
『大戦略論』戦略論の新たなる古典
近年の中国の経済的・軍事的台頭、イギリスのEU離脱とアメリカの政治的混乱、そして貿易戦争 から始まった米中冷戦の時代を予感あるいは意識してか、この十年間に戦略書が、英語で書かれたものだけを見ても、続々と出版されている。その中でも出版国で評判が高く、日本で翻訳されたものが二冊ある。 一つはローレンス・フリードマン(2018)『戦略の世界史(上・下)』(日本経済
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近年の中国の経済的・軍事的台頭、イギリスのEU離脱とアメリカの政治的混乱、そして貿易戦争 から始まった米中冷戦の時代を予感あるいは意識してか、この十年間に戦略書が、英語で書かれたものだけを見ても、続々と出版されている。その中でも出版国で評判が高く、日本で翻訳されたものが二冊ある。 一つはローレンス・フリードマン(2018)『戦略の世界史(上・下)』(日本経済

こうして紙の本として再生されるのは、とてもありがたいことだ。いくらかうしろめたさを感じるのは、麻原彰晃ほか12名の死刑執行を見送ったあとでの刊行になってしまったからである。本書は彼らの死をもって、あらためて「誕生」したのだ。 なぜ日本人は麻原やオウムから目を背けてきたのだろうか。春の野原を散歩していて、見たこともない奇怪な生物が路傍にうずくまっているのに気づ

大阪を読み解くための最後のキーワードは、「馬」だと思う。生駒山の西側や淀川の岸辺には、渡来人が多く住み、牧を造り、馬を飼っていた。そんな大阪の馬飼いが、一度歴史的な大仕事をしたことがある。越(こし)の男大迹王(おおどのみこ)〔継体天皇〕を畿内に連れてきたのは大伴氏だが、渋る男大迹王を説得したのは、河内馬飼首荒籠(かわちのうまかいのおびとあらこ)だった。河内で

ポップとキャッチーはまったく別の感覚だと思う 中田ヤスタカはそう言った。Perfume やきゃりーぱみゅぱみゅをブレイクさせ、日本を代表する ヒットメーカーとして脚光を浴びる彼が、2013年、自身のユニットCAPSULE のアルバムリリースに際してウェブサイト「ナタリー」でのインタビューに応えて語った言葉だ。 二つの言葉は混同されることが多い。特に音楽の分野

わたしが作家・小松左京の名前を知ったのは、1964年のことである。 京都大学人文科学研究所(人文研)の助手として10年がすぎ、前年から1年間、アメリカのアイオワ州グリネル大学で交換教授として教え、帰国したばかりのころであった。アメリカ生活は3度目であったが、まるまる一年も日本を離れたのは初めてで、帰国したときには一種の精神の空白状態。それを埋めるべく、誰かれ

本書は、イギリスのシンクタンク「デモス」のディレクター、ジェイミー・バートレットの最新作The People Vs Tech: How the internet is killing democracy (and how we save it)を全訳したものである。原題を直訳すれば、『「国民」対「テクノロジー」:インターネットはどうやって民主主義の息の根をと

若い頃は駅の階段をスタスタ上がり、重い荷物も平気で持てていたのに、いつの間にやらエスカレーターを利用し、「よいしょっ!」と気合いを入れて荷物を持ち上げている自分がいる。そしてお気に入りだったジーンズのウエストが、もう合わなくなっている…… 筋肉から脂肪へーーこうして、男たちは我が身にも老化の波が押し寄せてきていることを実感するだろう。筋肉が落ち、胴回りが増す

本書『ホモ・デウス——テクノロジーとサピエンスの未来』は、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが『サピエンス全史――文明の構造と人類の幸福』に続いて、該博な知識とじつに多様な分野の知見を独創的に結集して著したHomo Deus: A Brief History of Tomorrowの全訳だ。ただし、前作同様、最初のヘブライ語版が刊行されてから著者が行

製薬企業と大学医学部などの医療機関がカネで癒着して、特定の薬の効果を証明する臨床試験のデータを改ざんあるいは捏造して、実際にはない効果を「ある」とする報告(論文)を公表し、企業は論文を利用して大々的に宣伝、医師はどんどん患者に投薬したら何が起こるのか。 それは、あまりにも明白だ。その薬を処方された患者は、効くと信じて医療費を支払い、薬を飲み続けているのに、症

本書はデイビッド・モントゴメリー著“Growing a Revolution”の全訳であり、『土の文明史』『土と内臓』(ともに築地書館)に続く三部作の完結編である。三作はいずれも、人間社会とそれを包括する文明と環境を、「土」という共通の切り口で解読したものだ。 一作目『土の文明史』では、世界の文明の盛衰と土壌の関係を。世界中のさまざまな時代と地域を検証した著

本書は1933年生まれ、2015年に亡くなった、神経内科医オリヴァー・サックスの最後の本 である。サックスはイギリス人であるが、ニューヨークで医師として多くの業績を挙げ、コロンビア 大学の教授も務めた。サックスの愛読者なら、すでに彼の著作をいくつか知っているであろう。その大部分は彼自身が診 み た患者に関するエピソード的な記録である。医学的、科学的であると同

明日は汽車の中で眠りたくない、と何度も思ったものだ。地図を見て、時刻表をめくりながら、旅を組み立てていく時間は、至福の時間である。この至福の時間があるからこそ旅に出たくなるのだ、とも思える。 実際に旅に出て列車に何十時間も揺られることもある。自分が計画したのだから、予期したとおりのことだ。しかし「至福の時間」には忘れていた倦怠感が身体を蝕み、心地よいはずのジ

いまから10数年前、私は東京・水道橋駅近くにあるライター・エディター養成学校の夜間コースで、年に何度か、講師の仕事をしていた。 ルポライターの大先輩にあたる鎌田慧さんからの依頼で、ノンフィクションの取材法と書き方をおしえていたのである。 ある年、非常に熱心な女性の受講生がいた。一見大学生かと思ったが、小さな貿易会社で働いており、ぜひ書きたいテーマがあるとの話


世界の自然保護は、大論争と新しい希望の時代に入った感がある。人の暮らしから隔絶された 「手つかず」の自然、人の撹乱を受けなかったはずの過去の自然、「外来種」を徹底的に排除した自然生態系、そんな自然にこそ価値ありとし、その回復を自明の指針としてきた伝統的な理解に、改定をせまる多様な論議・実践が登場している。 ここ10年ほど、その新時代を展望する出版が英語圏で目

ハチやアリの毒針は、そのライフスタイルを映し出す鏡らしい。ひとくちにハチ・アリ類と言っても、じつに多彩で、みな独特の生き方をしている。しかし、その毒針の機能は、見事なくらいその生存戦略にぴったり合っているのだ。毒針の痛さとライフスタイルの、切っても切れない関係について語ったのが本書である。 本書の著者は、虫刺されの痛みのスケール(尺度)を作った功績で2015

あれから34年――。グリコ・森永事件と聞くだけで、今もって重苦しい嫌な気分になる。様々な出来事、想い出とともに、結局は未解決に終わってしまったからだ。事件の真相も、「かい人21面相」も、闇に消えた。無念である。私は事件当時、読売新聞大阪本社で大阪府警捜査一課担当の記者だった。以来、持ち場や部署が変わろうと、どんな異動があろうと、完全時効が成立するまでの16年

私は、1年のうち少なくとも3ヶ月は、海外で恐竜化石調査を行っている。主な調査地は、モンゴル・アラスカ・カナダ・中国、そして日本である。2017年4月には、北海道むかわ町穂別から発見された日本で最初の大型恐竜の全身骨格について、発表をした。全長8メートルのハドロサウルス科という恐竜で、全身の8割以上が揃っている、世紀の大発見だ。私の研究は、それだけではない。恐



ヒトラーと、その右腕ゲッベルス宣伝相が作り出した大衆的熱狂の先には、戦争と破壊、そして未曾有の大量殺戮が待ち受けていた。偏狭な自民族中心主義と極端な反ユダヤ主義、人種差別主義(レイシズム)が第二次世界大戦と結びついて、ヨーロッパを「暗黒の大陸」へと変えたのだ。戦後、世界は解放された各地の強制収容所に累々と積み上げられた犠牲者の屍に絶句し、「二度と繰り返しては

ある日、玄関の呼び鈴が鳴り、ドアを開けると警官が立っている。 「警察はあなたを監視しているので、気をつけるように」 そう告げられるが、これまで犯罪をおかしたことなどない。だが、ビッグデータを活用した「犯罪予測システム」によって、要注意人物として指定されたという。ソーシャルネットワーク解析によって、知り合いに犯罪者のいたことが、その理由の一端らしい。 ・・・・

「スティーヴン・キングとスティーヴン・ホーキングを足して2で割ったような本」(「はじめに」より)とはよくいったものである。前者は有名なホラー作家。後者はいわずと知れた天才理論物理学者だ。そのふたりが合体するにふさわしく、本書のテーマはずばり「死に方の科学」。ここには45通りの死のシナリオが取りあげられている。今日にも起きそうな筋書きもあれば、今生では巡りあい

NHKにて、2000年から2005年にかけて放送されたドキュメンタリー番組「プロジェクトX~挑戦者たち~」をご記憶の方は多いだろう。さまざまな困難に立ち向かい、苦闘のうちにそれを克服して、ついに成功を収める「挑戦者たち」の姿を描いた同番組は、共感を呼んで多くの支持を集めた。 中でも人気を集めたのは、新幹線、胃カメラ、液晶ディスプレイといった、新製品開発の物語

著者の六車由実さんと初めて出会ったのは、三年前の二月に大津で開催されたアメニティフォーラム19のトークセッション「記憶の宝庫としての福祉現場」だった。 気鋭の民俗学者という前歴と、前著『驚きの介護民俗学』で提起された斬新な切り口から、お会いする前は、舌鋒鋭い才女という勝手なイメージを抱いていた。しかし、初対面の印象は全く違っていた。「すまいるほーむ」の実践に

本書によると、世界は「平等に不平等になりつつある」。途上国はこの30年で着実に豊かになり、絶対的貧困者数は1990年の19億人から2015年の約8億人に減り、貧困率も36%から現在は10%を下回る割合まで改善している。テクノロジーの発達により、インフラのない国でもさまざまな商取引が可能になり、インターネットのおかげで銀行口座を持たずにおカネをやりとりできるよ

正に「青天の霹靂」と、いうヤツである。 何故、人よりホンの一寸ばかし読書が好きなだけの、40過ぎの一介のスタイリストの元に、あの開高健ノンフィクション賞と、大宅壮一ノンフィクション賞の最終候補に残る様な、本格派ノンフィクションの文庫版解説という大役が回ってくるのだろうか。 しかも本書は、あるファッション・デザイナーの評伝でもなければ、映画や演劇の衣装について

本書『花殺し月の殺人──インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』は、2017年にダブルデイ社から刊行された、デイヴィッド・グランの最新ノンフィクション、Killers of the Flower Moon: The Osage Murders and the Birth of the FBI の翻訳である。 2017年4月18日の刊行以来、40週連続で《ニュ

本書『反ワクチン運動の真実』は『代替療法の光と影』に続き、地人書館から出版されるポール・オフィットの2冊目の著書となる。 ポール・オフィットは1951年生まれ、感染症、ワクチン、免疫学、ウイルス学を専門とする小児科医である。ロタワクチンの共同開発者の一人であり、米国屈指の名門小児科病院であるフィラデルフィア小児科病院で長らく感染症部長を務めた後、現在はペンシ

近ごろアメリカでは、自分の子にあえて小児ワクチンを接種させない母親が増えていて、麻疹が突発的に流行するような事態が生じている。そうした母親のおおよそのプロフィールは、白人で高学歴、社会経済的に恵まれた女性だ。1970年代後半に生まれたユーラ・ビスはまさにそのプロフィールにあてはまる。 ここからは私の想像だが、彼女は子を産むまでは主体的な人生を送ってきたことだ

女性業界において、下着のラインが「ひびく」ことは、大変に恥ずかしいとされています。その上下に肉がムリっとはみ出ることによってブラジャーの存在感がニットの上からでもありありとわかるのも恥ずかしいのですが、しかし「ひびく」ことが恥ずかしいのは、何といってもブラジャーよりもパンツの方。 尻を覆うたっぷりとした脂肪にパンツのゴムが食い込むことによってできるラインは、

本書は、Netflixオリジナル作品として大人気の「 オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 」の原作となった、作家パイパー・カーマンによる回顧録、『Orange Is the New Black: My Year in a Women's Prison』の邦訳版である。 上流家庭に生まれ育ったパイパーは、有名大学卒業後、当てもなくさ迷った先で出会う女性と恋に落ち

本書は、2017年9月にドイツのフィナンツブッフ・フェルラーク社から刊行されたPeter Thiel: Facebook, PayPal, Palantir – Wie Peter Thiel die Welt revolutioniert – Die Biografieの日本語訳である。 ピーター・ティールは、ドイツのフランクフルトで生まれ、1歳の時に家族

本書は2016年8月に発行された、The Cyber Effect: A Pioneering Cyberpsychologist Explains How Human Behavior Changes Online(サイバー効果:サイバー心理学のパイオニアによるオンライン上での人間行動の変化に関する解説)の抄訳である。 タイトルにある「サイバー効果」とは、

動物たちは人間の五感を超えた世界を生きている。 たとえば、私たちの目には美しく見える花々—— でも、花は人間に鑑賞してもらいたくて咲いているわけではない。虫などを誘惑して、花粉をつけてもらい、受粉を果たすために、咲き匂っているのだ。 花の紫外線写真を見れば、このことがよくわかる。人間の目で見るより、花粉や蜜のある中心部が大きく派手に目立っている。紫外線が見え

世界レベルで近年の流行語大賞を選ぶとすれば、「フェイクニュース」が有力候補に入るのはまちがいない。アメリカのドナルド・トランプ大統領は自らに不都合なニュースをことごとくフェイクニュースと称しているが、本来は虚偽の情報に基づいて作られたニュースを意味する。2016年のアメリカ大統領選挙の前には、「ローマ法王がトランプ候補への支持を表明した」「民主党のヒラリー

私が東京放送のアナウンサーになったのは1967年の春だった。 新人の頃、アナウンサーとして読むべき何冊かの本を教えられた。そのひとつが「徳川夢声さんの話し方の本」だった。 正に今回文庫化されたこの『話術』なのだ。先輩から読めと言われていたのに、50年間手にすることがなかった本が手元にやってきた。襟を正して読み始めることにした。 思い返してみると、ただ遊んでば

古代エジプト、あるいはピラミッドという語句に接して、胸をときめかせずにいられる日本人は、そう多くはあるまい。だが時間的にも空間的にも遠く隔たった魅惑的な異世界に、私たちは勝手な幻想——時に超古代文明から宇宙人まで登場する——を投影してもきた。確かに古代エジプト、そしてピラミッドに謎は存在する。この謎に営々と立ち向かってきた、考古学者たちによる研究の歩みを明ら

あの日、自分はどこで何をしていたのか。みんなが語ることができる。それぞれの国の国民には、そんな共通の大事件や大ニュースがあるものです。 かつてアメリカでは、それはジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件でした。その後、2001年9月11日の同時多発テロになりました。 いま日本で共通の記憶は、2011年3月11日でしょう。東日本大震災の発生のとき、どこにいて、何をし

自分も含め、音楽ジャーナリストやライターがよく用いる便利で安易な言葉の一つに「音楽シーン」という言葉がある。同時代のミュージシャンや作品の傾向だったり、音楽業界やマーケットの動向だったりを表す言葉。実際のところ、そのうちのどれを指しているのかが 曖昧な言葉で、そこを曖昧にしたまま論を先に進める際に用いられがちな言葉だ。 スティーヴン・ウィットが本書で明らかに