
『「日本の伝統」という幻想』時代の変わり目を前にして
平成の終わりが近づいている。といっても、元号が変わるだけで、生活にドラスティックな変化が訪れるわけではない。が、それでも、平成の世、もっと言えば日本がたどってきた道のりに思いを馳せてしまう人は多いのではないか。受け継がれてきた行事や慣習も一つの節目だ。どんな時代が来ようと大切に守っていかねばならない、でも中にはなんかモヤモヤするものもある――もしかしたら、今
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平成の終わりが近づいている。といっても、元号が変わるだけで、生活にドラスティックな変化が訪れるわけではない。が、それでも、平成の世、もっと言えば日本がたどってきた道のりに思いを馳せてしまう人は多いのではないか。受け継がれてきた行事や慣習も一つの節目だ。どんな時代が来ようと大切に守っていかねばならない、でも中にはなんかモヤモヤするものもある――もしかしたら、今

「NEXT5」というグループをご存じだろうか?日本酒が好きな人ならきっと一度は耳にしたことがあるだろう。ゆきの美人の小林忠彦。白瀑(山本)の山本友文。福禄寿(一白水成)の渡邉康衛。新政の佐藤祐輔。春霞との栗林直章。秋田の蔵元5人が2010年に結成した蔵元集団である。共同で醸造酒をつくり、酒造りを研究し、技術と精神を切磋琢磨している醸造家集団だ。 2014年か

2018年5月26日、多くの武道小説を書き続けてきた津本陽が急逝した。本書はその遺作となったの、合気の達人「佐川幸義」の評伝である。 異色であると同時に大変な力作であるこの本は、武術の極意を小説で表そうとした小説家が、実際に合気という神技の深奥に触れた感動が正直に語られていく。 津本が、大東流合気武術の祖である武田惣角の弟子であり、天才武術家として名を馳せて

長いこと本を読んでいると、性格が素直じゃなくなる。新しい本を手に取っても、「この手のテーマ、前も読んだことあるな、フン!」などとついつい思ってしまうのだ。すれっからしもいいところである。 だがこの本には驚かされた。まさかこんな切り口があったとは!『ルポ企業墓 高度経済成長の「戦死者」たち』は、文字通り企業が建立した「企業墓」をテーマにしたノンフィクションだ。

米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問で戦略家のエドワード・ルトワックの新刊である。前著『戦争にチャンスを与えよ』は紛争が長引く原因として、人道的支援という美名の下で国際社会が紛争に早期介入するためだという、口にしがたい現実を鋭く指摘して話題になったので、記憶している方も多いのではないだろうか。 前著の内容を知らず「それはどういうことだ?」と疑問に感じた人

我々の体は、250~300種類、37兆個にもおよぶ細胞からできている。しかし、その複雑な構造は、精子と卵子が融合してできた受精卵たった一個からつくられてくる。受精卵が分裂し、さまざまな機能を持つ細胞へと分化し、適材が適所へと移動する。そして、相互に作用しならがさまざまな生命機能を営んでいる。 不思議だとは思われないだろうか。外部から栄養分が与えられるとはいえ

英語で最も頻出する名詞は「time」である。 いっぽう、時間をどう定義するかについての見解は一致していない。 時間という単語にはさまざまな意味が含まれているが、文章の中や日常の会話で、異なる意味を意識して使い分けることはほとんどない。下記の文章には「時間」という単語が3つ登場する。 時間の性質についてのミンコフスキーの講演は時間どおりに終わったが、長い時間が

”Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World—and Why Things Are Better Than You Think(ファクトフルネス:我々が世界を見誤る10の理由ーなぜ世界はあなたが思っているよりベターなのか?)”は、ビル・ゲイツが「これまで読んできた中で最も重要な本のひとつ(One

酒と放浪。若山牧水の歌といえばこの2つだろう。しかし、若いころには恋の歌をたくさん詠んでいる。その相手は2歳年上で、抜群の美人だったという園田小枝子。 しかし、いつまでも小枝子の態度は煮え切らなかった。そりゃそうだろう、人妻であることを隠していたうえ、従兄弟との三角関係もあったというモヤモヤ状態だったのだから。 そんな2人の関係が、牧水の歌に直截的に読み込ま

日本初の酒場ライター、バッキー井上が、いっとかなあかん店について書いた本である。京都の店の本か、関係ねえよ、と思ったあなた。考えをあらためたほうがいい。この本を読まなければ、酒場人生の楽しみの8割7分くらいを捨て去ることになる。 だいたい、この本、店の紹介らしい紹介があまり書かれていないのだから、店のありかが京都であろうがどこであろうが、たいした問題ではない

最近、東京新宿のゴールデン街が外国人観光客に人気だ。狭小な建物が林立する飲み屋街は世界でも珍しいという。あのような安普請が立ち並んでいるのは、ゴールデン街がかつて非合法の売春地帯「青線」であったからだ。 色街の存在は街の活気の副産物であり、都市には濃淡はあっても、その痕跡が見え隠れする。スナックや小料理屋のような外観で売買春を行う「青線」の存在は都市の裾野の

人生100年時代と言われる昨今だが、一つ気になっていることがある。それは人生が長くなっているにもかかわらず、会社の寿命は案外短いということだ。 一般的に企業の寿命は30年とされているから、パラレルキャリアという言葉に注目が集まるのも無理はないだろう。しかし最も重要なのは、キャリアを2つ作ることではなく、どのように持続可能な状態を築けるかという点にある。 大阪

この秋、出口治明さんと古典を学ぶ講座に参加している。毎月1冊、光文社古典新訳文庫のラインナップの中から出口さんがおすすめの作品を取り上げ、当日はその本にまつわるお話と(しばしば脱線するがこれが楽しい)活発な質疑応答とで、あっという間に2時間が経ってしまう。実に中身の濃い贅沢なひとときだ。 講座は全5回で、初回はダーウィンの『種の起源』、2回目はプラトンの『ソ

人生に迷ったり、不安になったりしたときに先人の、特に女性作家のエッセイには助けられてきた。中山千夏さん、佐藤愛子さん、林真理子さん、西原理恵子さんと名前を挙げればきりがないが、最も影響を受けてきたのが詩人の伊藤比呂美さんだ。 初エッセイ 『良いおっぱい悪いおっぱい』 が出版されたのが1985年。私は結婚したばかりだった。妊娠出産、そして子育てを「がさつ、ぐう

海から眺める人類史を一冊にした本で、海好きにはたまらない内容だ。海については、生活・科学・文化・物流・軍事などの様々な視点から数多くの書籍が出版されているが、これまで海の歴史を網羅的かつ包括的にまとめた書物はほとんどなかった。今回その壮大な歴史をまとめあげたのが、知の巨人ジャック・アタリ。壮大な世界観の歴史書を書かせれば彼ほどの適任者はいない。 本書は、13

分厚いのに一気に読んでしまった! 迫力の一冊。著者は誰かって? そう、あの『東京アンダーワールド』のロバート・ホワイティングだ。60年代初頭、アメリカの軍の仕事で19歳で来日。いつしか日本に住み着くようになって、野球と相撲を語る現在に到るまでの、破天荒な自伝だ。1964年から2020年へ、オリンピック開催を背景にした「東京」が時代とともにあぶり出される。 著

部活動で調子が良いときは、勉強の調子も良かった記憶がある。無理やり敷延すると、読んでいる本が面白ければ、現実世界もバラ色ということになる。その時の本は、現実を忘れられるものがよい。没入感の高い小説も良いが、天文や考古学など気宇壮大な本も良い。今回は、そんな読書のご利益を得られる、素敵な一冊をご紹介したい。 そのタイトルは『フォッサマグナ』。日本のど真ん中を南

「ちっくしょぉぉぉー!!」思わず天を仰いでしまった。隣で立ち読みしていたビジネスマンをびっくりさせてしまったのは申し訳なかったけれど、こんな面白そうな本を見逃していたのだから仕方ない。奥付をみると初版は5月30日、9月10日で5刷とある。面白い本が出たよ!と超速でお知らせしたいHONZの一員からするとこの遅れは痛恨の極みだ。 偶然見つけた一冊は、『ごみ収集と

見開きの右頁全面には、歌川広重の名所江戸百景から選んだ一枚の浮世絵。左頁には広重がその浮世絵を描いた場所の地図と、浮世絵に描かれている文物の絵解き。さらに時代背景や鑑賞のポイントも解説されている。つや消しの上質紙を使って、119枚もの浮世絵を取り上げているのだから、重量感のある小体な美術解説書という趣きだ。 たとえば、ゴッホが模写したことで有名な「大はしあた

経済学とは何か?―こんなシンプルな質問にさえ、今の経済学は答えるのが難しい状況にある。かつて、個々の経済主体の行動から経済全体の動きを理解するミクロ経済学と、GDPなどの集計量から経済全体の動きを扱うマクロ経済学の二つが主流だった頃には、「経済現象を対象とし、それを解明する学問」で済んだものが、20世紀半ば以降、従来の主たる研究対象だった市場メカニズムだけで

ムンクといえば《叫び》というほど、この絵はあまりにも有名です。 ただ、絵の中の男は叫んではいません。実は耳を塞いでいるのをご存知でしょうか? 実はムンクの《叫び》は、作家自身の精神的変化とともに、手法を変え4種類が描かれてます。ムンク展にも登場する《叫び》は、テンペラと油絵を組み合わせであり、これら素材はふつう色が褪せず永続的に良い発色をするのが特徴です。た

動物園業界には、「動物園人」という言葉があるらしい。動物や動物園のことを心から愛し、常に探究心と誇りを持って一生懸命動物園のために取り組む人のことを指し、時として人よりも動物相手のほうがうまくやっていける人間でもある。 本書はこの動物園人たちを主人公とする骨太ノンフィクションだ。舞台は東西に分断されていた時代のドイツ・ベルリン。この都市には、壁を挟んで、二つ

近年、欧米の若い人たちの間で、とりわけミレニアル世代の抜群に頭のいい人たちの間で、寄付と慈善活動に関するひとつの運動が盛り上がりをみせている。運動の象徴ともいえるピーター・シンガーだけでなく、スティーブン・ピンカーなどの著名な論者も支持の声を上げているので、あなたもその運動について耳にしたことがあるかもしれない。それは、「効果的な利他主義(effective

ブラック・ハンドという凶悪な犯罪結社が19世紀から20世紀にかけて存在した。 彼らの主たる構成員はイタリアからアメリカへと移住した移民たちで、ブラック・ハンドというのは単一の組織への名称ではなく、小規模なものから大規模なものまで含めた、複数のギャング組織の総称であったようだ、本書はその犯罪結社の勃興から終焉までをおった記録になる。『ブラック・ハンドは悪名高い

注意して欲しいのは、食事中に読まないこと。 中には強烈な刺激を伴うものもある。 冒頭のことばがすべてを物語っている。 サルの脳味噌の燻製、イモムシのピリ辛煮、ラクダ丼、羊の金玉と脳味噌のたたき、水牛の生肉と脊髄ちゅるりん炒め、タランチュラの素揚げ、虫イタリアン、田んぼフーズ、ニシキヘビの唐揚げ、ヤギの糞のスープ、ヒトの胎盤餃子、ヒキガエルジュース、巨大ネズミ

21世紀を生きる我々にとって、戦争が違法であることは、地球が太陽の周りを回っていることと同程度に自明のことに思える。しかし、17世紀にガリレオが望遠鏡を手にするまで多くの人が天動説を信じていたように、20世紀初頭まで戦争は合法的な政治手段だった。戦争が合法であった旧世界秩序においては、借金取り立てのために他国を征服することすら合法的な行為だった。 著者は本書

2003年、ヒトゲノムの解読が完了し、科学は歴史的な一歩を踏み出した。それから6年後の2009年、今度は医療において大きな一歩が踏み出される。患者個人のゲノムを解析し、その結果にもとづいて診断・治療を行うという「パーソナルゲノム医療」が産声を上げたのだ。本書は、医師と研究者、そして患者と家族に焦点を当てながら、その新たな医療が生まれるまでを描いたドキュメンタ

建築は誰でも楽しめる。特に住宅は、衣食住の根幹をなすものだから、住宅建築に全く関心がないという人はまずいない。 加えて、日本人は世界的に見ても、建築がかなり好きな国民だと思う。美術館で建築展をやると、他のジャンルに比べて圧倒的な集客力がある。昨年、国立新美術館で開催された「安藤忠雄展―挑戦―」や、今年、森美術館で開催された「建築の日本展:その遺伝子のもたらす

それってホントに伝統ですか? この本を読むとあなたの中で「伝統」という言葉の持つ意味が変わってくるかもしれません。結論から言ってしまうと、こういうことになります。 「歴史的に見れば、伝統とは、ちょっと長めの流行にすぎません。」 そもそも伝統という言葉は “tradition”の訳語として明治時代に作られた比較的新しい言葉だそうです。新聞などで伝統という言葉が

辞書によると、「薀蓄」とは深く研究して身につけた知識のことである。しかし、小粋なバーの隣席に下手な薀蓄を傾ける御仁がいると、面倒くさいこと、この上ない。その話題が京都やパリであれば尚更だ。 老舗カバン店のお家騒動だの、ルーブル美術館のスマホアプリだの、煩わしいと思いながらも、つい聞き耳を立ててしまう。薀蓄とは高度な噂話でもある。 本書はまさにその二都の薀蓄だ

かつては釜ヶ崎とよばれ、いまは、あいりん地区とよばれるドヤ街が大阪・西成にある。 その中心にある三角公園から北東方向を撮影したのが表紙の写真だ。右奥にひときわ高くそびえているのが地上 300 メートル、日本一の高さを誇るビル「あべのハルカス」。左側に壁のように見えるが大阪市立大学医学部附属病院、そのすぐ向こう側は大阪市立天王寺動物園である。 土地勘のない人に

「幸福とは何か」と思い耽ったときに、まっさきに読みたい本である。幸せの数値化にこだわる社会科学や幸せのメカニズムを科学するポジティブ心理学は、どういうときに幸福になるか、何が幸せの実例かは説明してくれるが、幸福の概念を過不足なく解明してくれるわけではない。本書の特徴は幸福の概略、そもそも論に取り組んでいることだ。そう、哲学しているのである。 幸福は、古今東西

我々人類はいまだ宇宙人、異星の生命体というものに出会ったことがないので、もしそういった存在と出会ったときに何が起こるのかは想像を広げていくほかない。だが、その際には「会ったこともない相手をどのように想像したらよいのか」という難問に直面することになる。本書のモチーフとして取り上げられているのは、SFマガジンに傑作『神狩り』が載った際に、著者山田正紀によって寄せ

タレントの仕事はといえば、その日その日で「現場」へ向かい、その日限りの仕事をこなすのが日常です。わっと集合して、どっと収録して、さっと帰る。日々多くの人に出会いますが、プライベートでも付き合うような間柄の人は(まあ人にもよるでしょうが)あまり多くはありません。というか私はそうです。テンション高く、ひとときの「祭り」を演じ、終われば次へ行くのです。 若林さんは

ノンフィクションを読む醍醐味である未知の世界を知る喜びをこれでもかと与えてくれる一冊だ。中国の地を這う現実を伝え続けるルポライターの著者が選んだ行き先は、途方もなく広い中国の“さいはて”。本書に登場するのは、発展著しい深圳のネトゲ廃人、広州のアフリカ人街、内モンゴルのゴーストタウンや北米の「反日」華人組織などという、旅行者やビジネスマンはもちろん、大手メディ

タベアルキストのマッキー牧元さんは、食レポの天才です。日本のグルメ界を代表するマッキーさんの文章には、食している光景が目の前に一気に立ち現れてくるような臨場感があり、思わず唾液がこみ上げてきます。 文才はもちろんですが、多分、それ以上に、マッキーさんが心から食を愛しているから、その気持ちが読者の心に素直に伝わるのだと思います。 昨年末、そんなマッキーさんたち

琵琶湖の畔に住む翻訳家の村井理子さんの家に、生後3か月の雄の黒いラブラドール・レトリバーがやってきたのは2017年の春のこと。1年前に長年連れ添った愛犬を亡くし、ペットを失う強烈な悲しみに再び耐えることはできないと思っていたのに、突然の出会いはやってきた。 ハリーと名付けられた子犬は、食いしん坊でやんちゃ。小学5年になる双子の息子たちとじゃれあううちに、あっ

原油価格が上昇傾向だ。2014年後半に大暴落して以来4年ぶりに高値圏に戻りつつあり、注目を集めている。価格上昇の主要因としてよく話題にあがるのは、トランプ米大統領の発言やイラン制裁など政治的要因だ。現代の国際情勢では、エネルギーを題材に駆け引きが繰り広げられており、政治とエネルギーが密接に絡み合っていることを物語っている。 この一般的には馴染みの薄い政治とエ

HONZ でレビュアーしてますと、いろんなところが本を送ってくれはります。ありがたいことですわ。買うつもりでいた本が送ってもらえたらむっちゃうれしいけど、買った本が送られてきたらちょっと悲しい。 そんなんとちごて、こんなん絶対に買わへんわ、という本が送られてくる時もあります。けっこう礼儀正しいから、お送りいただいた本は必ず目をとおします。けど、やっぱり、自分

世界各地の独裁政治を研究してきたハーバード大学教授である著者が、民主主義がどのように、そしてなぜ死ぬのかを追求する。著者はあらゆる場所、時代の民主主義が死んでしまった事例を紹介しながら、当たり前に享受している民主主義がいかに微妙なバランスのうえで成り立っているものなのかを教えてくれる。幅広いケースを考慮する本書だが、議論のフォーカスはアメリカおよびトランプ現