
HONZイチオシ伝説の再来 『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』
山岳雑誌の老舗『 山と渓谷社 』に勢いがある。2010年に刊行がはじまった ヤマケイ文庫 では、山岳本でこれを読まねばどうするというような、ヒマラヤの難峰ギャチュン・カンからの決死の脱出を描いた山野井泰史の『 垂直の記憶 』や、死に至る過程がこまかに記録されている松濤明の『風雪のビヴァーク』から、 HONZイチオシ伝説の記念的作品 である『くう・ねる・のぐそ
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山岳雑誌の老舗『 山と渓谷社 』に勢いがある。2010年に刊行がはじまった ヤマケイ文庫 では、山岳本でこれを読まねばどうするというような、ヒマラヤの難峰ギャチュン・カンからの決死の脱出を描いた山野井泰史の『 垂直の記憶 』や、死に至る過程がこまかに記録されている松濤明の『風雪のビヴァーク』から、 HONZイチオシ伝説の記念的作品 である『くう・ねる・のぐそ

人生がひっくり返るような苦労をしてみるのだ! シンガー・ソングライターの峠恵子さんは、家族にも友人にも仕事にも恵まれて、何一つ悩みのない人生を送っていた。ところがある日、心の中に恐怖が生まれる。 「このままでいいわけがない」 私の最大の弱点――。それは「苦労を知らない」こと。その最大の弱点を不意に突かれてしまえば、きっと私はガラガラと音を立てながら脆く崩れ落

宇宙はどのようにしてできたのか、その起源への探求は人類をひきつけてやまない。そのため「宇宙のはじまり」を扱った書籍は少なくなく、2011年新書大賞を受賞した『 宇宙は何でできているのか 』のヒット以降、関連テーマの出版点数は増しているように思える。インフレーション、重力、ダークマター、宇宙のはじまりに迫る様々な理論が、理論物理学者の手で語られてきたが、その理

204カ国。本書の著者が訪れたことのある国の数だ。限りある人生のなかでは、訪れることのできない国、自分自身の目・耳で感じることのできない世界が山ほどあるのだろう。いや、たとえ同じ国を訪れようとも、タイミングや、そこでの人との出会いが異なれば、見える世界や抱く印象は異なってくる。だからこそ、他者の旅行記は、自分が知らない世界、味わったことのない経験に触れられる

この写真が中野翠をこの物語にいざなった張本人、中野みわである。 本書の冒頭を読んで納得した。翠の父親の遺品の整理をしている時に見つかった『大夢 中野みわ自叙伝』。曾祖母みわと一族について綴られたこの小冊子を読んだら興味を抱かずにはいられない。自分の足元へと伸びた幕末から現在までの血脈は、どくどくと流れ続けていたのである。 そう言われてみれば、意志の強そうなこ

意識をめぐる本は最近も『意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論』や『意識をめぐる冒険』が本職の神経科学者によるノンフィクションとして発表されるなど、翻訳(と出版)が比較的に途絶えない分野である。本書の著者もまた本職の認知神経科学者ではあるが、特異性は徹底した実証に基づく意識の定義、およびその応用可能性についての地道な記述であろう(他の著者が実証に

FIFAの汚職については既にニュース等で何度も見聞きしているし、多かれ少なかれ「この手の組織」に黒い側面があることも想像に難くない。だから腐敗があったこと自体、それほど驚くようなことではないのかもしれない。 だが本書を読んで本当に驚いたのは、なぜこれほどまでの長期間、腐敗を止めることが出来なかったのかということである。そこには地下組織のような腐敗の構造と、世

19世紀初頭の海は、現代のそれとは比べものにならないほど危険だった。当時のヨーロッパ諸国では海難事故の追跡調査が行われておらず、どれほどの人が犠牲になったかを正確に知ることはできないが、事故が日常茶飯事であったことは間違いない。イギリスの保険会社の帳簿によると、1816年だけで362隻が“海難”か“消息不明”と記されているほどなのである。 海難事故の原因の多

生命の星、地球。都会のようなコンクリートジャングルにおいても雑草が茂り、アリたちが闊歩する。足下をふと見れば道路の片隅にコケが生育していて、そのコケの中にはクマムシがいる。朝晩の電車に乗り込めば、無数のホモ・サピエンスと接触する。生物はそこに居て当然。そんな風に私たちは感じてしまう。だが、地球以外の天体に由来する生命体は、現在までまだ見つかっていない。はたし

本書は、アイルトン・セナの人間性に惹かれ親交を深めたイタリア人ジャーナリストが、ユニークな切り口で、その人物像をまとめたノンフィクションである。伝説のF1ドライバー・セナを一方的に礼賛した回顧録は世に数多あるが、本書は、敬意と友情を交えつつ、神格化されたセナの“あまりにも人間的な側面”を描くことで、逆にその魅力を最大限に引き出すことに成功している。セナ没後2

「昔は良かったよねー」とぼやき、ノスタルジーという名のお花畑に住む老人や、世にはびこる非科学な通説を統計を使って切り捨ててきた謎のイタリア人、パオロ・マッツァリーノ先生。今回ぶった切る対象が生きた時代は「昔は良かった」と懐かしむこともできない2500年前の中国。「昔は良かった頃の偉大な人」で、もはや誰も突っ込むことができない「孔子」と彼の言動をまとめた『論語

虫とミステリ。なんと素晴らしい組み合わせであろうか。今回ご紹介するのは東化研株式会社会長、兵藤有生氏(監修・林晃史氏)による害虫事件簿だ。東化研は、環境衛生管理を施工、コンサルタントする企業で、特に害虫防除に実績のある企業だ。本書は、長年食品製造などの害虫防除に携わった著者の、害虫混入事件体験記である。 事件は決まって、事務所の電話のベルが鳴るところから始ま

ここ数年、買い手としての自分と売り手としての自分との間に、上手く折り合いをつけられずにいる。一消費者としての立場から考えると、様々なコンテンツが安く、便利に手が入るようになったことは間違いなく喜ぶべき状況である。だが、広告屋としての売り手の立場から考えるとコンテンツが安くなる状況というのは、決して喜ぶべき状況ではない。 ただ喜ぶべき、もしくはただ憂うべきだけ

2015年10月27日(火)から2016年2月21日(日)まで東京国立博物館にて 特別展「始皇帝と大兵馬俑」 が開催される。1974年、3月始皇帝陵の東1.5キロの地点で偶然に兵馬俑坑が発見された。兵馬俑の「俑」とは人間や軍馬の姿をありのままに写し取り、墓に埋めたひとがたをいう。2200年前の兵士と馬の姿が等身大で目の前に現れたのだ。その数は8000体にも上

2008年8月、カナダ人女性がソマリアでイスラム過激派に拉致された。身代金目的で監禁され、繰り返し拷問や暴行を受ける悪夢のような日々を過ごしたのち、2009年11月に解放される。460日間にわたった壮絶な体験を本書で語るのはアマンダ・リンドハウト。拉致されたときは27歳だった。 アマンダは「使命感を持って戦場に行ったジャーナリスト」ではない。旅慣れているほか

ラムチョップが一瞬にしてなくなった夏の夜のことだった。著者はその年、ロックフェラー一家から寄贈されたニューヨーク郊外の土地で、豊かな土壌を持つ場所で運営される実験農場に直結する、誰もがうらやむ環境で、レストランをオープンさせた。その4年前にニューヨーク市内で開業したレストランは「ファーム・トゥ・テーブル」の代表格として大繁盛し、オバマ大統領もお忍びで通う。

学生時代に元素周期表を見せられて「この対応を覚えるのだ」と言われた時程の絶望はなかなか味わえるものではない。水平りーべ僕の船などと語呂の合わせ方も多くのパターンが編み出されたが逆にいえばそれぐらい覚えることが困難であり「hが水素で……hが2つにoが1つでh2o、つまり水か……って水は水やないかい! 何がh2oじゃボケ! いったい……いったいなぜこんなものを覚

福井県若狭湾近くに水月湖という湖がある。周囲長は富士五湖の西湖とほぼ同じ10kmほど。深さ38mの汽水湖だ。このほとんどの日本人が知らない湖こそ、世界中の考古学者や地質学者にとって奇跡の湖なのである。 この湖のおかげで各分野の研究者たちは5万年前に起こった天変地異や人類の進化などについて、より正確な時間を知ることができるようになった。その精度は5万年前で誤差

チベットが自由を取り戻すため、世界平和のために、私たちは焼身する。自由を奪われたチベット人たちの苦しみは、私たちの焼身の苦しみよりも余程大きい。 中国政府の圧政に対するチベット人の焼身抗議は2009年3月に始まり、2011年3月以降連続しながら今なお続いている。2015年8月1日の時点で亡命チベット人を含め147人が焼身を行い、内123人が死亡している。冒頭

町内に信号機が1つもない地方で生まれ育ったわたしは、お受験(小学校受験)には縁がなかった。学力・経済面の問題以前に、近隣に私立小学校が存在しなかったのだ。母校の小学校も廃校になるほどの過疎地域だからかと思っていたのだが、著者も大学に入るまで私立小学校出身者に会ったことがなかったという。私立小学校が身近な存在ではない、というのはそれほど珍しい体験ではないようだ

タイトルに違和感を持つ人は多いかもしれない。政治宣伝を意味する「プロパガンダ」と聞けば、権力者を讃える映像や音楽を嫌々に観たり聞いたりする印象が強い。そして、その映像は退屈きわまりなく、楽しいわけがないからだ。 本書を読めばその考えは一変する。ナチスはもちろん、欧米や東アジア、そして日本でかつて展開されたプロパガンダの実例が豊富に並ぶが、「プロパガンダの多く

「神の眼」を持つといわれ、今世紀最も偉大な写真家と称される男がいる、セバスチャン・サルガドだ。ブラジル金鉱で働く男たち、爆発しつづけるクウェートの油田を消火する消防士、悲壮感漂うルワンダの難民たち、数百万羽ものペンギンたちの群れなど、その圧倒的なインパクトで人々の魂を揺さぶり、観るものを非日常へとつれ去ってしまう彼の写真。セバスチャン・サルガドの場合、写真と

自動車の追突事故。幸いなことに外傷はなく、CTスキャンなどの検査でも異常は認められなかった。しかし、さまざまな神経障害で生活に大きな支障をきたす外傷性能損傷(脳震盪症)患者となった著者・クラーク・エリオットは人工知能を専門とする大学教授。ほんとうにそんなことがあるのかと思えるほどに複雑な症状だ。つらかっただろうに、よく自らの症状をこれだけ克明に記録したものだ

独自の視点で、質の高い写真集をいつも紹介してくれる出版社、赤々舎。今度は、「鳶」として日本を駆け巡りながら、休みを利用して撮影をする「写真家」の作品を刊行するという。しかも、なんと1年間、毎月、月刊体制で連続刊行するとのこと。見れば強烈な生命力を感じる写真が並ぶ一冊だ。撮影したのは鈴木育郎さん、1985年生まれ。いったいどんな人なのだろう。 「この鈴木さんの

量子力学が描き出す世界はあまりに奇妙だ。量子は波であると同時に粒子であり、壁をすり抜けることができ、いったんペアになった粒子同士はどれだけ遠く離れていても瞬時にコミュニケーションが取れるというのだから、すんなり納得することのほうが難しい。どれだけ信じ難くとも量子力学を支える科学的証拠はゆるぎなく、論理的にも強固である。DVDもMRIもスマホも量子力学がなけれ

第三帝国の終焉が近づきつつある、1944年11月26日。フランスのストラスブールでは連合軍とドイツ軍が激しい砲火をまみえていた。そんな戦況の中、都市の中心にある豪華なアパルトマンの一室では、数人の科学者が一心不乱に書類を読み漁っていた。アメリカ人の粒子物理学者ゴーズミットが率いるこの特殊チームはアメリカよりも先進的な研究成果を持っていると考えられていたナチの

深遠な海の中に身を沈めれば、無重力の浮遊感。 目の前には鮮やかな魚達が横切り、好奇心旺盛なイルカや色とりどりのサンゴ礁、人間よりも遥かに大きく愛嬌のあるマンタやジンベエザメなど。ダイビングは、陸上では味わえない世界を堪能できる。 一方、太平洋戦争時の旧日本軍の重要拠点であるミクロネシア連邦チューク州。旧トラック諸島と呼ばれたこの地は空襲により 2 日で壊滅し

まずは下の写真を見て欲しい。これは「人物を撮る」ように言われた二人の被験者が撮影した写真だ。撮影した二人のうち、一人はアメリカ人、もう一人は日本人である。どちらの写真がどちらによって撮られたものか、お分かりだろうか。 多くの人が正解を予想できたのではないかと思うが、左がアメリカ人、右が日本人によって撮影された写真である。複数の被験者に対して行われたこの実験に

2015年3月21日、「世界ダウン症の日」が制定されてから10年目の記念に「ONE+LOVE WORLD」というイベントが、かめありリリアホールで行われた。これは若い世代に歌とダンスを通じて、ダウン症のある子たちのありのままの姿を見てもらおうと企画されたものだ。プロのシンガーやダンスチーム、有名なキッズダンサーとともに、本書の主人公である「ダンスチーム LO

読み始めると小学校の時、夢中になったドリトル先生を思い出し、時間を忘れてしまった。図鑑を見ながら憧れていた動物園の飼育員。この本の中には私の幼いころの夢がぎっしり詰まっている。 最近、結婚して子供が生まれ久しぶりに動物園に行ったという友人は、昔とずいぶん変わっていて驚いた、と話してくれた。 狭い檻の中に閉じ込められていたライオンや、長い鎖をつけられて杭に繋が

人々の行動を支配しているルールは存在しているのか。 組織での情報はどのように広がり、どのようにしてアイデアは広がっていくのか。創造的な社会構造を指し示すことは可能なのだろうか。これまでのところ、人間の行動は自由意志によってコントロールされており予測することは困難だというのが常識だった。 その状況が今、変わりつつある。近年はメールが、SNSが、身体に装着する記

本書は、精神を病んだ人を説得し医療につなげる「精神障害者移送サービス」に従事する著者がまとめた本だ。生命の危険を伴う仕事であろうことは想像に難くないが、全体の半分以上をしめる第1章「ドキュメント」では、想像をはるかに上回る壮絶な事例が多数紹介されている。その文章は、第三者によって安全な所から書かれたものとは違い、対象者の回復を願い行動を共にしている著者の目線

肥満の解決方法は、それほど複雑なものではない。食事の量を減らし、適切な運動を行えばよいのだ。しかしながら、世界中で多くの人々が肥満とそれがもたらす2型糖尿病などの病に苦しんでいる。解決方法が明らかなのにその実行が困難なのは、美味しく高カロリーな食事が街に溢れ、身体をほとんど動かすことなく一日を終えることができるほどにテクノロジーが発展したからだ。 なぜ、わた

2014年の流行語に「ありのままで」が選ばれたことは記憶にあたらしい。それは現代社会が「ありのままでは生きづらい」ことの裏返しとも言えるだろう。本書は、東京大学東洋文化研究所の教授が、“男性装”をやめ、“女性装”を始めたことで、50代になってようやく「ありのままの自分」を見つけた、その過程と考察がまとめられている一冊である。 いわゆる“トランスジェンダー”(

「小用も座ってしてください」。先日、親族宅でこのような張り紙を見て、怒りを爆発させた。なんで一般家庭にこんな張り紙があるんだ!馬鹿野郎、日本男児は立ってするんだよ!女性や外国人が座ってしても、俺は立つぞ、立つんだ。 本書を読むと、自分の認識が浅はかであったことを思い知る。立ってすることにこだわったことに対してではない。日本男児でなくても、ついこの間まで、女性

「癒しを求めて」 「極上のセカンドライフを楽しむ」 「ゆったりと海外生活」 パンフレットには謳い文句が踊る。東京ビッグサイトの会場で行われた「ロングステイフェア2012」には、海外移住を考える大勢の高齢者が詰めかけていた。著者が到着した午前10時の時点で、入口にはすでに行列ができあがっていたという。 東南アジアの人気は根強い。年金の範囲である程度充実した生活

たとえば宇宙、あるいは深海、もしくは辺境。人類は未知の世界に魅了され、フロンティアを切り開いてきた。だが我々の日常には、もはや冒険すべきフロンティアは残されていないのだろうか。 材料科学という研究に従事してきた著者は、マンションの屋上から見えるありふれた風景を材料という視点から見つめ直すことにより、既知の世界をフロンティアへと変える。 文明とは煎じ詰めれば材

本を読んでいる時の紙。家で、仕事場で、ショーケースで、どこにでも存在しているガラス窓。口に含むまでは固形物なのに口に入れるとすぐにとろけるチョコレート。構造物の基礎としてあらゆるところに存在している鉄筋コンクリート。身近で日々接しているというのに、あまりにも当たり前に存在しているのでその凄さや来歴を特段意識したりはしないものだ。 コンクリートとはいったいどの

『 フィラデルフィア染色体 』と聞いても、医学関係者以外は何のことかわからないだろう。血液細胞の「がん」のひとつである 慢性骨髄性白血病 (CML)において認められる異常な染色体の名前である。その染色体の発見から、CMLに対する夢の特効薬がどのようにして開発されたかを丁寧に描いたのがこの本だ。 1959年、フィラデルフィアのがん研究者と「染色体おたく」が共同

著者の大河内直彦さんは 海洋研究開発機構 ・生物地球化学部門のリーダーであり、この分野では日本を代表する科学者の一人だ。そのかたわら気候変動や地球科学に関するポピュラーサイエンス、すなわち科学読み物の作家としても出版界では注目が集まっていた。気候変動の謎に迫った『 チェンジング・ブルー 』が硬派な大部であるにもかかわらず、非常に評価が高かったからだ。 現役の