
『Y先生と競馬』 先生と“賭け”めぐった日々
ミリオンセラーとなったビジネス書『嫌われる勇気』は、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と喝破し、いまやドラマになるほどの人気ぶりである。その対人関係の中でも最も得がたきは、深い尊敬と愛情の絆で結ばれた師弟関係ではなかろうか。私は本書を、その生きた教科書として読んだ。 敬愛する直木賞作家・山口瞳(Y先生)と著者が過ごした、夢のような日々。もとは作家と
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ミリオンセラーとなったビジネス書『嫌われる勇気』は、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と喝破し、いまやドラマになるほどの人気ぶりである。その対人関係の中でも最も得がたきは、深い尊敬と愛情の絆で結ばれた師弟関係ではなかろうか。私は本書を、その生きた教科書として読んだ。 敬愛する直木賞作家・山口瞳(Y先生)と著者が過ごした、夢のような日々。もとは作家と

ある考古学者がイラク南部で、四千年以上昔の木のパネルを発見した。美しい彫刻が施されていたが、蝶の羽のようにもろくなっていた。見つめていると雨が降りはじめ、写真を撮る間もなくパネルは溶けて泥と化した。中東の多様な宗教と民族のモザイク模様は長く輝かしい歴史の記念碑とも言うべきものだが、現在崩壊に向かっている。中東に恋をした元外交官の著者は、その姿を書き留めておこ

書名と副題からもわかる通り、本書は宇宙史を扱った一冊だ。 これがもうびっくりするぐらいおもしろい/わかりやすい! 他の解説本で、書かれている意味がよくわからずに何度も何度も辛抱強く読み返してようやく理解したようなことが、スッと理解できる形で、より短くまとめられていて、まずその端的なわかりやすさに感動してしまった。 本書は深いテーマを掘り下げていく類の本ではな

待望の『ギリシア人の物語Ⅱ』が上梓された。急速に隆盛し急速に衰退したギリシア人の歴史を著者は三巻にまとめると最初に語っている。ならば第二巻は物語のピークだ。 民主政治の創始者であるギリシア人、それもとくにアテネで活躍した政治家たちは現代を映す鏡となっている。民主主義はどうあるべきか、リーダーはどのような人が好ましいか、民衆は政治にどこまで関与すべきか、など昨

約二年前、長期間ひきこもり、家族に暴力をふるう子供を説得し、精神病院へ移送するという仕事について記した『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)が上梓された後、大きな反響があったそうだ。「子育てのノウハウを教えてほしい」という相談に対し著者の押川剛は言う。 私が得意とするのは、壊れてしまった家族への危機介入であり、子供を立派な人間に育てるためのプロ

映画『ラ・ラ・ランド』を観ました。監督賞、撮影賞を含む6部門でアカデミー賞を受賞したように、撮影技術に圧倒される映画でした。冒頭では100人のダンサーが高速道路上で歌い踊ります。カットなしのシングル・テイクかつ、わずかな時間しかロケ地を封鎖できないため、準備期間に数ヶ月掛かったそうです。 他にも主演のエマ・ストーンとライアン・ゴズリングが交互にうつるシーンは

本書を読み終えたとき、自分を取り巻く世界が、ただただ愛おしく思えてならなかった。読後の深い余韻に浸りながら、ふとカレンダーに目がいった。 もしかしたらこの時点でもう、年間ベスト級の作品に出合ってしまったかもしれない。そう感じたのだ。 植本一子は、荒木経惟に才能を見出され、写真家としてのキャリアをスタートさせた。荒木が「私写真」という独自の世界を築いたように、

「同じ年齢なのにどうしてこうも違うのか」と思うことが少なくない。たとえば同じ60歳でも、Aさんは背筋がピンとしていて、肌には張りがあり、病気などどこ吹く風。それに対してBさんは、腰が曲がっていて、肌にはシミやたるみが目立ち、多くの慢性的な疾患に悩まされている。では、AさんとBさんはどうしてそれほど違っているのだろう。 ふたりの違いに大きく関係しているのが、「

プロレスラーは本当は強いんです 総合格闘技黎明期の1997年、今や世界最大の格闘技団体となったUFCが初めて日本で開催した大会 アルティメット・ジャパン で優勝した 桜庭和志 は、日本人選手の勝利に熱狂する観客にこう語りかけた。恵まれた体躯を厳しいトレーニングに晒し、筋肉の鎧をまとったプロレスラーが弱いはずがない、何を当たり前のことを、と思うかもしれない。と

子どもの頃、ラジオパーソナリティーの軽快なトークに夢中になった。なにより憧れたのが、ゲストを気安く呼び捨てにするところだ。不思議なもので、それだけで親密度が増す。アイドルとまるで友だちのように語らうパーソナリティーを心底羨ましく思ったものである。もっともそれも演出の一環であったと後に知ることになるのだが。考えてみれば当たり前だ。アイドル全員と友だちのパーソナ

ノンフィクション作家、杉山隆男の代表作といえば「兵士シリーズ」だろう。このシリーズは国防と言う重大な任務を背負いながら、国民にあまり知られることの無かった自衛隊、とくに兵士たちの生の姿を追い続け、見事なまでにその姿を浮き彫りにしてきた。第一作の『兵士に聞け』は1996年に新潮学芸賞を受賞、同作品はこれまでに6作目まで出版されている。そして今回ついにその続編に

あの日から、もうすぐ6年の月日が経とうとしているが、今だに震災について語るべき言葉を持っていない。身の回りで大きな被害があったわけでもない。知人や親戚が被災地にいたわけでもない。ボランティア活動に参加したこともない。 だから自分が何を語ろうとしても、言葉が軽くなってしまう。そんなためらいを感じている方は、案外多いのかもしれない。しかし本書『魂でもいいから、そ

人生も半ばを過ぎてようやくわかったことがある。それは「逢いたい」だの「好き」だのといったホステスの甘い言葉は、真に受けてはいけないということだ。 「は? その歳でようやく? バカじゃないの」という冷ややかな声が聞こえてきそうだ。いかにも。バカなおじさんであることは自覚している。 だが、経験者だからこそ、放っておけないということもあるのである。ましてやその人物

量子論や分子生物学などの先端科学は、専門用語を理解し、わずかな時間、記憶するだけでも素人にとっては難しいものだ。中学高校で学習したはずの絶対温度やプラズマという言葉ですら、あやふやにしか覚えていないことが多い。そこで科学者たちは模式図やグラフ、写真を使って必死に説明しようと試みる。結果的に科学読み物は、小説やビジネス書などと比べるとはるかに絵本のような体裁に

社会 / HONZ客員レビュー
子どもがほしいと願う「あなたは子どもを産みたいのでしょうか、それとも、子どもを育て、ともに過ごしたいのでしょうか」と著者は問いかける。後者なら、不妊治療の他にも特別養子縁組という「もうひとつの方法」があるのだ。本書は、親になりたいと願うすべての人に向けられた現代の福音書である。 本書は2部構成を採っている。第1部は、現実に養子を迎えた8組のカップルに取材を重

選択できるということは途方もない利益をもたらす。そして、選択できることは好ましいことと考えられている。一方で、同時に多大な負担を強いる。人間の時間と集中力は限られており、ときに不合理な選択や行動をしでかす。すべての選択について都度立ち止まって学習することは難しく、それが楽しいとも限らない。 だから、人類は歴史を通じて様々な工夫をしてきた。ナッジ(Nudge)

ギャラリー・間(通称:ギャラま)の 『堀部安嗣展 建築の居場所』 に行ってきました。10000冊の書籍を収める 『阿佐ヶ谷の書庫』 を設計し、彼の建築は「離れ難い」と度々言われます。木や石の組合せ方、自然光の取り入れ方がうまく、施主が長く暮らすことを考えてつくられるのでしょう。 展覧会は入場料無料です。今回の展示に関するものはもちろん、建築やアートに関する書

このドーキンス自伝の第2巻は、精神の形成史を語った第1巻とはちがって、さまざまな活動を通 じて出会った人々との交友録が中心になっている。登場する絢爛豪華な顔ぶれとの交流を読みながら、 同世代の人間として、その住む世界のあまりの違いように圧倒される。 なによりも、英国を中心とした欧米には、現在でも「知的エリート社会」が厳然として存在するという

22年前、娘を産んだ。が、体つきが細く胸の小さかった私は、母乳がほとんど出ずに悩んでいた。妊娠中から母親学級などで母乳について学ぶのだが、とにかく「母乳にまさる栄養はない、母乳にまさる愛はない」といわれる。しっかり母乳マッサージをして出産に備えましょうということで、まあ随分と強くもまれて、痛かったものだ。 そうやってできる限り準備したつもりでも、母乳はほとん

ジュニアという音からは、エロい匂いがしない。カンノウはエロい雰囲気だし、ましてやカンノウショウセツは絶対エロい。エロくないものとエロいものというのを同じ人間が書き分けることは可能なのだろうか? エロくないものを描いているときに自分のエロさに蓋をして描いているのだろうか? それともその逆なのだろうか? いや、相反する二つの事象を高次元で統合することが可能なもの

ビジネスや起業で大成功をおさめるためには、「クレイジー・ジーニアス(クレイジーな天才)」でなければならない。 本書はそう説く。 起業は芸術であり、起業家は芸術家でなければならない。 本書はそうも説く。 ううむ、天才か。 でも、わたしは天才じゃないし、天才になろうとはしていない。そもそも、天才はなろうとしてなれるものではないのでは。 それにわたしは起業家ではな

世界は数字であふれている。政治家の支持率から健康食品が病気のリスクを下げる確率まで、ニュースや広告を介して、新たな数字が次々とわたしたちに届けられる。しかしながら、その数字がどのようにつくられ、どのような意味を持つのかを真に理解することは容易ではない。特に、数字の送り手に悪意がある場合には注意が必要だ。50年以上前に出版された世界的ベストセラーの『 統計でウ

僕たちはともすれば現在の国民国家をベースに人類の歴史を遡りがちであるが、実は国民国家の歴史はまだ200年前後しかなく、それ以前はハンザ(商人団体が原義)や倭寇のような海洋共同体が重要な役割を担っていた。何故なら古来より交易は水路が中心だったからである。 現在のドイツは16の州からなる連邦共和国であるが、内2つは自由ハンザ都市である(ハンブルクとブレーメン)。

原書房の“「食」の図書館”シリーズからの1冊である。豚肉、サンドイッチ、ビール、砂糖など、今まで食べ物や飲み物、調味料の歴史を取り上げてきたこのシリーズの流れからすると「脂肪」というのは少し浮いているような気もする。とはいえあくまで「食」の図書館ということで、脂肪といってもぜい肉の方ではなく、バターやマーガリンといった食用脂肪の歴史を辿っていく。 脂肪という

今の時期、ヒラメと赤貝が旬ですね。「話の腰を折る旨さ(連れと話していても握りが出てくると、あまりの美味しさに会話が途切れてしまう)」と誰かが評していた、寿司屋に行きました。 江戸時代から寿司屋の暖簾は汚いほど繁盛している、と言われていました。これはおしぼりがなく、食後に客が暖簾で手を拭いて帰ったことから。寿司屋の湯のみが大きいのも、お茶で手を洗っていたんです

このコーナーの読者何名かの方から「あれはどんな人に読まれているの?」という質問を受けました。この1ヶ月、そういった興味を一身に集めているのが「おとちん」こと『夫のちんぽが入らない』です。 ※レビューは こちら 広告をうっているのに肝心なタイトルが書かれていない、お客様が問い合わせをしてきているのだけれど、あまりに口を濁しすぎてタイトルが言われたことがない…な

2017年2月15日の朝、 「考える人」休刊 のニュースをネットで見つけた。つい5日前にメルマガの最新号のコラム 『「鈴木伸子『シブいビル――高度成長期生まれ・東京のビルガイド』(リトルモア)」』 を読んだばかりだったので驚いた。出版不況が長く叫ばれている中、休刊の報には慣れてしまったが、いよいよ「考える人」までそうなったか、と心底がっかりしてしまった。 週

学生時代、生物調査のために同級生たちと森でテント生活をしたことがある。当然、トイレはない。必然的に穴を掘ってそのへんにすることになるのだが、その方法には鉄の掟があった。 「紙は使うな、葉っぱで拭け」 ティッシュは簡単には分解しない。自然環境を学ぶ者として、紙を使わないことは最低限の自然への礼儀であった。 「たかが、野ぐそ」と侮るなかれ。適した葉っぱを見つける

今年で2回目を迎えた、ビジネス書グランプリ2017。このアワードのコンセプトは「ビジネス書を評価するべきは、ビジネスパーソンではないのか?」というものであり、あくまでも読者目線で本を評価していく点が最大の特長だ。 HONZとしては、そこへさらに「それがビジネス書かどうかを決めるのも、ビジネスパーソンでではないのか?」という疑問を投げかけたわけである。その結果

2017年2月10日、日米首脳会談が実現し、両首脳は日米の友好関係を大々的にアピールした。米国のドナルド・トランプ新大統領にとって、日本との友好関係を内外に示すことはどのような狙いがあるのか。日米同盟強化によって何に対峙しようとしているのか。大手メディアではあまり語られない米国の真意が本書に書かれている。 トランプ新政権の中枢に入る経済学者 ピーター・ナヴァ

俗語、それも使われなくなった俗語が五十音順に百個あまり並べられている。トップはアイス。アイスクリーム?なわけはない。高利貸しのことらしい。わっかるかな?わかんねぇだろうなぁ~(©松鶴家千とせ)、これもほとんど死語ですけど。アイスクリーム⇒氷菓子(こおりがし)⇒高利貸し(こうりがし)とのこと。なるほどね。あれ?、どこかで聞いたことがあるなぁと思ったら、金色夜叉

著者のキャスリーン・フリンは36歳にしてパリに渡り、世界屈指の料理学校であるル・コルドン・ブルーを卒業した、本人曰く「遅咲き」の料理人であり、フードライターである。その体験を記した著作『36歳、名門料理学校に飛び込む! リストラされた彼女の決断』(柏書房)は好評を得て、ライターとしての生活はおおむね順調だった。しかし、その先にあるはずの進むべき道を模索してい

4歳の息子がお腹が猛烈に痛いと叫び、15分おきに下痢するので緊急で病院に行った。 ひととおり受診し、「先生、何の病気だったのですか?」と私が尋ねると先生は、 「カンピロではないと思います。その場合は一週間出血しますし、ノロ、ロタの類でもないでしょう。今は症状のジュウトク化を防がないといけません」 えと、それで…。私の質問に答えていないと判断したので、思わず

お洒落で高級感のあるイメージと大正ロマンを凝縮したような「銀ぶら」という言葉が好きです。銀座の地名は江戸時代、徳川家康が駿府にあった銀貨鋳造所を移してきたことに由来します。 銀座は明治の大火をきっかけに西欧風の煉瓦街に生まれ変わります。当時、横浜と新橋をつなぐ、日本初の鉄道ができ、新橋の駅前商店街として都市開発されました。道路幅を十五間(27m)、八間、五間

こんな心理学の実験がある。 ある女性が売春の罪で起訴され、留置所から保釈されるのを待っている(という架空の裁判事例の実験だ)。この実験に参加した実在の判事たちは、2つのグループに分かれていた。一方のグループは、売春婦に標準的な保釈金を課したが、もう一方のグループはその9倍以上にもなる高額な保釈金を求めた。 判事とは公正で理性的な判断を

本書を読んで、映画とともに過ごした20代を思い出した。恋もしていた。それはまるで『紀州のドンファン』 (栗下直也のレビューはこちら) のような季節だった。・・・と、そんなことを書きたかったわけではない。読後に起きた、生活の変化について書きたかったのだ。 私は、遅ればせながらAmazonプライムに登録し、スマホの通信容量をあげて、会社の行き帰りの電車の中で映画

なにげなく眺める英語圏のエンタテインメント情報サイトやファッション雑誌の見出しに、「フェミニスト」の文字がよく目につくようになったのは、いつ頃だったろう。日本と比較すれば昔からずっとそうだったとも言えるけれど、2010年代、特にここ数年は、若い世代の女性に向けたメディアで、それこそ「いけてる子は全員フェミニスト」ぐらいの勢いを感じる。 もちろんこれは日本在住

ウラジミール・プーチンという政治家は多くの謎に包まれた男である。ユーラシア大陸にまたがる大国を長年にわたり統治し、欧米の価値観や政治スタンスとは一線を画す事により、周辺地域に大きな影響力を与え続けてきた。この男が何を考え、どのような世界観を持っているのか。大国ロシアを動かすプーチンを知ることは、明日の世界を知るために欠かすことのできないことである。 しかし、

本は迷わず買うほうだが、それでも店頭だとパラパラとページをめくってみたり、少しだけ前書きや後書きを読んでみたりする。そんな中、表紙を見ただけで脊髄反射的にジャケ買い購入してしまうのが、類書がないと思われる本だ。この手の本は例外なく新しい知見を与えてくれる。だから見つけた瞬間、即購入しなければならない。 本書も、そんな即買い物件だった。人類学や歴史学、社会学、

偉大な探検家にして傑出した博物学者。壮年の文豪ゲーテに再び情熱の火を点し、その著書によってダーウィンをビーグル号乗船へと促した男。ジェファーソン米大統領に「現代を代表する最高の科学者」と評され、当時のヨーロッパにおいてナポレオンに次いで知名度があったともいわれる人物。それが、アレクサンダー・フォン・フンボルトであり、この伝記の主人公である。 フンボルトを一躍