
『書に法あり』
20年ぐらい前になるだろうか。石川九楊の「書とはどういう芸術か」(中公新書)を初めて読んだ時、書道に対する物の見方が180度変わったことをよく覚えている。本書は、その時に勝るとも劣らない知的でかつ心地よい「衝撃」を与えてくれた痛快極まりないかつそれでいて骨太で本格的な書道論である。書に興味のある人には、必読だろう。 本書は、いくつかのユニークな特徴を持ってい
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20年ぐらい前になるだろうか。石川九楊の「書とはどういう芸術か」(中公新書)を初めて読んだ時、書道に対する物の見方が180度変わったことをよく覚えている。本書は、その時に勝るとも劣らない知的でかつ心地よい「衝撃」を与えてくれた痛快極まりないかつそれでいて骨太で本格的な書道論である。書に興味のある人には、必読だろう。 本書は、いくつかのユニークな特徴を持ってい

センサなどによる詳細な観測で得たビッグデータにより、人間は他者からどのような法則で、影響を受けるのかが明らかになっているという。それを可能にしたのが「社会物理学」という新しい分野。 かつて『データの見えざる手』で話題を呼び、著者のペントランド教授と共同研究をした経験も持つ矢野和夫さん(日立製作所研究開発グループ)に「社会物理学」について解説いただきました。(

今年の前半くらいのことだろうか、「世界の終わり」をテーマとしたノンフィクションが非常に目についた。人類は人工知能に負かされるというもの、絶滅期がすでに進行しているというもの、テクノロジーを扱う人間側の問題として滅亡を予測するもの。いずれにしても悲観的な論調が多かったことを記憶している。これは多くの人がテクノロジーに対して希望を抱かなくなったことの証左なのかも

光りあるところに影がある。まこと、栄光の陰に数知れぬ忍者の姿があった…(アニメ「サスケ」より) 最初は素手で殴り合っていた喧嘩が、やがて棒や剣のような武器を持ち、飛び道具を作りはじめ、すべての人を焼き殺すような兵器が作られるようになる。しかし、そんな「王道」の兵器の陰に、とっても残念な「超」兵器が開発されていたことを私たちは知らない。 それらは、今きけばバカ

次々と効果的な殺虫剤を開発し、農業化学分野では一目おかれる成果を出していた、とある30代後半の会社員。ある日、自宅でぼんやりテレビを見ながら酒を飲みつつ 考えていた。 自分が本当にやりたいことは、なんだったのだろうか ビジネスマンなら誰でも一度は思いなやむ悩みであろう。そしてこの日の悩み事が、その後、彼が所属する住友化学という大企業を突き動かしていくこととな

「あなたも悪魔になってしまう可能性がある。」と言われても、自分は大丈夫だ、と思う人がほとんどだろう。しかし、この本を読めば考えが変わるに違いない。いや、この本を読んで考えを変えたほうがいい。 1971年におこなわれた『 スタンフォード監獄実験 』の責任者フィリップ・ジンバルドーが、その全貌とその後の展開を著した本だ。きわめてシンプルな実験である。夏休みに大学

次のレビューどうしようか。そんなことを考えながら眠りについての翌朝、6時少し前に大きな地震で揺り起こされた。で、落ちてきたのがこの本。少し前に読もうと思って本棚の手前に出しておいたのだった。落ちてきたのはこの一冊だけ。そのまま二度寝もできず、ええいと読み始めたらあっという間に見知らぬガラスの世界へ……どの本を手に取るかは、いつもこんなところから始まる。 そも

ここに翻訳をお届けする『印刷という革命──ルネサンスの本と日常生活』は、西欧印刷史の泰斗アンドルー・ペティグリーが満を持して2010年に世に問うた、実にスリリングな初期近代メディア文化史の傑作である。 原著で400ページを超えるその浩瀚なヴォリュームと射程の広さ、扱うトピックの目くるめく多様性にもかかわらず、原題は『ルネサンスにおけ

「白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬき留めぬ 玉ぞ散りける」 葉の上に降りた白露に風が吹きすさぶ様子から平安時代の人は秋を感じていたようです。 詠んだのは文屋朝康で、白露を真珠に見立てるなんて風流ですよね。 素朴なものに価値を見出す日本文化ですが、真珠に関しては少し異なるようです。 安土桃山時代には 螺鈿 を用いて極めて豪華な南蛮漆器の作品を制作・輸出し

先日ふるまいよしこさんが、 「自分自身で中国を理解するすべを身につけたいなら読むべき」 として『ネオ・チャイナ』とともに紹介されていたのが、こちらの『中国グローバル化の深層』である。 中国研究の第一人者として知見を提供し続けてきたシャンボー教授は、なぜ中国を「未完の大国」と呼ぶのか? 国際ニュース編集者としても知られる、加藤祐子さんの翻訳者あとがきを掲載い

観光名所などで、記念撮影用に設置されている顔ハメ看板。誰しも一度は写真を撮って、後から自己嫌悪に陥った経験を持っているだろう。だがそれくらいでヘコんでいるようでは、まだまだアマい。 本書は、日本全国津々浦々の、顔ハメ看板にハマりまくった男の活動記録である。10年前から活動を始め、ハマった看板の総数は約2000枚。まさに穴があったらハマりたい男の、ハメ撮り画像

「どこか遠くの島にでも行きたい」。そんなことを今夏も考えていたが、行けぬままにすでに9月も半ば。そんな悶々とした気分をさらに悶々とさせてくれるのが本書だ。離島にまつわるエピソードを交えながら、写真が並ぶガイドブックなのだが、紹介する33の島々は実は行きたくても、行けない島々。定住者もいないし、定期船など交通機関も存在しない。近づくことすら難しい島もある。 「

「コンピューターの性能は18か月ごとに指数関数的に上昇する」。1965年にインテルの創業者の一人であるゴードン・ムーアが書いた論文の中にあったグラフは「ムーアの法則」として、今日までコンピュータ業界の指標となっている。そのインテルのインサイドストーリーを描いた『インテル 世界で最も重要な会社の産業史』が出版された。訳者で元日経ビジネス記者の土方奈美さんが、本

人と人が出会う。ある時、ある場所で、お互いに限られた人生の一部がなんの因果かたまさか交わる。折に触れて言葉を交わす。問い、問われ、考える。そんなことでもなければ思いもしなかったかもしれないことが脳裏に兆す。その出会いがなかったら、いまの自分はこのようではなかった。そう思われる出会いというものがある。 本書は、1980年代はじめに若き物理学徒だったレナード・ム

良くも悪くも、「ありえない」ことがたびたび起こるのが世の中だ。大多数の人はかすりもしない宝くじで、一等を複数回出した人は何人もいるという。統計モデルでは限りなく低確率とされていた金融市場の大暴落は、近年だけで何度も起きてしまった。 2009年9月6日、ブルガリアの国営ロトは当選番号としてランダムに「4、15、23、24、35、42」を選んだ。その4日後の20

僕たち人類は、約20万年前に東アフリカのサバンナで生まれた単一種(ホモ・サピエンス)が、世界中に拡がっていったものである。それと同様に、よく知られている4大文明も別々に生まれたのではなく、世界最古のメソポタミア文明が四方に拡がっていったものであるという説が唱えられている。 「ものごとの本質は祖型にこそよくあらわれる」、そうであれば、僕たちの文明がどこへ行くの

1945年8月28日、米潜水艦セグンドは、日本の降伏文書調印式典に、米海軍の潜水艦の代表として列席するため、日本本州から約1000マイル離れた洋上を航海中であった。そのときレーダーが何かを捉えた。レーダーのスクリーンに現れたブリップの大きさに乗員は目をみはる。これほどの大きさの物体ならば距離1万5000ヤード先からでもレーダーが確実にとらえるはずだ。しかし「

子供の頃、ガンダムのプラモを組み立てている際、モビルスーツとは別に飛行機であるコアファイターの部分が余っていたので、それと当時流行っていた「チョロQ」のゼンマイ機構を組み合わせていたことがある。勝手に「コアチョロQ!」と名づけ、それはウイングが格納しプルバック走行するオモチャで、我ながら本格的だと興奮していた。男の子には、変形や合体する機械を見るとテンション

『ネオ・チャイナ 富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望』は、現代中国の「今」を官と民のせめぎ合いという観点から描いたルポルタージュである。ジャーナリストのふるまいよしこさんは本書を「中国の今を知るための今年一番の良書」と評する。はたして著者のエヴァン・オズノス氏とは、どのような人物なのか? そして本書の読みどころはどのような点にあるのか? ふるまい

前作『驚きの介護民俗学』(医学書院)読んだ衝撃はとても大きかった。民俗学者である著者が、新たに選んだ仕事の場所は老人ホームだった。ルーティンの仕事に追われるある日、ふと聞いた昔話に民俗学の背景を見た。若いころの経験や仕事、恋愛、結婚のことを老人たちは嬉々として語ってくれたのだ。「傾聴」が大切と言われる老人介護だが、その方法は本当にあっているのだろうか。 そう

新コーナー「 今週のSOLD OUT 」が盛り上がっています。“ネット書店の隆盛で、町の書店が減っていく…”といったような暗い話題を吹き飛ばすような、この「Amazonになければ町の本屋さんへ!」という提案に、私はいたく感動しておりました。 その後、 いつしか「予告SOLD OUT」コーナー のようになってきていますが、ここでひとつその「SOLD OUT効果

対談本はこの世に数多く出ているが、質的にはピンからキリまで玉石混交なジャンルである。最悪のケースとしては、忙しくて文章を書いている暇もない人気の著者や著名人を組み合わせて、その場で即興の言葉を拝借する。お互いのことをよく知らないまま表層的な会話に終始し、それっぽいまとめがあって終わってしまい、読後には釈然としない気持ちが残ることになる。 いやなに全ての対談本

梨、栗、秋刀魚…秋の食べ物は美味しいものがたくさんですね。特にこの時期の旬の魚と言えば鰯。とても美味しいのにかつては卑しい魚とされ、身分の高い人は食べなかったんです。 それでも食べたい!と思って食べてしまったのが紫式部。隠れて食べていたのが見つかり、 女房詞 では鰯のことを「紫」「御紫」と言うそうです。(諸説あり) 非の打ち所の無い才女のイメージが強い紫式部

科博デビューはいつでしたか? 本書の取材中、当時国立科学博物館(通称、科博)の副館長だった著者の一人、折原守さん(2015年3月退館)にそう尋ねられた私は、一瞬答えに窮したのでした。おそらく子供の頃に来ているのだけど、思い出すのはお隣で見たパンダの記憶ばかり。勉強嫌いで、ともすればボーっとしてしまう子だった私には、動いたり鳴いたり臭ったりする動物園のほうが刺

サクラは、なぜ春になると花が咲くの?など、本書は、身近な7種の植物に潜む不思議について書かれた本だ。読み手は、その不思議の裏に潜む植物の知恵の深さに何度も驚かされる。そして読後には、道端の植物を敬意のまなざしで眺めるようになるに違いない。多少大げさな表現をお許しいただけるなら、読み手にとってその後の人生の景色を変える可能性を秘めた1冊なのである。本書は、ベス

心拍が停止し、呼吸が停止し、瞳孔が拡大・固定される。この3つの条件がそろった場合、人は死んだとみなされていた。しかし近年の蘇生科学の発達は、遺体がこれら3つの条件を示した数時間以内であれば、人間を蘇らせ、脳や記憶に障害を与えずに元の生活に戻すことを可能とするようになった。 本書では、幾度となく心停止の現場に際してきた臨床医師であり、ニューヨーク州立大学の医学

出口 治明 ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくは こちら 。 *なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

マクドナルドや和民など、早く・安く・多くの胃袋を満たしてきたチェーンレストランの不調がニュース紙面を飾っている。日本人の食はこれからどのように変化していくのか。日本の高度成長期を支えた郊外団地から人々が流出し、残った住民も高齢化が進んでいるという。人口減少局面を迎えた日本人は、今後どんな家に住むことになるのだろう。 食や住居だけではない。テレビや車など、戦後

フィットネスにしてもダイエットにしても、人間の身体にまつわる話について、正反対の二つの言説が並ぶことは意外に多い。たとえば炭水化物。ダイエットのためには取らない方が良いという意見があれば、取らないのは危険だと警鐘を鳴らす声も聞こえてくる。 このような状況がどうして起こるのか? それは、なぜそうすべきなのかという「Why」が足りていないからだと思う。 本書『ナ

HONZが送り出す期待の新メンバー登場! アーヤ藍は、ドキュメンタリーを中心に、社会問題をテーマとした映画の配給宣伝に携わっている人物。先日彼女が紹介した『それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜』をはじめ、 HONZで取り上げられる書籍とシンクロするようなテーマの映画 も数多く配給している。今後の彼女の活躍にどうぞご期待ください。(HON

「面白そう!だけど買えないっ!」でおなじみのこのコーナー。今週は、場が乱れに乱れまくっております。 先週、 声高らかに「予告SOLD OUT」を宣言した 『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(略してセカムロ)の運命は、いかに? そしてその後もハードボイルドな奥義が次々に飛び交い、まさに室町時代のような混沌へ。 それではさっそく、今週の人気記事の中からAma

今週は肌寒い日が続きましたね。夏の終わりは物悲しくなります。 季節との別れは一年の辛抱ですが、そうではないものもたくさんありますよね。 1962年開業のホテルオークラは「日本モダニズムの傑作」と評される本館を8月末に閉館、9月から建替え工事を開始します。本館ロビーは切子を玉型にした灯や麻の葉紋をあしらった格子など日本の美を取り入れ、和と洋が完璧に調和した空間

「南洋」という言葉を耳にして、日本の元占領地であることがパッと思い浮かぶ人はどれくらいいるのだろう。「南の島」といえば真っ先に浮かぶのは、透き通った海が広がる常夏のリゾートだろうか(まさに自分がそうだった)。しかし、かつて日本が日本語教育を行い、神社を作って参拝させるなど支配を敷いていたのは東アジアだけではないのだ。 グアムを除く赤道以北の地域で、正式に日本

社会 / HONZブックマーク
人気ノンフィクション作家・高野 秀行と歴史学者・清水 克行による、異色の対談集『世界の辺境とハードボイルド室町時代』。連載の最終回は「今生きている社会がすべてではない」ことについて。様々な国を知ることや歴史を学ぶことには、どのような意味があるのか?(HONZ編集部) ※過去の記事はこちら→ 第1回 、 第2回 、 第3回 、 第4回 、 第5回 清水 『謎の

先日、友人とカレーを食べに行った。和風の店構えに「インドカレー」の看板、だけどメニューにはパキスタンカレーと書かれている、たぶん、パキスタンカレーのお店だ。寿司屋を居抜きでそのまま使っているらしい。店内には小上がりもある。でもそんなことはどうでもいい。鮮烈なスパイス、油がたっぷり使ってあるはずなのに、後味は爽やかだ。うまい。35年生きてきたが、ジャパニーズ・

2011年3月以降、 絆やつながり が大切だと、耳にタコができるほど聞いてきた。煩わしいと思う人もいるし、いやそれこそ美しいと考える人もいる。どちらの気持ちも幾分か持つグレーな人が大半だと思うのだが、さて昔の人は「つながり」をどう考えていたのだろうか? Religio(レリギオ)はReligion(宗教)の語源になったラテン語であり、 「つながり」を意味する

地球以外のどこかに、生命の星は存在するのか? 本書はその謎に、地球惑星システム科学という観点からアプローチした一冊である。著者の阿部豊さんは、数えきれないほどの思考実験と分野横断的な分析を繰り返し、ある確信へと到達する。だがそんな彼を、突然病魔が襲う。 解説の阿部彩子さんは、共同研究者として、そして妻として阿部豊さんを支えてきた人物。彼女の目を見た本書の読

社会 / HONZブックマーク
人気ノンフィクション作家・高野 秀行と歴史学者・清水 克行による、異色の対談集『世界の辺境とハードボイルド室町時代』。第5回は「カオスでグズグズが室町時代の真実」について。室町時代を捉えるにはどのようなスタンスが求められるのか?(HONZ編集部)。 ※過去の記事はこちら→ 第1回 、 第2回 、 第3回 、 第4回 高野 網野善彦さんという研究者はどんな方だ

趣味でも仕事でもいい。 長く一つのことを継続的に行なっていると、そこで覚えた技術、感覚、発想などがよく似た別の分野や、あるいはまったく異なる場面でも「応用」できることに気がついたことがないだろうか。 自分の例を出せば、長年レビューを書いてきた経験が、本職であるWebプログラムの問題解決や、設計思想に影響を与え、逆にプログラムを学んだことがレビューで情報をどの

本書は「週刊朝日」2009年1月2・9日号から2010年4月16日号に連載されていた自伝的エッセイである。連載開始当初から「アイドルが赤裸々に思いを語る」と評判だった。当時どれどれと読んでみたら、あまりの面白さに驚いたのを覚えている。 バラエティ番組や情報番組などで何度か東山さんに会ったことはある。その印象はとにかくクール、パーフェクト、さわやか。立ち居振る