
『日本ノンフィクション史 ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで 』 虚構と現実の境界
ノンフィクションとは、なんともとらえにくいジャンルだ。字義通りにみればそれは、フィクションではないものなのだが、もう一歩踏み込んで「フィクションではないもの」とはつまりは何なのかと考えてみよう。「ノン」という否定形ではなく、肯定系でその存在を描写しようとすると、途端にその輪郭はあいまいなものとなる。立花隆ですら「ノンフィクションとは何か、ノンフィクションとは
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ノンフィクションとは、なんともとらえにくいジャンルだ。字義通りにみればそれは、フィクションではないものなのだが、もう一歩踏み込んで「フィクションではないもの」とはつまりは何なのかと考えてみよう。「ノン」という否定形ではなく、肯定系でその存在を描写しようとすると、途端にその輪郭はあいまいなものとなる。立花隆ですら「ノンフィクションとは何か、ノンフィクションとは

深く関わりたくないと思う問題の多くは、善悪二元論に陥りがちなものばかりである。豊洲は安全なのか、そうでないのか。忖度はあったのか、なかったのか。唐揚げにレモンはアリなのか、ナシなのか…。議論を単純化すればするほど、問題は本質から遠ざかる。それなのになぜ人は、かくも簡単に二元論に陥ってしまうのか? 答えを解く鍵は、文法にあった。 通常、我々が親しんできた文法の

冨山和彦氏の本は殆ど読んでいるが、本書は単にAI(人工知能)が関わるビジネス領域に留まらず、教育から地方創生から働き方論まで、今我が国が取り組むべき社会問題を全て網羅した、これまでの著書の中で最も包括的な内容の、全ビジネスマン必読の書である。 コンサルタント→企業再生実務家→社会変革者へと進化を遂げる冨山氏の行きつく先は、ピーター・ドラッカーのような経営思想

混み合う地下鉄でふと頭上を見上げると、週刊誌の中吊り広告が2つ並んでいる。芸能ゴシップや政界スキャンダルなどの見出しに交じって、こんな見出しが目についた。「認知症になりやすい住宅」(週刊文春4/13号)、「団塊絶壁!第1回ボケへの恐怖」(週刊新潮4/13号)部数が伸びるのだろうか。高齢化が、私たちに重くのしかかっているのを感じた。 本書『がんばらない介護』は

六本木で 「大エルミタージュ美術館展」 がやっていますね。エルミタージュ美術館はルーブル美術館、メトロポリタン美術館とともに世界三大美術館の1つです。帝政ロシア時代にパリを模倣して造られた都市、サンクトペテルブルクにあります。 エルミタージュ美術館は、ロシア皇帝の冬宮殿として建設されました。イタリア人の建築家により設計され、ロココ様式で建造されています。建設

僕ね、文楽とか義太夫とかあんまり好きやないんです。怒られるのがいややから、越路師匠が怖いから修業してきたのかもしれません。 なんと正直なんだ。この言葉には、腰が抜けそうに驚いた。古典芸能に限らず、スポーツでもなんでも、トップレベルの人たちは皆、好きだから辛くてもやってこられました、というのがお約束だろう。しかし物は考えようだ。好きで続けられた人よりも、あまり

本書は、鎌倉時代の「踊り念仏」で知られる時宗の開祖・一遍上人の評伝だ。 開祖といっても本人は死ぬまぎわまで、こんな活動は一代限りでやめろと門弟に釘をさしている。 仏教本でお堅いのかと思いきや、全くそんなことはなく、著者は口語で語りかけてくるので読みやすい。そして一遍の怒涛を体感するだけでもエンターテイメントとして成立している。 一遍は、伊予水軍で名高い河野家

本が好きだ。物心ついてから、ずっと身近に本があり、気が付けば本に関する仕事をしていた。だが、私はどれだけ「本をつくる」という仕事に従事している人について知っていたのだろう。 まずは作家が原稿を書く。小説でもノンフィクションでも実用書もそれは変わらない。編集者の手に渡り、その作品が商品としての本になるかどうかが決定する。ここが始まりだ。 次には活字だ。本を開け

春の合宿を行った際、今までで一番影響を受けた本を紹介せよ!という命令が成毛眞より下った。下は大学生から上は還暦オーバー組まで、「本が好き」なのは変わらないが、幼いころから好きだった人、大人になって目覚めた人など、ひとそれぞれ。 ♬育ってきた環境が違うから~♪というわけで、かなり個性的で興味深いラインナップになった。絶版本も多いけど、今の時代、図書館や古本屋さ

シリアの国情は長い期間にわたって荒れ狂っている。 ことの発端は2011年。2010年に起こったアラブの春を端緒として過激化した反政府運動と、それに対抗するアサド大統領に率いられた政府軍によって内戦が勃発。ジリジリと進まない市街戦、非人道的で歯止めのかからない拷問、市民へのレイプ被害など無数の事態により状況は泥沼化していく。国連難民高等弁務官事務所によるとシリ

PS4とSwitchが盛況な現代だけれども、かつてはセガと任天堂が覇権をめぐり争っていた日々があった。日本視点でみるとあまり印象が強いわけではないが、メガドライブ(北米版はジェネシス)がアメリカでは任天堂のシェアを上回るなど、互角の戦いを繰り広げていた時代があるのだ。 本書はそうしたハード戦争においてセガが任天堂に対抗できていた一時代を、主にアメリカ(セガ・

本年1月21日、俳優・松方弘樹が脳リンパ腫のため亡くなった。享年74。本書は松方が闘病生活に入る前、2015年に行われた取材をもとに構成された、素晴らしく読み応えのある評伝である。 「仁義なき戦い」などの映画だけでなく、テレビドラマ「遠山の金さん」でも活躍した松方は「遅れてきた最後の映画スター」だったという。壮絶な殺陣が印象的な「十三人の刺客」の監督、三池崇

チャーリー・チャップリン――不世出のコメディアン、映画俳優、映画監督、脚本家、映画プロデューサー、作曲家。それだけの役をすべてひとりで、しかもそれぞれ完璧にこなした天才。その名を抜きに映画史を語ることはできない。それに、なんといっても、彼の映画は文句なしに面白い。 ところが今、チャップリンという名前はなんとなく知っていても、どんな人かよく知らないし、映画も見

今日から4月ですね。4月の誕生石であるダイヤモンドの名は、その硬さから「征服されざるもの」を意味するギリシャ語「adamazein」に由来します。地中深く、マントルの高温高圧下で炭素が強く結びつき、ダイヤモンドは作られます。 原石はあまり光らないため、かつては今ほどの価値はありませんでした。15世紀にダイヤモンドをダイヤモンドで研磨する方法が確立され、輝きを

待ちに待ったプロ野球が今年も開幕した。生まれて初めてプロ野球選手を間近で見たときの興奮はいまでもおぼえている。季節は春。小学生だったぼくは、新大分球場の外野の芝生席で、ある選手の一挙手一投足に目を奪われていた。目の前のフェンスには、その選手のウインドブレーカーがかけられていた。 やがて彼がこちらにやってきた。すごいオーラだ。「いい汗かいちょるね!」と横にいた

本書は、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎)で話題を集めた編集者/ライターの稲田豊史さんによる、渾身の『ドラえもん』評論です。 サブタイトルに掲げた「のび太系男子」とは、誰もが知るドラえもん頼りの劣等生の代名詞「のび太」の生きざまをロールモデルに、21世紀の日本社会に結構な割合で定着してしまったであろうアラフォー以下の男性たちのこと。 よく言えば立身出

アメリカン・ドリーム。それは、大志を抱く者が自らの実力ひとつでのしあがっていくサクセス・ストーリーである。しかしじつは、そんなアメリカン・ドリームがいま危機に陥っているのだという。どうしてだろうか。 それは、ひと言でいえば、現在のアメリカでは機会の階層間格差が極端に大きくなっているからである。一方で、裕福で教育水準の高い家庭の子どもには、進学や就職における多

3月14日に多臓器不全で亡くなった俳優の渡瀬恒彦は最近では『おみやさん』や『タクシードライバーの推理日誌』などで柔らかい印象を視聴者に与えていたが、「芸能界喧嘩最強」とも噂された。実際、かつて『仁義なき戦い』シリーズで見せたギラつきぶりには思わず震えてしまう怖さがあった。その『仁義』には名優が多く出ているが、中でも怪演が光ったのが、1月に死去した松方弘樹だろ

Googleで検索をかければ、すぐに答えがわかってしまう現在、この本に書かれていることの一部が眉唾物であるということは一目瞭然だ。しかし400年前はどうだっただろう? インターネットなんてものはもちろんなく、伝聞に加え書物や文献でしか情報を得ることができなかった当時の人々は、いったいこの本に書かれていることをどのように受け止めたのだろうか? 世にも不思議なも

近年、アスペルガーやADHDといった発達障害が注目を集めている。本書の冒頭でも述べられているが、テレビドラマの登場人物でも発達障害を持っていると思われる行動をとる人物が活躍する作品が増えている。 海外ドラマ『 クリミナル・マインド 』のDr.スペンサー・リードやBBC制作の『 シャーロック 』のシャーロック・ホームズなどは明らかにアスペルガー症候群の特徴を示

2020年、東京オリンピックの開催の裏側で、大学入試センター試験の改革が着々と進んでいる。次の中学3年生が高校3年生になるタイミングであるから、もう間近である。高校も大学も塾も、その準備に追われてとても大変になることは想像に難くないが、その手前にも、大きな問題が来ることは随分前から囁かれていた。2018年問題である。 1992年に200万人を超えた18歳人口

数日前、東京で桜の開花宣言が出ましたね。桜といえばソメイヨシノですが、名前の由来をご存知ですか?ソメイヨシノ(染井吉野)は江戸時代、染井村(現:東京都 駒込)の植木職人が品種改良して生み出しました。当初は奈良の桜の名所吉野山にちなみ「吉野桜」として広まったそうです。後に、吉野山に多いヤマザクラとの混同を避けるために、「ソメイヨシノ」と命名されました。 各地に

今年の受験シーズンも終わろうとしている。納得のいく結果を得た方も、思い通りにいかずに悔しい思いをした方もいただろう。が、若い時期に一時でも夢中で勉強し、公正な判断を受けるという経験はきっと意義があるはずと思う。すべての受験生の皆さん、すばらしい未来がありますように! さて本書は東大・京大・一橋・慶応・早稲田といった難関大学の歴史の試験の記述問題を、著者の片山

おととし、初めて「ふるさと納税」をした。納税先は、岩手県陸前高田市。「お礼」に届いたのは、ホタテやアワビなどの海産物。その滋味あふれるおいしさに感激し、「この魚介を育んだ陸前高田の広田湾とは、どれほど豊かな海なのだろう」と、まだ訪れたことのないその地に思いを馳せた。 だが皮肉にも、その「豊かな海」からやってきた津波によって、陸前高田は壊滅的な被害を受けた。本

本書は映画化を視野に入れたストーリー性重視のノンフィクションで、ゲームの内容やテクノロジーよりも、企業の競争戦略や個性的な登場人物たちの葛藤や苦悩、生き様などに焦点を当てた点がユニークな作品となっている。著者はゲーム業界をビジネス的観点から描くことで、マーケティングや営業の現場が創造的プロセスにどんなインパクトを与えたかを、興味深

2016年6月に出版された原書はアメリカでベストセラーとなり、世界中で高い評価を受けた。英エコノミストは「2016年に出版された本の中で、アメリカを知るために最も重要な一冊」と評している。1984年生まれの若き白人のアメリカ人である著者J.D.ヴァンス自身が述べるように、彼はイェール大学ロースクールを卒業し経済的成功を収めてはいるものの、「人生で何か偉業成し

格差の問題が叫ばれて出して久しいが、格差が深刻化する中でさらなる問題が沸き上がりつつある。「格差を是正せよ」「ダイバーシティって素晴らしい」という掛け声とともにフォーカスが当たるのは、いつだって最底辺に位置するマイノリティの人ばかりなのである。 「鶏口となるも牛後となるなかれ」とはよく言ったものだが、アメリカで実施されたある調査でも、それを裏付けるような結果

『マラリア全史』など感染症をテーマとしたノンフィクションを多数著している科学ジャーナリストの最新作である。内容は疫学、認知科学、進化生物学、政治史など多岐にわたり、分野横断的だ。「移動」、「過密」、「非難」、「治療」など10の切り口から、パンデミックについて幅広く語られる。 「移動」の章では1825年のエリー運河開通をきっかけにアメリカでコレラが広がった例や

先日、Yahooが3.11の広告を出していた銀座ソニービルに行きました。ビルの竣工は1966年、設計は建築家の 芦原義信 氏です。設計にあたり、ニューヨークのグッゲンハイム美術館を参考に、世界初の『花びら構造』という建築様式が採用されました。また、敷地いっぱいに建設せず、交差点の角に空き地を設け、イベントスペースとして活用しています。 芦原氏は著書 『街並み

ため息が出た。大学人として、である。うまくいっている大学には、それだけの理由があるということがよくわかった。今をときめく近大、近畿大学の本である。関西圏以外で近大の知名度と評価はどれくらいなのだろう。しかし、いまや、いくつもの指標で、押しも押されもせぬ日本の私立大学の雄であることは間違いない。 少し前まで、近大のイメージといえば、ちょっと垢抜けしないバンカラ

本書は人気作家たちによる、どんぶり愛あふれるエッセイ集である。各章をずらりと並べると、「天丼」「カツ丼」「牛丼」「親子丼」「海鮮丼」「いくら丼」「まだまだあるぞ丼」「うな丼」と続く。お昼には牛丼、ちょっと気合いを入れる時はカツ丼、お出かけ先で海鮮丼、今日はお腹の調子が良いという日に天丼、なんて感じに気軽にどこから読んでも楽しい一冊である。 私は牛丼が好きだ。

スーパーマーケットの他人の買い物かごが気になる。レジで前に並んだ人のかごの中身が冷凍食品だけだと「仕事が忙しいのかな」とか、野菜や肉の種類で「今晩は餃子か」なんて考えるのは楽しい。 さて本書の著者、キャスリーンも私と同じ性分らしい。ある日、ある女性のスーパーのカートの中が気になった。インスタント食品と出来合いのソース、冷凍食品が詰め込まれ、まともな食品が何も

諸般の事情で新年会ができずに、新メンバーの顔合わせもまだだったので、思い切って一泊泊まりの研修にしようと、3月4日・5日、箱根に集まってもらいました。参加者は事務方の 仲尾夏樹 を入れて25名と大所帯。下は大学生から上は還暦過ぎまで、わいわいと会議室に集合しました。 13時に集合でしたが、当日は高速道路が事故のため大渋滞で車のメンバーは少々遅れ気味。待ち合わ

「京都人にとっては先の戦争といえば、第一次でも第二次でもなく、応仁の乱のことを指す」という都市伝説があるそうです。それほどにメジャーな戦だと思っていた「応仁の乱」は、実は地味で、かつ難しいものだったということが最近話題になっています。このきっかけになったのが中公新書の『応仁の乱』。新書、そして歴史物という渋いジャンルから大ベストセラーまでになった軌跡を振り返

2016年のアメリカ大統領選挙でトランプ氏を援護射撃するようなサイバー攻撃を ロシアが しかけていたことには驚いたが、その後、アメリカが分かりやすくサイバー空間で反撃していたのにも驚いた。ロシア政府高官のメールが暴露されたり、ロシアの銀行が大規模なサイバー攻撃を受けたりと、次々とロシアがサイバー攻撃を受けている。しかも、 バイデン前副大統領がロシアへの反撃を

まったくの私事で恐縮だが、このレビューをHONZにアップする日に還暦を迎える。せっかくなので、還暦らしく赤い本をレビューすることにしようと思った。『 赤本 』といえば、教学社の出す大学入試過去問集だけれど、さすがにそんなもんレビューするわけにはいかないし、その能力もない。 行きつけの本屋さんをうろついて探すと、平積み本の中にひときわ目をひく一冊があった。中国

お好み焼き、きつねうどん、押し寿司、ホルモン焼き、カレー、玉子トースト、ドーナツ、いか焼き……これは、私のアタマに読後浮かんだ食べたいものリストである。うーん、新幹線に飛び乗りたい。あの「食い倒れ」の街、大阪を知り尽くす著者が、街の人や場を堪能しながら、飲み、食う。さて、いちばんの御馳走はなんでしょう。 著者は、京阪神の街を紹介するあの『Meets Regi

旅行で行ったイスタンブールが懐かしくなり、自宅でサバサンドを作りました。パンに焼いた塩サバ、スライスオニオン、レタスなどを挟んでレモンをかけるだけで美味しく作れます。グランバザール(市場)の喧騒から離れ、ボスポラス海峡を眺めながら食べるサバサンドは格別でした。 トルコと言えばイスタンブールやカッパドキア、パムッカレなどが有名ですが、サフランボルもオススメです

ル・カレ作品のブームが続いている。新作が各紙誌の書評欄をにぎわすのはもちろん、映画も2011年から『裏切りのサーカス』(原作は『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』)、『誰よりも狙われた男』、『われらが背きし者』と立てつづけに公開され、昨年放送されたドラマ(日本ではアマゾンが配信)『ナイト・マネジャー』も、エミー賞とゴールデングローブ賞ドラマ部門で合計

マレーシアで金正男が暗殺された。VXという毒物が使われたと報じられている。この物質は人類がつくりだした化合物でもっとも毒性が高いと言われている。 その半数致死量は体重1キログラムあたり0.02ミリグラム。つまり1000分の2グラムもあれば、ひと一人を殺すことができる恐怖の化学兵器である。しかし、その1万倍も強力な毒物がある。 その毒とはボツリヌストキシンやテ