『ケプラー予想』訳者あとがき by 青木 薫
400年の時を超えて、ある数学の命題が証明された。こう書くと、すぐさま「フェルマー予想(最終定理)」を思い出す人もいるだろう。しかし本書に取り上げられているのはフェルマー予想ではない。フェルマー予想よりもさらに長い歴史をもち、1900年にパリで開催された国際数学者会議では、大数学者ヒルベルトが重要な未解決問題のひとつとして提起した「ケプラー予想」である。 ケ
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400年の時を超えて、ある数学の命題が証明された。こう書くと、すぐさま「フェルマー予想(最終定理)」を思い出す人もいるだろう。しかし本書に取り上げられているのはフェルマー予想ではない。フェルマー予想よりもさらに長い歴史をもち、1900年にパリで開催された国際数学者会議では、大数学者ヒルベルトが重要な未解決問題のひとつとして提起した「ケプラー予想」である。 ケ

本書を私もまた、公田耕一の謎を解いてくれるものだと思い込んで、読み進めていたのは事実である。しかし、本書の読みどころはそこではなかった。著者は読者の期待を裏切ったのだろうか。 一面で「内閣支持急落22%」と麻生内閣の不人気を伝えた二〇〇八年十二月八日、「朝日歌壇」欄に公田耕一は彗星のように現れた。複数の選者に重複して評価された☆マークを三首で六つ獲得したので

今年の春、車を買い替えた。11年乗った赤の4WDのアウディをとっても気に入っていたのだけど、さすがに調子が悪くなってきたので、車検を機に新しくすることにしたのだ。 この車には思い出がいっぱい詰まっている。最初の5年ほどは、北方謙三氏の秘書をしていたので、彼の別荘に行ったりカンヅメになっているホテルに物を届けたり、病気になった北方ボスの愛犬を医者に連れて行った

ここ数年、数学が何やらブームの兆しを見せている。『フェルマーの最終定理』や、『ブラック・ショールズ方程式』といった、難解な高等数学に関する本がそれなりの売れ行きを見せ、数学者をモデルにした映画もヒットしている。パズルブームは息が長いし、脳を鍛える手段として、数学のドリルをやることに対する一般の関心も高まっている。 このような数学に対する関心の高まりの背景には

文庫本を読むとき、なぜか解説を先に読む人が多いという。だから、この解説も、これからこの本に「挑戦」しよう、という読者を念頭に置いて書くことにした。 すでに本を読んでしまった人には、一部、話のくりかえしになるかもしれないが、どうか、あしからず。 娘が3歳なので、ウチには一杯(折れた)クレヨンがある。この本の解説を書かせてもらうことになり、久しぶりに塗り絵をやっ

東京・世田谷区成城、こんもりと庭木の繁った奥ゆかしいたたずまいの一角。木製の両開きの門の前からチャイムを鳴らすと、ゆかり夫人が朗らかに迎えてくださる。前庭には丹精された薔薇の花々が揺れているが、その日の目的に気を取られて、観賞するゆとりを持てたことはほとんどない。 玄関から左側の居間に通されると、一段高くなった奥の食堂のステレオの前で、低く流れる音楽に全身を

何をおいてもこれは食べなくてはなるまい。本書の解説を頼まれた私は、スケジュール表を睨んだ。これでもいちおう、食べ物についての本を数多く書いてきた人間である。林宏樹さんの素晴らしい筆によって、いかにマグロの「養殖」には詳しくなっても、味を知らずにいては、魚に申し訳ない。さて、どこで大阪まで食べに行けるかと考えたのだ。 近大の完全養殖マグロを食べさせるレストラン

この『古典夜話』は1975年に円地文子先生と白洲正子先生の対談を1冊にまとめたものです。改めて読んでおりますとお2人ともに素晴らしい時代に生きておられたと強く感じます。 私はこの職にありながら白洲先生とは全くご縁が無く、ご挨拶をさせて頂いたことも、またお仕事ですれ違ったこともありませんでした。白洲先生は幼少時からお能を習われて、女性としては初めて能舞台に立た

本書は、1人の天才 そう称して良いであろう 数学者の伝記である。 ジョン・ナッシュ(ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニア)の名前は、「ナッシュ均衡」にその名を残す数学者として、また一般には、ロン・ハワード監督、ラッセル・クロウ主演でアカデミー賞四部門を獲得した映画『ビューティフル・マインド』(2001)とその原作本によって広く知られている。ナッシュは、プリ

本書の著者ローレンス・クラウスは、長年、第一線で活躍してきた宇宙物理学者である。興味のある研究テーマは、彼自身の言葉によれば、「宇宙の始まりから終わりまで」だという。もちろんクラウスは、半分は笑いを取ろうとしてそんな言い方をするのだが、しかしそれは彼の本音でもある。クラウスは本気で、宇宙の始まりから終わりまでを知りたいと思っているのだ。 クラウスは専門の論文

高嶋哲夫ファンのみなさん、こんにちは。 わたくしは書評サイトHONZの代表をしている成毛眞(なるけまこと)と申します。HONZはサイエンスや歴史はもちろん、ビジネスからアートまで広い意味でのノンフィクション作品を紹介するサイトです。しかし、たとえ村上春樹であろうが尾田栄一郎であろうが小説やマンガなどの創作物は取り上げることはありません。頑なにノンフィクション

学生スポーツの対抗戦といえば、日本では1903(明治36)年に始まった野球の早慶戦がよく知られている。東京6大学リーグ戦の最終週に開催される伝統の一戦はテレビ中継され、神宮球場は多くの観客で埋め尽される。 一方、イギリスではケンブリッジ大学とオックスフォード大学のボートレースが有名である。こちらもテレビ中継され、レースが行われるロンドンのテムズ河畔はこれまた

※2010年3月、単行本刊行時のあとがきは こちらから 。 同居が終わって4年が過ぎた夏のことだった。ニュースを眺めようと思ってパソコンを立ち上げた。調べたいことがあるわけでもなく、世界の動きが知りたかったわけでもない。ただの惰性からだった。 唐突に、「ヤノマミ」という文字が目に入った。液晶画面の中に『ヤノマミ族虐殺か』とあった。予期せぬ出来事だったから少し

今でも目を閉じれば、あの暗闇を容易に思い出すことができる。アハフーという声もはっきりと覚えている。機会があれば、もう一度ワトリキを訪れ、あの闇に包まれたいなとも思う。その一方で、畏れもある。また何かが壊れてしまうのではないかという畏れがある。 おそらく、彼らを否定してしまえば何も起きなかったはずだ。彼らは違うのだ、僕たちとは違うのだ、と切り捨てていれば、心身

背伸びやジャンプを繰り返すことで、身長を伸ばすことができると信じている人は少なくない。実際バレーボールやバスケットボールのスター選手たちは見上げるほど高いし、ウェイトリフティングやマラソンなどのメダリストは小柄な人が多い。しかし、背伸びやジャンプの身長効果は、医学的にはまだ証明されていないらしい。オリンピックレベルの選手たちの身長の差は、それぞれのスポーツに

今の世の中に、こんなに危険に満ちた旅があるだろうか。 本書に書かれている脱出劇は、二〇〇三年七月に始まった。食糧難などで中国に密かに越境した北朝鮮の人たちは、距離にすると三千キロ以上、ほぼ日本列島を縦断する長い距離を列車でひたすら南に向かっていく。途中で二回ベトナムとカンボジアの国境を越えなければいけないが、最大の難関は、中国国内を無事に通過することだ。 脱

学生の頃、素因数分解が苦手だった。 15=3×5 136=2 3 ×17 143=11×13 などと整数を素数の積で表す、というアレである。大体の見当をつけて割り算や掛け算を試してみるのだが、その見当のつけ方がどうもぴたっと決まらない。もたもたしているうちに試験の持ち時間はどんどん過ぎてゆく。 一方優秀な人は、ほとんど考えもせず、一目見ただけで正しく分解し、

野瀬さんとは、何度か酒を飲みながらお話をさせていただいたことがあり、いつか一緒に本を作ろうと言いながら数年が経っています。 前の『天ぷらにソースをかけますか?』も、大変面白く読ませていただきました。 天ぷらにソース、というのは最初やっぱり「うっそ~」と思ったけど、その本を読んでいくうちどんどん納得してしまった。「なーるほど、それもありだな」。ボクは、ものわか

1921年、春まだ浅き3月中旬、ヘミングウェイはブルックス・ブラザーズで仕立てた真新しいスーツを着て、セントルイスにハドレー・リチャードソンを訪ねた。その6ヶ月後、ふたりは北ミシガンの片田舎のメソジスト教会で結婚式をあげた。 このたび新潮文庫に収められることとなった『ヘミングウェイの流儀』のカバー写真はヘミングウェイがハドレーを訪問したときに撮られた1枚であ

アメリカ大統領は決まって毎朝8時半からインテリジェンス・ブリーフィングを受ける。政府部内の17を数える情報機関から選り抜かれてくる特上のインテリジェンスが国家情報長官を通じて報告される。PDBと略称される大統領への諜報報告は、戦争のさなかも、外遊先でも、休暇中でも、一日も欠かさず行われる。外交・安全保障上の最高機密が明かされるこの場に日本の総理として初めて同

猛暑のお盆の入りの日、私は戸越銀座の駅に降り立った。私の最寄り駅からわずか20分だというのに、ここに来るのは初めてだ。五反田から2駅、その昔、歌にも歌われた“池上線”の駅は、ずいぶん近代化されたとはいえ、ちょっと大きな路面電車の停車場ぐらい。踏切前に立つと、前にも後ろにも長い商店街が続いている。東京一長い商店街はこれか、としばし眺めていた。 星野博美『戸越銀

1981年から2000年までマイクロソフトで働いていた私にとっては、まさにデジャヴでもみているかのような物語だ。いまをときめくグーグルも、いつかは普通の大企業になり、それにつれて一方的にパンチを浴び続けていたメディア業界や広告業界なども気を取り直して反撃に転じ、創業期のメンバーが次々と退職し、やがて若いパンチ力のある会社と新しいビジネスモデルの出現を目の前に

本稿は、2013年8月に文庫化された『代替医療解剖』の訳者あとがきです。2010年1月に刊行された単行本『代替医療のトリック』の翻訳者あとがきは こちらから (※編集部) この文庫版のための訳者あとがきでは、本書の単行本が刊行されてからこれまでに起こった代替医療関係の出来事のうち、とくに興味深いと思われるものを2つほど取り上げてご紹介したい。 まず1つ目は、

今日、代替医療――すなわち、現代の科学によっては理解できないメカニズムで効果を現すと考えられる治療法で、科学者や多くの医師が受け入れていないもの――は、全世界で数兆円規模の市場に成長しているといわれる。しかし、はたして代替医療には、宣伝されているような効果があるのだろうか? お金を費やし、かけがえのない健康を託すに値するものなのだろうか? 本書は、さまざまな

その存在は古代エジプトの世から知られていた。存在が知られる前からも、多くの人の命がそれによって奪われていたはずだ。ずっと名前はなかったが、ギリシア時代になってようやく、あの医聖ヒポクラテスによってつけられた。しかし、人々はその本質を見誤っていた。ありもしない『体液』の異常によるものであると思い込まされていたのだ。その実体が、細胞の異常な増殖による、と正しく理

二〇一三年のゴールデンウィークの休み中、資料を整理していたら、古い新聞の切り抜きが出てきた。そのいくつかが福島香織さんの記事だった。北京駐在としては初めての日本人女性新聞記者ということで、彼女の記事はいつも注目していたのだ。 福島さんに初めて直接会ったのは、二〇〇一年十二月の台湾の立法院・地方首長選挙のときだったと思う。当時、産経新聞の台北支局長だった矢島誠

この解説は難しい。私も登山家などと呼ばれているが、山野井泰史とは登山家としての器に差がありすぎて、解説の執筆は自分の小ささを強調することになりかねない。ただ、通り一辺倒のことを書いてお茶をにごすなら、私が書く必要はない。個人的なことになるが少し付き合っていただきたい。 我々の世代で登山を志す者にとって山野井泰史は本物のスーパースターだった。 もちろん私も憧れ

権威におもねることも、大勢に身を任せることも、よしとしない。この国のあり方について、言うべきことは穏やかに、しかしピシャリと言う。櫻井よしこさんの「覚悟」はいつも決まっている。 どんなに激しい議論の中でも、物腰は変わらない。その姿はときに、生徒を諄々と諭す教師のようにも映る。一方、メッセージは強烈だ。日本の国益とは何か。真の自立を達成するために何をすべきか。

本書は、連合国による日本占領期に米高級誌『ニューズウィーク』東京支局長をつとめた神戸生まれの英国人コンプトン・パケナム(1893~1957)の日記と手紙を発掘した青木冨貴子氏による戦後史の闇を読み解いた優れたノンフィクション作品だ。 時代の転換期(同時に混乱期でもある)には、山師、ハッタリ屋が政治的に重要な役割を果たすことがある。私自身は、ソ連崩壊前後にその

ひとりの進行性重度身体障害の男がいた。 渡辺一史さんがこの本を書いている大半の日々では、まだいきいきと生きていた人だった。 その鹿野靖明さんと、亡くなるまでに関わった多くのボランティアの人たちとの物語である。 と書くと、ああよくあるやつね、と内容の見当がついてしまうような気がする人もいるかもしれない。それは間違いです。これはまったく、よくある本ではない。凄い

本書は、戦前・戦後を通じた昭和日本の「国家戦略と情報」を考える上で、絶好の評伝となっている。また、辰巳栄一という人物について、これまでは「歴史の脇役」として戦前・戦後の昭和史の一局面で時として顔を出し短かく言及されることはあったが、本格的な評伝が書かれるのが、なぜ「これほど遅く」なってしまったのか、とさえ思える重要な人物である。そこに、日本人の戦略思考やイン

iPhoneやグーグル検索、フェイスブックは果たしてイノベーションと言えるのであろうか。もしそれらが情報時代に不可欠ではあるが、単なる優れたツールでしかなかったとしたら、本物のイノベーションとはなんなのだろうか。そしてイノベーションを意図的に生み出すための条件や方法論とは一体どんなものなのだろう。 本書はこれら問題に真正面から問いかけをしながら、イノベーショ

富坂聰氏の『中国という大難』文庫版(2013年4月27日発売)の解説を書いたので、編集部の承諾を得て全文を掲載する。単行本の発売は2007年4月27日だが、本書で語られている中国問題はまったく古くなっていない。それどころかさらに深刻になっているように見える。ある意味で中国は先進諸国から半世紀遅れたテーマパークであり、最新ピカピカのお化け屋敷だ。こわごわと内実