
近代合理主義を育んだイギリス人が、世襲の君主制を支持しつづけるのはなぜか? 『ふしぎなイギリス』著者インタビュー
知られざる大英帝国の姿を描いた『ふしぎなイギリス』。著者の笠原敏彦氏は、毎日新聞外信部で活躍した国際派ジャーナリストである。ロンドン特派員(1997~2002年)、欧州総局長(2009~2012年)を歴任し、イギリス王室や議会政治に関する数多くの記事を書いてきた。日本人にとって身近な国であるイギリスだが、笠原氏によると、その現実の姿は、日本で一般的に認識され
361記事

知られざる大英帝国の姿を描いた『ふしぎなイギリス』。著者の笠原敏彦氏は、毎日新聞外信部で活躍した国際派ジャーナリストである。ロンドン特派員(1997~2002年)、欧州総局長(2009~2012年)を歴任し、イギリス王室や議会政治に関する数多くの記事を書いてきた。日本人にとって身近な国であるイギリスだが、笠原氏によると、その現実の姿は、日本で一般的に認識され

イギリスの上流階級に生まれた二人の男にはいくつもの共通点があったという。抑圧的で、権威主義的で偏屈、そして変人である父を持ち、確執を抱えていた。幼少期は虐待に近い躾を行う、寄宿舎学校でスパルタ式の教育を受け、権威に反感を抱き、長じてはケンブリッジ大学で学ぶ。イギリス紳士らしく、人を結び付けも、隔てもする礼儀正しさを常に失わない。自信に満ちた立ち振る舞いは、い

出口 治明 ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくは こちら 。 *なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

18世紀、有色人種とりわけ黒人がその肌の色のみで差別され、奴隷として働かされていた時代に、ヨーロッパで一兵卒から将軍にまで上り詰めた有色人の男がいた。180センチを超える体躯(当時としてはかなり大きい)とハンサムな容貌の持ち主であったという。そして、その美しい肉体の中には常人では及ぶことの出来ない勇敢さと情熱を、また公正で高潔な精神を宿していた。男は自らを

1962年10月15日から10月28日は、史上もっとも人類滅亡の危機が高まった13日間だった。なにしろ、アメリカとソ連という超大国同士の全面核戦争が、ハリウッド映画のストーリーとしてではなく、現実的なオプションとして両国首脳に議論されていたのだ。アメリカ大統領ジョン・F・ケネディもソ連第一書記ニキータ・フルシチョフも、決して望んではいなかったはずの破滅的な結

僕は、本と旅の他にはさしたる趣味がない。初めて訪れた異国の町、特に下町をあてもなく歩き回るのが何よりも好きだ。そんな時、岐路にさしかかると、雑然とした方、怪しげな方に自然と足が向く。人間の都市とは何か、ジェイン・ジェイコブズの直観は正しかったのだ。20年ほど前、仕事で毎月のように北京に通ったことがあった。胡同と出会い、よく「胡同」歩きをしたものだ。本書は、そ


遥か昔の物語には、何故かロマンをそそられる。チョガ・ザンビールのジッグラトに登った時、また、殷墟の王墓を訪ねた時の、あの高揚感は今でも忘れることができない。本書は、甲骨文字の第一人者が、膨大な数の甲骨文字を読み解いて中国最古の王朝、殷(商)の実像を詳らかにしたものである。殷はBC16世紀から500年以上続いた王朝である。前期の200年は安定して領域を拡大した

If politics is the art of the possible, research is surely the art of the soluble. 政治を可能性追求のアートとするならば、 研究は間違いなく問題解決を追求するアートである。 免疫学でノーベル賞を受賞した ピーター・メダワー卿 の言葉だ。この本は、原子爆弾の開発において、この言葉

長らく営業の仕事をしていることもあって、売上や原価といった数字管理はお手のものなのだが、我が家の家計のこととなると話は別である。自分が月々いくら本代に使っているのか知らない。エンゲル係数も知らない。家計簿をつけようとも思わない。自分でもよくぞ、おめおめと生きているものだなと思うが、自らの欲望の痕跡を直視することが恐いのだ。 このままではヤバいことくらい、分か

第二次世界大戦が終わってから70年近くが経つにもかかわらず、いまだナチスというのは悪のレベルを推し量る一つの「ものさし」である。狂信的な集団による凄惨な事件の話を見聞きする度に、ナチスと比べてどちらが非道なのか、そして双方に共通するものは何なのかという問いが頭をよぎる。しかし語り尽くされたであろうナチスにも、まだまだ掘り起こされていない歴史が存在した。 19

切り裂きジャック という シリアルキラー が存在した。127年前のイギリスに。この殺人犯の呼び名は映画や文学作品といった大衆娯楽の中にたびたび登場する。世界的に最も有名な殺人犯と言っても過言ではないだろう。しかし、自らの記憶を手繰り寄せてみると、この殺人犯が127年前にどのような殺人事件を起こしたか、明確に説明できるような知識が何一つ無いことに気づく。私に限

失敗は絶対に許されない。1943年のノルウェーで行われたガンナーサイド作戦は、そういう作戦だった。だからこそ、クヌート・ハリケードは命に替えてもこの作戦を成功させると決意し、その口中に青酸カリ入りのカプセルを仕込んでいた。ハリケードはこの作戦の成否が世界の行末を左右すると信じていたのだ。 ノルウェーにあるヴェルモク水力発電所の破壊を目的としたガンナーサイド作

大航海時代(もっとも鄭和艦隊に比べれば小航海に過ぎない)が、実質的に始まった16世紀前半のヨーロッパには、個性豊かな君主たちがひしめきあっていた。ヘンリー8世、カール5世、フランソワ1世の三つ巴の争い、それにスレイマン大帝やマルティン・ルター、メディチ家のレオ10世が絡むのだ。役者を一瞥しただけでも面白くないわけがない。ところが、この豪華絢爛たる顔ぶれの中で

力作である。鎌倉幕府は蒙古襲来に全精力を使い果たしてやがて滅んだが、蒙古襲来の実相については、あまり語られることは無く、漠然と神風(台風)が吹いて蒙古の船が沈んだ(ほぼ全滅した)という常識が長い間罷り通ってきた。本書は、日本、朝鮮、中国の史料を丁寧に渉猟して、蒙古襲来の実像をできる限り正確に(合理的に)復原しようとする意欲的な試みである。そして、著者は「蒙古

歴史を知ることは面白い。自分たちが生きている世界、社会が持っているルーツを知る作業は、人に安心を与える。安心を得る作業であると同時に、驚きや教訓、閃きを得る手段でもある。そのことによって、現代の問題に対処しうることもある。歴史を知ることにはそんな有用性があるけれども、歴史を知れば知るほど、語られるそれらに対して、疑わしい何か眉唾めいたものを感じる。それは、歴

書影を見て、「ドクター・ハックって、あのハックか」と思わず手に取った。 著者は『満州国皇帝の秘録』『トレイシー−−日本兵捕虜秘密尋問所』そして『四月七日の桜−−戦艦「大和」と伊藤整一の最後』の中田整一氏だ。面白くないわけがない。 1914(大正3)年)11月、日英同盟により第一次世界大戦に連合国側として参戦した日本は、中国におけるドイツ租借地・青島でドイツ軍

後世の人間が歴史を見るとき忘れがちなことがある。それは自分たちが神の視点を持っているということだ。私たちが過去を眺めるとき、複数の点でしかない出来事が、やがて一本の線となり繋がっていくさまを、俯瞰的に眺める事ができる。私たちは往々にしてそのことに気づかないものだ。だが、考えてみれば、今を生きる私たちが、いま起きている政治的決断や紛争がどのような帰結を迎えるの

人間は、「パウロの回心」のように、何か画期的な出来事があって初めて次のステージへ進めるという思考に囚われ易い。「起業を目指したそもそものきっかけは何か」などの質問や「ヨーロッパでは、西ローマ帝国が滅びて暗黒の中世が始まり、輝かしいルネッサンスが起こって近代が始まる」といった思考がその典型だろう。 アナール派の重鎮である著者は、歴史を、不連続(断絶、画期)では

テロ、紛争、無差別殺人。世界は悲劇的なニュースで溢れている。人類は自らの手でその未来を閉ざしてしまうのではないか、と不安になる。ところが、著者スティーブン・ピンカーは大胆にもこう主張する。 長い歳月のあいだに人間の暴力は減少し、今日、私たちは人類が地上に出現して以来、最も平和な時代に暮らしているかもしれない にわかに信じがたいこの説を検証し、読者に確信させる

混迷を極める現代がどのような構図で成り立っているのか、それを知るために今ほど書店が役に立つ時はない。右にピケティ、左に「イスラム国」。市場のパワーが生み出した格差と、宗教の原理を背景にしたイスラム主義の台頭、しかもその綻びが露わになってきている様まで一目で理解出来るだろう。 この猛烈な勢いで世界を覆う「市場」と「宗教」という二つの力。その源流を遡っていくと、

幸田露伴の名は、近代日本の文壇に燦然と輝いています。名前だけなら聴いたことがあるという人もたくさんいるでしょう。でもその作品を読んだことがあるという人は案外すくないと思います。尾崎紅葉、坪内逍遥、森鴎外らとともに往年の人気作家たちの名を冠して「紅露逍鴎時代」 なんて呼ばれた時代があったほど露伴の小説は読まれていたのですが、今回はそんな文学史的な関心ではなく、

もし、あなたがタイムマシーンに乗って時間を旅する旅行者ならば、第二次世界終結目前の1945年5月5日、オーストリアのチロル地方にあるイッター城で奇妙な戦闘を目にすることが出来るだろう。この日、この時、こじんまりした城に籠る小さな混成部隊は、まるでフィクションの中の出来事にしか思えないメンバーで構成されていた。この城を陥落させるため、激しい攻撃を仕掛ける 武装

ある会社の経営者の講演を聞いていて、思い出したことがあった。歴史好きで大学で講座を持つほど深い知識を有することで知られるその人は「歴史的な出来事はすべて必然である」として、その大きな要因のひとつに気候変動や自然災害がある、と語った。日本民族の歴史の中で江戸時代の人間が一番小さかった理由も、モンゴル帝国の崩壊も自然を起点として考えると分かりやすいのだそうだ。

ジョニー・デップ扮する海賊ジャック・スパロウは世界中で大変な人気者である。僕も大好きだ。それは何故だろうか。本書を読めばその答が分かるというものだ。なるほど、そうだったのか。合点がいった。 海賊の黄金時代は1710年代・20年代だった。スペイン継承戦争(1702~13)の後、海賊が急増したのは、連合王国の王立海軍が約3万6千人の人員削減を行い、また私掠免許状

陰謀論というものは、虚妄でありまともに取り合うべきではない。普通はそう考えると思います。しかし、本書の著者で、平凡社の名物雑誌「太陽」の編集長でもあった海野弘氏は次のように書きます。「世界は謎である。世界は秘密と陰謀に満ちている。そのような世界を解読したい、はっきりと見たいと思う時」、陰謀論が必要となる、と。逆を言えば、陰謀論とは、世界をはっきりと見たい、解

1328年、フランスでは、341年続いたカペー朝が断絶し、261年続くヴァロワ朝が始まった。ところで、新王フィリップ6世は、カペー朝最後の王シャルル4世の従兄なのだ。それが、何故王朝交替と呼ばれるのか。本書は、そこから筆を起こして、ヴァロワ朝13人の王の事跡を順に紐解いていく。 幸運王フィリップ6世は、しかし、我こそ王位継承権者だと名乗るイングランド王エドワ

台湾南端の 鵝鑾鼻 (がらんび)岬からフィリピン領バタン(バシー)諸島との間にある海峡を バシー海峡 という。黒潮が流れるこの海峡は、かつて輸送船の墓場と呼ばれていた。太平洋戦争後半には、この海峡にアメリカ軍の潜水艦が多数配備されており、南方の戦線に送られる日本軍の輸送船団に忍び寄り、その牙をむいた。この海峡で10万人以上の日本人が犠牲になったという。このこ

中国文学の面白さを縦横無尽に語ってきた最高の語り部、井波律子が中国人物伝(全4巻)を出すという。その話を聞いただけで、これはもう読むしかないと観念した。第1巻は、春秋戦国時代から秦漢帝国まで、春秋五覇の斉の桓公から東漢の班超までを取り扱っている。 本書は2部構成をとる。第一部は「乱世の生きざま-春秋戦国時代」。まず呉越の戦い。何回読んでも臥薪嘗胆の物語は面白

マネーのない生活は想像すら難しい。電車に乗るためにも、ランチを食べるためにも、部屋に明かりを灯すためにも、マネーが重要な役割を果たしている。空気や水のように当たり前の存在だと思われるこのマネー、一体どのように生まれたのか。 マネーが生まれる前の社会から、マネーが発明される様子を想像してみよう。マネー以前の社会では、人々は自分が作ったモノと、自分が必要なモノを

もう35年ほど昔のことになるだろうか、アンリ・トロワイヤの「女帝エカテリーナ」を読んだのは。トロワイヤのペンの力に魅せられて、「大帝ピョートル」「アレクサンドル1世」「イヴァン雷帝」などロシア宮廷を題材にした一連の著作をむさぼり読んだことを懐かしく思い出す。そう言えば、池田理代子の「女帝エカテリーナ」もトロワイヤを下敷きにした作品だった。本書は、トロワイヤを

間野英二先生の「バーブル・ナーマの研究<3> 訳注」が、松香堂から出版されたのは1998年。初めて読み終えた時の感動は今でも忘れることができない。間違いなく人類が書き残した自伝の最高傑作だと確信したものである。松香堂本は絶版となって久しく、長らく復刊が待ち望まれていたが、ついに東洋文庫から改訂新版が出されることになった。なお、東洋文庫版は3巻に別れている。本

歴史をどう捉えるか。専門家の間でも長年にわたって議論されてきた話だが、私を含め、門外漢からするとどうしても個人の行動を中心に読み解きがちだ。 だが、考えてみれば至極当然だが、我々の生活を形作ったのは、遠い昔の誰かであるケースは非常に少ない。長期の気候変動が食文化や生き方を変えてきたのが人間の歴史である。短期的、局地的に見ても歴史の転換点となる戦争の趨勢に気候

18世紀、船の大型化と航海技術の進歩により、頻繁に寄港することなく航海が可能なになった。こうしたことにより猖獗を極めた病がある。「 壊血病 」だ。壊血病とはビタミンC(アスコルビン酸)の欠乏により起こる病だ。壊血病になると身体の結合組織の細胞が変性を起こし、歯茎の腫れと出血、歯がぐらつく、口臭、無気力、倦怠感、古い傷口が開く、接骨した骨が外れる、などの症状が

東京オリンピックの喧騒と興奮を覚えている。まだ幼稚園児だった私でも、オリンピックというものが始まるのをわくわくするほど楽しみにしていたし、新しい物好きの父が月賦でカラーテレビを買ってきて家族中が仰天した記憶は鮮明だ。 開会式のブルーインパルスが作った飛行機雲での五輪。聖火台までトラックを走る最終走者の姿。女子バレーボールの東洋の魔女。へ―シングに負けた柔道。

死後3000年以上が経過した今も、このファラオには大国の首脳を動かす力がある。自国へのツタンカーメン来訪をエジプト大統領サダトに依頼したのは、米国大統領のニクソンだった。この直訴の結果1976年から1979年にわたって全米を回ったツタンカーメン展覧会は、100万という途方もない人数を美術館に向かわせる。来場者にはそれまで一度も美術館に行ったことのない人も多く

17世紀の中葉、ネーデルランドのデルフトという街に生まれ、そこでほぼ一生を過ごして死んだフェルメールという風俗画家がいた。18世紀に入るとほとんど忘れ去られたものの、19世紀に再発見され現在では史上最も著名な画家の1人とされている。著者はフェルメールの名画を俎上に載せ、17世紀の世界、いやグローバリゼーションを活写しようと試みた。 20歳の夏、アムステルダム

映画『 シンドラーのリスト 』を見た人は覚えているだろう。 プワショフ の強制収容所でユダヤ人を無慈悲に殺す所長の姿を。彼はシンドラーの友人であり、またユダヤ人を庇おうとしていたシンドラーのライバルとしても描かれている。その男の名は、 アーモン・ゲート 。身長192センチ、体重120キロの巨漢の男はナチス親衛隊の中でも突出した残虐な男だ。 アーモン・ゲートは

キューバを賞賛し理想的な未来を託す人たちは高度で無料な医療や教育、英雄チェ・ゲバラやフィデル・カストロを語る。一方で、キューバに怪訝な印象を持ったり、近代化の遅れを叱責する人たちは、旧ソ連及び社会主義陣営解体後の悲惨な経済状況、サトウキビの生産に頼った産業、左翼の理想郷として語る。中立的なところでは、オリンピックでメダル常連の野球、大リーグにも選手を数多く排

「 四大文明 」という言葉、文明のとらえ方は日本独自のものだという。エジプト、メソポタミア、中国、インダスという旧大陸の大河流域に興った一次文明(何もないところから生まれた文明)をまとめて指すこの概念は、1952年に高校世界史の教科書に登場したことから普及し始めた。この奇妙で誤った「四大文明史観」では世界史を正しく理解することはできない、と本書は説く。なぜな