
想像以上に広くて複雑な深海という世界──『深海学―深海底希少金属と死んだクジラの教え』
深海は調査が進んでおらず、海底よりも月の表面の方がわかっていることの方が多いとさえ言われる世界だ。だが、近年深海用の潜水艇などの高性能機材が開発され、深海が想像されてきたより広く複雑な世界であることが明らかになってきた。本書はその書名通りに、深海にまつわるさまざまなトピックを扱った一冊だ。 生物の話からはじまって、地球温暖化と深海の関係性、深海底ビジネスが深
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深海は調査が進んでおらず、海底よりも月の表面の方がわかっていることの方が多いとさえ言われる世界だ。だが、近年深海用の潜水艇などの高性能機材が開発され、深海が想像されてきたより広く複雑な世界であることが明らかになってきた。本書はその書名通りに、深海にまつわるさまざまなトピックを扱った一冊だ。 生物の話からはじまって、地球温暖化と深海の関係性、深海底ビジネスが深

シュートが連続で何本も決まる。賭け事で勝ちが続く。名案が次々と浮かんでくる。そんな「ツイている」「波に乗っている」状況は、誰しも身に覚えがあるだろう。 ひとつの成功がさらなる成功を呼び込む。そんな神がかった状態は「ホットハンド」と呼ばれる。この絶好調な感覚が本物であることを、統計的に証明しようとする試みがあった。 ホットハンドは実在するのか。この謎にまつわる

広大な宇宙で生命は地球だけに存在するか否かは、古来より人の大きな関心事だった。一九世紀英国の作家ウェルズはSF小説『宇宙戦争』にタコのような火星人を登場させ、地球外生命の一般的なイメージとなった。そして20世紀に入って宇宙飛行が実現すると、地球外へ積極的に生命を探索する研究が始まった。 地球外生命の探求は、生命はどのように誕生したかという生命起源をめぐる根本

『生命機械が未来を変える』ご恵送いただいたこの本、たいそうなタイトルやなぁと思いつつ軽い気持ちで読み始めたのだが、一気に読了。そして、ふたつのことに驚愕した。ひとつは、もちろんその内容だ。 MIT(マサチューセッツ工科大学) においておこなわれている研究を中心に、生物学と工学を本当の意味で融合させた研究、「エネルギー」、「浄水」、「医療」、「身体」、「食料」

協力的コミュニケーションのひとつに、指さしジェスチャーがある。わたしたち人間は何かを指さすことによって、「あれを見て」という自分の意図を他人に伝えることができる。至極簡単に思えるそのコミュニケーションも、しかしながら、ほかの動物にとってはことのほかむずかしいようだ。実際、ヘアらの実験によって、チンパンジーでさえも指さしを理解できないことが明らかになっている。

科学にとって意識ほど難物なものはあるまい。赤いリンゴを見たときの、あの「赤い感じ」はどのようにして生じるのか。身体を所有し、自由意志によって行動をコントロールする、この「私」とは何なのか。意識のそうした主観的な性質は、客観的な記述を旨とする科学的説明を寄せつけないように思われる。 そのように、意識の科学の道のりはきわめて険しい。だが、この30年ほど、その科学

一時的なのか、それとも集団免疫を獲得したからか、新型コロナの発症数は減少している。世の中は、おそるおそるだがコロナ前の生活に戻ろうとしている。 果たしてこの「新型コロナウイルス」はどこからきたのか?2019年末に中国の武漢市から始まり、世界中を席捲し、感染者5億人以上、死者600万人以上(2022年6月1日現在)というパンデミックの最初のひとりは誰で、どうし

科学者がときとして見事な文章を書くことがある。本書は寺田寅彦(1878-1935)や湯川秀樹(1907-1981)など世界的科学者が残した名エッセイから厳選し、文庫オリジナルとして編まれたものである。 しばしば教科書に掲載されてきた科学の随筆だが、実は私自身、国語の時間に中谷宇吉郎(1900-1962)の文章と出会って物理学という非常におもしろい世界があるこ

動物たちは天才だ! 心底驚いた。こんなに多様で素晴らしいナビゲーションシステムが動物に備わっているとは。 ナビゲーションというのは、採餌や生食などといった動物の生存に必須のものである。だから、何億年という単位での進化により、これくらい巧妙な仕組みが作り上げられても不思議ではないのかもしれない。また、無意識のうちに人間の能力と比較してしまうから、不思議さを感じ

本書は2021年に刊行されたジェフ・ホーキンスのA Thousand Brains: A New Theory of Intelligence の全訳である。原書は2021年のフィナンシャル・タイムズ紙のベストブックに選出されたほか、ビル・ゲイツの「今年おすすめの5冊」にも選ばれ、「人工知能はとりわけSF作家の想像力をかきたてる題材だ。真のAIをつくり出すの

この『魔術師と予言者』は書名だけみるとファンタジィ小説だが、その実態は2050年、人口が100億に達した時の地球環境の危機について考察する大著である(総ページ数は700を超える)。現在の地球人口は約77億人だが、すでに限界ぎりぎりの地球の資源状況が人口が増えればここからさらに厳しくなっていくのは火を見るより明らかだ。 このままだと、食料も、エネルギーも、水も

新型コロナウィルスCOVID-19のパンデミックは多くの人たちに災厄をもたらした。どうやら定期的に訪れるこのコロナウィルスのパンデミックに有効な予防方法は伝統的な公衆衛生の手法以外には人類は用意できていなかった。COVID-19に先立って地域的な流行を発生させたSARSコロナウィルスやMARSコロナウィルスは流行が終息したこともあったが、ワクチン開発の試みは

2020年に世界を襲った新型コロナウイルスは、人間という「コロニー(集団)」に何をもたらしたのだろうか?本書は進化生物学者がアリを対象として、マクロ生物学の観点から生物社会の本質をわかりやすく解説した秀逸な啓発書である。 アリ社会が持つ精妙な組織が、きわめて誠実で地道な観察によって明らかにされる。さらに自然界の正確な観察から炙り出されてくる、人間の持つ思い込

「ヒュッゲ」ということばをこのごろよく耳にする。ウィキペディアでは、「ウェルネスかつ満足な感情がもたらされ、居心地がよく快適で陽気な気分であることを表現するデンマーク語およびノルウェー語である」と解説している。家族や友人とおいしい飲み物やおつまみを囲みながら居心地の良いひと時をゆっくりすごす時間を「ヒュッゲな時間」と言うようである。『翻訳できない世界のことば

地面には土と岩があり、少し掘ってみると硬い岩石がある。こうした土や岩を研究するのが地質学で、既に300年近い歴史をもつ。地質学者にとって岩石は、地球のなりたちや未来まで予測できる魅力溢れる物質なのだ。 本書は地質学の第一人者が、岩石の不思議を古今東西にわたる人類の文明に引き付けて雄弁に語る。実は、人間は地球上のあらゆる岩石から文明を創ってきた、と言っても過言

バイオベンチャー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチン開発秘録だ。その疾走感が半端ではない。なにしろ、ワクチン開発に取り組むチームを組織した日からヒトに投与するまでわずか88日しか要さなかった。このことからだけでも、その猛烈なスピードが想像できるだろう。 え?ワクチンといえばファイザーとモデルナのmRNAワクチン、それにアストラゼネカとかで、ビオンテッ

本書の著者ブライアン・グリーンは、超弦理論と呼ばれるミクロな世界についての理論を、マクロな世界の極致というべき宇宙論に応用する研究や、より一般に宇宙素粒子物理学と呼ばれる分野の研究で、長年第一線に立ってきた物理学者である。しかもグリーンは専門の業績のみならず、一九九九年に刊行されて世界的な大ベストセラーとなった『エレガントな宇宙』(日本語版は二〇〇一年刊行)

いうまでもなく、地球温暖化が問題になっている。気候変動、動植物の分布、疾病構造の変化などと並んで、海面上昇も大きく影響をうける現象のひとつだ。「温暖化→氷の融解→海面上昇」という流れはわかりやすい。では、そこに南極の氷がどれくらい寄与するのか?その答を知っている人は多くないだろう。 現時点ではほぼ無視できるが、いずれ大きな影響を及ぼすに違いない、というのが正

あなたは、信じるだろうか? 空中浮遊を30分もするなんて、迷信、ウソ、見まちがい、やらせ・・・そう言って、はねつけるだろうか? この精神科医は、信じている。悪魔は実在し、多くの人が、いまもなお闘っていることを、信じている。 「精神科医のなかには、おかしな人もいる」、読み始める前のわたしは思いこんでいた。 本書の版元・国書刊行会が、この本をウェブサイトで「オカ

2021年8月半ば、日本では新型コロナウイルスの感染者が5000人を超えた。その後ピークアウトして減少を続け、2021年11月15日現在、全国で感染者が100人余りという日が続いている。重症者も少なくなり、ひとまず第5波のパンデミックは落ち着きを見せている。この感染者が急減している原因は特定されてないが、ワクチン接種の普及が大きな要因であることは間違いないだ

本は速く読めるにこしたことはないと思っている。だが久しぶりに、1日1章のペースでじっくりと味わいたい1冊が現れた。人体のあらゆるパーツをさまざまな角度から語り尽くし、徹底的に不思議を思議する。一見、当たり前のことほど驚きは深く、身近なものほど奥が深い。こういう感覚を何日にもわたって感じることができるのは、まさに至福だ。 著者はビル・ブライソン。これまで数々の

10月7日に首都圏で震度5強の強い地震があり、75000台のエレベータが停止し28件の閉じ込め事故があった。東京23区でこうした強い揺れを観測するのは、2011年に東日本大震災を引き起こして以来である。また、10月20日には熊本県にある活火山の阿蘇山が噴火し、中岳火口から火砕流が1600メートル流下した。 今年は東日本大震災(日付をとり「3・11」と呼ぶ)の

研究にはいろいろな分け方がある。ひとつは、役に立つか立たないかという分類だ。よく議論になるが、これは落とし所はほぼ決まっていて、現時点では役に立たないかもしれないけれども、将来的に役に立つかもしれないからやるべき、ということになっている。極めて反対しにくい結論であるが、いささかの嘘が入っていると言わざるをえまい。実際にやってきた本人が言うのだから間違いない。

ベストセラー『言ってはいけない 残酷すぎる真実』の著者である橘玲氏が、最新の心理学と脳科学の観点から「わたし」とは何かを説く一冊だ。 人の性格は無意識のうちに決定され、あらゆる行動の基盤となる。それらを「内向的/外交的」や「楽観的/悲観的」など8つの項目に定義していく。 たとえば経済的に成功者が多いのは内向的な人種である。人には最適な覚醒度があり、それぞれの

世の中に猫好きが多いのは知っていたけれど、ここまでとは思わなかった。猫の腎臓病の治療薬開発をめざす東大のクラウドファンディングに1カ月で約1億7600万円もの寄付が集まったというのだ。大口の寄付もあるだろうけれど、申し込み件数が約1万3400というのもすごい(朝日新聞より)。 その開発者である東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授が自ら書かれた本である。鍵と

ネコ好きの人はもちろん、そうでない人にとっても朗報だ。ネコを飼った経験のある方はご存じかもしれないが、ほとんどのネコは老齢になると腎臓病にかかり、その多くは長く苦しんだ末に死んでしまう。しかし今、この腎臓病を治すための研究が進んでいるという。 もしこれが実現すれば、ネコの寿命は現在の2倍、30歳程度まで延びる可能性がある。それだけでなく、ネコを対象としたこの

地球は「生命の惑星」と呼ばれ多種類の生物が生息している。これは厳しい環境の宇宙空間では極めて稀なことで、生命の維持に必要な安定した環境があったからだ。 宇宙の中で生命が生きられる場所を、「生命居住可能領域」(ハビタブルゾーン)と呼ぶ。実は、生命にとって最も重要な物質は、熱しにくく冷めにくい水の存在である。地球は表面の7割を海が占めるが、ここに貯えられた大量の

気候変動メカニズムやその対応策についての議論は、抽象論から枝葉末節まで玉石混淆に陥りがちだ。「脱炭素」「EVの普及」「エコバック」など、毎日のようにメディアでキーワードが飛びかっているが、結局なにから手をつけるべきなのか分かりづらい。地球温暖化問題に対して、どのような視点からアプローチしていけばいいのか分からないと悩む人は少なくないはずだ。 今回、この問題を

本書には、生物学や遺伝子学的に「人が悩んでもしょうがないこと」が51個紹介されている。著者は生物学や脳科学・心理学の領域に長年携わるかたわら、「たけしのTVタックル」などの人気テレビ番組への出演経験も多数ある進化心理学者だ。とても親しみやすい、読んで楽しい本に仕上がっている。 相田みつをの「にんげんだもの」という書をみて、心が軽くなる人は多いだろう。本書を読

今年は東日本大震災の発生から10年目という節目の年である。若い世代には当時の記憶をもたない人が増えてきた。東北沖で約1000年に1度というマグニチュード9の巨大地震が発生し、日本列島の地盤を東西へ5メートルほど引き伸ばしてしまった。このストレスを解消しようとして内陸では地震が頻繁に発生し、私が専門とする地球科学では、今後20年は止むことがないだろうと予測して

「女性は親切で、コミュニケーション能力が高い。他方で、男性は攻撃的で、空間認識に長けている」。性差に関するそうした主張を、あなたもどこかで耳にしたことがあるだろう。さらにあなたは、そのような主張が展開されるなかで、「女脳」「男脳」といった言葉が使われているのを目にしたことがあるかもしれない。「女脳はコミュニケーションに関わる領域が大きく、男脳は空間認識能力が

近年、ロケットのための計算に明け暮れていた女性たちを描き出したノンフィクション『ロケットガールの誕生』や、ディズニー初期の女性アニメータたちの活躍を取り上げた『アニメーションの女王たち』など、歴史の影で見過ごされてきた女性たちの活躍を取り上げるノンフィクションが増えてきている。今回紹介したい『コード・ガールズ』も、第二次世界大戦中にアメリカ軍に所属し暗号解読

余計なお世話かもしれないが、本書を読み終えて、あることが心配になった。このままではSFというジャンルが消滅してしまうのではないか、ということだ。 かつてはSF映画の脚本めいたことを思い付いたとしても、それをフィクションとして記述するに留まったはずだ。しかし今や、あらゆることが現実に実装できる世の中になりつつある。どんな突飛なアイデアも、実装されてしまえば、ノ

自分の研究を「何の役に立つか」と質問されたら科学者は明確に答えられるだろうか。「おもしろいから研究しているのだ」と堂々と言える人は少ないだろう。日常生活で研究者を直接知る機会は少なく、研究は象牙の塔の中だけで行われていると思われている。 それではいけないと本書の編者・柴藤亮介は考えた。彼は学術系クラウドファンディングサイト 「academist」 を立ち上げ

本書の著者でジャーナリストのスザンナ・キャハランは、突然、抑うつ状態におちいった。次に精神病症状が現れ、幻覚を見るようにもなる。症状は悪化していき医療担当チームは彼女を統合失調症と診断、「精神科病院への移送」を検討した。 しかし、それは誤診だった。彼女は自己免疫性脳炎という病を患っていたのだ。ある神経科医が気づかなければ、重度の統合失調症患者として効果のない

天才には世界がどう見えているのだろうか。 これは凡人には一生わからない謎かもしれない。 たとえばアイザック・ニュートンは、なぜあれだけ物理法則を発見することができたのか。同じように夜空を見上げても、凡人はせいぜい月がきれいだと感心するくらいなのに対して、ニュートンは「なぜ月は落下してこないのか」と考えた。天才の目にはどうやら凡人とは違うものが見えるらしい。

北極圏は氷と雪と岩ばかりの地表である。季節ごとに雪が積もり、氷が溶け、景色は移ろいでいく。イヌイットはその中から場所を特定する手がかりを見つけ、獲物を探し、そして迷うことなく家に戻る。アボリジナルがオーストラリア大陸の広大な砂漠を横断するために実践するナビゲーションの技は、祖先たちの足跡を刻む曲がりくねった道を参照にすることだ。太平洋諸島のカヌー乗りたちは天

何か不測の事態を前にすると、本読みの習性でつい本に手が伸びてしまう。 中国・武漢で発生した原因不明の肺炎に世間が注目し始めた頃、読み直さねばと書棚からひっぱり出したのは、 『パンデミックとたたかう』 という本だった。 この本は、SF作家の瀬名秀明氏が東北大学医学系研究科教授(当時)の押谷仁氏と新型インフルエンザについて議論を交わしたものだ。2009年に出た本

すぐそこにある日常の中にこそ驚異がひそんでいる。材料科学という魔法の杖で著者が触れると、なじみ深い液体も、なんと魅惑的で不思議な姿を現すことだろう。 固体と気体のあいだにある「液体」という状態は、なるほど謎めいている。たとえば、スマホやテレビのディスプレイなどに使われる液晶。その名のように、液体と結晶(固体)の性質を併せ持つ。この奇妙さと電圧をかければ分子の

わたしたちは多くのことを頭で学ぶ。すなわち、わたしたちの学習はおもに脳が担っている。しからば、脳がいかにして学ぶかを知れば、わたしたちの学習と教育についても重要な示唆が得られるのではないか。本書は、そんな着想を具体的な形にまとめた一書である。 著者のスタニスラス・ドゥアンヌは、フランスの著名な認知神経科学者である。これまでに 『意識と脳』 や 『数覚とは何か