確認

『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』 ターニングポイントは親との決別 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』 ターニングポイントは親との決別

著者のタラ・ウェストーバーは1986年生まれの34歳。現在ハーバード大学公共政策大学院上級研究員で歴史家。エッセイストでもある。 彼女はアイダホ州クリフトンで父親の思想が強く反映された反政府主義を貫くサバイバリストのモルモン教徒の両親のもと、7人兄弟の末っ子として生まれた。 公立学校へは通わせてもらえず、家庭内で科学や医療を否定した偏った教育を受けて育った。

『浪花節で生きてみる!』女一匹、魂の咆哮 書影

人物 / 民俗・風俗

『浪花節で生きてみる!』女一匹、魂の咆哮

2017年4月から翌年2月まで、私はほぼ毎月、神奈川県の自宅から亀戸まで、東京都を縦断して「玉川奈々福がたずねる語り芸パースペクティブ」という勉強会に通っていた。 主催者は玉川奈々福。日本にはなぜこんなに多種多様な「語り芸」があるのだろうという疑問のもと、演者や研究者など各方面の第一人者を招き、実演とトーク、および考察をするという壮大な勉強会だった。 20世

『人間の土地へ』シリアに魅せられた登山家 書影

社会 / 民俗・風俗

『人間の土地へ』シリアに魅せられた登山家

チャレンジすることに躊躇しない人を尊敬している。新しい一歩はなかなか踏み出せないものだ。『人間の土地へ』の著者、小松由佳は、特別に並外れた好奇心と勇気の持ち主だと思うのだ。 2006年、24歳の時、世界で最も困難な山だと言われている世界第二位の高峰、パキスタンのK2に日本人女性で初めて登頂に成功した。2019年まででエベレストに登頂した人は1万人以上いるが、

『諏訪式。』諏訪湖を中心にした文化圏の謎を探る 書影

民俗・風俗 / おすすめ本レビュー

『諏訪式。』諏訪湖を中心にした文化圏の謎を探る

中央自動車道の岡谷ジャンクションの近く、諏訪湖サービスエリアは温泉施設が併設されドライバーに人気がある。諏訪湖を一望のうちに見渡せ、まさに絶景のスポットなのだ。 諏訪湖は中央構造線とフォッサマグナの二大断層が交差する地質的に複雑な場所で、温泉が湧き出る理由もそこにある。縄文時代から人が住み、独特の風習や信仰が残っている。 著者の小倉美惠子はドキュメンタリー映

『バブル』幻冬舎の元看板編集者が語るあのボスとの出会いから別れまでー。 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『バブル』幻冬舎の元看板編集者が語るあのボスとの出会いから別れまでー。

日経平均株価が史上最高値を出した1989年。日本はバブル経済真っ只中であった。この時代に最前線でがむしゃらに働かされていた都会の二十代半ばの青年たちはみな、景気はさらに上昇し、凋落の時など頭の片隅にもなかったのだ。 著者の山口ミルコさんは1965年生まれ。89年には24歳。新卒時は、まさにバブル期のど真ん中で働く保険会社の普通のOLのひとりだった。あるきっか

『京都に女王と呼ばれた作家がいた』時代の寵児を描いた覚悟の評伝 書影

人物 / おすすめ本レビュー

『京都に女王と呼ばれた作家がいた』時代の寵児を描いた覚悟の評伝

山村美紗の訃報は衝撃的だった。1996年9月、帝国ホテルで執筆中に心不全を起こし62歳の生涯を終えた。 超売れっ子の作家の死は大騒動となる。亡骸は京都に戻り、ゆかりのお寺で葬儀が営まれ、参列者には出版関係者はもとより、テレビ、映画関係者や俳優たちが大勢集まった。 参列者が驚いたのは「美紗さんにご主人がいた」こと。喪主は夫の巍(たかし)であった。 華やかな山村

『がんと闘う病院』知りたい情報を得る手掛かりに 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

『がんと闘う病院』知りたい情報を得る手掛かりに

2020年1月に中国武漢市で初めて確認された新型コロナウィルス感染症は、瞬く間に世界中に広がった。 20年1月末、武漢から帰国した在留邦人の患者を収容した都内の病院の一つが都立駒込病院だ。1879年に感染症の専門病院として開設された経緯から、新型コロナ治療でも最前線を担っている。 1975年には、「がんと感染症」に重点を置く総合病院に生まれ変わった。高度で専

『自閉症は津軽弁を話さない』文庫版著者あとがき 書影

医学・心理学 / 「解説」から読む本

『自閉症は津軽弁を話さない』文庫版著者あとがき

妻の何気ない「自閉症の子どもって津軽弁しゃべんねっきゃ」というひとことに、私は10年ものあいだ「本当に?」「どうして、なぜ?」と問い続けました。そして同時に湧き上がった疑問。 「なぜ、他の人は目の前にあることを不思議に思わないでいるのだろう」 この研究を通して出会った保護者や支援者の多くは、この現象について「どうしてだろう?」と疑問に思ってくれました。ところ

『誰が命を救うのか 原発事故と闘った医師たちの記録』指揮命令系統が崩壊するなか、最前線に立った人々の記録 書影

医学・心理学 / 事件・事故

『誰が命を救うのか 原発事故と闘った医師たちの記録』指揮命令系統が崩壊するなか、最前線に立った人々の記録

突如あらわれた新型コロナウィルス伝染病に対し、医師たちは最初、徒手空拳で挑まなければならなかった。徐々に解明される高齢者のリスクや三密回避、伝染経路や防御方法などを人々が守ることによって、第二波も収まりつつあるようだ。根本的な治療方法はわからなくても、顕著な死亡率の低下となって現れている。 医療関係者だけでなく、想像もできない事態のなかで、突然最前線に立たさ

『とうがらしの世界』進化の過程から各地の料理まで 書影

生物・自然 / おすすめ本レビュー

『とうがらしの世界』進化の過程から各地の料理まで

「激辛」という言葉が新語・流行語大賞のひとつに選ばれたのは1986年のこと。現代でもこの言葉は生き残り根付いている。2003年、激辛スナック菓子「暴君ハバネロ」が登場した。これはトウガラシの品種名そのものを使っている。激辛は日本の食文化に大きく影響している。 著者は信州大学農学部准教授でトウガラシ研究の第一人者。もともとはソバの育種研究室に所属しており、ソバ

世界の食文化史がひっくり返る大発見!『幻のアフリカ納豆を追え!―そして現れた<サピエンス納豆>』 書影

教養・雑学 / 民俗・風俗

世界の食文化史がひっくり返る大発見!『幻のアフリカ納豆を追え!―そして現れた<サピエンス納豆>』

“日本以外でも納豆が食べられていたの?納豆にこんなにすごい背景があるなんて!”と衝撃を与えた 『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』 から4年。前作で解き明かしきれなかった異国の納豆の正体を、完全に明らかにした驚天動地のノンフィクションがいよいよ発売された。 発売直前のある日、新潮社の会議室を高野秀行さんは一日ジャックしていた。リモートを含め取材が

戦後75年、今も新たな真実が! 書影

社会 / 日本史

戦後75年、今も新たな真実が!

終戦記念日も今年で75回目。既に歴史になりつつある第2次世界大戦だが、新たに明らかになる真実もある。 『証言 沖縄スパイ戦史』は新書で750ページという厚さに度肝を抜かれる。民間人を巻き込んでの激戦となった沖縄戦末期には少年たちも作戦に動員された。 「護郷隊」は陸軍中野学校出身の将校に組織されたゲリラ部隊だ。自宅の裏山で米軍と戦い、多くの少年が死んだ。生き残

『中医養生のすすめ』日本人中医医学博士が紹介する中国伝統医学での「未病」の治し方 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

『中医養生のすすめ』日本人中医医学博士が紹介する中国伝統医学での「未病」の治し方

「中医学」とは中国伝統医学のこと。 著者 は日本人で初めて中医師の医学博士号(中医内科学)を取り、外国人として初めての中医内科主治医師資格を取得した。中国へ渡って25年、現在も上海で臨床に当たっている。 日本人にとって漢方薬や鍼灸治療は身近な存在だ。健康志向から薬膳に興味を持つ人が増えつつある。 中医学の治療思想の根本は「未病を治す」ことだと著者は語る。これ

『ホスト万葉集』“夜の街”で愛を囁く光源氏の末裔たち 書影

民俗・風俗 / おすすめ本レビュー

『ホスト万葉集』“夜の街”で愛を囁く光源氏の末裔たち

嘘の夢 嘘の関係 嘘の酒 こんな源氏名 サヨナライツカ 歌舞伎町 夢と希望と 欲望に うずまく町、町、人、人、町、町 心から会いたい会いたい探してたやっと見つけた売掛はらえ 威張るなよホストが凄い訳じゃない 死ぬ気で稼ぐ女が凄い 姫からの死角を探し姫を呼び 口を拭って姫から姫へ 今や「悪の巣窟」のように言われる“夜の街” 歌舞伎町のホストクラブやガールズバー

『いつも、日本酒のことばかり。』日本酒専門ライター、渾身の一冊! 書影

教養・雑学 / 社会

『いつも、日本酒のことばかり。』日本酒専門ライター、渾身の一冊!

政府の緊急事態宣言でSTAY HOMEを強いられた日々、楽しみは専ら食事だった。家で晩酌をする機会が多くなると美味しいお酒が欲しくなる。私は日本酒の魅力に嵌った。 著者も日本酒の魅力に取りつかれたひとり。17年前、アルバイト先の居酒屋で飲んだ一口が彼女の人生を一転させた。タイトル通り、いつも日本酒のことばかり、考えるようになってしまったのだ。 病膏肓に入り、

『発酵文化人類学』 書影

生物・自然 / 教養・雑学

『発酵文化人類学』

僕が小倉ヒラクさんのお名前を知ったのは確か3年程前。よく行く書店の新刊おすすめコーナーにこの『発酵文化人類学』が並んでいた。まず目を引かれたのはその特徴的な装丁。一瞬イギリス文学か何かの本かと思いきや、タイトルには『発酵文化人類学』。どういう内容なんだろう? と思いパラパラめくってみての感想。とんでもない人がいたもんだ(笑)。 その後、僕の知人から小倉さんの

『ホハレ峠 ダムに沈んだ徳山村百年の軌跡』最後のひとりが語る消えゆく民族史 書影

社会 / 民俗・風俗

『ホハレ峠 ダムに沈んだ徳山村百年の軌跡』最後のひとりが語る消えゆく民族史

岐阜県揖斐郡徳山村のダム建設は1957年(昭和32年)に計画された。村は水没するため、住民は集団移転地と移転補償金を手にした。ダムが完成し注水が始まったのが2006年9月。計画から50年後だ。 著者が東京から徳山村まで通い始めたのは1993年。廃村のはずが数世帯のお年寄りが暮らしていた。なかでも村の最奥、門入(かどにゅう)に住む廣瀬司さんとゆきえさん夫妻を頻

『ワイルドサイトをほっつき歩け』愛すべきおっさんたちの愚かで優しい日々 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『ワイルドサイトをほっつき歩け』愛すべきおっさんたちの愚かで優しい日々

世界が激動・混迷するこの時代、「おっさん」たちは何かと悪役にされていた。 トランプ大統領が誕生したのはおっさんのせいで、EU離脱もおっさんのせい。(中略)セクハラもパワハラもおっさんのせいだし、政治腐敗や既得権益が蔓延るのもおっさんたちのせい。 どこの国でもそうなのか、諸悪の根源のように言われている巷のおっさんは本当にそんなにひどいのか。 中学生の息子の見た