
凡人、天才に学ぶ 『世界天才紀行 ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで』
天才とは何だろう? 一般的には「とくに創造的活動において発揮される、すぐれた知的才能」と定義されている。『優生学』を打ち立てたフランシス・ゴルトンのように「世界中がその功績に対して大きな恩義を感じるような人物」としたほうがより実際的かもしれない。 ダーウィンのいとこであったゴルトンは「天才とは遺伝の産物」と考えていたが、はたしてそうだろうか。いみじくもそのゴ
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天才とは何だろう? 一般的には「とくに創造的活動において発揮される、すぐれた知的才能」と定義されている。『優生学』を打ち立てたフランシス・ゴルトンのように「世界中がその功績に対して大きな恩義を感じるような人物」としたほうがより実際的かもしれない。 ダーウィンのいとこであったゴルトンは「天才とは遺伝の産物」と考えていたが、はたしてそうだろうか。いみじくもそのゴ

英仏100年戦争の後半期、1405年からパリの住人(名前不詳)が日記を書き始め、それが写本の形で残った。15世紀初頭のパリの実相を伝える貴重な資料としてホイジンガの「中世の秋」にも度々引用されている。本書はその名訳で(Ⅰ巻は2013年刊行)年代的には1419年~29年をカバーする。この時期は100年戦争のまさに白眉の時代であった。 1419年、パリを制したフ

ピーター・オトゥールが扮した「アラビアのロレンス」は、紛れもなく僕を映画好きにした1作だった。本書は、ロレンスに惹かれて「知恵の7柱」(東洋文庫)を始めとする関連書籍を読み漁っていた学生時代を思い出させてくれたが、それだけではなく他の類書にはない面白さがぎっしりと詰まっていて驚いた。 ロレンスがいたアラビアには、他にもロレンスと同じような境遇の尖った若者がい

過激な発言や過去のスキャンダルのために共和党候補にすらなれないと思われていたドナルド・トランプが、世界最強国家アメリカの次期大統領となることが決まった。リーマン・ショックに端を発する不況が、世界を不安で包み込もうとしていた中、若く聡明なマイノリティのバラク・オバマに希望を託した人々が、8年後の今は、対極とも思える人物をリーダーに選んだのである(その選挙制度の

1918年、トーマス・エドワード・ロレンス大佐はバッキンガム宮殿に呼び出される。ジョージ五世は笑顔で「贈り物があるんだよ」と語りかける。国王の贈り物とは大英帝国勲章ナイト・コマンダーであった。戦争での活躍が評価されたのだ。ロレンスはナイト爵を授かろうとしていた。子供の頃から騎士の物語に憧れ、三十歳になるまでにはナイトに叙せられることを目指していたロレンスは、

没後ほぼ四半世紀を経て、その功績や人物像が見直されつつある国家リーダーが2人いる。田中角栄とリチャード・ニクソンだ。ニクソンはエヴァン・トーマスの『Being Nixon』(2016年3月)が出版ブームに火を付け、10点以上の書籍が発行された。歴代のアメリカ大統領で唯一任期中に辞任した彼は、ソ連とはデタントを進めながら、対中国交正常化の端緒を開き、ベトナム戦

中国では、常に古代の聖天子の時代が憧憬される。伝説の堯や舜はともかく実在が確実視される周の文王や武王、周公旦の時代である。周は約800年続いたが、これまで意外なことに読みやすい通史がなかった。本書は待望の1冊である。 従来の中国の古代史は概ね司馬遷の叙述(史記)など伝世文献に依拠してきたが、当時の金文(青銅器に彫られたもの)や竹簡などの同時代資料が陸続と発掘

時は1980年代前半、ソ連の最高機密文書をアメリカに提供しつづけた男がいた。「10億ドルの(価値ある)スパイ」とアメリカ政府の中枢から呼ばれていた人物だ。 この大物スパイの活躍は長年機密扱いとされ、これまで表舞台で語られることはなかった。最近のCIA(アメリカ中央情報局)機密解除をうけ、本書でその全貌がはじめて明かされている。ワシントン・ポストの敏腕記者が、

英語教育の早期化が加速している。次期学習指導要領からは、小学校5年生から英語は正式科目となり、小学校3年生から英語に親しむ授業がはじまる。そして、歩調を合わせるように、親の英語熱が加速している。 小学校の英語必修化について、2006年には52%の親が反対だったが、2013年には賛成が59%というアンケート結果が出ている。また、大学入試でも「読む・書く・聞く・

ロンドンといえば、おしゃれな大人の街。政治経済はもとより文化、芸術、ファッションにおいても世界をけん引する大都市のひとつでしょう。そのロンドンの19世紀の衛生環境を、こと細かに調べ上げて綴ったのが本書です。 19世紀というとはるか昔という印象を持ちますが、本書で取り上げているのは、およそ120~170年前のできごとが中心で、そう遠い過去の話ではありません。日


2000年10月、中国政府は中国-アフリカ協力フォーラム第一回会議を北京で開催し、江沢民国家主席(当時)が中国のアフリカへの「対外進出」政策の推進を高々と宣言した。天然資源を軸とした中国とアフリカ諸国の蜜月関係のはじまりである。 以降、2000年代初頭から今日に至るまで、欧米企業が主導していたアフリカでの資源開発に中国企業が次々と参入することとなる。 後世の

わたしたちは孤独だ。人口が70億を超え、世界中に生息域を広げたとしても、現在の地球上にはホモ属に分類される種はサピエンス、つまり現生人類であるわたしたちだけ。ライオンにはジャガーやトラのように同じヒョウ属に分類される仲間がいるのに、サピエンスは系統樹上で一人ぼっちなのだ。 かつて、人類は孤独ではなかった。そもそも「人類」とはホモ属に分類されるすべての動物を指

私たちは自らをホモ・サピエンスと名づけた。自分達を「賢い人」と呼ぶ私たちは、アフリカ大陸で捕食者に怯える、取るに足りない動物であった。なぜ、その取るに足りない動物である「サピエンス」が現在のような食物連鎖の頂点に立ち、地球を支配するような存在になったのどろうか。 15万年ほど前に東アフリカで細々と暮らしていたサピエンスは7万年ほど前になると突如、地球上のあら

住居の間取図を見て楽しめる人がいるように、地図を見てその先の光景に思いを巡らせ楽しめる人もいる。地図上から読み取れる地形や街、河川の形状などから、その場所や住む人間達を想像し、あたかも自分もそこにいるような思いを馳せれる心地よさがあるからだ。 本書はナショナルジオグラフィックから出版された地図を纏めた一冊である。太古の地図から、空想世界の地図、大遠征や探検の

正倉院はシルクロードの終着点であると教わった記憶がある。「月の沙漠」の歌ではないが、シルクロードという言葉には、ラクダの隊商が列をなしてローマやペルシャから遥々と中国まで(さらには奈良の都まで)宝物を運んできたロマンチックなイメージがある。著者は、シルクロードの重要な中継地であったクロライナ王国のニチャと楼蘭、鳩摩羅什(有名な仏教の訳経者)の故郷クチャとキジ

体重わずか数グラムのハチドリは、ほとんどの鳥が真似することも困難なホバリングをすることができる。空中の定位置に留まるためには、羽を打ち上げるときも打ち下げるときも揚力を発生さるような、回転可能な羽を進化させる必要がある。ハチドリがこの独特なデザインの羽を持つようになったのは、花蜜を吸うためであると考えられる。ホバリングは、花蜜を取り出すために威力を発揮し、ハ

「呉越同舟」という諺が人口に膾炙しているように、春秋戦国時代の呉と越は宿命のライバルであった。両国は30年以上に亘って激しい戦いを繰り広げ、遂に越王勾践が呉王夫差を敗死させる。本書はこの2国の興亡を描いた歴史文学(東漢=後漢の時代に成立)の本邦初の全訳である。 ところで、2500年も前の呉越の戦いが、何故かくも人々の心を揺さぶるのか。それは、夫差の賢臣、伍子

本書は Cornel West, Black Prophetic Fire: In Dialogue with and Edited by Christa Buschendorf, Beacon Press, 2014 の全訳である。 著者コーネル・ウェストは、肩書きや職業だけではとてもとらえきれない人物である。強烈なひとつの魂、ひとつのパワーがとりあえず哲

イギリスが国民投票でEU離脱を決め、アメリカでは銃の乱射事件が頻発し、南シナ海の緊張は高まり続け、イスラム過激派は世界のあらゆる都市でテロにより多くの命を奪っている。当たり前だと思っていた秩序は、失われてしまうのだろうか。 不確実性がいやましている未来へより確実な一歩を踏み出すために、本書『国際秩序』は歴史という名の道標を与えてくれる。昨日までの世界はどのよ

宝石が嫌いな女性はいないが、宝石が好きな男性もほとんどいない。これが宝石商にとっては頭痛の種だ。私事になるが、私も宝石商を50年以上やっている。仕事上の、あるいは私的な友人でも、話が彼等の夫人や令嬢に及びはじめると、どうも私のひがみかもしれないが、彼等が思わず身構えるのが、ピンとくる。女房子供に宝石屋を近づけると、ろくなことがない。どうもあいつらは、わけの分

『怒りについて』や『生の短さについて』などを著した古代ローマの哲学者 セネカ は二つの顔を持っていたという。 ストア派 に属し簡素な生き方と節度、理性を求める哲学者の顔。もうひとつは皇帝 ネロ に仕えた政治家としての顔。著作の中で簡素な生き方を推奨しながら、一方で現実のセネカはローマでも一、二を争う資産家であり、植民地に高利で金を貸し、暴利を貪る金貸しでもあ

毎年数冊はチャーチル関連の本が発売されている。私自身、以前にもHONZでチャーチルを題材にした本を レビュー している。チャーチルという政治家には、やはりそれほど魅力があるのだろう。個人的なことを言えば、劣等生であった少年が大学教育も受けずに、政治家として大成し、第二次世界大戦で世界の趨勢を決定するほどの大きな仕事を成しとげたという点に、とてつもない魅力を感

2012年9月9日。晴れ渡ったロンドンの朝7時50分ごろ、スコットランド・ヤード(警視庁)に緊急電話が入る。ロンドン西部のモートレイクという街のポートマン通りに死体のようなものがあるという通報だった、電話してきたのは日曜日の朝に教会に向かっている男性で、血も見えるという。 5分後には警察が到着し遺体が確認され、周辺の聞き込みが始まる。電話があった直前、「ドン

紀元前から人類は図書館と共にあったが、それは場所が戦地にあってもかわらない。人はいかなる時であっても──というよりかは、過酷な状況にあってこそ書籍を求めるのかもしれない。 本書『戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)』は「第二次世界大戦時に、強いストレスに押しつぶされそうになっている兵士たちの心を癒やすため、海を渡って兵隊らに行き渡った書籍」についての歴史

著者は冒頭「序に代えて」で次のように述べる。「筆者は、(偉大なドイツ陸軍に係る)定説の否定、偶像破壊に走っている。読者は、そう感じられるかもしれない。しかしながら、筆者が述べることは、今年、2016年現在の常識、もしくは定説にすぎない。もし、それが衝撃を与えるとすれば、日本におけるドイツ軍事史理解の遅れがなさしめていることだとしか言いようがなかろう。そのよう

2015年1月、アメリカ国防省のとある職員が93歳で退任した。その男は40年に渡り、ネットアセスメント室(ONA)の長として歴代の国防長官に仕え、アメリカの安全保障政策に大きな影響を与え続けたという。一部ではペンタゴンのヨーダと呼ばれた アンドリュー・マーシャル こそ、本書の主人公である。この男がいなければ、今のような形でアメリカが冷戦に勝利することはなかっ

本書の冒頭で、80歳を超えた著者は、高らかにかつこの上なく明晰に述べる。「これまで女帝は中継ぎの存在にすぎない、あるいは巫女的な役割であったなどその存在を矮小化されてきた。しかし、それは古代社会を男性中心に考える歴史観の偏見にすぎないのではないだろうか。時系列に従って箇条書き的に事柄を並べる正史の底流を繋いでいくと、逆に、伝統に依存した男性支配の政治の停滞と

貨幣の歴史について語った本は数多い。 それだけに「新」といえるほどの新機軸を打ち出せるものかと思っていたのだが、本書は貨幣の定義を通常よりも拡張し 『そこで私は、お金は価値のシンボルだという定義にたどり着いた。』 としてみせることで、より広い視点、それも生物学、宗教、脳科学と一見貨幣とはあまり関係なさそうな分野まで内包し、様々な角度から光を当てた貨幣史を語る

常に裏舞台で働くことを好み、自己宣伝や世間からの注目を極端に嫌ったアンドリュー・マーシャルの名を知る者は少ない。しかし、「ペンタゴンのヨーダ」と呼ばれ40年以上にわたって政府高官としてアメリカの安全保障に貢献してきたこの男の明晰な頭脳から生み出せされた戦略からは、誰もが無縁ではいられない。マーシャルは、冷戦中のソ連がCIAの推計よりもずっと多くの軍事負担に苦

「戦争にまつわる物理学の本を書いている」著者がこう話すと、周りからは「物理学が戦争と何の関わりがあるんだい?」という言葉が返ってきたという。続けて「ああそうか、原子爆弾のことだね」と言われたという。『戦争の物理学』という本書のタイトルを読んで同じように思った方も多いだろう。もちろん、本書では原爆の事も論じられている。しかし、それだけではない。人を殺傷する際の


先コロンブス期のアメリカ大陸の常識を覆して(遅れた社会⇒ヨーロッパ以上の人口や洗練された大都市を持っていた文明社会)、全世界にセンセーションを巻き起こした『 1491 』の著者・マンが、再び世に問う問題作である。 前作がビフォーの高度なアメリカ文明を描いていたのに対し、『1493』はアフターの混乱する世界が描かれる。コロンブスのアメリカ到達(1492)によっ

都市は人を惹きつける。整備されたインフラがもたらす快適な生活、次々にもたらされる新たな出会い、世界に解き放たれる前の情報など、都市にはヒト・モノ・カネ・情報の全てが潤沢に存在しているのだから、都市への集中は当然の成り行きとも思える。事実、1950年に30%だった都市化人口率は現在50%にまで増加しおり、 国連の予測 では2050年には70%近くにまで及ぶとい

第1章「マッカ」では、愛妻ハディージャと穏やかに暮らしていたムハンマドに、610年の運命の夜、神の啓示が下りるまでが描かれる。ムハンマドとハディージャの相互の深い信頼と愛情が平明な言葉で綴られる。何と温かな思いやりに満ちたカップルだろう。ハディージャがいたからこそ、ムハンマドは怯むことなくアッラー(神)と対峙できたのである。 第2章「ジャーヒリーヤ」(無明時

タイトルの『1493』とは、コロンブスが新大陸から黄金の装身具やカラフルな鳥、先住民捕虜を携えてスペインへ帰国した年である。この年を境に、超大陸パンゲアが分裂してから2億年以上もの長きにわたって独自の生態系を育んだきた各大陸が、人類の手を介して再び出会うことになったのだ。コロンブス以前には、どのような生物にも大陸間を結びつけることは不可能であり、それぞれの大

ムハンマド、あまりに人間らしさにあふれているではないか。といえば、不謹慎になるのだろうか。抜群に面白い伝記であった。イスラームの開祖、より正しくは、アラブにおける唯一神アッラーの言葉をつたえた預言者ムハンマドの伝記である。その啓示は、クルアーン(コーラン)としてムハンマドの死後20年たって公式に編纂され、聖典となった。いかにたくさんの人が、クルアーンの朗読に

僕が歴史を好きになったのは、間違いなく中央公論社の「世界の歴史(旧版、16巻+別巻)」を読んだことがきっかけだった。世界最古の文明、シュメールから始まる悠久の物語に中学生の胸が高鳴ったことをよく覚えている。本書は、農産物こそ豊富だったが木材、石材、金属などの必要物資に欠けていたメソポタミアになぜ世界最古の文明が誕生したのか、その秘密を交易ネットワークから解き

人間と他の動物とを分けるものとは何か?この問いに対する最大の答えは「文字」ではないだろうか。文字を生み出したことにより、人は人という種がどの様な過去を築いて現代にいたっているかを知ることができる。本書は文字が発明された5000年前から現代までに焦点を絞り、その歴史を「人類5000年史」と定義して一気に読み進めようという冒険的な作品である。 なんといっても50

「文明を動かす究極のエネルギーとは何か?」 この問いへの答え方は、その人の考え方よりも置かれた状況に左右されるのかもしれない。 「文化」や「技術」という答えが場所を占めるようになったのは、何千年というスパンで見ればここ最近のことだろう。それらを謳歌できるのも、食うに困らなくなってからの話である。これまでも、そしてこれからも、文明を動かすエンジンは食べ物だ。