『死の貝――日本住血吸虫症との闘い』奇病撲滅に挑んだ人々の生きた証と、罪なき貝の悲劇
天正10年(1582年)、甲斐の名門戦国大名・武田家が織田信長の軍に攻められ、今まさに滅亡しようとしていた。追い詰められた武田勝頼に、律義にも暇乞いに来た足軽大将がいた。 最後まで殿の供をするのが武士の務めではあるが、もはや歩けない。勝頼は豊後の姿を見て、その気持ちだけで十分であるぞ、と涙を流していたわった。これが水腫脹満を記録した最古の文献と考えられている
(2024年当時)
58記事
天正10年(1582年)、甲斐の名門戦国大名・武田家が織田信長の軍に攻められ、今まさに滅亡しようとしていた。追い詰められた武田勝頼に、律義にも暇乞いに来た足軽大将がいた。 最後まで殿の供をするのが武士の務めではあるが、もはや歩けない。勝頼は豊後の姿を見て、その気持ちだけで十分であるぞ、と涙を流していたわった。これが水腫脹満を記録した最古の文献と考えられている

みぞれまじりの空の下、車窓から鉛色の海が見えた。いかにもリアス式海岸らしい入江になっていて、風があるのか波が高い。「この先、津波浸水区域」と書かれた道路標識を、私たちを乗せたバスは通り過ぎて行く。あれから13年。 「広田湾だ! 高田だー!!」山側の座席にいたはずの竹内さんが、海側の席に移ってきて、はしゃいでいる。彼女は何度も通った道だが、私が陸前高田を訪れる

「え? なに、この本屋さん、もしかして……なんか、すっごくおもしろくない!?」 スーパーの広告にアイスの特売が告知されていた。それだけの理由で降り立った、京王井の頭線浜田山駅。ふと見ると、駅前に本屋さんがある。吸い寄せられるように店内へ。一見、ふつうの本屋さん。でも棚を眺めているうちに、冒頭のような興奮がわき上がってきたのです。 90年代半ばくらいまでは、駅

突然ですが、浦賀駅に向かっています。車中のお供はこちらの本です。 浦賀といえば、江戸末期に黒船がやってきたことで有名ですが、訪れるのは初めてです。うんちの本がまだ途中ですが、浦賀駅につきました。 朝の弱さが尋常ではない私がなぜ早起きをして午前9時前に浦賀にいるのかというと、潮が引くのが10時頃だからです。 じつはこの日、私はかねてより考えていたことを実行に移

2018年8月、瀬戸内海に浮かぶ山口県の島で、2歳の男の子が行方不明になった。警察や消防が150人体制で3日間探しても見つからなかったその男の子を、大分県から駆けつけたボランティア男性が捜索開始からわずか20分で無事見つけ出したニュースを覚えておられる方も多いだろう。「スーパーボランティア」と呼ばれたその男性こそが、尾畠春夫さんである。 5万5千円の年金暮ら

「ああ、ついに起きてしまった……」 そのニュースを知ったとき、思わずそうつぶやいた。今年6月、札幌市街地にヒグマが出没し、4人の方が襲われて負傷した。 数年前から札幌市街地でのヒグマの目撃情報は寄せられていたが、今年は異例と思えるほどヒグマによる人身事故が北海道各地で報じられ、複数の犠牲者も出している。 しかし、なぜヒグマは市街地に出没するようになったのか?

自信を持って断言する。恋愛コラム本なんて、私は買わない。たとえ176頁税別1300円の本が150円で売られていても、買わない。ただし、著者がメレ山メレ子さんならば話は別だ。 メレ山さんは、昆虫大学の学長である。「昆虫大学」が何か気になる方は、検索して調べてみてほしい。そして「虫? そんなのマニアの世界の話でしょ」と思ったみなさん。昆虫は地球の陸上生物では、圧

「全米が泣いた!」――ひと昔前のハリウッド映画の陳腐な宣伝のようだが、本書はアレックスの死によってまさに「全米が泣いた」場面から始まる。ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ、さまざまなメディアが彼の訃報を伝え、著者のもとには多くの悲しみの声や励ましの言葉が寄せられた。 本書は、科学者の著者と、彼女の30年来の研究パートナーであるアレックスとの回想録である。……と

2003年1月、ワシントンD.C.――スミソニアン国立動物園のほの暗い展示室で、薄桃色の毛のない小動物がうごめいている。「何かの赤ちゃんかな?」展示ケースに近寄った私は、思わず息をのんだ。 な、な、なに?? この動物、なに??? それが、ハダカデバネズミと私との衝撃的な出会いだった。ハダカデバネズミ、漢字で書くと、裸・出歯・鼠。名は体を表す。裸で、出っ歯の、

「とりあえず加藤さんに会うことかな」 右肩下がりの出版業界。同業他社の友人たちと話していても、明るい話題は聞こえてこない。器用でもなければ体力もない自分が仕事の質を落とさずにこの業界でやっていくのは、もう無理なんじゃないか……と落ち込んでいたとき、HONZの成毛代表がかけてくれた言葉が、上記のものだった。 加藤さん――加藤晴之さんは、講談社で数々の話題作を世

はーい、こんにちは。好評だった 箱根本箱 に続く、2回目のブラHONZは、本の街・神保町です! 神保町といえば、世界最大の古書街で、たくさんの出版社が集まる、まさに本好きの聖地。第1回の箱根本箱に続き、私・塩田春香と足立真穂が、神保町散策&マンガアートホテル宿泊をレポートします! ――というわけで、やってきました、神保町(私、会社が神保町にあるので、 わざわ

動物が人間を襲った事例でよく知られているのは、大正4(1915)年に北海道三毛別で起きたヒグマ襲撃事件だろう。これは8人が犠牲になった悲劇として語り継がれるが、それとほぼ同じ頃、ネパールとインドの国境地帯で人々を恐怖に陥れていた動物がいた。それが、チャンパーワットの人喰い虎――436人を殺害したとされる雌のベンガルトラである。 本書はそのベンガルトラの足跡を

仏教誕生の地、インド。だが、みなさんはご存知だろうか? インドでは一時、仏教が存続の危機にあったことを。その激減した仏教徒を1億5000万人にまで増やす偉業を成し遂げた最高指導者が、日本人であることを。「仏教徒を増やす」ことは、ほかならぬ貧困や差別との闘い、「不可触民」と呼ばれる人たちを救うためであった、ということを。 本書で描かれるのは、今もそのインド仏教

八甲田山雪中行軍遭難事故――日露戦争を前にした訓練で、厳冬期の青森県八甲田山麓に入った陸軍歩兵第五連隊が遭難。199人もの死者を出した、世界最大級の山岳遭難事故である。この事故が100年以上経つ現在も広く知られているのは、新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』によるところが大きい。 だが、それはあくまで「小説」であって、史実ばかりではない。実際の雪中行軍は、どの

秋晴れの澄んだ青空に映えて、赤や黄色に色づいた木々の葉がまぶしい。小高い丘を登りきり、小さな盆地を見下ろす高台に建つ飾り気のないコンクリートの建物――それが、無言館だった。 先月、長野県上田市を訪れた私は、せっかく来たのだからと、ガイドブックに載っていたこの小さな美術館まで足をのばした。その受付で販売されていたのが、1992年に単行本として刊行され、今年にな

「ようこそおこしやす」。そんな言葉が聞こえて来そうだ。”味のある座敷“で、芸妓さんが迎えてくれている……っと、どうやら迎えてくれているのは、芸妓さんだけではなさいようだ。 えええっ? この画像を見たときの衝撃といったら。イクチオステガって、こんなに小っちゃかったのおおお?! 芸妓さんに並んで三つ指(?)ついてかしこまっているのは、イクチオステガ・ステンシオエ

さて、4回にわたってお送りした本連載( ①シャークジャーナリストは、死を覚悟した! ②サメのふしぎと、謎とロマンの古代ザメ ③サメは安全?サメはおいしい? ④インドネシアで危機一髪!?……ガチで「ほぼ命がけ」 )。いかがでしたか? 最後に番外編として、沼口さんのサメイベントに参加してきたレポートと、取材直後におこったシャーク・セレンディピティ体験、そして沼口

さて、 ①シャークジャーナリストは、死を覚悟した! ②サメのふしぎと、謎とロマンの古代ザメ 、 ③サメは安全?サメはおいしい? と続き、そろそろ終わりかなー、と雑談モードになったころ。本日最大の衝撃話が沼口さんの口から語られた……。 沼口 : ドバイでサメを食べたときに、じつは私、すごい痴漢にあってるんですよ。ドバイって治安が良くて、夜でも若い女の子が普通に

『ほぼ命がけサメ図鑑』の著者・沼口麻子さんとのお話も佳境。 ①シャークジャーナリストは、死を覚悟した! ②サメのふしぎと、謎とロマンの古代ザメ 、に続く、第3回。さらにディープなサメ話は続きます。 塩田 : チョウザメやコバンザメは、じつはサメではないんですが、よくサメと混同されますよね? 沼口 : ええ、でも和名に「サメ」とついているので、それはしかたない

さて、 その①では「シャークジャーナリスト」という仕事についてうかがいましたが 、今回はサメそのもののおもしろさを中心に、沼口さんへのインタビューを続けます。 塩田 : ご著書『ほぼ命がけサメ図鑑』を読んで、サメすごいって思ったところがいろいろあって。 そのひとつが「サメの第六感」と言われる、ロレンチーニ器官。人間にないからわからないんですが、どういうものな

やばい、遅刻だ! 必死で走る私。バッグの中には、『ほぼ命がけサメ図鑑』。 その日私は、世界でただひとりのサメ専門ジャーナリスト(シャークジャーナリスト)であり本書の著者でもある、沼口麻子さんと会う約束をしていた。が、池袋駅前で道に迷ってしまっていた。 サメ――海に行ってもお会いしたくない生物の代表格。「凶暴な海のハンター」というイメージをもつ人も多いことだろ

人は亡くなれば、会えなくなる。話しかけても応えてはくれないし、手を触れることもできなくなる。喪失が突然であればなおのこと、現実を受け入れるのは難しい。私自身、交通事故や突然の病で親しい友人を亡くしたが、10年以上経った今でも、背格好の似た人を見かければ無意識に目で追ってしまう。きっとこの痛みは私が死ぬまで続くのだろうが、それでいいと思っている。 2011年の

神成大尉は、二一〇人の兵隊を凍死させたのは自分の責任であるから自分は自殺する、舌を噛んで自殺すると。…… ベッドの上で正座して話す老齢の男性――その人は、世界最大級の山岳遭難事故の最後の生存者・小原中三郎元伍長であった。 1902年(明治35年)1月。日露戦争を前に陸軍は寒冷地での行軍を調査・訓練するため、青森の陸軍歩兵第五聯(れん)隊と弘前の第三十一聯隊が

「ことりはとってもうたがすき かあさんよぶのもうたでよぶ♪」 子どもの頃、大好きだった童謡。ただ……ふと思う。小鳥が歌うのって、「好き」だからなの? 早朝、森に降りそそぐ小鳥たちのコーラス。聴く側もさわやかで心地よいけれど、小さな体に似合わぬ大きな声で精いっぱい歌う姿を見ていると、やっぱり「歌が好き」なんじゃない?という気がしてくる。 でも「歌う」ことは、わ

大正4年に北海道の開拓集落で死者8人を出した、三毛別ヒグマ襲撃事故。昭和45年に大学生のワンゲル部員3人が亡くなった、日高山脈でのヒグマ事故。記憶に新しいところでは、昨年5月に秋田県鹿角市で起きた4件のツキノワグマによる死亡事故。人とクマとの軋轢、その歴史は長い。 だが、本書でも「クマが人を襲う理由も、99%以上はクマが自分自身の安全を確保するための防御的攻

「人は見た目が9割」「人は見た目が100パーセント」「美貌格差」……その内容はさておき、こうした本やドラマのタイトルは多くの人が「見た目」に関心があることの表れだろう。 では、もしも顔などの見た目に大きなあざや変形などの目立つ症状がある場合、ネガティブな人生が約束されてしまうのか? 本書は、そうした症状をもつ「見た目問題」の当事者9人へのインタビュー集である

おととし、初めて「ふるさと納税」をした。納税先は、岩手県陸前高田市。「お礼」に届いたのは、ホタテやアワビなどの海産物。その滋味あふれるおいしさに感激し、「この魚介を育んだ陸前高田の広田湾とは、どれほど豊かな海なのだろう」と、まだ訪れたことのないその地に思いを馳せた。 だが皮肉にも、その「豊かな海」からやってきた津波によって、陸前高田は壊滅的な被害を受けた。本

学生時代、生物調査のために同級生たちと森でテント生活をしたことがある。当然、トイレはない。必然的に穴を掘ってそのへんにすることになるのだが、その方法には鉄の掟があった。 「紙は使うな、葉っぱで拭け」 ティッシュは簡単には分解しない。自然環境を学ぶ者として、紙を使わないことは最低限の自然への礼儀であった。 「たかが、野ぐそ」と侮るなかれ。適した葉っぱを見つける

肉。ああ、なんて魅惑的な響き! 焼きたての熱々をほおばれば、じゅわっと脂がとろけて、たちまち脳内はあふれ出る幸せホルモンの大洪水や~!! じるるっ。 おっと、よだれが。失礼しました。日本人がこういうときに想像するのは、やっぱり牛肉? 北海道の人ならヒツジかな? でも、世界では「まさかのあんな動物」や「かわいいこんな動物」も、肉です。食材なのです。 本書は3年

山歩きが好きだ。地面に這いつくばってキノコの写真を撮ったり、動物の糞を見つけて内容物を調べたりしながら森を徘徊するとき、「ああ、生きててよかった!」とつくづく思う。 ところが今年6月、衝撃を受ける出来事があった。秋田県鹿角市で起きたツキノワグマによる連続人身事故。射殺されたクマの胃袋から、ごく少量だが人の組織が発見されたのだ。 北海道に生息するヒグマは過去に

昭和34年8月、京都市北部の山中。かねてから催していた便意が高まり、山道を急ぐ男の姿があった。彼こそは本書の著者・山本素石(1919-1988年)。稀代の渓流釣り師として知られ、数多くのエッセイや紀行文を遺した。その素石のもう一つの功績は、ツチノコ探索隊ノータリンクラブの会長として世間にツチノコの存在を知らしめたことである。そのきっかけとなる瞬間が、今まさに

「自分の棺桶がほしい!」 これが健康なアラサー女子の切なる願い……? だがどうやら本気なのだな、これが。だって、著者は理想の棺桶を求めて、アフリカはガーナへと旅立ってしまうのだから。 タイトルにある「メメントモリ」は、ラテン語で「死を想え」の意味。そして言わずもがな、「ジャーニー」は旅、つまり本書は一言で言えば「死と旅のエッセイ」である。 旅先で、すごく完璧

化粧角折入、白帯桃色乙女筆、天使の翼、苺楊梅、雪空時鳥、竜宮翁恵比寿、艶芋、日本乙姫心……。 読み方は、ケショウツノオリイレ、シロオビモモイロオトメフデ、テンシノツバサ、イチゴナツモモ、ユキゾラホトトギス、リュウグウオキナエビス、アデヤカイモ、ニッポンオトヒメゴコロ。 えーっと、これは……中国の古典文学? 密教のおまじない? 戦隊モノの必殺技の名前? それと

宅急便で届いた箱の中から、カサコソと音がする。そっと蓋を開けると、おがくずの中から現れたのは……エビの王様、伊勢エビだあー!! 「かっちょいい甲冑姿を毎日飽くことなく眺めたい!」という欲望に抗える人は、多くはあるまい。当然、飼うでしょ! 本書は偶然出会った生きものを楽しく飼う方法を伝授してくれる、ものすごく実用的な本である。昨年紹介した 『その道のプロに聞く

彼女に出会ったのは13年前、ロンドンの美術館だった。エキゾティックな顔立ち、豊かな黒髪、挑発するような強い瞳。その絵がひときわ目を引いたのは、画家とモデルの間に横たわる張りつめた雰囲気が、初めて見る私にも感じられたためだった 画家の名は、D.G.ロセッティ。ラファエル前派を代表する画家にして詩人である。モデルは、ジェイン・モリス。全ヨーロッパへと広がるアーツ

さて、 足立のレビュー に触発されて小網代にやってきたHONZメンバー。 前編 では森から海へと遊歩道を下り、 中編 では干潟の観察を満喫しました。この後編は、いよいよ今日のクライマックス、ゲンジボタルの観察です! ホタル観察までは時間があったので、柳瀬さんの案内で、港に移動してみます。 さっきまでいた干潟が、奥に見えています。船をもやうロープには、いろいろ

さて、小網代の谷を源流から海辺まで歩いて下ったHONZ一行。ちょうど引き潮の時間帯に干潟にたどりついたので、まずは干潟の生き物観察。そして夜は、ゲンジボタルの観察会がひかえています――。 (足立のレビューは こちら 、前編は こちら ) ここで再び、NPO活動中の柳瀬さんにお会いしました。おや、足立が何か見つけたようですよ。 わかりますか? いっぱいいますよ

きっかけは、5月13日の 足立真穂のレビュー 『「奇跡の自然」の守り方――三浦半島・小網代の谷から』。本書は「地域の自然保護」という決して派手ではないテーマにもかかわらず、なんと刊行からわずか10日で重版!したそうなのです。 ビジネスとサイエンスが融合した新しい自然保護のあり方を示す内容も素晴らしいのですが、きっと小網代そのものの魅力も読者をひきつけたのでは

こわいくらいに透き通ったアイスグリーンの海が真っ青な空に映え、小さな島の真ん中に立つ白い灯台が、週3便しかない小型貨客船のエンジンの振動につれて、少しずつ近づいてくる。 「すごいかもしれない、もしかして、すごくいい島かもしれない!」 1997年、夏。「沖縄離島情報誌で、たまたま最初に開いたページの島に行ってみよう」――そうして私が出かけたのが、西表島の北に浮

ある朝、著者は携帯メールの着信音に起こされる。 2011年3月11日――。 彼女はアメリカ人だが母親は日本人、子どもの頃からしばしば母に連れられて日本を旅してまわった。福島県いわき市で禅寺を営む親族もいる。 メールはアメリカにいる著者に、日本での地震を伝える友人からのものだった。幸運にも、いわき市の親族は無事だった。だがそれがわかるまでの間、不安にかられてイ