
壮絶なる人生!『路地の子』を読んでいるのは、どんな人たちなのか?
『路地の子』が話題 です。著者は『日本の路地を旅する』で大宅壮一ノンフィクション賞を獲った上原善弘。今回は自らの父親の一代記を描いています。 非常に重いテーマの作品ですが、重版も続いているほどの人気ぶり。いったい何が人をここに惹きつけるのか、いったい誰がここに惹きつけられているのか、今回はこの作品を見ていきたいと思います。 まずは読者層です。 読者の70%超
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『路地の子』が話題 です。著者は『日本の路地を旅する』で大宅壮一ノンフィクション賞を獲った上原善弘。今回は自らの父親の一代記を描いています。 非常に重いテーマの作品ですが、重版も続いているほどの人気ぶり。いったい何が人をここに惹きつけるのか、いったい誰がここに惹きつけられているのか、今回はこの作品を見ていきたいと思います。 まずは読者層です。 読者の70%超

「マレルバ」とは雑草のことである。雑草こそが本書の主人公のアントニオ・ブラッソことジュゼッペ・グラッソネッリの少年時代のあだ名である。雑草の名から連想できると思うが、彼は生粋の不良少年だった。本書はイタリアのシチリア島出身である「雑草」の数奇な半生を綴った自伝である。 日本では無名といっていいジュゼッペ・グラッソネッリとはどのような男で、いかなる人生を歩んだ

昭和43年11月6日、IWWA(国際女子プロレス協会)世界選手権がおこなわれた。超満員の蔵前国技館で、32歳の 小畑千代 が対戦したのは米国の ファビュラス・ムーラ 。一本目は、いきなり反則攻撃をしかけたムーラがフォール勝ち。二本目は、必ずとると決めた小畑が攻めまくる。ドロップキックからキーロック、空手チョップから、跳び蹴り、ハンマー投げ。最後は、20キロほ

「全米ベストセラー」だという。ときとしてあまりにも軽く使われてしまうこの宣伝文句であるが、しかし、この本に関してはその言葉に嘘偽りはないようだ。 原書は2015年5月に刊行され、5月下旬から7月上旬の7週に渡ってニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト(ノンフィクション部門)の1位を記録。また本邦訳書の刊行時点で、 Amazon.comの書誌ページ には5

とにかく私の人生は面白い。安定とは無縁だった 気象学者、藤田・テッド(セオドア)・哲也は、自身の歩みを回顧して、そう語った。本書は、彼の生涯をつぶさに書きとめた評伝であるが、この引用の言葉どおり、とんでもなく面白い。なにせ、気象学者ながら、ひじょうに多彩な顔を持ち、絶えず変化する気象現象のように数奇な道のりをたどってきたのだから。 最初に略歴を書いておこう。

フランク・シナトラがシチリアのパレルモに到着したのは、1963年10月のことだった。マフィアの新しいドンであるジェンコ・ルッソを表敬訪問するため、アメリカのマフィアから親善大使として送り込まれたのだ。 ところが世界的大スターであるにもかかわらず延々と待ちぼうけを食わされ、ドン・ジェンコの自宅での昼食会に招かれたのは2日後のことだった。大広間に案内されると、そ

食肉についての本といえば、なんと言っても講談社ノンフィクション賞を獲ったこの一冊。 日本中の『路地』を巡る、上原善広の大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。 上原善広といえば、旧石器捏造事件を追ったこの一冊もオススメです。『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』からの改題。

人をどのように評価するかは難しい。人間とは常に多面的かつ多層的な存在だからだ。しかし、私たちが他者を評価する際には、常に人の一面にスポットを当てることで単純な評価を行おうとする。他者にレッテルを貼る事により、一方的でわかりやすい物語を形成するのだ。このような物語を組み立てる事により、人は他者を理解した気になる事ができる。 だが、それで本当に人間と言うものを正

不意に「赤穂城の明け渡し」が出てくる。主人公がまだ不動産業でバリバリ仕事をしていたころのこと。倒産して夜逃げした社長の住宅の調査に出かけた。家に入ると衣服が散乱している。タンスは開けっ放し。子供部屋の壁に友だちといっしょの幼い女の子の写真。通信簿が床に落ちていた。そのとき思った。自分は絶対にこんなことはしない。「もし倒産することがあっても、忠臣蔵の赤穂城の明

こちらはバッタへの情熱で突き進む男の話。クマムシ博士によるレビューは こちら 。 ビックバンから生命誕生まで、宇宙はどのように変化してきたのか。高価で読み通すのにはかなりの体力を要する大部だが、科学がどのように宇宙の謎を解き明かしてきたかの全体像を知るためのベストな一冊。レビューは こちら 。 アメリカ政府、その中でも特にペンタゴンは科学の力を大いに利用し、

親鸞には法然や日蓮と違い、宗派の開祖としての自伝的な書物は少ない。また90歳にも及ぶ長き生涯において、足跡に不明瞭なことも多々ある。それゆえに今日でも文人や知識者たちの研究の対象になっている。謎が多いのだ。そのことを改めて解きほごそうとしたのが本書だ。中でも重要な四つの謎、「出家の謎」「法然門下に入門した謎」「結婚した謎」「悪の自覚の謎」をキーワードに、著者

イブン・バットゥータの「三大陸周遊記」(抄訳)を初めて読んだのは、もう、半世紀以上昔のことになるだろうか、「あぁ、こんな旅がしてみたい」と心から思ったものである。本書は、この「大旅行記」の完訳を成し遂げた1939年生まれの碩学によるまたとない案内書だ。 14世紀の初めにモロッコで生を受けたイスラームの法官、イブン・バットゥータは、なぜ30年に及ぶ大旅行を達成

「世界三大○○」という見立てが日本人はなぜか大好きである。「料理」だったり「テノール」だったり、「〇〇」のバリエーションはいろいろだ。世界とまではいかないが、個人的に知っているところでは「芸能界三大悪妻」というネタもある。だがここでその名を明かすのはやめておこう。いま流行りの忖度というやつである。 世界三大〇〇にはもちろん「世界三大悪妻」もある。その三人とは

「人は見た目が9割」「人は見た目が100パーセント」「美貌格差」……その内容はさておき、こうした本やドラマのタイトルは多くの人が「見た目」に関心があることの表れだろう。 では、もしも顔などの見た目に大きなあざや変形などの目立つ症状がある場合、ネガティブな人生が約束されてしまうのか? 本書は、そうした症状をもつ「見た目問題」の当事者9人へのインタビュー集である

僕ね、文楽とか義太夫とかあんまり好きやないんです。怒られるのがいややから、越路師匠が怖いから修業してきたのかもしれません。 なんと正直なんだ。この言葉には、腰が抜けそうに驚いた。古典芸能に限らず、スポーツでもなんでも、トップレベルの人たちは皆、好きだから辛くてもやってこられました、というのがお約束だろう。しかし物は考えようだ。好きで続けられた人よりも、あまり

本書は、鎌倉時代の「踊り念仏」で知られる時宗の開祖・一遍上人の評伝だ。 開祖といっても本人は死ぬまぎわまで、こんな活動は一代限りでやめろと門弟に釘をさしている。 仏教本でお堅いのかと思いきや、全くそんなことはなく、著者は口語で語りかけてくるので読みやすい。そして一遍の怒涛を体感するだけでもエンターテイメントとして成立している。 一遍は、伊予水軍で名高い河野家

本年1月21日、俳優・松方弘樹が脳リンパ腫のため亡くなった。享年74。本書は松方が闘病生活に入る前、2015年に行われた取材をもとに構成された、素晴らしく読み応えのある評伝である。 「仁義なき戦い」などの映画だけでなく、テレビドラマ「遠山の金さん」でも活躍した松方は「遅れてきた最後の映画スター」だったという。壮絶な殺陣が印象的な「十三人の刺客」の監督、三池崇

チャーリー・チャップリン――不世出のコメディアン、映画俳優、映画監督、脚本家、映画プロデューサー、作曲家。それだけの役をすべてひとりで、しかもそれぞれ完璧にこなした天才。その名を抜きに映画史を語ることはできない。それに、なんといっても、彼の映画は文句なしに面白い。 ところが今、チャップリンという名前はなんとなく知っていても、どんな人かよく知らないし、映画も見

3月14日に多臓器不全で亡くなった俳優の渡瀬恒彦は最近では『おみやさん』や『タクシードライバーの推理日誌』などで柔らかい印象を視聴者に与えていたが、「芸能界喧嘩最強」とも噂された。実際、かつて『仁義なき戦い』シリーズで見せたギラつきぶりには思わず震えてしまう怖さがあった。その『仁義』には名優が多く出ているが、中でも怪演が光ったのが、1月に死去した松方弘樹だろ

おととし、初めて「ふるさと納税」をした。納税先は、岩手県陸前高田市。「お礼」に届いたのは、ホタテやアワビなどの海産物。その滋味あふれるおいしさに感激し、「この魚介を育んだ陸前高田の広田湾とは、どれほど豊かな海なのだろう」と、まだ訪れたことのないその地に思いを馳せた。 だが皮肉にも、その「豊かな海」からやってきた津波によって、陸前高田は壊滅的な被害を受けた。本

ル・カレ作品のブームが続いている。新作が各紙誌の書評欄をにぎわすのはもちろん、映画も2011年から『裏切りのサーカス』(原作は『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』)、『誰よりも狙われた男』、『われらが背きし者』と立てつづけに公開され、昨年放送されたドラマ(日本ではアマゾンが配信)『ナイト・マネジャー』も、エミー賞とゴールデングローブ賞ドラマ部門で合計

子どもの頃、ラジオパーソナリティーの軽快なトークに夢中になった。なにより憧れたのが、ゲストを気安く呼び捨てにするところだ。不思議なもので、それだけで親密度が増す。アイドルとまるで友だちのように語らうパーソナリティーを心底羨ましく思ったものである。もっともそれも演出の一環であったと後に知ることになるのだが。考えてみれば当たり前だ。アイドル全員と友だちのパーソナ

ウラジミール・プーチンという政治家は多くの謎に包まれた男である。ユーラシア大陸にまたがる大国を長年にわたり統治し、欧米の価値観や政治スタンスとは一線を画す事により、周辺地域に大きな影響力を与え続けてきた。この男が何を考え、どのような世界観を持っているのか。大国ロシアを動かすプーチンを知ることは、明日の世界を知るために欠かすことのできないことである。 しかし、

どんな目標でもいい、目標を持って本気でやれば年齢なんて関係ありませんし、いつかその目標は適うはずです 本書の結語である。ビジネス書では見慣れた台詞だ。夢を持て、できない理由を探すな、きっと適うのだから。その通りかも知れないが、本書の著者が十代から現代まで変わらず抱き続ける「目標」はシンプルだ。成功して、多くの女性と性交したい。 記憶に残っている方も多いかもし

ピーター・オトゥールが扮した「アラビアのロレンス」は、紛れもなく僕を映画好きにした1作だった。本書は、ロレンスに惹かれて「知恵の7柱」(東洋文庫)を始めとする関連書籍を読み漁っていた学生時代を思い出させてくれたが、それだけではなく他の類書にはない面白さがぎっしりと詰まっていて驚いた。 ロレンスがいたアラビアには、他にもロレンスと同じような境遇の尖った若者がい

1918年、トーマス・エドワード・ロレンス大佐はバッキンガム宮殿に呼び出される。ジョージ五世は笑顔で「贈り物があるんだよ」と語りかける。国王の贈り物とは大英帝国勲章ナイト・コマンダーであった。戦争での活躍が評価されたのだ。ロレンスはナイト爵を授かろうとしていた。子供の頃から騎士の物語に憧れ、三十歳になるまでにはナイトに叙せられることを目指していたロレンスは、

島尾敏雄『死の棘』を読んだのは、大学生のときだ。当時、虚実入り混じったスキャンダラスな私小説として評判になっており、興味本位で手に取ったのだと思う。濃密な描写に引きずられるように読みふけり、この作品から「男女の愛」について一つの定見を得たように思ったのだ。 ただ、そのときは“私”とはいえ、小説だと思っていた。事実は事実のままに、かなりの創作が入った美化された

時は1980年代前半、ソ連の最高機密文書をアメリカに提供しつづけた男がいた。「10億ドルの(価値ある)スパイ」とアメリカ政府の中枢から呼ばれていた人物だ。 この大物スパイの活躍は長年機密扱いとされ、これまで表舞台で語られることはなかった。最近のCIA(アメリカ中央情報局)機密解除をうけ、本書でその全貌がはじめて明かされている。ワシントン・ポストの敏腕記者が、


私は堤清二が作り上げたセゾン文化の恩恵にあずかった世代だ。音楽、ファッション、美術と、清二のおかげで知ったことは数知れない。だが同時にビジネス上での異母弟、義明との相克も報道で知ってはいた。 著者の児玉博は2000年の“セゾングル―プ”解体の折の記者会見で、淡々と答える清二に対峙していた。財界を退いて9年、清二は小説家、辻井喬として生きてきた。だがその5年後

この原稿は本来は2016年8月30日の午前7時までに公開しなければならなかったのだが、現在、9月1日の午前9時をまわろうとしている。このまま沈黙を守るわけにもいかず、無理矢理書き出したのだが、原稿用紙5枚程度の分量に過ぎなくても、すんなり書き終える自信がない。いや、延べ90人の作家の〆切に関する文章を集めた本書を読むと、そんなにすらすらと書いたらいけない気す

2001年に海上自衛隊に 特別警備隊 という部隊が創設されるまで、自衛隊に特殊部隊は存在しなかった。特別警備隊はある事件を端緒にして誕生することになる。その事件とは1999年に起きた、 能登半島沖不審船事件 である。 この事件は覚えている人も多いだろう。イージス艦「 みょうこう 」が北朝鮮のものと思われる工作船を追跡し自衛隊史上初の 海上警備行動 が発令され

本書は、ノーベル賞受賞講演「自然が答えを持っている」を含めた、大村智先生のエッセイ集である。研究以外のいろんな側面、例えば絵画との出会いや、ふるさとへの想い、夢を追いかけることなどがメインとなっていて、大村先生を多方面から知ることが出来る魅力的な一冊だ。ノーベル生理学・医学賞を受賞した先生は信じられないほどたくさんのことをやってのけている。 まず、大村先生の

毎朝ご覧の方も多い、NHK朝の連続ドラマ小説『とと姉ちゃん』。そのヒロイン、小橋常子のモチーフになったのが、戦後の暮らしを明るくし、70年代には100万部を超え国民的雑誌となる『暮しの手帖』を創刊した大橋鎭子(しずこ)さんという女性だ。この「しずこさん」の唯一の自伝がとっても面白いので、ご紹介しておきたい。 この「しずこさん」。 本にあるプロフィールはこんな

ハコフグ帽子と白衣のいでたちに、甲高い声と大きなジェスチャーで魚の素晴らしさを伝え続けるさかなクンの自叙伝だ。絶滅したと思われていたクニマス発見の偉業は天皇陛下にも言及され、東京海洋大学の客員准教授を務めるまでになったさかなクンの人生が、さかなクンの手によるかわいい魚のイラストとともに語られる。本文の漢字にはルビがついており、小さな子供でも楽しみながら読み通

彼女に出会ったのは13年前、ロンドンの美術館だった。エキゾティックな顔立ち、豊かな黒髪、挑発するような強い瞳。その絵がひときわ目を引いたのは、画家とモデルの間に横たわる張りつめた雰囲気が、初めて見る私にも感じられたためだった 画家の名は、D.G.ロセッティ。ラファエル前派を代表する画家にして詩人である。モデルは、ジェイン・モリス。全ヨーロッパへと広がるアーツ

1989年、日本人がやり投げで「幻の世界記録」である87メートル68センチを投げたことを覚えている人はいるだろうか。「疑惑の再計測」の結果、87メートル60センチに記録は改められたが、当時の世界記録に6センチ差にせまる大記録であった。その後はWGP(ワールドグランプリ)シリーズを日本人で初めて転戦し、総合2位の成績を収めた。 男の名は溝口和洋。世界記録更新も

本書はCIAの元副長官、長官代理を歴任したマイケル・モレルの回想録だ。ページ数はざっと300ページほどで軽いタッチで書かれた作品に思える。政府高官の回想録では日本の元外交官、 東郷和彦 が書いた『北方領土交渉秘録』や ライス元国務長官 の『ライス回想禄』などの方が重厚感がある。書かれていることが今一つ核心からそれているような、ぼやけた印象を受けるのだ。 しか

ウィリアム・シェイクスピア(1564~1616)は、おそらく世界で最も知名度のある詩人であり劇作家だろう。『マクベス』や『ハムレット』などの名作は世界各国でローカライズされ読み継がれ、今でも頻繁にオペラとなり舞台となり上演を続けている。 シェイクスピアの演目は20世紀後半まで英国ロイヤル・シェイクスピア劇団が最も権威ある公演と考えられてきた。しかし時代は変わ

君は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(Dungeons & Dragons :以下D&D)を知っているか。 D&Dは紙と鉛筆とサイコロ、世界観や数値が記載されたルールブック、それに自身の想像力/対話を駆使して複数人で行うテーブルトークアールピージー(以下TRPG)である。1974年に発売された本作は世界中で流行し、プレイヤーが冒険者になりきってファンタジー世界を