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おすすめ本レビュー

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"不可能" を追い求めた科学者の冒険 『「第二の不可能」を追え! ― 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ』 書影

サイエンス / 人物

"不可能" を追い求めた科学者の冒険 『「第二の不可能」を追え! ― 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ』

ラジオ体操じゃあるまいし、不可能に第一とか第二とかあるのか。『「第二の不可能」を追え!』というタイトルを見たら誰しもがそう思うだろう。その違いは冒頭で説明される。第一の不可能とは、けっして1+1が3にならないように、絶対的な不可能のこと。未来永劫、可能になることがありえない不可能である。 それに対して、「第二の不可能」とは、必ずしも正しいとはいえない前提に基

『ドキュメント 感染症利権 医療を蝕む闇の構造』国民の健康より省益優先、感染症の意思決定の歴史 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『ドキュメント 感染症利権 医療を蝕む闇の構造』国民の健康より省益優先、感染症の意思決定の歴史

「先が見えない時代には歴史を振り返れ」と、よく聞く。人間の本質は今も昔もそれほど変わらないからだろう。陳腐な言葉だが、歴史は繰り返す。 新型コロナウイルスを巡っては科学と政治・経済の対立が浮き彫りになった。感染拡大を徹底して抑えるべきか、経済を優先すべきか。コロナ対策と経済優先は二項対立なのか。議論は混迷した。 こうした中で、「今の政治が悪いんだ」と声高に叫

『誰が命を救うのか 原発事故と闘った医師たちの記録』指揮命令系統が崩壊するなか、最前線に立った人々の記録 書影

医学・心理学 / 事件・事故

『誰が命を救うのか 原発事故と闘った医師たちの記録』指揮命令系統が崩壊するなか、最前線に立った人々の記録

突如あらわれた新型コロナウィルス伝染病に対し、医師たちは最初、徒手空拳で挑まなければならなかった。徐々に解明される高齢者のリスクや三密回避、伝染経路や防御方法などを人々が守ることによって、第二波も収まりつつあるようだ。根本的な治療方法はわからなくても、顕著な死亡率の低下となって現れている。 医療関係者だけでなく、想像もできない事態のなかで、突然最前線に立たさ

『Learn or Die 死ぬ気で学べ』最先端AI企業の挑戦 書影

サイエンス / ビジネス

『Learn or Die 死ぬ気で学べ』最先端AI企業の挑戦

第三次AIブームにのって有象無象のスタートアップベンチャーが立ち上げられた。一次は玉石混合の状態だった中、ここ数年で真に社会課題を解決しそうなベンチャーが生き残るようになってきている。その中でもユニコーン(企業価値10億ドル以上の非上場企業)まで評価されるようになったのがPreferredNetworksという会社だ。 同社は、2020年初時点では日本最高の

『贈与の系譜学』純粋な贈与を考える知的冒険 書影

教養・雑学 / 社会

『贈与の系譜学』純粋な贈与を考える知的冒険

贈与論の本につい手が伸びてしまう。それは贈与が既存の経済の仕組みの辺縁にあり、もしかしたら新しい社会の仕組みを構想できる可能性を感じること、オルタナティブさに魅力を感じてしまうからだ。しかし、本書はその淡い期待に答える贈与を褒め称え、可能性を肥大化させる本ではない。むしろ、冷や水を浴びせ、冷静に贈与について考えるための構造を提示する。 贈与でよく語られるのは

『とうがらしの世界』進化の過程から各地の料理まで 書影

生物・自然 / おすすめ本レビュー

『とうがらしの世界』進化の過程から各地の料理まで

「激辛」という言葉が新語・流行語大賞のひとつに選ばれたのは1986年のこと。現代でもこの言葉は生き残り根付いている。2003年、激辛スナック菓子「暴君ハバネロ」が登場した。これはトウガラシの品種名そのものを使っている。激辛は日本の食文化に大きく影響している。 著者は信州大学農学部准教授でトウガラシ研究の第一人者。もともとはソバの育種研究室に所属しており、ソバ

『その名を暴け #MeToo に火をつけたジャーナリストたちの闘い』なぜ彼女は声を上げたのか、その先に何を見出したのか 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『その名を暴け #MeToo に火をつけたジャーナリストたちの闘い』なぜ彼女は声を上げたのか、その先に何を見出したのか

米国の大物映画プロデューサーによる女優や自社従業員への数々の性的虐待が明るみに出た、ハーヴェイ・ワインスタイン事件。その衝撃から#MeToo運動に火がつき、世界中へ拡大していったことは記憶に新しい。 まさにダムが決壊するような事態となったわけだが、起点はニューヨーク・タイムズの調査報道による約3300語の記事であった。 ひと口に調査報道というが、調査すること

『交響曲第6番「炭素物語」 地球と生命の進化を導く元素』 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

『交響曲第6番「炭素物語」 地球と生命の進化を導く元素』

題名にちょっとクラクラ来てしまったが、サブタイトルにあるように地球と生命に関する正統の科学書である。メインテーマは宇宙に大量にある炭素原子で、我々の身体を作る大切な要素でもある。「交響曲第6番」というのは炭素が6番元素で、地球を初めとして壮大な物質世界の豊かさを担っているからだ。 炭素は「地球温暖化問題」でも重要な物質である。人類は産業革命以降、石炭や石油を

崖っぷちボクサー、狂気の挑戦 『一八〇秒の熱量』 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

崖っぷちボクサー、狂気の挑戦 『一八〇秒の熱量』

激アツな一冊だった。我を忘れてシャドーボクシングをはじめるくらいに。本書は、36歳のB級ボクサー米澤重隆が日本チャンピオンに挑む日々を、同世代の映像作家がまとめた本だ。私の熱き血潮はどこから湧き上がったのか。冒頭シーンの紹介から始めたい。ドキュメンタリー番組をつくるため、著者は米澤のいるジムに乗り込んだ。 「僕なんかでいいんですかね?」 思わず返答に詰まる。

『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない

この著者の本を読むのは初めてではない。なので、怖さはある程度予測できた。それでも、幾度となく背筋が凍る思いがした。この本で語られている現実は、人生の選択において誰もが避けたいと考える結末である。社会からの孤立。家族と無縁で、友達はゼロ。そして、誰にも気づかれることなく、自室でもがき苦しみながら溶けていく孤独死。 本書は、 前著『超孤独死社会』 に引き続いて、

『美術展の不都合な真実』新聞社やテレビ局が主催する現状 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

『美術展の不都合な真実』新聞社やテレビ局が主催する現状

フェルメールを歩きながら観るような企画展がまかり通っている。 正確にいうと新型コロナウイルス以前は、話題の企画展が開催されれば連日混雑していた。2018年に開催されたフェルメール展は産経新聞の一面に《牛乳を注ぐ女》の絵とその会期が掲載された。日本の企画展は新聞により大々的に宣伝され、1日平均6千人もの入場者を動員する。実際に足を運んでみると1日3千人という数

『KGBの男 冷戦史上最大の二重スパイ』ソ連のエリートがMI6に、歴史を動かした二重スパイ 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『KGBの男 冷戦史上最大の二重スパイ』ソ連のエリートがMI6に、歴史を動かした二重スパイ

スパイ小説といえば007シリーズの作者イアン・フレミングや、ジョン・ル・カレといった英国の作家の名が頭に浮かぶ。「やはり、スパイ小説は英国に限る」と通ぶってみたくなるが、実は、ノンフィクションの世界にも同じようにスパイ分野の第一人者といえる作家がいる。 その一人が、本書の著者ベン・マッキンタイアーだ。代表作には、第2次世界大戦中の対ナチス諜報を描く『ナチが愛

『眠りがもたらす奇怪な出来事──脳と心の深淵に迫る』 夢遊運転病、セクソムニア、非24時間睡眠覚醒症候群 書影

サイエンス / 医学・心理学

『眠りがもたらす奇怪な出来事──脳と心の深淵に迫る』 夢遊運転病、セクソムニア、非24時間睡眠覚醒症候群

睡眠――。人生における多くの時間が費やされているにもかかわらず、それにはいまだ多くの謎が残されている。本書は、奇怪とも言える睡眠障害の症例を足掛かりとしながら、それらの謎に迫らんとする快著である。 著者のガイ・レシュジナーは、睡眠を専門とする高名な神経科医である。彼が勤務するロンドンの睡眠障害クリニックには、種々の問題を抱えた患者がイギリス中から集まってくる

『伝説の「サロン」はいかにして生まれたのか コミュニティという「文化装置」』リモートワークの時代に創造的な場をどう作るか 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

『伝説の「サロン」はいかにして生まれたのか コミュニティという「文化装置」』リモートワークの時代に創造的な場をどう作るか

特定の時代や場所に、すごい才能の持ち主がなぜか集まることがある。新しい芸術や思想を生み出した19世紀末のウィーン、あるいは1920年代のパリ。歴史をひもとけばいくらでも例を挙げることができる。 本書はクリエイターたちが特定の場所に集まるメカニズムと要因を解き明かそうとする試みだ。そこで扱われるのは、戦後日本のカルチャー史を彩る数々の伝説的サロンやコミュニティ

誰でもわかる『みんなに話したくなる感染症のはなし』、みんな読んでね! <自著の前書きです 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

誰でもわかる『みんなに話したくなる感染症のはなし』、みんな読んでね! <自著の前書きです

こんにちは、仲野徹です。大阪大学医学部で病理学を教えています。病理学といってもなじみがないかもしれませんが、病気の理すなわち、どんなメカニズムで病気になるかを研究する学問です。 若い人って、あまり病気に興味がないように思います。この本を手に取ってくれた人はそんなことないはずですが、考えてみればあたりまえかもしれません。もちろん子どもにも病気はありますが、おお

進化の実験場たる都市──『都市で進化する生物たち: ”ダーウィン”が街にやってくる』 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

進化の実験場たる都市──『都市で進化する生物たち: ”ダーウィン”が街にやってくる』

通常、都市というのは人間以外の生物にとって一般的に良い環境とは思われていないだろう。緑や自然を切り開き、種の多様性を減少させる、必要悪的な存在である。野生の生き物たちの居場所は、都市から離れた自然豊かな世界中にあるのであって、都市ではない。 だが──、実はそうした都市の中には、むしろ「都市だからこその」生態が広がっている、と主張し、その概観を眺めていくのがこ

『幻のオリンピック:戦争とアスリートの知られざる闘い』を読んで、スポーツと平和について考える 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

『幻のオリンピック:戦争とアスリートの知られざる闘い』を読んで、スポーツと平和について考える

1940年、皇紀2600年を記念して東京でオリンピックが開催されるはずだった。しかし、日本政府が開催を断念、中止された。それを巡って作成されたNHKスペシャル『戦争と“幻のオリンピック” アスリート 知られざる闘い』を元にした五章の物語がこの本である。 その内容は大きく三つ、戦没オリンピアン、幻の東京オリンピック、そして、1964年東京オリンピックの閉会式だ

裸で出っ歯の珍奇なネズミが、人類を救う? 『ハダカデバネズミのひみつ』 書影

サイエンス / 生物・自然

裸で出っ歯の珍奇なネズミが、人類を救う? 『ハダカデバネズミのひみつ』

2003年1月、ワシントンD.C.――スミソニアン国立動物園のほの暗い展示室で、薄桃色の毛のない小動物がうごめいている。「何かの赤ちゃんかな?」展示ケースに近寄った私は、思わず息をのんだ。 な、な、なに?? この動物、なに??? それが、ハダカデバネズミと私との衝撃的な出会いだった。ハダカデバネズミ、漢字で書くと、裸・出歯・鼠。名は体を表す。裸で、出っ歯の、

『邦人奪還 自衛隊特殊部隊が動くとき』小説だからこそ書けた安全保障問題の不都合な事実 書影

小説 / おすすめ本レビュー

『邦人奪還 自衛隊特殊部隊が動くとき』小説だからこそ書けた安全保障問題の不都合な事実

元海上自衛隊の特殊部隊「特別警備隊」の創設者のひとりで先任小隊長を務めていた伊藤祐靖氏が書いた小説だ。ノンフィクション書評サイトのHONZでは基本的には小説を扱わない。しかし、この小説はフィクションとは思えないほどリアルに安全保障問題の欠点を浮き彫りにしている。ゆえに敢えてレビューを書くことにする。 本作のストーリーなのだが、北朝鮮でクーデターが発生。事態に

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』世界はくだらない仕事にあふれてる 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』世界はくだらない仕事にあふれてる

待ちに待った邦訳がようやく出た。 デヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ』である。 「ブルシット・ジョブ」とは、「クソどうでもいい仕事」のことだ。 もう少し丁寧に説明すると、「なんのためにあるのかわからない、なくなっても誰も困らない仕事」のことである。 近年、私たちの身の回りでブルシット・ジョブが増えている。 そして、確実にこの手の仕事は、働く人々の心

『公文書危機』政府の隠ぺい体質がもたらす公文書危機と民主主義の崩壊 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『公文書危機』政府の隠ぺい体質がもたらす公文書危機と民主主義の崩壊

1997年に発覚した、民間金融機関などによる大蔵官僚への過剰接待事件以降、官僚の劣化が止まらない。中央官庁というのはブラック企業の典型であることが詳(つまび)らかになり、ルサンチマンを抱えた国民のバッシングを浴び、天下りも禁止される中、新卒採用での人気低下、止まらない若手の大量退職など、側から見ていても同情を禁じ得ないほど地盤沈下している。 こんな状態では官

「医療政策」は政治家だけのもの? 『世界一わかりやすい「医療政策」の教科書』 書影

社会 / おすすめ本レビュー

「医療政策」は政治家だけのもの? 『世界一わかりやすい「医療政策」の教科書』

ベストセラー『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、目の前の暗雲を取り払ってくれた本だった。様々な本能のせいで、私たちがいかに物事をドラマチックに誤って捉えているかがわかった。また、その著者は世界を股にかける医師であり公衆衛生の専門家だ。だからこそ、その本に書かれた医療現場のエピソードが強烈な印象を残した。 公衆衛生、ひいては医療政策。その本が私の

なんたるガッツ!『明治を生きた男装の女医』がスゴすぎる 書影

医学・心理学 / 人物

なんたるガッツ!『明治を生きた男装の女医』がスゴすぎる

高橋瑞(たかはし みず)、嘉永5年(1852年)生まれ。その名を知っている人はどれくらいいるだろう。日本で三番目に医師国家資格を取得した女性である。『明治を生きた男装の女医』は、その人生を丹念に綴った伝記小説だ。 24歳にして家出、旅芸人の賄い、女中、短く不幸な結婚の後、産婆に弟子入りする。28歳の時、跡継ぎになれと誘われるが、女医になりたいと固辞する。しか

『誇りある金融 バリュー・ベース・バンキングの核心』「価値」を大切にする新しい金融のあり方とは 書影

ビジネス / おすすめ本レビュー

『誇りある金融 バリュー・ベース・バンキングの核心』「価値」を大切にする新しい金融のあり方とは

本書の冒頭で、思想家チャールズ・アイゼンシュタインの、「バンカーとは、おカネを美しく使う人を探してくる人のことをいう」(『聖なる経済学』)という言葉が紹介されている。本書のタイトルである「誇りある金融」とは、こういう金融のことをいうのであろう。では逆に、「誇りのない金融」とはどういうものか。 銀行は、しばしば「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」と言われ

『ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯』 書影

人物 / 世界史

『ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯』

社会人になってよく考えることがある。「仕事中に個人として意見したり行動することって、そんなに良くないことですか?」たとえば、あるミーティングで、私自身の意見を述べるときに、必要以上にプレッシャーを感じて「私個人の意見としましては……」なんて、いきなり真面目口調になってしまう。また、ミーティング後に上司から「会社の発言となるから、勝手な意見は言わないように」と

戦後75年、今も新たな真実が! 書影

社会 / 日本史

戦後75年、今も新たな真実が!

終戦記念日も今年で75回目。既に歴史になりつつある第2次世界大戦だが、新たに明らかになる真実もある。 『証言 沖縄スパイ戦史』は新書で750ページという厚さに度肝を抜かれる。民間人を巻き込んでの激戦となった沖縄戦末期には少年たちも作戦に動員された。 「護郷隊」は陸軍中野学校出身の将校に組織されたゲリラ部隊だ。自宅の裏山で米軍と戦い、多くの少年が死んだ。生き残

なんだか疲れてきちゃったあなたに。0円で『自分の薬をつくる』 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

なんだか疲れてきちゃったあなたに。0円で『自分の薬をつくる』

自分の携帯番号を公開し、悩める誰からの電話でも受け止める人物がいる。その「いのっちの電話」で2万人の声を耳にしながら、「坂口医院0円診察室」を開設! 「0円ハウス」の次はこう来たか。コロナ禍でどうも気落ちしがちなあなたへの応援歌になるやも。読んで損なし、0円で気持ちが楽になる一冊を紹介したい。 あの坂口恭平さんが、なんだか奇天烈な本を出したらしい。 そう、1

『京都に女王と呼ばれた作家がいた』男たちはなぜ彼女に魅了されたのか 書影

人物 / 小説

『京都に女王と呼ばれた作家がいた』男たちはなぜ彼女に魅了されたのか

この本の帯は傑作だ。そこにはこう書かれている。 「京都で人が殺されていないところはない」 1200年の歴史を繙けば、戦乱で都が荒廃した時代もあるし、いかにもそこら中で人が死んでいそうだが、これは小説の話だ。 京都に住み、京都を舞台にしたミステリーを書き続けた作家といえば、山村美紗である。22年間の作家生活の中で200冊以上の本を出し、売り上げは3200万部を

『直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍』白黒はっきりつける決断に 書影

ビジネス / おすすめ本レビュー

『直感で発想 論理で検証 哲学で跳躍』白黒はっきりつける決断に

タイトルが結論である。装丁は黒を背景に白文字、力強いフォント、白と黒を反転させた帯。脱線のない文章で、余計な虚飾もなく、淡々と展開される。表題の結論の骨格に、4人の経営者の物語で肉付けしていく。安藤百福、小倉昌男、本田宗一郎、西山彌太郎、それぞれチキンラーメン、宅急便、二輪車、銑鋼一貫の製鉄所を作り上げた名経営者である。 直感で発想し、論理で検証し、哲学で跳

人生は競馬の比喩なのか 『「地方」と「努力」の現代史 ―アイドルホースと戦後日本』 書影

教養・雑学 / おすすめ本レビュー

人生は競馬の比喩なのか 『「地方」と「努力」の現代史 ―アイドルホースと戦後日本』

誰しも一度くらいは、スポーツで胸を熱くしたことがあるだろう。しかし、その理由を問われても、明確な答えにたどり着くことは難しいのではないか。例えばイチロー選手なら、技術とか、記録とか、勝負強さとか、語るべきことはたくさんあるに違いない。 だが、その核心をきれいに取り出すことなど、誰にもできはしない。多くのメディアは、最大公約数の受け取り手に向かって記事を作る。

『スポーツ・アイデンティティ どのスポーツを選ぶかで人生は決まる』「皆が野球」ではない、スポーツ選択を考える 書影

アート・スポーツ / おすすめ本レビュー

『スポーツ・アイデンティティ どのスポーツを選ぶかで人生は決まる』「皆が野球」ではない、スポーツ選択を考える

著者は編集者、ノンフィクション作家として多くの有名人を取材する中で、一つの仮説を立てるようになる。人の性格はスポーツ歴に影響を受けているのではないか。個人スポーツか集団スポーツか、そして、集団スポーツならばどのポジションを担ったか。本書では、多くの取材をもとに、マラソンに野球、サッカー、格闘技にラグビー、ゴルフ、水泳など、各競技の選手や経験者に共通する性格を

『南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊』逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて 書影

サイエンス / 生物・自然

『南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊』逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて

南極大陸。平均標高は2020メートルと高く、95パーセント以上が雪と氷に覆われた大地。内陸に行けば行くほど気温が低くなり、常時マイナス30℃を下回る。冬場には驚異のマイナス80℃を記録することもある。 そんな南極大陸内陸部、人間がいなければどんな生物もいない場所で、風すら吹かない時は、あまりの静寂ゆえに、己の心臓の脈打つ音や、血管を血が流れる音が聞こえてくる

『ピダハン』の著者による、言語獲得&形成の進化史──『言語の起源 人類の最も偉大な発明』 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

『ピダハン』の著者による、言語獲得&形成の進化史──『言語の起源 人類の最も偉大な発明』

言語はいつ生まれたのか。 この問いに何万何千年前のある瞬間──というわかりやすい答えがあるわけではない。そのうえ、音声記録など残っているはずもないから、遺跡や痕跡からその地点を確定させることも難しい。いまだに、人類史のどのタイミングで言語が生まれたのか、そこではどのような言語を使ったのか、様々な説があり、確かにこうだ! といえることはあまり多くはない。 ただ

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ビジネス / おすすめ本レビュー

『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』敵だらけのスタートアップが世界を変えるまでの新たな道

今や巨人となったスタートアップ企業の成功譚ではあるのだが、不思議な読後感をもたらす一冊だ。世間知らずの大学生によるウェブサービスが世界中へ広がっていく爽快感もなければ、急成長に浮かれて失敗するお茶目さもない。例えるなら、人気ファンタジードラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の重厚なタイトルBGMが延々流れているような世界観。その通奏低音の中に、人を物語へ強く引き

『中医養生のすすめ』日本人中医医学博士が紹介する中国伝統医学での「未病」の治し方 書影

医学・心理学 / おすすめ本レビュー

『中医養生のすすめ』日本人中医医学博士が紹介する中国伝統医学での「未病」の治し方

「中医学」とは中国伝統医学のこと。 著者 は日本人で初めて中医師の医学博士号(中医内科学)を取り、外国人として初めての中医内科主治医師資格を取得した。中国へ渡って25年、現在も上海で臨床に当たっている。 日本人にとって漢方薬や鍼灸治療は身近な存在だ。健康志向から薬膳に興味を持つ人が増えつつある。 中医学の治療思想の根本は「未病を治す」ことだと著者は語る。これ

今年のNo.1ビジネス書はこれで決まり!?『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』 書影

ビジネス / おすすめ本レビュー

今年のNo.1ビジネス書はこれで決まり!?『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』

もしかすると本書は20年代を代表する企業の経営について書かれた初めての本になるかもしれない。まだ7月だが今年のベストビジネス書はこの本で決まり?と言ってもいいくらい素晴らしい本だった。小売業で働く人は必読の1冊である。いまや日本を代表する企業となったユニクロを追い抜くかもしれない企業が現れたのだ。その名はワークマン。作業服専門店で知られるあのワークマンである

『アメリカン・プリズン──潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』「更生より収益性」の原理が支配する民営刑務所の実態 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『アメリカン・プリズン──潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』「更生より収益性」の原理が支配する民営刑務所の実態

カリフォルニア州矯正局は先日、8月末までに約8,000人の服役囚を釈放すると 発表した 。理由は言うまでもない。世界の囚人数のうち約4分の1を収容するアメリカでは、刑務所内での感染拡大が深刻な問題になっている。考えてみれば「密」を避けるうえでこれほどハードルが高い場所もないかもしれない。同州では2月以降すでに約10,000人が解放されている。 いくら手に負え

エンタメ化されたニューロサイエンスが素直におもろい『つむじまがりの神経科学講義』 書影

生物・自然 / おすすめ本レビュー

エンタメ化されたニューロサイエンスが素直におもろい『つむじまがりの神経科学講義』

『つむじまがりの神経科学講義』、どこかで聞いたようなタイトルである。ベストセラーになった拙著『こわいもの知らずの病理学講義』のパクリとちゃうの、と思った人、正解です。出版社は同じく晶文社で担当の編集者さんも同じ。それに、もう定年になられたが、著者の小倉明彦先生はかつての同僚教授である。 あとがきで、魚の縞模様を専門とするストライプ・近藤こと近藤滋教授と私を科

『イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史』テロと暗殺が交錯する、紛争地帯の現実と倫理 書影

社会 / おすすめ本レビュー

『イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史』テロと暗殺が交錯する、紛争地帯の現実と倫理

アリー・ハッサン・サラメ。テログループ「黒い九月」のメンバーで、1972年にイスラエル選手団が殺害されたミュンヘンオリンピック事件の中心人物とされる。黒い九月の解散後はパレスチナ解放機構(PLO)の幹部として活動。米中央情報局(CIA)とPLO議長アラファートの情報交換ルートとして機能した人物だ。 79年、サラメがベイルートにある自宅から20メートルほどの地

『ノヴァセン <超知能>が地球を更新する』 書影

サイエンス / おすすめ本レビュー

『ノヴァセン <超知能>が地球を更新する』

昨年、国連の経済社会局は現在77億人の世界人口が2050年に97億人に達すると発表した。食糧も資源も底をつき現在の豊かな生活水準を維持することはとうてい不可能で、増えすぎた人類はさらに地球環境を破壊する恐れがある。 人間と地球環境の関係について、時をさかのぼってみよう。人が環境に対して影響を与え始めたのは、約1万年前からである。農耕と牧畜という新しい技術を得