
『人間に向いてない』きっとあなたは三回嘔吐く。その後暖かいなにかに満たされる。
HONZの基本は「ノンフィクション本」だ。だがこの小説だけはどうしても紹介したい。 いま、この文章を書いているのは2020年3月末。世界中が新型コロナウィルスによる感染症のパンデミックと戦っている真っ最中である。 この病気は、最初は普通の風邪の顔をしている。だからみな油断していた、見くびっていた。それゆえ対応が遅れた。 日々増えていく感染者の数。制限される生
HONZ副代表
(2024年当時)
466記事

HONZの基本は「ノンフィクション本」だ。だがこの小説だけはどうしても紹介したい。 いま、この文章を書いているのは2020年3月末。世界中が新型コロナウィルスによる感染症のパンデミックと戦っている真っ最中である。 この病気は、最初は普通の風邪の顔をしている。だからみな油断していた、見くびっていた。それゆえ対応が遅れた。 日々増えていく感染者の数。制限される生

2006年にちくまプリマー新書で出た本が再刊された。Kindleでも読めるし、新刊書店で簡単に手に入るようになったのは喜ばしい。感染症を解説した本はいろいろあるが、本書はちょっと特殊だ。メアリーを我が身に置き換えると震え上がるほど恐ろしい。 約100年前のニューヨークで、腸チフスの無症候性キャリアであった女性が、離島に合計で25年余り隔離された事実を追った物

「鳥本にハズレなし」というのが私の持論である。鳥の生態が興味深いのは確かだが、それ以上に鳥類学者にはユニークな人が多い。 『鳥類学者無謀にも恐竜を語る』(新潮文庫)の川上和人、『ダチョウの卵で、人類を救います!』(小学館)の塚本康浩など真摯な研究者が真面目に書いた本ほど面白い。 本書の著者はカラス研究者。『カラスの教科書』(雷鳥社、のちに講談社文庫)の単行本

新型コロナ騒ぎで浮足立っていたけれど、気が付けば来週半ばからゴールデンウィークになる。季節もいいし、新緑も綺麗、いろいろな花も咲き誇っているけれど、今年は全部がまんしましょう。100年に一度の厄災を経験しているのだから、きちんと見極めていきましょうよ。記憶は薄れるから、何かの記録を残すのもよし。何年か後には検証されるはずですから。 朝会(その1) 朝会(その

ZOOMでの朝会は混乱から始まりました。毎日何時間もZOOM会議や講義をしている人はともかく、ほとんど初めて、という人もいて、なかなか足並みが揃いません。画像は出るけど音声が聞こえない人、声はすれども姿が見えない人などさまざまです。 使い慣れている人は、だいたい背景に凝りますね。バーフ・バリやらお決まりの「電波少年」やら。撮影する角度に凝る人もいれば、寝起き

季節は春。新緑が目に眩しく、様々な花が咲き始めました。しかしいま、100年に一度という世界的な伝染病に見舞われています。新型コロナウイルス感染予防のため、非常事態宣言が出され「STAY HOME!」を合言葉に、感染を避けるための試みはしばらく続きます。 一応の目安はゴールデンウィーク終了までとなっていますが、事態の収束は楽観を許しません。生き残るため、何とか

「忍者学」は立派な学問である。三重大学では、伊賀地域を中心とした忍者に関する教育研究を推進し、その成果を広く国内外に発信する国際的な忍者研究の拠点として、また伊賀の地域創生に資することを目的として2017年7月1日に 国際忍者研究センター を開設し、忍者研究に取り組んでいる。 『忍者学研究』は副センター長で三重大学人文学部の山田雄司教授のもと、文系だけでなく

※ ネットでは hontoで取り扱っています。 真剣での立ち合いを見るような、ヒリヒリと緊張感漂う対談である。 一人は武術家甲野善紀。日本古来の武術を伝書と技の両面から独自に研究している。もう一人は土田昇。東京の三軒茶屋にある土田刃物店三代目店主で、明治から昭和にかけて活躍した不世出の道具鍛冶、千代鶴是秀作品の研究家。父、一郎が遺した多くの手道具を所持し研究

新型コロナウィルス禍によって東日本大震災3.11の政府主催の追悼式は中止となり、総理官邸での献花式が行われた。被災した各地方での追悼式も規模の縮小などを余儀なくされ、震災から9年目のこの日は、それぞれの胸の中であの日を思い出していた。 東北学院大学教養学部地域構想学科、金菱清ゼミナールによる震災の記録ブロジェクトから出版された震災関係の本はこれで10冊目にな

この本の発売時に、まさか世の中がパンデミックの恐怖にさらされているとは、製作者は誰も思ってなかっただろう。しかし、感染症の歴史のアウトラインを知りたいという人にはぴったり。かなり重いので持ち運びはできないけど。 日本は海に囲まれて、いわば離れ小島のような存在だから、かつて歴史上で世界的な流行をした伝染病も、外からの災いであるという受け止め方をしていた。毎年騒

昨年、一人暮らしをする88歳の母の家を大きくリフォームした。足腰が弱くなり、生活に不安が出始めて、初めて今後の希望を聞くと、ヘルパーさんの手を借りて現状のまま家で暮らしたいと強く言う。 ならばと、ケアマネ、看護師、介護士、専門業者の知恵を借り、手すりをつけ段差を解消し、介護ベッドや高齢者用の台所を一気に導入してみた。 日常の動線を見直すだけで、こんなに変わる

誰もが行きつく人生の終着点、死というゴールがすぐそこに見えている人は、何を考えているのだろう?ロサンゼルス在住の写真家、アンドルー・ジョージは「死ぬ前の自分にとって大事なことは何だろう」と考えた。 カリフォルニアにあるプロヴィデンス聖十字架医療センターに入院する緩和ケアを受ける患者たちひとりひとりに対峙し、写真とともに彼らの考えや歴史を語ってもらう試みは2年

最初にパソコンを買ったのは1997年のこと。Windows95の発売で一般家庭でもコンピュータを持つことが普通になった。インターネットもダイアルアップで繋ぎ、ジリジリという音を聞きながら画像が出てくるのを待った。 思えばわずか20年ほど前のことだ。今では当たり前に手の中にスマホがあり、気になることはググれば済む。むしろ携帯を忘れると心細くてたまらない。若い世

縦26.5センチ 横20センチ 厚さ4.5センチ。700ページ強で重さは1620グラム。価格は税別1万2000円。年末に入手してから、机の左側にずっと置かれている。持ち歩くことも、ベッドに仰向けになって読むこともできないので、家事や仕事の合間に椅子に背筋を伸ばして座り、少しずつ読み進めるほかはない。だがこの重量に見合う熱量に終始圧倒された。 1995年2月2

片手袋問題に私が触れたのは、少し前のことだ。街道沿いに軍手が片方だけ落ちているのはなぜか?を検討していたバラエティのテレビ番組を見たのだ。その時、出演していたのが本書の著者かどうかは定かではないのだが、トラックの脇腹にある給油口のキャップに被せていたものが、走行中に落ちるのだ、という結論に驚いたのを覚えている。 その後、タモリ倶楽部で著者を知った。考現学にも

大人になってから「美味しい」と感じたものの一つがようかんだ。子供の頃は和菓子、特にようかんには全く魅力を感じなかったが、ある日、濃いお茶とようかんに目覚めた。 『ようかん』は株式会社虎屋の資料室、 虎屋文庫 が編纂した類書なしの「ようかん全史」である。 おなじようかんでも、虎屋のものはありがたさが違う。カラーページには、ようかんの切り口に四季の景色や虎斑模様

人間ではない者との結婚である異類婚姻譚は世界中に存在する。日本でも『鶴女房』や安倍晴明の母親、狐の「葛の葉」などが有名だ。多くは動物が人の形となって現れるが 『遠野物語』 で紹介された「オシラサマ」という民話は異質である。 東北地方の貧しい農家の娘が、飼っている馬に恋をして夫婦となる。だが父親はそれを許さず、馬を殺してしまうのだ。悲恋というより気味の悪い物語

どうやら今の日本はパワー不足のようだ。元気のない状態が常態になりつつある。高度成長期のイケイケを知っている世代は若者に「覇気がない」だの「やる気がない」だのうだうだいうが、先行きに希望が見えないのなら、元気など出しようがないではないか。 せめてパワーをもらおうと「パワースポット」に向かうのは、何か縁(よすが)を得ようともがいてのことだと思うのだ。 もともと高

1994年、アフリカのルワンダで大虐殺(ジェノサイド)が起こった。フツ族によるツチ族の虐殺で、百万人もの死者が出た。 男も女も大人も子どもも、赤ちゃんでさえ犠牲者となった。生き残っても、手足を切り落とされたり地雷で吹き飛ばされたりして障害を負った人が何十万人と残された。 ルダシングワ真美さんは義肢装具士である。マラリヤによって足が不自由になったルワンダ人の夫

本好きなら必ず一度は通る雑誌「本の雑誌」は創刊から43年が経つ。私にとって、最初は本を探す指針であり憧れだったから、後にこの編集部から仕事の依頼があったときには、天にも昇るほど幸せな気持ちになったのをよく覚えている。 現在でも連載中の「この作家この10冊」は、お気に入りの作家のお気に入りの10冊を、書評家、編集者、書店員、ファン、作家などなどが、それぞれ10

今回のゲスト、出口治明さんはHONZの客員レビューアとして、たくさん新刊を紹介してくださっています。APUの学長になられてからは、登場回数こそ少なくなりましたが、精力的に新刊を出されています。この分厚い本がベストセラーなのですから驚きます。 堀内勉のレビュー 刀根明日香のレビュー 仲野徹のレビュー 古幡瑞穂の併せて読まれたこの一冊 また新メンバーである鎌田浩

まずは台風15号および19号によって大きな被害にあわれた方々にお見舞い申し上げます。日に日に被害が拡大する様子をみて、今回の台風がいかに大きく規格外であったかを思い知らされます。とはいえ、台風や洪水、そして地震など、激甚被害を及ぼす天災は毎年のことになりました。図書館や書店の被害も非常に気になります。 HONZは9年目を迎えました。滅多に顔を合わすことがない

第161回の直木賞候補作は全員女性であった。賞創設84年の歴史で初のことだと話題になったが文学の世界で性差を論じることは陳腐なことだと私は感じていた。 『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』は一般向けフェミニズム評論だ。著者の北村紗衣の専門はシェイクスピアのフェミニスト批評。東京大学で学士、修士を、キングズ・カレッジ・ロンドンで博士号を取得している。 北村は年に

うわさ話は甘美な娯楽だ。時にそれは人を追い詰め、取り返しのつかない事件を起こす。 2013年7月21日夜半、山口県周南市金峰地区の郷集落で連続殺人・放火事件が勃発した。この地区の住民はわずか12人、半数以上が高齢者の限界集落で5人の老人が撲殺されたのだ。犯人はすぐに捕まった。 保見光成63歳。その村に生まれ15歳で中学卒業後に東京へ出たが40歳を過ぎて戻って

1976年6月から86年5月まで、カリフォルニア州の各地で50人以上をレイプし、少なくとも13人を殺害、100件以上の強盗を行ったシリアルキラーがいた。犯行現場があまりに広範であったため、その地区ごとに「EAR(イーストエリアの強姦魔)」「バイセリア・ランサッカー」「オリジナル・ナイトストーカー」などの別称で呼ばれ恐れられた。 2001年、現場に残された体液

車を運転する人なら誰でも、行く先に赤い光が見えると工事を覚悟して「あまり待たないといいな」と思うだろう。でもその誘導灯を持つ誘導員に注意を払うことはなく、ほとんど風景のようになっている。 しかし本書を読んで「交通誘導員」を気にするようになると、確かに男女問わず老人と言ってもいい人が、夏の真っ盛り、炎天下のアスファルトの上で真っ黒に日焼けして働いている姿がよく

夏の定番番組といえば怪談。今でこそ少なくなったが、昔は終戦記念日前後には、ドキュメンタリーだけでなく怪談話も戦争に関わる番組は欠かせなかった。特に空襲で死んだ人が、当時の姿で現れるという物語は定型のように語られた。今でも心霊スポットなどをめぐる番組で、兵士や防空頭巾姿の霊を見た、という話は残っている。 本書は64年前に起こった海難事故を、原因や責任、後に起こ

2019年7月17日、 第161回芥川・直木賞選考会が行われ、直木賞に文楽の浄瑠璃作家、近松半二を主人公に据えた『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』が選ばれた。(禁を破ってHONZに仲野徹が書いたレビューは こちら ちなみに仲野は浄瑠璃を習っており、著者の兄弟子に当たる) 私はこの15年ほど文楽に嵌りまくっている。関連本を読みあさっていたのだが、まさかこの知識が日

どんな重大事件でも時を経ると忘れられ、他人(ひと)の記憶は薄れていく。しかし事件の当事者は違う。何年経とうが胸の中に残る。ましてや、正気では受け止めきれないほどの凶悪事件の被害者ならばなおさらだ。 2004年6月、長崎県佐世保市の小学校で6年生の女子児童が同級生の女児にカッターナイフで喉を切られ死亡する事件が発生した。学校内で起こった前代未聞の事件に報道は過

ーもう一冊の新刊『女たちのテロル』も面白く拝読しました。100年前に自ら権利を勝ち取るために命を懸けて戦った女性たちがいたことを知ってなんかやらなくちゃいけない、と焦る気持ちちになりました。実は本を読んですぐ「文子と朴烈」を見に行ったんですよ。本から得た情報と映像が放つリアリティで息が詰まりそうになりました。 ブレイディ: それは作品にとって本望ですよ。主役

ー私はブライトンという町について全く知らなかったので、地図から探してみたのですがロンドンの南なんですね。 ブレイディ :そう、繁華街は海の近くにありますが、うちは海からバスで2・30分くらい離れたところの高台です。海辺はもともとリゾートで、ゲイカルチャーがさかん。ヒップで、おしゃれな店がたくさんある場所です。芸能人が別荘を持っていたり、芸術家たちなどが移住し

―発売3日で大増刷だそうですね。おめでとうございます。編集部から見せていただいた、書店員さんからの熱い反応はすごいですね 。 ブレイディみかこ(以下、ブレイディ) :ありがとうございます。皆さん熱心に読んでくださって嬉しいです。 ―この本を読み終わって思ったのは「こんな息子、欲しいなあ」でした。聡明で、ちょっとシャイで、彼の成長や事件を、近所のおばちゃんみた

2019年3月、杉並区の保母が自室に侵入されて殺害された。同僚男性が逮捕。 13年10月、三鷹の女子高校生がかつての交際相手にリベンジポルノをされた末、殺害される。 12年11月、逗子の女性が、6年前に交際しストーカー規制法による警告が出された男によって殺害される。 これらは被害者が殺されたことで明るみに出た事件だ。被害者である彼女たちの気持ちは今まで表に出

ここ10年あまり、一人暮らしの老母を誘い、年に一度は温泉旅行に出かけている。毎年楽しみにしているが80歳を超えたころから足腰が弱くなり、バリアフリーの旅館を選んでも不満が残ることが多くなった。 そんなときに見つけたのが本書である。世界32か国もの温泉を巡って取材し、温泉専門のライターとして活躍する山崎まゆみが、高齢者や障がい者の旅行に同行して実地を検分、自ら

本書の単行本が出版されたのは2006年の年末のことだ。出版社は、今は無き新人物往来社。当時、本屋をめぐって新刊を探していた時に、棚から私を誘ってきた本だった。 タイトルを見た瞬間に気持ちが鷲づかみにされた。「ツガルソトサングンシ」と読むこの文書の話を私が初めて聞いたのはずいぶん前のことだ。「青森の旧家から見つかった、大和朝廷に対抗した豪族の記録」で、当時から

現在、紀伊國屋書店大阪天王寺ミオ店で開催されている企画展示 「仲野徹の本棚」 を記念し、4月23日に、仲野徹VS.東えりかのトークイベントがありました。ここに紹介され展示されているのはだいたい100冊くらいですが、なんと私は51冊、読んでいました。それだけ普遍的なラインナップであると言えます。 約1時間半、本の話は当然ですが、HONZの裏話や仲野先生の研究の

2015年1月7日11時30分、フランスのパリ11区にある風刺新聞社「シャルリ・エブド」に武装した覆面男2人が侵入し、編集会議中の社員に発砲した。編集長、風刺漫画家、コラムニスト、警察官ら合わせて12人が死亡、多数の負傷者を出した。 後に犯人はイスラム過激派のテロリストと判明し、 フランス各地で数百万人に及ぶ犠牲者追悼のデモが行われた。 本書の原題は『LaL

最初に言っておく。この本は 「閲覧注意」 である。タイトルそのまま、本当にそのままなのだ。 1961年11月20日、マイケル・ロックフェラーはニューギニア南部で消息を絶った。 この地を訪れていた23歳の若者の父親は、ニューヨーク知事で後に副大統領となるの ネルソン・ロックフェラー 。地球で一番の金持ちで、スタンダード・オイルの創設者 ジョン・D・ロックフェラ

思い起こせば何人も「吃音」の人に出会っている。小学校の同級生、部活の仲間、会社の同僚、仕事先の担当者。だからと言って不快になることはなく、会話の仕方に気を付けるだけだった。彼らがこんなに悩んでいたということを全く知らなかった。 マリリン・モンローが吃音であることは、何かで読んだ記憶がある。セクシーなしゃべり方は吃音が関係していた可能性があるという。 『英国王

四条河原町から京都バスに延々と乗って20番目の停留所。そこが平八前になる。若狭街道、通称、鯖街道は交通量が多く、バスから降りたらすぐに道のわきに寄らないと危ない。 「平八茶屋」の暖簾がはためく大きな家があるのだけど、最初は入り口に戸惑う。向かって左側の鬱蒼とした木の下を通ると、そこから広く「山ばな平八茶屋」のお庭が見通せる。お部屋に通されると、外には高野川が