
わたしも、ひとりではない。『死者が立ち止まる場所 日本人の死生観』時計が再び動き出すとき
ある朝、著者は携帯メールの着信音に起こされる。 2011年3月11日――。 彼女はアメリカ人だが母親は日本人、子どもの頃からしばしば母に連れられて日本を旅してまわった。福島県いわき市で禅寺を営む親族もいる。 メールはアメリカにいる著者に、日本での地震を伝える友人からのものだった。幸運にも、いわき市の親族は無事だった。だがそれがわかるまでの間、不安にかられてイ
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ある朝、著者は携帯メールの着信音に起こされる。 2011年3月11日――。 彼女はアメリカ人だが母親は日本人、子どもの頃からしばしば母に連れられて日本を旅してまわった。福島県いわき市で禅寺を営む親族もいる。 メールはアメリカにいる著者に、日本での地震を伝える友人からのものだった。幸運にも、いわき市の親族は無事だった。だがそれがわかるまでの間、不安にかられてイ

律令制の時代から昭和初期にかけて、市場経済が形成され、洗練されていくプロセスが書かれた1冊だ。要所を辿りながら、1200年以上の時間を一気に駆け抜ける。まんべんなく触れるのは難しいので、時代を絞って紹介していきたい。 著者によれば、戦国時代は日本経済史のなかでも特殊な局面であるという。全国レベルで資源配分を管理する存在もいなければ、全国一律の基準で市場経済を

2016年の日本経済は欧州金融機関の混乱、中国経済の減速、また日本銀行のマイナス金利政策により波乱含みの年になりそうだ。それでも欧米主体の現代アート業界は不思議なもので、クーンズやハーストなどアーティストであれば安定した優良株のように、供給するたびに買い手がつくほどの市場が形成されている。 牛の輪切りをホルマリン漬けにした作品で知られるダミアン・ハーストはニ

東日本大震災から5年。この「5年」というのは一つの区切りの意味を持つようで、関連図書の出版が相次いでいる。その中でも注目の本が東北学院大学、金菱清ゼミナールが行った「震災の記録プロジェクト」をまとめた本書である。このゼミの学生と指導教官である金菱清が、被災地における問題が生存(survive)から、生活(life)にシフトしようとしている2013年から始めた

一晩で一気に読み終えたのだが、背中からは嫌な汗が流れていた。とても、他人事ではいられない。こんなことが起こりうるなら、普通に暮らしている人がある日突然、殺人犯に仕立てられても、全然不思議ではないだろう。自分の中で想定していた、世の中に対する前提条件が、もろくも崩れ去っていくような印象すら受けた。 「丸子実業高校バレーボール部員自殺事件」は、2005年にバレー

本書は、シーボルトが長崎滞在の土産として持ち帰り、今やヨーロッパなどで侵略植物の代名詞となっている「イタドリ」という日本の在来植物の数奇で皮肉な運命を、10年の歳月をかけてまとめた異色の写真集である。この本を手にとるまで私は、この植物の存在も、それが世界に広がった経緯も、その忌まわしい現状も知らなかった。イタドリ。どこにでもある雑草である。表紙のハート型の葉

タイトルの『1493』とは、コロンブスが新大陸から黄金の装身具やカラフルな鳥、先住民捕虜を携えてスペインへ帰国した年である。この年を境に、超大陸パンゲアが分裂してから2億年以上もの長きにわたって独自の生態系を育んだきた各大陸が、人類の手を介して再び出会うことになったのだ。コロンブス以前には、どのような生物にも大陸間を結びつけることは不可能であり、それぞれの大

ムハンマド、あまりに人間らしさにあふれているではないか。といえば、不謹慎になるのだろうか。抜群に面白い伝記であった。イスラームの開祖、より正しくは、アラブにおける唯一神アッラーの言葉をつたえた預言者ムハンマドの伝記である。その啓示は、クルアーン(コーラン)としてムハンマドの死後20年たって公式に編纂され、聖典となった。いかにたくさんの人が、クルアーンの朗読に

本書は摑みどころがない。何が新しいか、面白いのかと問われたときに、答えに窮する漠然とした本だ。スペキュラティヴという言葉にヒントがあるだろうかと辞書を引けば、思索的、思弁的、投機的といった意味がある。しかし、どの言葉を当てはめてもしっくりとは来ない。しかし、それでも不思議と紹介したくなる魅力を持っている。スペキュラティヴ・デザインという聞き慣れない言葉の捉え

世界中に存在する本の内容を読み取ってデータ化し、さまざまな形で利用できることを意図したグーグル・ブックス・プロジェクトが立ち上げられた時、そんなことができるのか(分量的な意味でも権利的な意味でも)と疑問に思ったものだ。それが今では、著作権侵害などさまざまな課題を残しつつも事業は継続し、検索した時にお世話になることも増えてきた。3000万冊以上の本をすでにデジ

ビジネスのことであれ、社会全体のことであれ、誰だって正しい方向へ努力したいと思っているはずだ。だがその努力は果たして全体最適へと向かっているのか、それとも部分最適に過ぎないのか。分からぬところに問題がある。 判別を難しくさせているのは、多くの人がいとも簡単に専門領域にとらわれ、視野の狭い状態へ陥ってしまうためだ。先の金融危機など、その顕著な例と言えるだろう。

かつてよく「インタネット空間では多くの人々が発言の機会を得、メッセージを発信できる。言論の幅が広がるだろう」と聞いたものだ。時がたち、なるほど確かにスマホなどが行き渡ったこともあり、多くの人々が様々なメッセージを発するようになった。 が、発信される情報の量は、必ずしも豊かで健やかな言論空間を補償しない。見渡せば中傷、人格攻撃、炎上…。傍目八目、人の争いだと「

本書で取り上げられる発達障害は、教育現場でその問題が指摘される自閉症スペクトラム障害や ディスレクシア などから、遺伝子疾患による ウィリアムズ症候群 まで幅広い。発達障害そのものではなく、「乳幼児の心と脳の発達」を研究の重心としてきた心理学者である著者は、従来は社会性の障害であるといわれていた発達障害に、視覚情報処理とその発達という科学的知見から新しい光を

こんな話が出てくる。インドネシア・パプアで換金作物としてカカオを栽培している女性が、かなり広いはずのカカオ畑からほんの少し、重さにして3キロほどのカカオしか収穫してこなかった。なっている実を全部収穫すれば数十キロあるはずなのに、である。どうやら、食用油が切れたから、買い足すための現金を得られる分だけもいできたらしい。 本書は、市場経済中心のグローバル化の波に

著者の矢作理絵さんが患った病気は、100万人に5人の確率でなる「特発性再生不良性貧血」という厚生労働省指定の血液難病だ。本書では、著者曰く「汚くて、ダサくて、弱くて、もがきあがく、かなりかっこ悪い」闘病生活を追っていくのだが、その語り口が内容に似合わずとてもチャーミング。読み終わったあとには、元気と勇気で心が満たされる、そんな一冊です。 矢作さんは当時33歳

人間と他の動物とを分けるものとは何か?この問いに対する最大の答えは「文字」ではないだろうか。文字を生み出したことにより、人は人という種がどの様な過去を築いて現代にいたっているかを知ることができる。本書は文字が発明された5000年前から現代までに焦点を絞り、その歴史を「人類5000年史」と定義して一気に読み進めようという冒険的な作品である。 なんといっても50

『でっちあげ』というノンフィクションを知っているだろうか。詳しくは 私のレビュー をお読みいただきたいが「モンスターペアレント」という言葉ができたのはこの事件からだった。学校に対して理不尽な無理難題を突き付け、わが子可愛さに教師ばかりか教育委員会、果ては市や県にまでクレームをつけ、裁判にまで持ち込む。それが正当なものならわかるが、嘘八百を並べ立てていた事件で

いま、世の中には「ほめて伸ばす」ことを標榜した子育て本があふれている。本書は、それを実践している親御さんにこそ、読んで欲しい一冊だ。子育てに答えはない。同じ主張の本ばかり読むよりも、違う意見に耳を傾ける余裕こそが大切だと私は思う。最悪なのは、入れ知恵されて子供を操縦しようと考えることだ。おそらく本書には、ほめる子育てを実践中の方をニュートラルに戻す効用がある

国際政治経済のゲームのルールが変わりつつある。シェール革命により自国でエネルギーをまかなえるようになったアメリカは、中東の石油に依存する必要がなくなり、不安定化する中東情勢に介入しなくなった。 かつての世界の警察官が興味を失い、ますます混迷を極める現在の中東。一方で、資源の乏しい日本は そんな不安定な地域に エネルギーの大部分を依存しつづけている。アメリカに

生命がどのようにして誕生し、進化してきたのか?だれもが興味をいだくテーマだ。完全にわかるということはありえない。しかし、あたらしい技術が開発され、あらたな発見がなされ、次第に議論が収斂してきている。全地球凍結=スノーボールアース仮説の提唱者である地質生物学者著者ジョセフ・カーシュヴィンクと古生物学者ピーター・ウォードによるこの本は、最新データを網羅してまとめ

いまや、毎号、見るのは、いや、手にするのがいちばん楽しみといっても過言ではないのが『デザインのひきだし』。印刷や本まわりのプロの間では有名な「プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・加工の実践情報誌」。 10年目を迎えるというこの雑誌、今回の27号の特集は「現代・印刷美術大全」と題して、すごい充実ぶり。厚さをはかったみたところ36ミリ(当方調べ)。でも、途

ダーウィン進化論は、信じられないほど少ない仮定で、驚くほど多くのことを説明してしまう。なにしろ、100万種以上といわれるほど多様で、かつその1つ1つが複雑な機能を備えている生命が、どのように実現されているかを誰もが理解できるように示してみせたのだから、驚異という他ない。またダーウィン進化論は、DNAがどのように遺伝情報を継承しているかというミクロな視点から、

90年代末以降、刑事司法の厳罰化が進んでいる。80年代からは量刑はざっと見て倍になり、00年の少年法改正を皮切りに法律改正のラッシュが続いた。10年には時効も廃止された。 犯罪が増加したわけでも、凶悪化したわけでもない。むしろ諸外国と比べても日本の犯罪率は低い。東日本大震災時に被災者が避難所で整然と行動していたことは海外メディアにも絶賛された。 治安の良さと

2004年に北海道警察の裏金問題で告発を行った中心人物である、原田宏二氏が警察捜査の実態を解説した1冊だ。捜査の根拠となる法律はどのようなものなのか、それらは実際どれほど機能しているのか、なぜ権力の濫用が起きてしまうのか。ノンキャリアとしては最高のポストまで登りつめて退官した経験をもとに、著者は取り締まる側の視点から語っていく。冤罪事件から身近な取り締まりに

「好事魔多し」とはよく言ったものだ。 もろもろの多難を乗り越え、ようやく安定が見えてきたころ、ドカンと足元に大きな穴が開く。人生にはよくあることだと言われるかもしれない。 でも、あとからよく考えてみると、その穴は突然できたわけじゃなく、少しずつ広げられていったものなのだ。多忙な期間は、見たくないから知りたくないから、いろいろな理由を付けて良い方に解釈してきた

リョコウバト、ドードー、何より有名なマンモスなどこの世界では絶滅が後を絶たない。 人間による乱獲や森林の伐採などによる環境変動によってみすみすと絶滅させてしまった場合などは、人間の愚かさの象徴として語られることも多いが、そうはいっても気候の変動なり生態系の変化なりで絶滅というのはいつだって起こりえるものだ。であればこそ──一度絶滅したはずの生き物を現代に復活

タイトルが秀逸。「1998年の宇多田ヒカル」という単語を目にしただけで、様々な情景が昨日のことのように蘇ってくる。だが皮肉なことに、それは音楽に心を躍らせるという経験が、その時から更新されていないことを意味するのかもしれない。 1998年が、いかにエポックな年であったかを示す事実はいくつもある。1つは日本の音楽業界史上最高のCD売上を記録した年であるというこ

この200年間における人類の平均寿命の伸長度合いには目を見張る。1840年を起点にとれば、我々の平均寿命は1時間あたり15分も伸び続けており、この200年で倍になった計算となる。しかしながら、最先端テクノロジーをもってしても不老不死の実現はおろか、150歳まで生きるこすら全く不可能に思える。なぜ、ヒトは老いから、死から逃れることができないのか。 人類が思考を

「文明を動かす究極のエネルギーとは何か?」 この問いへの答え方は、その人の考え方よりも置かれた状況に左右されるのかもしれない。 「文化」や「技術」という答えが場所を占めるようになったのは、何千年というスパンで見ればここ最近のことだろう。それらを謳歌できるのも、食うに困らなくなってからの話である。これまでも、そしてこれからも、文明を動かすエンジンは食べ物だ。

福岡県福岡市、介護施設の発行する雑誌がある。タイトルは 『ヨレヨレ』 。発行以来、九州は元より、各媒体で紹介され、ひそかに名を広めてきた雑誌だ。編集方針は「読んで面白い雑誌」。介護に縁のない人たちが読んで、「腹を抱えてげらげら笑ってもらえたら最高」、その内容は介護施設で起こったエピソードが中心だ。 発行元は社会福祉法人福岡ひかり福祉会が運営する 「宅老所より

効果的な利他主義者は その問いを突き詰めて考え、仕事を選択する。寄付先の選択も同様で、たくさんのいいことができる寄付先を選ぶ。例えば、 ・ 犬が好きなので、地元の動物シェルターに寄付している ・ 日本人なので、なによりも日本の恵まれない人たちに寄付をする ・ 妻が乳がんで亡くなったので、乳がん研究に寄付している ということについて、彼らはどのように考えるだろ

ヴォネガット最後の著作となったエッセイ集『国のない男』が2007年に日本でも出版され、その当時すでに、ほとんどのエッセイが訳されていたことから「ああ、これがエッセイとしては最後かぁ……」と感慨深く読んだのを今でもよく覚えている。『スローター5』などに代表される厳しい現実や愚かな人間を直視しながらも「そういうものだ(So it goes)」と言ってのける彼の優

のっけから著者に反論申し上げたいことがある。出口さんは「まえがき」で、「積み重ねられた歴史を学んで初めて、僕たちは立派な時代をつくれるのではないか」という。つまり本書は良き未来を創りあげるという目的のために、テキストとして読むことができると言っているように聞こえるのだ。 たしかに歴史から学ぶべきこと、いや本書から学べることはあまりにも多い。それは歴史だけでな

南シナ海を舞台とした事件を伝えるニュースは後を絶たないが、その全体像はなかなか見えてこない。なぜ東南アジア諸国はこの地で争い続けているのか、各国が求めているものは何なのか、それぞれの主張はどうしてこれほど食い違っているのか。複雑に絡み合った各々の思惑と過去の記憶が、解決への道はもちろん、状況を把握することすら困難なものにしている。 マスコミが繰り返し報じてい

女性の貧困がメディアを賑わして久しい。働く単身女性の3人にひとりが年収112万円以下との統計もある。こうした貧困女性の中でも福祉の網から漏れ落ちた人々のセーフティーネットとして機能してきたのが性産業だ。 性産業の現場で何が起きているのかに迫ったルポは少なくない。本書でも母乳を欲しがる男性向けの風俗店や30分3900円で違法行為ありの激安風俗店、熟女専門店、他

慌ただしい事から傷ましい事まで、年明け早々大きなニュースが次々舞い込んでくるが、中でも異質な恐ろしさを感じたのが、 香港・銅鑼湾書店の関係者が失踪した という報道だ。後に中国当局が 拘束の事実を認めた が、共産党や国家指導者にとって都合の悪い本を売る人々を香港の中から連れ去るというのは、圧力のかけ方が尋常ではない。「一国二制度」が掲げられてきた香港の「自由」

ドローンという兵器はアメリカ軍が行う対テロ戦争において、なくてはならない存在になりつつある。様々なメディアなどでこの無人兵器が取り上げられているが、その運用実態や、どのような人間が何を考え、この兵器を遠隔操作しているかということは、あまり知られていない。なぜなら、本書でも述べられているが、ピンポイントでテロ組織の幹部を抹殺する、この兵器を運用するには、高度な

サンマ、アジ、キンメダイ、伊勢エビ、ウニ。真夜中、港に水あげされた魚介類がトラック約8000台で運ばれてくる。 これまで約80年にわたって日本人の食を支えつづけた世界最大規模の魚市場、築地市場。その全貌を、本書は水彩のイラストとともに解説している。物品の搬入、競り、仲卸、マグロ卸などひとつひとつの流れが丁寧に説明されているので、自分たちの食卓に魚はこうして届

昭和20年1月1日早朝、昭和天皇は皇居の御文庫内の寝室で目を覚ました。起床を知らせるベルを鳴らすと女官や侍従がにわかに動き出す。ここは昭和17年、吹上御所に建てられた鉄筋コンクリートの防空建築で、戦争が始まってからは事実上の住まいとして使用されていた。 太平洋戦争の終結、その後進駐軍を迎えたこの年、天皇と皇后はどのように暮らしていたのか。本書はそれを側近や家

冒頭の一文から引き込まれる。「あなたは性的に逸脱している。まったくの倒錯者だ」ときたものだ。 そして息もつかせぬ間に「手始めに僕から行こう。」と、自身の性遍歴を語り始める。思春期の頃にネアンデルタール人の裸に興奮を憶えたこと、高校生の時に想いを寄せていた男子が捨てたコーラの空き缶に興奮したこと、初体験の相手が足フェチのゲイであったこと...。 著者が、前著『