
『「全世界史」講義 教養に効く! 人類5000年史』 学びを超えた知的エンターテインメント
のっけから著者に反論申し上げたいことがある。出口さんは「まえがき」で、「積み重ねられた歴史を学んで初めて、僕たちは立派な時代をつくれるのではないか」という。つまり本書は良き未来を創りあげるという目的のために、テキストとして読むことができると言っているように聞こえるのだ。 たしかに歴史から学ぶべきこと、いや本書から学べることはあまりにも多い。それは歴史だけでな
361記事

のっけから著者に反論申し上げたいことがある。出口さんは「まえがき」で、「積み重ねられた歴史を学んで初めて、僕たちは立派な時代をつくれるのではないか」という。つまり本書は良き未来を創りあげるという目的のために、テキストとして読むことができると言っているように聞こえるのだ。 たしかに歴史から学ぶべきこと、いや本書から学べることはあまりにも多い。それは歴史だけでな

南シナ海を舞台とした事件を伝えるニュースは後を絶たないが、その全体像はなかなか見えてこない。なぜ東南アジア諸国はこの地で争い続けているのか、各国が求めているものは何なのか、それぞれの主張はどうしてこれほど食い違っているのか。複雑に絡み合った各々の思惑と過去の記憶が、解決への道はもちろん、状況を把握することすら困難なものにしている。 マスコミが繰り返し報じてい

ブライアン・フェイガンが人類と動物の関係史を書いたというので、私は興味津々で本書の原書となるThe Intimate Bond──How Animals Shaped Human Historyのページをめくってみた。ところが、人類の歴史を変えた動物として彼が選んだ8種類のリスト、犬、ヤギ、羊、豚、牛、ロバ、馬、ラクダを見て、はたと考え込んでしまった。牛馬と

「GDPは20世紀でもっとも偉大な発明のひとつ」 アメリカ商務省がここまで賛辞を贈るのは異例だ。しかしそれもその筈、GDP(国内総生産)以上に国の経済規模を測れる指標は存在せず、マクロ経済政策はGDPに依拠しながら策定せざるをえない。GDPは、アメリカ商務省だけでなく各国政府にとって経済政策を考える上で必要不可欠な経済指標である。一方で、これほど各国経済に多

バージニア州にダレス国際空港 という名の大空港がある。この空港が ジョン・フォスター・ダレス元国務長官 の名前に由来していることを、知らない人もいるかもしれない。著者は本書冒頭でこの空港を訪れる。この空港のシンボルである、ダレス国務長官の胸像を見るために。しかし、どこを探しても見つからない。幾度も改築を重ねるうちに胸像はどこかへ運びさられたようだ。空港関係者

1933年6月、いくつもの偶然が重なってシカゴ大学教授のドッドは、ローズベルト大統領からナチ政権下となって初めての駐独アメリカ大使に任命される。ドッドは「旧南部の興亡」というライフワークを執筆するため、大学での多忙な役職に不満を覚えていた。ハーグやブリュッセルの大使なら執筆の時間が取れるのではないかと考え、閑職を求めて政府に働きかけたのだった。しかし、運命の

果たして、英雄に惹きつけられない人がいるだろうか? といえば、もちろんいるにはいるのだろうが、大抵の場合英雄とは憧れ、理想的な対象として存在している。神話におけるヘラクレス、あるいは仏教におけるブッダ、アーサー王にイエス・キリスト。神話クラスの人間でなくとも数十数百といった年数を語り継がれてきた民間伝承やお伽話には数限りなく人間の弱さを克服し前に進む英雄の姿

地図を見るのは楽しい。行ったことがある場所なら、あぁこんなだったと思いだせるし、行ったことがない場所なら、どんなところだろうかと想像力がかきたてられる。いまや、世界中、地図のないような場所はない。しかし、そんな時代になったのは、それほど昔のことではない。 古代バビロニアに始まり現代で終わる、地図についての物語集だ。それぞれの地図が作られた時代が語られ、その意


1933年1月、ヒトラーがヒンデンブルク大統領の任命により首相になってから、翌1934年8月、ヒンデンブルクの死と同時にあらゆる権能を掌握し、絶対的な権力者・総統となるまでの2年弱。ヒトラーとナチスの「権力掌握の総仕上げ」が成され、日常生活に潜んでいた恐怖政治の実体が一気に表面化して世を覆い尽くすこの時代を、ヒトラー政権下で初めてベルリンに赴任したアメリカ大

天ぷらの語源がポルトガル語の「調理」を意味する「tempero」だとされることは、今日では多くの人の知るところであろう。しかし、この天ぷらという料理の起源をたどると、古代ペルシアの「シクバージ」と呼ばれる肉の甘酢煮料理にたどりつくことを、どれほどの日本人が知っているだろうか。本書はスタンフォード大学で言語学とコンピューターサイエンスを教える教授が言語学の観点

「昔は良かったよねー」とぼやき、ノスタルジーという名のお花畑に住む老人や、世にはびこる非科学な通説を統計を使って切り捨ててきた謎のイタリア人、パオロ・マッツァリーノ先生。今回ぶった切る対象が生きた時代は「昔は良かった」と懐かしむこともできない2500年前の中国。「昔は良かった頃の偉大な人」で、もはや誰も突っ込むことができない「孔子」と彼の言動をまとめた『論語

本書の訳稿の校正作業に入っていた2015年7月23日、日本の油井亀美也宇宙飛行士が米ロの同僚二人とロシアのソユーズ宇宙船に乗って宇宙へ旅立った。そして打ち上げからわずか5時間45分ばかりののち、地球の上空約400キロの宇宙空間の軌道上を秒速8キロで回る国際宇宙ステーション(ISS)とドッキング、約5カ月に及ぶ予定の宇宙長期滞在ミッションを開

ベトナム戦争終結から、今年でちょうど40年。その間、この戦争について多くの研究書や回顧録、ルポルタージュが刊行され、映画もたくさん制作されてきた。もちろん、これを主題とする小説も書かれた。わたし自身も何度かベトナム帰還兵の登場する作品を訳し、この戦争について学ぶ機会を得ている。英日翻訳を専門とする出版翻訳家なら、誰もが一度は向き合わざるをえないテーマかもしれ

2015年10月27日(火)から2016年2月21日(日)まで東京国立博物館にて 特別展「始皇帝と大兵馬俑」 が開催される。1974年、3月始皇帝陵の東1.5キロの地点で偶然に兵馬俑坑が発見された。兵馬俑の「俑」とは人間や軍馬の姿をありのままに写し取り、墓に埋めたひとがたをいう。2200年前の兵士と馬の姿が等身大で目の前に現れたのだ。その数は8000体にも上

20世紀の半ば、人類史上最大の集団暴力が、ポーランドからウクライナ、ベラルーシ、バルト三国、ロシア西部にまたがる広大な地域を襲った。スターリンとヒトラーが同時に政権の座についていた1933年から45年までの12年間、この地で独ソ両国の大量殺人政策が重複して進められたのだ。スターリンもヒトラーも、自分の思い描く国造りのため、邪魔者を排除しようとした。ふたつの大

従来は、「ゴシック至上主義者」エミール・マールに代表されるキリスト教図像学者が、「稚拙」なロマネスク美術を発想源とされるテクストとの関連で読み解いてきた。これに対して著者は、「書物よりも大理石を読み解こう」と考え、「反図像学的試み」を主張するマイケル・カミールに親近感を抱く。そして、ヨーロッパの古寺巡礼を始めたのだ。読みながら、ヴェズレ―やオータンなどのロマ

第三帝国の終焉が近づきつつある、1944年11月26日。フランスのストラスブールでは連合軍とドイツ軍が激しい砲火をまみえていた。そんな戦況の中、都市の中心にある豪華なアパルトマンの一室では、数人の科学者が一心不乱に書類を読み漁っていた。アメリカ人の粒子物理学者ゴーズミットが率いるこの特殊チームはアメリカよりも先進的な研究成果を持っていると考えられていたナチの

少子高齢化に悩むわが国では、ようやく人口政策の是非が議論され始めた。しかし人口問題は難度が高い。昨年 「人口の世界史」 (マッシモ・リヴィ‐バッチ)という人口問題を考える上で極めて示唆に富む良書が出版されたが、20万年の人口変遷史を記述した本書もそれに劣らない出来栄えだ。 20万年前(世界人口5千人、以下同じ)に、東アフリカで誕生したヒトの出生と死亡の原像は

インテリジェンス・オフィサーは語らず――。 情報の世界でながく語り継がれてきた箴言である。 機密情報に携わる者たちは沈黙を守り抜き、自らを厳しく律してきた。決して情報源を明かさない。これこそが彼らの至高の掟なのである。どのように情報を入手したかが露わになれば、相手側に災厄が及んでしまう。時には人命まで喪われる。それゆえ、情報を生業とする者は一切を墓場まで抱え


ここに翻訳をお届けする『印刷という革命──ルネサンスの本と日常生活』は、西欧印刷史の泰斗アンドルー・ペティグリーが満を持して2010年に世に問うた、実にスリリングな初期近代メディア文化史の傑作である。 原著で400ページを超えるその浩瀚なヴォリュームと射程の広さ、扱うトピックの目くるめく多様性にもかかわらず、原題は『ルネサンスにおけ

先日ふるまいよしこさんが、 「自分自身で中国を理解するすべを身につけたいなら読むべき」 として『ネオ・チャイナ』とともに紹介されていたのが、こちらの『中国グローバル化の深層』である。 中国研究の第一人者として知見を提供し続けてきたシャンボー教授は、なぜ中国を「未完の大国」と呼ぶのか? 国際ニュース編集者としても知られる、加藤祐子さんの翻訳者あとがきを掲載い

僕たち人類は、約20万年前に東アフリカのサバンナで生まれた単一種(ホモ・サピエンス)が、世界中に拡がっていったものである。それと同様に、よく知られている4大文明も別々に生まれたのではなく、世界最古のメソポタミア文明が四方に拡がっていったものであるという説が唱えられている。 「ものごとの本質は祖型にこそよくあらわれる」、そうであれば、僕たちの文明がどこへ行くの

1945年8月28日、米潜水艦セグンドは、日本の降伏文書調印式典に、米海軍の潜水艦の代表として列席するため、日本本州から約1000マイル離れた洋上を航海中であった。そのときレーダーが何かを捉えた。レーダーのスクリーンに現れたブリップの大きさに乗員は目をみはる。これほどの大きさの物体ならば距離1万5000ヤード先からでもレーダーが確実にとらえるはずだ。しかし「

『ネオ・チャイナ 富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望』は、現代中国の「今」を官と民のせめぎ合いという観点から描いたルポルタージュである。ジャーナリストのふるまいよしこさんは本書を「中国の今を知るための今年一番の良書」と評する。はたして著者のエヴァン・オズノス氏とは、どのような人物なのか? そして本書の読みどころはどのような点にあるのか? ふるまい

対談本はこの世に数多く出ているが、質的にはピンからキリまで玉石混交なジャンルである。最悪のケースとしては、忙しくて文章を書いている暇もない人気の著者や著名人を組み合わせて、その場で即興の言葉を拝借する。お互いのことをよく知らないまま表層的な会話に終始し、それっぽいまとめがあって終わってしまい、読後には釈然としない気持ちが残ることになる。 いやなに全ての対談本

マクドナルドや和民など、早く・安く・多くの胃袋を満たしてきたチェーンレストランの不調がニュース紙面を飾っている。日本人の食はこれからどのように変化していくのか。日本の高度成長期を支えた郊外団地から人々が流出し、残った住民も高齢化が進んでいるという。人口減少局面を迎えた日本人は、今後どんな家に住むことになるのだろう。 食や住居だけではない。テレビや車など、戦後

フィットネスにしてもダイエットにしても、人間の身体にまつわる話について、正反対の二つの言説が並ぶことは意外に多い。たとえば炭水化物。ダイエットのためには取らない方が良いという意見があれば、取らないのは危険だと警鐘を鳴らす声も聞こえてくる。 このような状況がどうして起こるのか? それは、なぜそうすべきなのかという「Why」が足りていないからだと思う。 本書『ナ

「南洋」という言葉を耳にして、日本の元占領地であることがパッと思い浮かぶ人はどれくらいいるのだろう。「南の島」といえば真っ先に浮かぶのは、透き通った海が広がる常夏のリゾートだろうか(まさに自分がそうだった)。しかし、かつて日本が日本語教育を行い、神社を作って参拝させるなど支配を敷いていたのは東アジアだけではないのだ。 グアムを除く赤道以北の地域で、正式に日本

2011年3月以降、 絆やつながり が大切だと、耳にタコができるほど聞いてきた。煩わしいと思う人もいるし、いやそれこそ美しいと考える人もいる。どちらの気持ちも幾分か持つグレーな人が大半だと思うのだが、さて昔の人は「つながり」をどう考えていたのだろうか? Religio(レリギオ)はReligion(宗教)の語源になったラテン語であり、 「つながり」を意味する

2015年は第二次世界大戦終戦後、70年目という節目である。経験者は少なくなり、語り継がれてることも少なくなってきた。だが、毎年膨大な数の関係書は出版されている。正直、どれを読んだらいいか、まったくわからないのが実情だろう。 2011年7月から始まったHONZでは、第二次世界大戦関係の本をたくさん取り上げてきた。終戦70周年の記念に、この4年間で紹介してきた

1939年に発生したノモンハン事件は多くの人間と国の運命を変える事になる。当事国である日本もソ連も、そして第二次世界大戦の引き金を引くことになる独裁者ヒトラーもこの国境紛争がそれほど重大な意味を持つようになるとは当時は気づいていなかっただろう。だが、まずこの紛争で一人の男の運命が大きく変わる。 その男とはソ連労農赤軍の将官 ゲオルギー・ジューコフ だ。スター

HONZが送り出す期待の新メンバー第5弾! 秋元 由紀は米国弁護士の資格を保持しており、長らくミャンマー(ビルマ)における開発問題や環境問題などに従事した経験を持つ一方で、極度のヒマラヤ登山史マニアでもある人物。先日HONZに訳者解説を掲載した『 沈黙の山嶺 第一次大戦とマロリーのエヴェレスト 』や『 ビルマの独裁者タンシュエ 』、『 ビルマ・ハイウェイ 』

『絶対に見られない世界の秘宝99』は、二度と目にすることができなくなった世界の秘宝や財宝をイラストと写真で読み解いた一冊である。どのなくしものにもそれぞれにユニークで興味深い物語があり、その核心にはどれにも共通の永遠の謎がある。連載3回目となる今回は、アステカ帝国の君主モンテスマの失われた財宝についてご紹介。 1: 失われた化石 7月17日公開 2: クロム

『絶対に見られない世界の秘宝99』は、二度と目にすることができなくなった世界の秘宝や財宝をイラストと写真で読み解いた一冊である。どのなくしものにもそれぞれにユニークで興味深い物語があり、その核心にはどれにも共通の永遠の謎がある。連載2回目となる今回は、17世紀イングランドでクロムウェルの身におこった数奇な物語をご紹介。 1: 失われた化石 7月1

本書はWade Davis, Into the Silence: The Great War, Mallory, and the Conquest of Everest (Knopf, 2011)の全訳である。原書は優れたノンフィクションに与えられるサミュエル・ジョンソン賞を受賞した。2011年12月、ニューヨークのリゾーリ書店に入った途端、刊行直後のこの本

出口 治明 ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくは こちら 。 *なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

『奴隷のしつけ方』と衝撃的なタイトルだ。著者はマルクス・シドニウス・ファルクスというようだ。古典なのだろうか。本書を手に取り、パラパラとページをめくると違和感を覚える。マルクス・シドニウス・ファルクスとは何者なのか。記憶の糸を手繰る。しかし、思い出せない。本書の帯には「何代にもわたって奴隷を使い続けてきたローマ貴族の家に生まれる。」とある。書店でスマートフォ

姓を手がかりに、歴史に埋もれたビッグデータを掘り起こした著者は、残酷な現実を突きつける。 基盤的な、または相対的な社会的流動性は、社会学者や経済学者が一般的に考えている水準よりはるかに低い。 つまり、従来考えられていたよりも、わたしたちの人生はその生まれによって決定されており、本人の努力や意志で階級の階段を昇るのは従来考えられていたよりも困難だというのだ。時