
『ロレンスがいたアラビア』
ピーター・オトゥールが扮した「アラビアのロレンス」は、紛れもなく僕を映画好きにした1作だった。本書は、ロレンスに惹かれて「知恵の7柱」(東洋文庫)を始めとする関連書籍を読み漁っていた学生時代を思い出させてくれたが、それだけではなく他の類書にはない面白さがぎっしりと詰まっていて驚いた。 ロレンスがいたアラビアには、他にもロレンスと同じような境遇の尖った若者がい
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ピーター・オトゥールが扮した「アラビアのロレンス」は、紛れもなく僕を映画好きにした1作だった。本書は、ロレンスに惹かれて「知恵の7柱」(東洋文庫)を始めとする関連書籍を読み漁っていた学生時代を思い出させてくれたが、それだけではなく他の類書にはない面白さがぎっしりと詰まっていて驚いた。 ロレンスがいたアラビアには、他にもロレンスと同じような境遇の尖った若者がい

『ブルマーの謎』は、最近ではすっかり見ることもなくなった女子体操服の「ぴったりブルマー(密着型ブルマー)」をテーマにした一冊である。長年研究を続けた社会学者が手掛けており、ブルマー研究の決定版とも言える内容だ。しかしこの画期的な研究が始まったのも、ゼミ生たちとの苦し紛れのやり取りから生まれた「偶然の産物」であったという。当時、山本ゼミに所属していた小松聰子さ

社会 / HONZ客員レビュー
「岩瀬君のようにバブルを知らない世代に読んで欲しい本を書いている」 バブル時代に日経証券部のキャップとして大活躍したジャーナリスト、永野健二氏からそのように言われていた本が、ようやく上梓された。 あの時代をMOF担として渦中で過ごし、最近では読売新聞の書評委員として筆をふるう当社の出口会長をして、「あのバブルの時代は何だったのか、誰かにきちんと総括してほしい

中国では、常に古代の聖天子の時代が憧憬される。伝説の堯や舜はともかく実在が確実視される周の文王や武王、周公旦の時代である。周は約800年続いたが、これまで意外なことに読みやすい通史がなかった。本書は待望の1冊である。 従来の中国の古代史は概ね司馬遷の叙述(史記)など伝世文献に依拠してきたが、当時の金文(青銅器に彫られたもの)や竹簡などの同時代資料が陸続と発掘

社会 / HONZ客員レビュー
子どもの貧困がよく話題に上るが、その実態を知っている人は意外に少ない。本書は、日本財団子どもの貧困対策チームがまとめたものであるが、この問題の「鳥瞰図」がとてもよく分かる好著だ。ぜひ、一人でも多くの皆さんに読んでほしい。 まず、6人に1人と言われている子どもの貧困の実態と、貧困が世代を超えて連鎖することが数字・ファクトで明瞭に示される。次いで子どもの貧困を放

昨年、私たちの財団でグローバル・ヘルス関連の仕事を手掛けているトレヴァー・マンデルが私に、この本を読むよう勧めてくれた。私はそれまで本書のことも、著者であるユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのニック・レーンという生物学者についてもまったく知らなかった。数か月後には、私はたんにこの本を読み終えていただけでなく、ニックのほかの著書3冊を取り寄せ、うち2冊を読み

小説 / HONZ客員レビュー
戦争を背景にした作品には名作が多い。戦争という極限の過酷な環境が、人間性を際立たせるからだろうか。第二次世界大戦かつ比較的新しい作品に限ってみても、「朗読者」や「HHhH」などが反射的に脳裏に浮かぶ。 本書は、パリの博物館に務める優しい父のもとで育った目の見えない少女マリー=ロールとドイツの炭鉱町、ツォルフェアアインの孤児院で育てられた少年ヴェルナーの一瞬の

外来種と言えば、琵琶湖の在来種を脅かすブルーギルやブラックバスが脳裏に浮かぶ。いかにして駆除するか、心ない放流を食い止めるか。獰猛な外来種から琵琶湖の自然を守れ。確かにそうだと思う反面(因みに、僕は琵琶湖の外来種の駆除にはずっと賛成している)、何か心にひっかかるものをずっと感じていた。本書は、この問題に正面から挑んだ力作である。 冒頭、南大西洋・アセンション

渾身の書である。1938年に生まれた著者は、55歳でアイルランドを訪れて、「世界で最も美しい本」(ケルズの書)に魅せられた。その頃、テンペラ画を習い始めていた著者は、ケルズの書の全装飾ページ22葉の復元模写を思いつき、15年間6088時間をかけて模写を行った。本書はその全ての記録である。 ところで、ケルズの書とは何か。それは、8世紀の末にスコットランドの西方


正倉院はシルクロードの終着点であると教わった記憶がある。「月の沙漠」の歌ではないが、シルクロードという言葉には、ラクダの隊商が列をなしてローマやペルシャから遥々と中国まで(さらには奈良の都まで)宝物を運んできたロマンチックなイメージがある。著者は、シルクロードの重要な中継地であったクロライナ王国のニチャと楼蘭、鳩摩羅什(有名な仏教の訳経者)の故郷クチャとキジ

「呉越同舟」という諺が人口に膾炙しているように、春秋戦国時代の呉と越は宿命のライバルであった。両国は30年以上に亘って激しい戦いを繰り広げ、遂に越王勾践が呉王夫差を敗死させる。本書はこの2国の興亡を描いた歴史文学(東漢=後漢の時代に成立)の本邦初の全訳である。 ところで、2500年も前の呉越の戦いが、何故かくも人々の心を揺さぶるのか。それは、夫差の賢臣、伍子

社会 / HONZ客員レビュー
『「暗黒・中国」からの脱出』は、中国当局からの弾圧対象となった若きエリートによる逃亡譚である。中国国内のイスラム村、ミャンマーの軍閥たちのアジト、チベットから獄中までという数奇な道のりの中、壮絶な出来事が次々と彼に襲いかかる。だが、なんといっても驚くのが、この話がわずか数年前の出来事であるということ。今、現代中国の「自由」は、どのようになっているのか?『 中


大修館書店の「あじあブックス」にはキラリと光る好著が少なくないが、虫と人とが織りなすめくるめく物語を論じた本書もその1冊である。 古来、虫は生き物の総称で、万物が五つの元素からなるとする五行説に従い、中国では全ての生き物が五虫に分類されていた。羽虫(長は鳳凰)、毛虫(長は麒麟)、甲虫(長は霊亀)、鱗虫(長は龍)、倮虫(倮は裸に同じ。長は人間、特に聖人)である


社会 / HONZ客員レビュー
今日の世界は相次ぐ国際テロに見舞われているが、元をたどれば9.11(米国同時多発テロ事件)の復讐戦として始まったアメリカのアフガン・対テロ戦争に行き着く。アメリカは2001年以来、1兆ドルを超える巨費を投じ、アフガンで14年間にもわたる史上最長の戦争を戦い、2356人の米兵が死亡した(英兵453人、その他の諸国の677人の兵士が死亡)。 その結果どうなったか

僕は、大学では憲法ゼミに入った。テーマは表現の自由。チャタレー裁判や悪徳の栄え裁判を勉強しているうちにD・H・ロレンスに興味を惹かれて、一時期、愛妻フリーダの「私ではなく風が」を始めとした関係書を貪り読んだ記憶がある。それ以来ロレンスはずっと気になる存在で、ラヴェッロ(イタリア)を訪ねたのもロレンス繋がりだった。 本書は、ロレンス夫妻としばし生活を共にしたデ

子どもの頃のお正月は凧上げと百人一首。子ども心に好きだった遍昭の歌などは、そっと近くに寄せておいたものである。本書は、「隣の赤」など興趣をそそるタイトル50組のもとに其々2首の現代短歌を選び合わせて百人一首としたものである。定家が本書を手にしたら、定めし喜んだことだろう。 読み始めるとこれがまた無類に面白い。冒頭の「隣の赤」というタイトルの何とも言えない不気

著者は冒頭「序に代えて」で次のように述べる。「筆者は、(偉大なドイツ陸軍に係る)定説の否定、偶像破壊に走っている。読者は、そう感じられるかもしれない。しかしながら、筆者が述べることは、今年、2016年現在の常識、もしくは定説にすぎない。もし、それが衝撃を与えるとすれば、日本におけるドイツ軍事史理解の遅れがなさしめていることだとしか言いようがなかろう。そのよう

小説 / HONZ客員レビュー
僕たちは、叙事詩をすっかり忘れてしまったのではないか。ギルガメシュ、イーリアス、シャー・ナーメなどに満ち溢れていたあの懐かしい英雄たちの雄叫びは消えて久しくなってしまった。ポーランド生まれのユダヤ人で、第二次世界大戦前のドイツで活躍した作家、デーブリーンは、本書、マナスで、叙事詩を見事に現代に甦らせた。端倪すべからざる力技である。 第一部、亡者が原。インド・

本書の冒頭で、80歳を超えた著者は、高らかにかつこの上なく明晰に述べる。「これまで女帝は中継ぎの存在にすぎない、あるいは巫女的な役割であったなどその存在を矮小化されてきた。しかし、それは古代社会を男性中心に考える歴史観の偏見にすぎないのではないだろうか。時系列に従って箇条書き的に事柄を並べる正史の底流を繋いでいくと、逆に、伝統に依存した男性支配の政治の停滞と

社会 / HONZ客員レビュー
性的マイノリティ(LGBT)の権利保障の動きが世界的に進んでいる。LGBTとは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイ・セクシャル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字をとった総称であり、2000年のネーデルランド(オランダ)を皮切りに、ベルギーやスペイン、カナダ、南アフリカと同性婚を認める国が次々と出てきた。

第1部「宇宙の誕生」。宇宙は3種類しかない。僕たちの住む宇宙は「人間に都合よく調節された宇宙」だ。大部分は「調節されていない、人間のいない宇宙」だろう。「調整されているが人間はいない宇宙」もあるかもしれない。ビッグバンが138億年前に起こり太陽系が46億年前に形成された。 第2部「地球の形成」。地球が45.5億年前、月が45億年前、遅くとも38億年前までに海

高野 秀行の最新刊は、固定観念の外側を探検する。テーマはずばり、納豆とは何か? ともすればアカデミックに着地してもおかしくないテーマを、おなじみ高野流の足取りで核心へと迫っていく。このアプローチをアカデミック界の鬼才は、どのように評したのか? 昨夏『 世界の辺境とハードボイルド室町時代 』で魔球対決を繰り広げた清水 克行氏に、本書のレビューを寄稿いただきまし


先コロンブス期のアメリカ大陸の常識を覆して(遅れた社会⇒ヨーロッパ以上の人口や洗練された大都市を持っていた文明社会)、全世界にセンセーションを巻き起こした『 1491 』の著者・マンが、再び世に問う問題作である。 前作がビフォーの高度なアメリカ文明を描いていたのに対し、『1493』はアフターの混乱する世界が描かれる。コロンブスのアメリカ到達(1492)によっ

社会 / HONZ客員レビュー
交易から文明が生まれる。動物は棲息する生態環境の拘束から逃れることはできないが、ヒトだけが異なる生態環境からモノを移転して生態環境を自らの好むように改変したのである。交易を管理するために統一的な暦が編まれ、文字が発達し、交易の場所から都市が生まれた。異なる文化に交易ルールを強制し、違反者を取り締まるために権力が生まれ、その権力を正当化するために特定の宗教やイ

第1章「マッカ」では、愛妻ハディージャと穏やかに暮らしていたムハンマドに、610年の運命の夜、神の啓示が下りるまでが描かれる。ムハンマドとハディージャの相互の深い信頼と愛情が平明な言葉で綴られる。何と温かな思いやりに満ちたカップルだろう。ハディージャがいたからこそ、ムハンマドは怯むことなくアッラー(神)と対峙できたのである。 第2章「ジャーヒリーヤ」(無明時

僕が歴史を好きになったのは、間違いなく中央公論社の「世界の歴史(旧版、16巻+別巻)」を読んだことがきっかけだった。世界最古の文明、シュメールから始まる悠久の物語に中学生の胸が高鳴ったことをよく覚えている。本書は、農産物こそ豊富だったが木材、石材、金属などの必要物資に欠けていたメソポタミアになぜ世界最古の文明が誕生したのか、その秘密を交易ネットワークから解き

7世紀の初めに拓跋国家の掉尾を飾る大唐世界帝国が成立して、最初の30年を太宗(李世民)が牽引、その後の半世紀を英邁な武則天が引き継いだ。武則天の時代に白村江の戦いが行われ高句麗が滅んで朝鮮半島が新羅によって統一され、わが国には激震が走った。そして、持統、元明、元正、孝謙称徳と女帝の世紀が出現した。おそらく武則天の活躍が彼女たちのロールモデルとなったであろうこ

1933年6月、いくつもの偶然が重なってシカゴ大学教授のドッドは、ローズベルト大統領からナチ政権下となって初めての駐独アメリカ大使に任命される。ドッドは「旧南部の興亡」というライフワークを執筆するため、大学での多忙な役職に不満を覚えていた。ハーグやブリュッセルの大使なら執筆の時間が取れるのではないかと考え、閑職を求めて政府に働きかけたのだった。しかし、運命の

人物 / HONZ客員レビュー
20年近く前、『 インタヴューズ 』(文藝春秋)という本を読んだことがある。マルクスからジョン・レノンまで84人のインタビューを集めたものだが、巨星の肉声がこれほどまでに面白いとは、と瞠目した記憶がある。本書は、堤清二×辻井喬という先見性に溢れた稀有な人物の29時間に及ぶロングインタビューを纏めたものである。しかもインタビュアーが3人の気鋭の学者であって、絶



世界を震撼させた、パリでの同時多発テロ。この事件を深く読み解くためには、イスラム教そのものを深く理解する必要がある。なぜテロが、止まらないのか? その背景には何があるのか? 九州大学・高橋 淳准教授に、イスラムの行動原理を知るための 「おすすめ本」について寄稿いただいた。(HONZ編集部) 愛する花のパリが、テロで燃えている。ニュースを観ながら「イスラムは都

発売されるやいなや大きな反響を呼んでいる、『数学する身体』。お待ちかねの客員レビュー第三弾は、はてな株式会社の近藤淳也さんが登場。「数学は情緒だ」という独立研究者・森田真生の言葉を聞いた時、近藤さんが直感的に感じたものとは何だったのか? (HONZ編集部) ※客員レビュー 第一弾 、 第二弾 森田くんが初めて書いた本。「数学する身体」。 わざわざ「本を届けた

1549年にザビエルが鹿児島に到着、イエズス会が日本で布教を開始する。82年に巡察師ヴァリニャーノが4人の天正遣欧使節を連れて長崎を出港したが、その直後本能寺の変が起こりキリシタンに理解のあった信長が逝去、90年に帰国した時は秀吉が伴天連追放令を発布していた。1614年、家康による宣教師の大追放(マカオとマニラへ)。そして44年が記録に残る最後の殉教となる。


『数学する身体』は、独立研究者・森田真生氏が「数学とは何か」そして「数学にとって身体とは何か」を自問しながら数学の歴史を追いかけた一冊である。その流れは、アラン・チューリングと岡潔の二人へと辿り着く。 そしてこの森田氏の試みを応援すべく、二人の刺客が客員レビューに名乗りを上げた。一人目は科学哲学を専門とし、同じように身体論へアプローチする下西 風澄さん。彼は