
『わかりやすさの罪』「すぐにわかる!」はそんなにいいことか
渋谷の書店で著者を見かけたことがある。 出版社の人と一緒に新刊の宣伝にでも訪れていたのだろう。棚の前でお店の人になにやら熱心に説明しているのは担当編集者のようだった。 その時の著者の様子が強く印象に残っている。 通路を通るお客さんの邪魔にならないように、プレゼンに熱が入り、動きが大きくなっていた編集者の背中を、さりげなく押さえたりしていた。本のPRそっちのけ
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渋谷の書店で著者を見かけたことがある。 出版社の人と一緒に新刊の宣伝にでも訪れていたのだろう。棚の前でお店の人になにやら熱心に説明しているのは担当編集者のようだった。 その時の著者の様子が強く印象に残っている。 通路を通るお客さんの邪魔にならないように、プレゼンに熱が入り、動きが大きくなっていた編集者の背中を、さりげなく押さえたりしていた。本のPRそっちのけ

まもなく梅雨もあけ、夏本番。気温が上がると、食品の足もはやくなります。「あ〜これもうだめだわ」ポイっ。「うーん、これも危ないからやめておこうかな」ポイっ。そうやって食品とサヨナラする機会も増えるかもしれません。 世界では毎年、 生産される食料の3分の1にあたる、約13億トンの食料が捨てられている と言います。これは、東京都民1300万人が1年間で食べている量

本書は、大人たちの「夢を持て」「大志を抱け」という温かなアドバイスが数多の若者たちを苦しめている事実を剔出する一冊である。なんだそりゃ、軟弱すぎる、大袈裟だ、そんなわけない……などと憤る方は多いだろう。だが、大学の事務職員として学生のキャリア支援と講演活動を精力的に行ってきた著者は、一万人以上の若者の生の声を聞き、もはや看過できない域に達していると痛感する。

弁当といえば、高校時代を思い出す。ある日、一心不乱に弁当をかっ込みながらふと顔をあげると、弁当箱のふたで手元を隠して食べる女の子が目にとまった。なぜあんな食べ方を? 気になって背後からそっとのぞくと、煮物の汁が茶色く染みたごはんが見えた。ミニトマトやブロッコリーのような彩りのない地味な弁当だった。 途端に動揺してしまった。自分の弁当も似たようなものだったから

プロスポーツの試合が再開され、スタジアムに観客も戻ってきた。 だが野球もサッカーもすっかり様変わりしてしまった。withコロナ云々を言いたいのではない。もちろんそれもあるが、実は今回のコロナ禍以前に、野球もサッカーも大きく変質していたのだ。いま私たちが目にしているのは、これまでとは違う別の競技であるとすら言えるかもしれない。本書はこれを「ポスト・スポーツ」と

嘘の夢 嘘の関係 嘘の酒 こんな源氏名 サヨナライツカ 歌舞伎町 夢と希望と 欲望に うずまく町、町、人、人、町、町 心から会いたい会いたい探してたやっと見つけた売掛はらえ 威張るなよホストが凄い訳じゃない 死ぬ気で稼ぐ女が凄い 姫からの死角を探し姫を呼び 口を拭って姫から姫へ 今や「悪の巣窟」のように言われる“夜の街” 歌舞伎町のホストクラブやガールズバー

本書の著者・渋澤健は、日本の「資本主義の父」渋沢栄一の玄孫(やしゃご)だ。彼は、外資系金融会社や投資ファンドを経て、現在は長期の積立型投資信託を主軸とするコモンズ投信のファウンダー兼会長を務めている。 栄一が、その代表的著作『論語と算盤(そろばん)』で説き、実践した経営哲学は、倫理と利潤の両立を目指す「道徳経済合一説」である。著者は、こうした栄一の経営思想を

偉い人がいたものである。江戸時代、文政年間から大正元年まで生きた医師・ 関寛斎 。あまり有名とはいえないが、その人生はすごいの一言だ。 上総の農家に生まれ、儒家に養子として入り、世の中の役にたちたいと、蘭方医学の塾兼診療所であった 佐倉順天堂 に学ぶ。とりわけ貧しい塾生であったが極めて優秀で、塾の創始者・ 佐藤泰然 の弟子として、手術などの記録を「 順天堂外

昨年、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した、毎日新聞の好評連載「公文書クライシス」。本書はその取材班が、取材の手の内を明かしながら、ふたたび公文書の闇を照らし出したレポートである。記者たちは今なお取材を続けており、その追及は凄みを増している。記事を読んだ方にも、間違いなく一読の価値がある本といえる。 またもう一つ、本書の大きな読みどころとなっている

葛飾北斎は「為一」や「卍」など30以上画号を変え、90回以上も住居を変え(近所でぐるぐると回る説もあり)、描くテーマも浮世絵から漫画、さらに春画まであらゆるジャンルを描いてきた。私は北斎に強く影響を受けており、何より晩年作品の繊細さと完成度には、人の表現はここまで進化するのかと驚いた。 画家といえば、ピカソも長寿で多作である。その数は生涯14万点を超える。青

政府の緊急事態宣言でSTAY HOMEを強いられた日々、楽しみは専ら食事だった。家で晩酌をする機会が多くなると美味しいお酒が欲しくなる。私は日本酒の魅力に嵌った。 著者も日本酒の魅力に取りつかれたひとり。17年前、アルバイト先の居酒屋で飲んだ一口が彼女の人生を一転させた。タイトル通り、いつも日本酒のことばかり、考えるようになってしまったのだ。 病膏肓に入り、

白いシャツにジーパン姿の約250人が室内で足を一斉に踏みならす。「ハイル、タノ」の大声とナチス式敬礼で指導者に忠誠を誓う。屋外に出れば、いちゃつくカップルを集団で取り囲み、「リア充、爆発しろ」と糾弾する。カップルを退散させた「田野帝国」の構成員は、拍手とともに目標達成を宣言する。 漫画のような光景だが、これは著者の田野大輔氏の授業の一コマだ。ファシズムを体験

職場のそばにわりと大きめの書店がある。いつの頃からか売れ筋の棚に「反日」や「愛国」を打ち出した本ばかり並ぶようになった。百田尚樹はその棚の常連である。一昨年出版された『日本国紀』もいまだに棚の一角を占めている。『日本国紀』は関連本をあわせ累計100万部を突破したというし、『永遠の0』や『海賊とよばれた男』のようなメガヒット作品もある。百田はいまもっとも売れる

2015年7月、アメリカはテキサス州プレーリー・ビューでの出来事。車を運転していたサンドラ・ブランドという若い女性が、ひとりの警察官から停車を命じられた。彼女が車線変更をする際に方向指示器を出していなかったというのだ。──そう、たったそれだけのこと。でも、たったそれだけのことが、それから思いもよらない展開を引き起こす。ブランドはその場で逮捕され、3日後に独房

著者の紹介から始めたい。デヴィッド・ロバート・グライムスは1985年アイルランド生まれの物理学者・ガン研究者で、BBCとアイルランド放送協会でコメンテーターとして活躍する傍ら、ガーディアン紙やアイリッシュ・タイムズ等で記事を執筆する科学ジャーナリストでもある。世論を正しい方向に導いた功績として2014年にジョン・マドックス賞を受賞した経歴も持つ、まさしく気鋭

新型コロナウイルス、誰一人として影響がなかった人はいないだろう。しかし、その影響の受け方は、それぞれの人によって違う。いまさらながら、そのことがよくわかった。 緊急事態宣言が出された4月7日あたりから、ゴールデンウィークの頃まで。 総勢77名 の人たちによる日記である。どのように依頼されたのか、どのように編集されたのかは定かでない。ひとりあたりのページ数は似

スーパーパワーの1つであり、世界でも存在感を増していく中国。しかしこの国の輪郭をつかむことは難しい。中国国家が語る中国と、中国人が語る中国との間には、同じ国とは思えないくらいの大きな差異が存在するはずだ。 しかしその差異をあぶり出すには、さらなる困難が伴う。ほかの国であればインターネット上の声を拾っていけば容易なはずだが、そこにはグレートファイアウォールと呼

この『万物創生をはじめよう』は、最初期のVR技術の探求、起業者であり、VRの父と呼ばれる(バーチャルリアリティという言葉の発案者でもある)ジャロン・ラニアーによる自伝的な一冊である。幼少期からはじまり、VRとは何なのか、どこを目指すことが可能なのかというVRそれ自体への問をはさみながら、彼が設立したVR系企業VPLリサーチを去る92年までが描かれていく。 ジ

数年前のこと、ツイッターで奇妙な動画を見た。揃って白いシャツにジーンズを身につけた大勢の若者たちが、「リア充爆発しろっ!」と大声で叫んでいる動画だ。声を揃え息を合わせ、大声で唱和している。「なんだこりゃ?」。 どれどれと検索してみると、ある大学で行われている「ファシズムの体験学習」だという。どうやらその動画は、周りで見物していた学生が撮ったものらしいが… 甲

発売日は先月5月8日。ひっそりと世に現れていた奇書だ。著者のジェフリー・ルイスは核不拡散と地政学の専門家だという。原題は「米国に対する北朝鮮の核攻撃に関する2020年委員会報告書」つまり2020年に勃発した北朝鮮の核攻撃を3年後に公式報告書にまとめたという体裁をとっているシミュレーション小説だ。 金正恩の核ミサイルで攻撃されたのはソウル、釜山、東京、ニューヨ

2019年ノーベル経済学賞受賞者が、移民、経済成長、気候変動、経済格差などの大きくて複雑な社会問題について切り込んでいく一冊だ。 経済学って小難しくてとっつきづらい。人の心理を単純化しすぎで、実感が湧かない。そもそも経済学って、どれほど世の中の役に立つのか? そんな疑問を持つ人も、一度手に取ってみてほしい。さわりを読むだけでも、よくある経済学の入門書とは様子

2007年、シリアの砂漠地帯で密かに建設されていたアルキバール原子炉を、イスラエルが空爆した。イスラエル政府がこの攻撃を公式に認めたのは18年になってからだ。本書は、秘密裏に行われ、その後もイスラエルが黙秘してきた原子炉攻撃の全貌と、その意思決定プロセスに迫ったノンフィクションだ。 遠い中東の話だが、私たちにも深く関わる問題だ。なぜなら、シリアの核開発に関与

20世紀後半に発達したデジタル技術は読書の形態を大きく変え、電子ブックを身近なものにした。では、紙の本から電子ブックへの転換は、人間の情報収集と脳の働きにどのような変化を生むのだろうか?そうした疑問に明快に答える啓発書が出た。 確かに電子ブックと紙の本の両方に長所・欠点がある。電子ブックはどこでも読めるし、蔵書のスペースも不要だ。だから一気に広まったが、紙の

人類は化石燃料に支えられた世界からの脱却を試みている。石炭や石油といった過去2度の産業革命を支えた燃料から、再生可能エネルギーへと舵を切っているのだ。ただ、この流れには落とし穴があるとフランスの新進気鋭ジャーナリストが警鐘を鳴らす。 地産地消型の再生可能エネルギーの普及は、化石燃料由来の温室効果ガスの抑制と中東など一部地域に偏重する資源から脱却できると信じら

鴨長明の『方丈記』には、有名な「ゆく川の流れは」の後に、次のようなことが書かれている。美しい都で競い合うように並んでいた建物も昔からあるものはまれだ。火事で新しくなったもの、没落して小さな家になったものなど、同じものはない、と。 鴨長明が見た中世の都よりも極端なのが現代の東京かもしれない。世界的に見ても驚くべき速度でスクラップ&ビルドが繰り返され、わずか数年

子供から「赤ちゃんはどこから産まれるの?」と訊かれたら、どう答えるだろうか。一般的には「コウノトリが運んでくるんだよ」と答えることになっている。本書のテーマである芸術的創造も神聖化されることが多い。しかし本書は、黙ってお母さんのお腹を指さすアプローチだ。「芸術的創造がどこから産まれるのか」について、最新研究に基き核心に迫っているのである。 様々なレビュアーが
これまで大きな病気をしたことがない。もちろん入院経験はゼロ。それどころか、風邪と下痢をたまにするくらいで、インフルエンザに罹った記憶もない。63歳にもなってこれではちょっとあかんのと違うか。 友人に聞いたら、なんやかやと薬を飲んでいるのが多い。そうか、薬を飲んだらひょっとして一人前になれるかもと、中性脂肪の値がボーダーくらいなので、高脂血症治療薬を処方しても

岐阜県揖斐郡徳山村のダム建設は1957年(昭和32年)に計画された。村は水没するため、住民は集団移転地と移転補償金を手にした。ダムが完成し注水が始まったのが2006年9月。計画から50年後だ。 著者が東京から徳山村まで通い始めたのは1993年。廃村のはずが数世帯のお年寄りが暮らしていた。なかでも村の最奥、門入(かどにゅう)に住む廣瀬司さんとゆきえさん夫妻を頻

本書は「事業再生のプロ」冨山和彦のビジネスマン人生の集大成ともいうべきものである。 産業再生機構COO(最高執行責任者)として八面六臂の活躍をした著者だが、彼が去り、跡を継いだ産業革新機構や政府の経済運営は、すべてを金融政策に押しつけて現実から目を背けてしまった。 そうして水面下に潜ってしまった日本経済の病理を鮮やかにあぶり出したのが、今回のコロナショックが

高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない。英国のSF作家アーサー・C・クラークの言葉である。身の回り、本当に魔法だらけだ。 魔法中の魔法といえば人工知能だろう。色々なタイプの人工知能の基本的な原理と、それらがどのように開発されてきたかについての本が、『スマートマシンはこうして思考する』である。 トップは、米国の国防高等研究計画局が主催した自動運転のコン

本屋さんに行っても絶対に手に取りそうもない本が送られてきた。それも、人生論やのに、タイトルが『あなたは酢ダコが好きか嫌いか』とは、どういうこっちゃねん。と、訝りながらパラパラッとめくり始めたが最後、あまりに面白くて、文字通り一気に読み切ってしまった。 佐藤愛子さんと小島慶子さんの往復書簡だ。佐藤愛子さんのご本は読んだことがある。しかし、小島慶子さんは名前も存

世界が激動・混迷するこの時代、「おっさん」たちは何かと悪役にされていた。 トランプ大統領が誕生したのはおっさんのせいで、EU離脱もおっさんのせい。(中略)セクハラもパワハラもおっさんのせいだし、政治腐敗や既得権益が蔓延るのもおっさんたちのせい。 どこの国でもそうなのか、諸悪の根源のように言われている巷のおっさんは本当にそんなにひどいのか。 中学生の息子の見た

この2ヶ月間、彼女を見かけない日があっただろうか。テレビや新聞、ネットで私たちは毎日のように彼女の姿を目にし、彼女が語る言葉に耳を傾けてきた。誰もが彼女の顔と名前を知っている。そこには見慣れたリーダーの姿があった。 だが本書を読んだ後は、奇妙な感覚にとらわれるに違いない。彼女のことを確かに知っていたはずなのに、急に見知らぬ人間のように思えるからだ。そして次の

夏の甲子園中止が決まり、今年は戦後初めて「甲子園のない年」になることが決定した。誰がどんな言葉をかけようと、選手たちの無念、悔しさが晴れるはずがないのは言うまでもない。野球に限らず、さまざまなスポーツで集大成の場が失われてしまった。 県単位で夏の大会の開催を模索する動きは出てきている。緊急事態宣言解除を受け、当面は無観客試合ながらプロ野球の開幕日も発表された

プロ棋士への道は、険しい。かつて米長邦雄・永世棋聖が「兄たちは頭が悪いから東大に行った。私はよかったから棋士になった」と話したように、プロ棋士を目指す奨励会は日本有数の「頭脳集団」ともいわれる。だが、ひたすら将棋に打ち込むエリートたちの中でも、中学生にしてプロ入りした「天才」は長い歴史の中でわずか5人にすぎない。加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明、そして

2019年8月に病のため47歳の若さで亡くなった瀧本哲史さん。彼はずっと若者世代である「君たち」にメッセージを送り続けてきた。『2020年6月30日にまたここで会おう』は、瀧本さんが2012年に東京大学伊藤謝恩ホールで行った講義を1冊にまとめたものだ。生徒の参加資格を29歳以下に限定し、全国から約300人の10代・20代が集結したという。2時間にわたる講義の

人類学者が各々のフィールドで獲得した情報を綴った本は不思議と驚きの源泉である。世界にはまだまだ知らないことがあることに喜びを感じることができ、人類が辿ってきた進化の道筋への想像力を豊かにする。暗黙の前提を明るみにし、常識だと信じていた基礎をぐらつかせる。 人類学者がいなければ、聞かれることもなく、知られることもなかったフィールドの人々の知恵を集めてきた。フィ

「性転師」とは、性別適合手術を受けるために海外に渡航する人を手助けする「アテンド業」に携わる人々を指す。もちろん正式な職業名ではない。本書の造語である。 「師」という字は、詐欺師や地面師といったなにやら怪しげな仕事を連想させるが、著者はこの言葉に、医療従事者でもないのにリスクを伴う手術に一民間人が関わらざるを得ない状況を込めたという。グレーな領域に関わる仕事

マル経=マルクス経済学が復活の兆しらしい。そんな話を、半年ほど前、内田樹先生から聞いた。なんでも、石川康宏氏との共著『若者よマルクスを読もう(略称:若マル)』シリーズがけっこう売れているというのだ。それだけだと、ふ~ん、という感じなのだが(ウチダ先生、ごめんなさい)、経済学がご専門の先生も同じことをおっしゃっていた。 マルクス主義に基づいた社会主義国家がこと

この『今日のわたしは、だれ?』は、2014年に58歳で若年性の認知症の診断を受けた女性が綴ったブログ記事を中心にまとめたエッセイ/体験記である。 認知症といえばしだいに記憶が失われていき、簡単な単語が思い出せない、見えているはずのものが見えなくなる、「わたし」そのものが壊れていくような病気として知られている。本書の著者ウェンディ・ミッチェルは、認知症を発症す