
脳はいかにして現実を認識するのか──『あなたの脳のはなし: 神経科学者が解き明かす意識の謎』
我々は"現実"をありのまま受け取っているわけではない。いったん視覚情報や触覚情報といった身体表面から情報を受け取り、それを脳で解釈することによってはじめて"人間用に最適化された、人間用の世界"を構築する。我々はある種のフィクションの世界を生きているわけだ。 と、大層な語りだしではじめたけれども、本書はそうした現実の解釈機関である脳についての一冊だ。著者のデイ
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我々は"現実"をありのまま受け取っているわけではない。いったん視覚情報や触覚情報といった身体表面から情報を受け取り、それを脳で解釈することによってはじめて"人間用に最適化された、人間用の世界"を構築する。我々はある種のフィクションの世界を生きているわけだ。 と、大層な語りだしではじめたけれども、本書はそうした現実の解釈機関である脳についての一冊だ。著者のデイ

強力なテクノロジーにはイノベーションの機会が二度訪れる。まずは登場したとき、そして次に普及したとき。WEBなど、その最たるものだろう。 インターネットという技術の登場はたしかに大きな変化をもたらしたが、今振り返れば、スマホの普及によって「いつでも、どこでも、誰にでも」使えるようになったことも、同じように大きなインパクトを持つ出来事であった。 本書のテーマとな

重力波は歌う。アインシュタインがそういう歌が存在することに気づいてからちょうど100年、我々はついにその歌を聞くことができたのである! 重力波の初検出は、物理・天文分野での今世紀最大の発見の一つであることは間違いない。 そして、その大発見が産み出される過程において、かくも複雑な人間模様が繰り広げられてきたことは、読者の方には大いなる驚

歴史上もっとも人口の増加に貢献した科学的発明は何か?それは、多くの病気から命を救った医薬品でも、世界中のあらゆる地域へ人類を移動させた航海技術でも、機械化による効率化をもたらした産業革命でもない。もちろん、これらの発明も多くの命を支えており、現代生活に欠かせないものではあるが、その発明のおかげでこの世に存在している人命の数では、ハーバー・ボッシュ法には及ばな

ヒトが生殖以外の方法で新たなヒトの命を生み出す、改変するというアイディアは、数千年にわたって人類の想像を掻き立て続けてきた。科学者による理想の人間の創造を目指した『 フランケンシュタイン 』や遺伝子操作による優生学的な階級社会を舞台とした映画『 ガタカ 』など、このテーマを扱った作品は数え切れない。これらのフィクションが描き出すディストピアとクローン羊ドリー

我々はなぜ芸術に心惹かれるのだろうか。人間の心が脳の活動から生まれているのは間違いないが、芸術作品を鑑賞する時、我々の脳の中では何が起きているのだろうか。 本書の表紙にもなっているクリムト(1862-1918年)の『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』の背景に溶け込んでいる人物の輪郭が分かるのはなぜか。ココシュ(1886-1980年)やシーレ(1890-

もし、子育ての成功を定義できるのであれば、成功への道があるのならば、それを知りたいと思う人はたくさんいるはずだ。そして本書は、子育てにおいて、科学でわかっていることは何か、何を成功として定義して、その成功のために何をすればいいのか、を学習科学・発達心理学の知見を見事に体系化した本である。 「子育て」と「成功」という2つの言葉は相性が微妙で共鳴しづらいが、学習

ダイオウイカ以来の深海ブームは、この夏もまだまだ熱く続行中だ。新たな南極の深海調査の結果が続々と出てきているのだ。あの震災時に三陸沖の海の下で何か起こったかも、だ。国立科学博物館での展示、NHKスペシャル「ディープ オーシャン」の放送……最新の深海情報をまとめた一冊を紹介しておこう。 深い海の中は、その特異な環境があるからこそ、見たことのないような形や色の生

現在の人はかつてないほど太っている。体長を身長の二乗で割って算出されるボディマス指数での評価では、世界人口の5人に1人が肥満あるいは過剰体重となってしまうほどだ。 1900年以前には肥満者は存在はしていたものの、多くはなかった。1700年代、1800年代のヨーロッパでは肥満者は珍奇なものであり、見世物にする人もいたぐらいだ。受け入れられ方も現在とは大きく異な

1900年前後のウィーンにはあらゆる分野の才能を引き寄せる力があった。哲学ではクルト・ゲーデルやルートヴィヒ・ヴィドゲンシュタイン、音楽ではグスタフ・マーラーやベートーヴェン。その他の芸術や自然科学分野でも、挙げきれないほど多くの偉人たちがこの街に集まっていた。特筆すべきは、その天才たちが個々の分野毎に活動していたのではなく、科学者・作家・芸術家の垣根を越え

国民総生産(GNP)が西ドイツを抜き、第2位になるのが1968年、その前年に本書は出版された。高度経済成長期の真っ只中であり、急速な成長の裏返しとして公害や環境破壊が世間の注目を集め、公害対策基本法が制定された。そこから版を80回以上重ね、現在までに80万部以上を売り上げている。 発想法とは、アイディアを創り出す方法である。問題提起から記録、分類、統合にいた

バナナがなくなってしまうだって!? 多くの人にとっては寝耳に水であろうが、しかしこの話、けっしてありえないことではないようである。 現在、人々が口にしているバナナは、その大半が単一の品種、すなわちキャベンディッシュバナナである。そしてそのバナナには、遺伝的な多様性がまったくない。というのも、キャベンディッシュは種子がなく、株分け(新芽を移植すること)をとおし

「全米ベストセラー」だという。ときとしてあまりにも軽く使われてしまうこの宣伝文句であるが、しかし、この本に関してはその言葉に嘘偽りはないようだ。 原書は2015年5月に刊行され、5月下旬から7月上旬の7週に渡ってニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト(ノンフィクション部門)の1位を記録。また本邦訳書の刊行時点で、 Amazon.comの書誌ページ には5

「果てしなく広がる平原」の意味を持つセレンゲティ国立公園ではキリン、シマウマ、ヌー、ライオン、など様々な動物の群れをみることができる。そして、そこで暮らす動植物たちは普遍的な法則に支配されている。たとえば牛疫が取り除かれヌーの生息数が増加すると、ヌーの主食である草は減少する。そうすると今度は乾季に燃える可燃物が減って火災が減少し、樹木が増加し、それを餌とする

この本は2016年に放送された歴史あるBBCシリーズレクチャーでホーキングが二回にわたって話した講義録である。BBC科学ニュースの編集者であるD・シュックマンが講義の要所、要所に読者の目線での解説を付しており、本来、むつかしい内容を親しみを持って読めるようにしている。 ホーキングは言うまでもなく、車いすに乗った天才として、存命の物理学者としては世界でもっとも

フラットランド。そこは二次元の世界。立体が存在しない、いわば紙の上の世界だ。 そんな世界にも住人は存在する。まず女性は直線で、兵士や下層階級の労働者は二辺の長さが等しい三角形。中産階級は正三角形と、それぞれ形で身分が決定されている──そんな特殊な世界を描きながら、自身の今いる次元の世界から、一つ上、あるいは下の世界がどのように見えるのかを物語として描き出した

なんという僥倖だろう。この人の新作をこんなにも早く目にすることができるなんて。しかも、今回の作品もこんなにも個性的で、こんなにも心地よいものであるなんて。 ご存知でない方のためにまず説明しておこう。著者の川添愛は、 『白と黒のとびら』 『精霊の箱』 というふたつの作品で熱狂的なファンを生み出した言語学者である。ふたつの作品は、「オートマトンと形式言語」「チュ

「さあ、今夜はごちそうにしよう! 何が食べたい?」 こう聞かれて、野菜料理を挙げるひとはまずいないだろう。ごちそうは肉料理に決まっている!(ベジタリアンを除いて) レストランでも、メインディッシュと言えば、肉か魚料理——つまり広義の「肉」料理——である。 肉(とくに赤身の)を多く摂れば健康に良くないことは、すでに数々の研究で知られている。また、地球環境への影

HONZが送り出す、期待の新メンバー登場! 西野智紀は24歳の若きレビュアーだ。産経新聞、週刊読書人などで執筆をしつつ、将来的には書評家一本でやっていきたいという夢を持っている。 デビュー書評がいきなりカブる という悲劇に見舞われたが、これが吉とでるのか、凶とでるのか。今後の彼の活躍に、どうぞご期待ください! (HONZ編集部) 売れる小説を書きたい――作家

先般HONZで紹介した冨山和彦氏の『 AI経営で会社は甦る 』では、AI(人工知能)がこれからのビジネスに与える影響が分かりやすく示されていたが、この『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』は、AIの研究者自身によるAIの解説本である。 チェスと将棋と囲碁を例に取り上げ、AIにおいて最も重要な技術である「機械学習」「強化学習」「ディープラーニング(

2010年代後半に入って、AI(人工知能)ブームの過熱ぶりは凄まじい。とりわけ、 その中核にあるシンギュラリティ(技術的特異点)仮説は、現代のグロテスクな神話と言ってもよいだろう。本書『そろそろ、人工知能の真実を話そう』(原題は Le mythe de la Singularité、 2017)は、シンギュラリティが実際に到来するかどうか

本書は、「ベストセラー小説に普遍的な法則は存在するのか?」という問いかけを、独自の判定モデルをつくりあげ検証した著者らによる一冊である。小説がヒットするかどうかは時の運という人も多いし、実際運が関与しない事象などこの世に存在しないともいえる。そうなってくると次に出てくる問いかけは運の割合はどの程度のものか? である。本書はそれを分析してみせる。 手法のひとつ

書店内でいやでも目を引く、虫取り網をかまえこちらを凝視する全身緑色のバッタ男の表紙。キワモノ臭全開の本書だが、この著者はれっきとした博士、それも、世界の第一線で活躍する「バッタ博士」である。本書はバッタ博士こと前野ウルド浩太郎博士が人生を賭けてバッタの本場アフリカに乗り込み、そこで繰り広げた死闘を余すことなく綴った渾身の一冊だ。 「死闘」と書くと「また大袈裟

著者は現役バリバリの鳥類研究者。森林総合研究所の主任研究員だ。鳥の生態などを研究するため、小笠原群島を拠点としてフィールドワークを重ねている。本書でも東京から1300キロほど南にある絶海の孤島、南硫黄島での壮絶な調査の様子などを垣間見ることができる。 この4月に噴火再開が確認された西之島にも過去何度も訪れている。上陸できなかった時期も無人機での調査だ。後日、

ダイエットは現代人の最大の関心事の一つだ。多くの国で肥満が野火のように広がっていくに連れ、ありとあらゆるダイエット方法が世界中で発明されてきた。あまりにも大量のダイエットが開発されたため、その中から相反する2つを見つけるのは難しいことではない。脂肪の摂取を控えるべきだと訴えるダイエットもあれば、脂肪は好きなだけ摂ってよいというものもある。三食を規則正しく食べ

意思決定のプロセスでいつも感情に左右されがちと嘆いている人にとっては朗報だ。本書によると必ずしも感情的になるのは悪い事ではないようだ。 仕事や日常生活の中で私たちは常に何らかの決定を迫られて日々生きている。そして、意思決定の際に理性と感情のせめぎ合いを経験し、感情を排して合理的に決断できない自分に少なからず自責の念を感じているのではないだろうか。しかし、本書

『巨大ウイルスと第4のドメイン』を筆頭に魅力的なウイルス論、入門を書いてきた著者による最新作『生物はウイルスが進化させた』は、「生物」に対する見方を根底から覆す、最新のウイルス研究成果についての一冊だ。多くの野心的な仮説と、確かにそうかもと思わせる検証でぐっと惹きつけ、読み終えた時にはウイルスに対する考え方が大きく変わっていることだろう。 まさにそれによって

最近のHONZの流行りから言うと、鳥類学者だからといって鳥が好きとは限らないそうだが、クマムシの研究者はどうなのだろうか? HONZメンバー堀川 大樹が上梓した『クマムシ博士の クマムシへんてこ最強伝説』は、ある意味「恋愛本」として扱っても差支えないくらいだという。こちらも負けず劣らずバッタを愛するバッタ博士・前野 ウルド 浩太郎氏に、本書の魅力を寄稿いただ

1962年10月16日、ソ連が密かに核ミサイルをキューバに設置していることを発見したアメリカ大統領ケネディは、ソ連首相フルシチョフにミサイルの撤去を迫り、拒否された。この日からフルシチョフがミサイル撤去の決断を下すまでの13日間ほどに、人類が核兵器による全面戦争に近づいたことはない。キューバ危機で核ミサイルが攻撃に用いられることはなかったが、実はこの危機の最

「HONZで紹介する本って、どんな基準で選んでいるんですか?」そう聞かれることは結構多いのだが、いつも歯切れの悪い回答になってしまう。 むろん小説はのぞくとか、いかにもなビジネス書は紹介しないとか、ジャンルとしての縛りは色々あるのだが、それだけが重要なわけではない。要は、難解なサイエンス本や分厚い歴史本ばかりをスラスラ読みこなす小難しい集団、そんな風に思われ

あなたの性格や行動が知らないあいだに、腸内や脳などに住む寄生生物によって操られているとしたら? 「まさか、そんなことは!」と思うだろうか。近年、「神経寄生生物学」と呼ばれる分野の研究が明かしているのは、まさにそんなことが起こっている、しかもごく日常的に!である。 たとえば、世界中で3人に1人が感染していると言われるトキソプラズマ原虫。この微生物は主にネコから

HONZの成毛代表、何を考えているのか、忙しいとぼやきながらも、今年はめったやたらと本を出すらしい。大丈夫か。しかし、いちばん気合いがはいってるのはこの本だ。なんせ、ADHDを誇る成毛代表が、国立科学博物館という同じテーマに固執して二冊目の本を出すのだから。ただし、本人に確認した訳ではありませんので、まぁ、いま巷に流行る忖度いうやつですわ。 しかし、相当に力

『マラリア全史』など感染症をテーマとしたノンフィクションを多数著している科学ジャーナリストの最新作である。内容は疫学、認知科学、進化生物学、政治史など多岐にわたり、分野横断的だ。「移動」、「過密」、「非難」、「治療」など10の切り口から、パンデミックについて幅広く語られる。 「移動」の章では1825年のエリー運河開通をきっかけにアメリカでコレラが広がった例や

書名と副題からもわかる通り、本書は宇宙史を扱った一冊だ。 これがもうびっくりするぐらいおもしろい/わかりやすい! 他の解説本で、書かれている意味がよくわからずに何度も何度も辛抱強く読み返してようやく理解したようなことが、スッと理解できる形で、より短くまとめられていて、まずその端的なわかりやすさに感動してしまった。 本書は深いテーマを掘り下げていく類の本ではな

量子論や分子生物学などの先端科学は、専門用語を理解し、わずかな時間、記憶するだけでも素人にとっては難しいものだ。中学高校で学習したはずの絶対温度やプラズマという言葉ですら、あやふやにしか覚えていないことが多い。そこで科学者たちは模式図やグラフ、写真を使って必死に説明しようと試みる。結果的に科学読み物は、小説やビジネス書などと比べるとはるかに絵本のような体裁に

このドーキンス自伝の第2巻は、精神の形成史を語った第1巻とはちがって、さまざまな活動を通 じて出会った人々との交友録が中心になっている。登場する絢爛豪華な顔ぶれとの交流を読みながら、 同世代の人間として、その住む世界のあまりの違いように圧倒される。 なによりも、英国を中心とした欧米には、現在でも「知的エリート社会」が厳然として存在するという

世界は数字であふれている。政治家の支持率から健康食品が病気のリスクを下げる確率まで、ニュースや広告を介して、新たな数字が次々とわたしたちに届けられる。しかしながら、その数字がどのようにつくられ、どのような意味を持つのかを真に理解することは容易ではない。特に、数字の送り手に悪意がある場合には注意が必要だ。50年以上前に出版された世界的ベストセラーの『 統計でウ

偉大な探検家にして傑出した博物学者。壮年の文豪ゲーテに再び情熱の火を点し、その著書によってダーウィンをビーグル号乗船へと促した男。ジェファーソン米大統領に「現代を代表する最高の科学者」と評され、当時のヨーロッパにおいてナポレオンに次いで知名度があったともいわれる人物。それが、アレクサンダー・フォン・フンボルトであり、この伝記の主人公である。 フンボルトを一躍

薬物依存には大変恐ろしいイメージがある。一度でも手を出せば最後、もはや依存から逃れることは叶わず万難を排して薬を手に入れることに邁進し、捕まってもやめることはできない──。 確かにコカインやマリファナといった薬物には"依存"はある。だが、世間一般に流布しているイメージは科学的に正確とは言い難いものだ。違法薬物による依存とはどのような種類の依存なのか? 依存に

東大の異端児的存在である東京大学先端科学技術研究センター(先端研)に所属する11名の研究者へのインタビュー集だ。「これまでの大学の殻を破るまったく新しい研究機関」として設立された先端研だけあって、インタビュイーの研究分野は多岐にわたる。ある者は情報と社会の関わり方のあるべき姿を語り、ある者は産学連携を推し進めるために必要となる科学者の姿を説き、またある者は障