
『エロの「デザインの現場」』 - R18の想像力
なにもかもが久しぶりの経験であった。 書店でなかなか見つからず、店員さんに「『エロのデザインの現場』って本、ありますか?」と聞いてちょっと恥ずかしかったこと。電車の中で隣の人に覗きこまれないよう、表紙に角度をつけてガードしながら読まなければならなかったこと。家に帰ってきてからも妻に見つからぬよう、大きめの写真集の隙間に背を奥側に向けてしまうなど細心の注意を払
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なにもかもが久しぶりの経験であった。 書店でなかなか見つからず、店員さんに「『エロのデザインの現場』って本、ありますか?」と聞いてちょっと恥ずかしかったこと。電車の中で隣の人に覗きこまれないよう、表紙に角度をつけてガードしながら読まなければならなかったこと。家に帰ってきてからも妻に見つからぬよう、大きめの写真集の隙間に背を奥側に向けてしまうなど細心の注意を払

ニューヨークは世界で唯一無二の街である。パリやロンドンにはそれぞれに個性があるもののヨーロッパの都市特有の佇まいがある。東南アジアには東南アジアの匂いが、南米には南米の色がある。しかし、ニューヨーカー(ニューヨーク人)とマンハッタンの摩天楼が醸し出す徹底的な上空への指向は他の街では見られない唯一無二の存在のように見えるのだ。人々は走るように歩き、倍速で話す。
大学を卒業してから2年ほど、まともに仕事もせずにぶらぶらしていたことがある。学生時代に探検部で活動していたせいで、卒業してからも探検家になるという夢を捨てきれなかった私は、過ぎ去っていく青春にしがみつくように貧相な暮らしを続けていた。半年間ほどのニューギニア島の旅から帰国した後、登山仲間から土方のアルバイト先を紹介してもらい、工事現場に何週間も寝泊まりして、
先日、帰郷した際に美術展「ジパング展」を観てきた。展示内容は、会田誠や山口晃など現代美術作家30名以上が参加した豪華ラインナップであり、500円という入場料金にもかかわらずほぼ貸し切り状態でとても堪能できた。 その中のラインナップに、異色の作品があった。一見すると絵画だが、よく見るとゆっくりと雪が降りつもり、枝には雀がとまってくる。そのフレームの中は動画だっ
あけましておめでとうございます。2014年もHONZをよろしくお願いいたします。 さて、今回ご紹介するのはMOOKです。HONZのルール上、MOOKはアリなんだったかどうだか忘れましたが、コンビニのワンコインBOOKSがオーケーなんだからMOOKだっていいだろうということです、はい。なにしろ年末年始、わたくしはこの本でたっぷり楽しみました。実に「使える」本だ
あけましておめでとうございます。お正月の三箇日はいかがすごされましたでしょうか。私儀、元旦の朝から、大阪は天満天神繁昌亭へ行き、贔屓の 笑福亭福笑師匠 に大笑いさせてもらってきました。 そこから復興できたのは、後に四天王と呼ばれるようになる四人の落語家、 六代目笑福亭松鶴 、 桂米朝 、 三代目桂春団治 、桂小文枝(後の 五代目文枝 、いまの 文枝 =以前の

『スラムダンク』でお馴染みの漫画家、井上雄彦氏が日本の伝統行事である「遷宮」行事を通じて人々が体験した、先祖または神から受け継いできた歴史を、筆絵とエッセイで解き明かした一冊だ。 また本書には、神宮司庁の河合真如広報室長、出雲大社の千家和比古権宮司、式年遷宮で総棟梁を務めた宮間熊男棟梁、建築家の藤森照信教授との対談も収められている。 絵描き(職人)だからか、

あるチームに異分子を投入することで、そのチーム全体がゆさぶられ成長するのであれば、はみでた人間は強力なカンフル剤と言えるだろう。 映画『スティーブ・ジョブズ』の主演男優アシュトン・カッチャーが、 技術企業Lenovoのエンジニアになった。 もちろんアシュトンを招いたLenovoが期待するのは、技術的なスキルや専門知識というよりも、画期的イノベーションに必要な

プロローグに出てくるのは小指のない老門番である。2009年秋まで、太秦の東映京都撮影所を訪ねると、正門脇のベンチには眼光鋭い老人がいた。名前は並河正夫という。1950年代の東映時代劇映画黄金期から現場の最前線で予算やスケジュール管理をする制作進行として活躍し、晩年も駐車場の配車係として撮影所に雇われていた。 小指がないだけではない。並河の身体には手首から足首

歌舞伎役者の坂東三津五郎さんの膵臓に腫瘍が見つかり、9月の歌舞伎公演を休演することになった。歌舞伎界は昨年12月に中村勘三郎、今年2月に市川團十郎という看板役者を失い、千辛万苦の時期だったから梨園とご贔屓筋の心労は計り知れない。 じつは歌舞伎界は2011年1月に中村富十郎、同年10月に中村芝翫、昨年2月に中村雀右衛門という3人の人間国宝も失っている。「新歌舞

最近、無心の力についてよく考える。人が没頭して作られた作品から、すごいエナジーを感じるようになったからだ。作品の完成度の解釈は人それぞれだが、私はその対象物にどれくらいのエネルギーと時間をかけ、没頭して創ったかによると考えている。無心状態で創られた作品は高い完成度に直結し、作品に対する思いは見る人へとダイレクトに伝わっていくだろう。 本書には宮城県の被災地、

日本プロ野球界において、その年の最高の投手に与えられる「沢村賞」という栄誉。今年、満場一致で田中将大投手(楽天)に贈られたことは記憶に新しいが、この「沢村賞」という言葉の持つ響きには、今なお神聖なものがある。 選考基準は、登板試合数・完投試合数・勝利数・勝率・投球回数・奪三振・防御率など。これだけ分業制が確立された現代においても、完投試合数、投球回数などの項

『ニューヨーカー』誌の9月9日号に、エリート・アスリート、つまりは並の人ではなく、人間の能力の極限に挑戦する運動選手を通して見るスポーツ科学の現在、といったなかなか興味深い記事が載っていました。その分野の関連書籍をいくつかまとめて紹介しながら、「フェアプレーって何だろう?」といったことまでも考えさせる内容でした。 ところで、『ニューヨーカー』に掲載されたスポ
今から30年前、都内郊外の精神病院の保護室にマリアの絵を描く患者がいたそうだ。 保護室とは、東京足立病院の閉鎖病棟は最奥に位置し、簡単な台座と布団だけが置かれ、コンクリートの床に穴が空いただけの便器が備え付けられている構造だった。実際に入った患者によると、当時この場所を「牢獄よりもひどい」と伝えていた。保護室という鉄格子の威圧感がもつ物理的かつ象徴的な閉鎖性

趣味性が高く、マニアックな世界の話を外向けにコミュニケーションしているケースというのは、そうそうお目にかかれない。その手の会話の醍醐味はハイコンテキストなやりとりが交わされるという点にあり、前提となる知識が省かれることによって拍車もかかる。ましてや秘匿性の高い話題となれば、なおさらのことだ。しかし水面下では、地下水脈のように文化的な基盤が共有されており、その

「美術品の世界へようこそ!」と両手を広げて迎え入れてくれるのは、本書の著者、朽木ゆり子さんだ。朽木さんが描く、美術品の背後に渦巻く歴史の数々に、読者は息をつく暇もない。ノンフィクション特有の、頭の中に次々とわき起こる知的興奮で四六時中頭がいっぱいになる。そんな著者の代表作、『ハウス・オブ・ヤマナカ』が文庫版として再登場した。 本書の序章だけ紹介したい。タイト

南米ベネズエラといえば、反米主義のウゴ・チャベス元大統領、石油、野球などが思いつく程度で、あまり日本人には馴染みのない国だろう。もしかするとミスユニバースを何人も輩出する美女大国として知っている人の方が多いかもしれない。 そんなベネズエラでは、ここ数年『エル・システマ』という音楽育成プログラム発祥地として世界中の注目を浴びている。注目を浴びるきっかけとなった

8月18日、世界陸上が閉幕した。TBSが中継した午後9時の平均視聴率は13%。前週同時間に放送された人気ドラマ「半沢直樹」の平均視聴率が29%だったから「半返し」である。それもそのはず日本が獲得したメダルは女子マラソンの福士加代子の銅メダル1個だけ。どのスポーツでも日本選手の活躍と視聴率は相関関係にあるのだ。 ところが国際陸上競技で常に日本が首位を争う分野が

まことに、「百聞は一見に如かず」である。本書には、カラーの図版がふんだんに使われており、読者は、天国(例えば、「ムハンマドの楽園」、図版6)や楽園(例えば、「神々のいるアルカディアの風景」、図版12)が、およそどのようなものか、一目で了解できるのだ(因みに、このような図版入り書籍が発展したのは、大元ウルス治下のことである。全相本とよばれていた。宮紀子「モンゴ

落合博満が、映画を語る。これだけでも十分に意外性があるのだが、そこで紹介されている映画がさらに意外なものばかりであったから、二重の意味で驚いた。 現役時代はオレ流を謳い、監督時代は日本シリーズで完全試合目前のピッチャーを降板させた男。そんな数々のエピソードから、どんな極論で煙に巻くのかと思いきや、ベタとも思えるような超定番作品が相並ぶ。紹介されているのは、三

悩みに悩んだあげく、ついにソニーのデジタルスチルカメラDSC-RX1Rを買ってしまった。なんと20万円超えのコンデジである。しかし、ここ数年間で買ったあらゆるものの中でもっとも満足度が高く、2日間続けて枕元において一緒に寝る始末。生まれて初めてライカを買った時よりも興奮するとは夢にも思わなかった。 簡単に撮った画像がスゴイのだ。肉眼では見えなかったものを写し

「アンティーク・ディーラー」 なんと心地よい響きだろう。アンティークにディーラーである。この言葉の組み合わせに強く惹かれる。ただいきなり残念なことを申し上げると、アンティーク・ディーラーは世界で年々減少傾向にある。フェアの開催頻度・規模でいえば文句無しでイギリスが一位だが、一方で日本も1980年代にヨーロッパから大量に取り入れたお宝がワンサカある。のれん分け

家族の理想は?と考えると、両親と子供二人、出来ればお姉ちゃんと弟という構成が頭に浮かぶ。多分、小さいころから刷り込まれた“一姫二太郎”が色濃く残っているのだろう。『サッカーデイズ』はまさに私の中では典型的な家族が、サッカーとともに笑って泣いた2年間の日常記だ。自分が子どもを持たなかったからか、少し羨ましくお伽噺を読むみたいな気持ちを味わいながら読み終わった。

この解説は難しい。私も登山家などと呼ばれているが、山野井泰史とは登山家としての器に差がありすぎて、解説の執筆は自分の小ささを強調することになりかねない。ただ、通り一辺倒のことを書いてお茶をにごすなら、私が書く必要はない。個人的なことになるが少し付き合っていただきたい。 我々の世代で登山を志す者にとって山野井泰史は本物のスーパースターだった。 もちろん私も憧れ

今年、 第100回 を無事に終了したツール・ド・フランス。フランス全土、およそ3600キロを23日間(うち2日間は休息日)かけて自転車でかけめぐるレースである。ピレネーやアルプスといった山岳レースも含まれており、連日マラソンを走るほどの過酷さといわれている。そのツール・ド・フランスの歴史、ルール、しきたり、から、名勝負、そして日本人選手まで、すべてがわかるコ

建築に隠された謎を解き明かす“建築探偵”としてもお馴染み、建築史家・建築家の藤森照信センセイ。大和絵や浮世絵の様式を用いた緻密な画風で知られ、 『ヘンな日本美術史』 でその視点の鋭さをいかんなく発揮した山口晃画伯。この2人が13の日本の名建築を訪ねて、お互いの知識と感性をぶつけ合った対談が、面白くないはずがない。山口画伯によるエッセイ漫画まで添えられているの

気軽に読めるとても楽しい本だ。何事であれ、劈頭の出会いがすべてだ、と言う人がいるが、最初のページに、僕の大好きな絵(泳者の墓。パエストゥム)が置かれていたので、これはもう読むしかありません。 この本は、2008年の北京オリンピックで正式競技に採用されたオープンウォーター・スイミング(OWS)をテーマとしている。69歳のアメリカの女性ジャーナリスト、リン・シェ

本書を発見し手にとると、帯にはこう書いてあった。 あ、コレ買うなと思った瞬間である。 本の購入には「ジャケ買い」ならぬ、この本絶対面白い!と確信する瞬間があるはずだ。 それは著者だったり、装丁だったりもするが、それ以上にビビっとくる直観だったりする。 ちなみに本書は昨日(8/6)に購入したばかりである。翌日にレビューを書いているのは一気に読んで面白かったから

イルカやハワイの海をモチーフに、バブル期を一世風靡した米画家クリスチャン・リース・ラッセン。 日本では1980年から90年代にかけて異常なほど人気が高まり、多くの版画・ジグゾーパズルなどの商品が消費されてきた。しかし、これまで新聞を含め美術マスコミは「コメントに値しない」と彼の作品が正面から論評されることはなかった。本書はラッセンが受容される心理と欲望、彼の

納谷宣雄と聞いても「えっ、誰?」という反応が大半なはずだ。カズこと三浦知良氏の父親である。名字が違うのは納谷氏とカズの実母が離婚しているからであるが、「えっ、カズの父親の本?サッカー興味ないからなー」と思う人も多いだろう。確かに今回紹介する本はカズの父親である納谷宣雄氏の半生を描いているが、カズをどう育てたとか、サッカー論とかそういうものには満ちあふれていな

山本耀司といえば、コムデギャルソンの川久保玲と並び、日本を代表するデザイナーの一人である。80年初頭にパリコレに進出し、黒を基調としたボロルックで、「黒の衝撃」と呼ばれているセンセーションをファッションの世界で巻き起こした。 それから30年以上が経過しているが、彼らを超える日本人のデザイナーは誕生していない。山本耀司はいまもパリコレの第一線で活躍しており、マ

日本人の多くはツール・ド・フランスをはじめとする自転車ロードレースになじみがないが、ここ数年、日本人選手の 新城幸也 の活躍などで、注目する人が増えてきているように思う。ツール・ド・フランスは今年、記念すべき第100回大会である。フランスのみならず、自転車競技を愛する者にとっては特別な大会であるのだ。6月29日にスタートし7月21日まで、全21ステージを男た

2013年の上半期は絵にまつわる読み物が充実していた。ちょっと目に入っただけでも4点あり、それぞれ1,900円、1,600円、2,000円、2,300円。4冊まとめて7,800円の買い物だった。それでも絵画好きにとっては良い選択だと思う。著者は4冊とも日本人。この分野の人材が厚いことがよく分かる。 5月15日発売の最新刊『巨匠に学ぶ風景画』のサブタイトルは「

自分にとって未知となる領域へ踏み出すためには、背中を押してくれる良いメッセージに巡りあえることが重要である。美術のことなど全く門外漢な僕にとっても、本書の冒頭に書かれた「美術館は常設展を見よ!」という主張にはピンとくるものがあった。 多くの人にとって興味を惹かれるであろう期間限定の企画展に比べると、一見マイナーな存在にも思える常設展。この一風変わったスコープ

修復家という職業がある。58億円で落札されたゴッホの「ひまわり」は、今も鮮明な色彩を放っており、モネの「睡蓮の池」も、完成当時の風合いを留めている。それは全て修復家のおかげなのだ。 これらゴッホやモネの絵は、著者の修復家である岩井希久子さんの仕事によるものだ。本書では世界でも有数の腕を持つ岩井さんが、見事な医術により名画を再生し、真摯に仕事に向き合う姿を開示

浜村淳には感謝している。いまこうしてHONZでレビューを書けるのも彼のおかげかもしれない。もう40年も前のことになるが、ノンフィクションの本がこんなに面白いものだということを最初に教えてくれたのだから。柳田邦夫の『 マッハの恐怖 』を紹介することによって。 もうひとつ、 浜村淳 は映画を見ることの楽しみを教えてくれた。『おいおい、浜村淳っていったい誰なんだよ

近年、どうも「シュール」という言葉自体がひとり歩きしている。 日本語でシュールと聞くと、多くの人が「虚しい」とか「説明し難い」とか「空しい」という感想を持つ。それに伴い、シュルレアリスムは超現実主義などと訳されるので、よけい小難しいものに感じてしまう。 本書では、シュルレアリスムにおける本来の意味を代表的な作品とともに理解できる。登場作家はシュルレアリスムを

英雑誌The Economistが2012年Book of The Yearとして選定した本が翻訳された。本書は、2012年に出版されるやいなや、The Economistだけでなく、New York TimesやWashington Postなどの名だたる全国紙・雑誌により絶賛された本である。 ABC Newsの記者を30年以上務めた著者の挑戦から本書はス

歌舞伎専門月刊誌「演劇界」の2007年9月号から2012年3月号に連載されていた「歌舞伎、のようなもの」というエッセイを纏めた本だ。じつは年に4冊ほどしか「演劇界」を買わない。お気に入りの俳優が主役の時や、面白そうな特集号のみを買うからだ。(ただし表紙が菊之助だったら無条件で買う)そのため「歌舞伎、のようなもの」はお気に入りのエッセイだったのだが、立ち読みを

エルメスといえば女性の誰もが憧れるブランドのひとつだろう。バーキンやケリーといったバッグは100万をゆうに超える代物だが、人気がありすぎて、購入するのに何年待ちというのがザラだという。そんなことが実際にありうるのか?と思ったら、「職人の手仕事による限られた量の家業ビジネス」をいまだに貫いているとのことなので、さもありなんと思った次第である。 エルメスは創業以