
『Mine! 私たちを支配する「所有」のルール』現代社会の所有概念とは?
「私のもの!」という感情が私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか。本書を読むと、何気なく過ごしていた日常が全く異なって見える。「座席のリクライニングはどこまで自由に倒せるのか?」「ディズニーランドでお金を支払って最前列でショーを観れるのは、平等なのか?」意識せずにはいられなくなる。 「所有を設計する」とは耳慣れない言葉であるが、社会には「所有」を生かした工
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「私のもの!」という感情が私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか。本書を読むと、何気なく過ごしていた日常が全く異なって見える。「座席のリクライニングはどこまで自由に倒せるのか?」「ディズニーランドでお金を支払って最前列でショーを観れるのは、平等なのか?」意識せずにはいられなくなる。 「所有を設計する」とは耳慣れない言葉であるが、社会には「所有」を生かした工

2024年3月5日、京都地裁はALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者に関する嘱託殺人及び別の殺人罪に問われた医師、大久保愉一被告に懲役18年(求刑懲役23年)を言い渡した。「生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」としながらも、現代の医学では治療不可能で身体的自由がきかない患者に対する嘱託による死の定義を示した。 それは、治療や検査を尽くし、他の医師の

ヘンリー・マーシュ先生。会ったことのない著者は呼び捨てにするのが習わしだろう。しかし、マーシュ先生の処女作を読んだときから、先生とつけて呼びたくなってしまっている。 医学部を卒業したが、医業を営まずに生命科学の基礎研究に従事していた。とはいえ、もちろん医師の友人も多い。医師同士は互いを「○○先生」と呼び合う。いささかおかしな習慣だと思うのだが、たとえ同級生同

近所に夜中まで開いている小さな本屋がある。開いているといっても、頑張って遅くまで営業しているという感じではない。店先に並べられた雑誌はかろうじて最新号だが、棚にある書籍は、すべて背表紙が日に焼けて色褪せている。そして店の奥では、本の山に寄りかかるように、おじいさんがひとり眠っているのである。 終電近い時間に前を通ることが多いが、老店主はいつも眠っている。客の

新学期が始まりました。考えてみたら昨年の4月はまだまだコロナ禍の中。4月特有の電車や会社の混み方を見て、コロナ前が戻ってきたことを感じています。この時期は対人関係やコミュニケーション、人の心の動きに関する本が手に取られる時期でもあります。そんな季節にぴったりな1冊が登場しています。 それが『夢を叶えるために脳はある』 『進化しすぎた脳』などで話題になった池谷

あれから10年です。 国民的人気番組だった『笑っていいとも!』が約32年間の歴史に幕を閉じた日から、きょう(2024年3月31日)で、ちょうど10年です。 社会学者として、これまでに多くのテレビ論、アイドル論をものしてきた太田省一さんの最新刊は、あの番組を、ただ懐かしむだけではありません。 タモリとはどんな存在なのか。新宿とはどんな街なのか。そして、テレビの

「やっぱり自分の考えが正しかったんや!」 思わずそう叫びたくなった。 多くはないが、大勢の意見と自分の考えが違っていることがある。気にしなければいいのだが、どうにもモヤモヤする。そのひとつが「イノベーションは加速化する」というやつだ。ウソとちゃうんか。どの程度のことからをイノベーションというのかは難しいけれど、そもそもイノベーションというものはそうそう出てく
![『[完訳版]第二次世界大戦 1』英国式「カントリー・ジェントルマン」人生! 書影](/assets/recovered-covers/dcd0ed7e88382cd508c74bad4473e9d665ec9d572ddbbcb3cd23eee78e08477b.jpg)
国家がひとりの勇敢な人間によって救われることがある。ウィンストン・チャーチル(1874-1965)は第二次世界大戦中に英国首相となり、連合国側を勝利に導いた。後に彼は長大な大戦回顧録を執筆しノーベル文学賞を受賞した。 チャーチルが戦時内閣の首相になってから、英国内はドイツ空軍の猛烈な爆撃にさらされた。ロンドン市内は連日のように空爆を受けたが、彼はラジオを通じ

新型コロナ感染症の五類移行からそろそろ1年になろうとしています。街中に多くの旅行者の姿を見るようになりましたが、ノンフィクションについても、人や事件の動きを追うルポルタージュや海外での取材や研究成果が増えてきた気がします。『バッタを倒すぜアフリカで』もそういった1冊。 前作『 バッタを倒しにアフリカへ 』は25万部突破のベストセラーとなり、新書大賞を受賞した

まいどお世話になっております、HONZレビュアーの仲野でございます。このたび、『仲野教授の この座右の銘が効く』という本を上梓いたしました。その経緯を、本の中ほどにコラム「この本ができるまで」として書きました。発刊プロモーションとして、ここに掲載いたしまする。いや、ホンマにおもろうて役に立つ本ですから、みなさんよろしく! ******************

一見関係のないものを掛け合わせると、思いもよらない新しいものが生まれることがある。本書は「中国現代史」と「トヨタ創業家の歴史」を組み合わせることで、これまでにない角度からトヨタの核心部分を描くことに成功している。 異質なものを掛け合わせるには触媒が必要だが、本書では、ひとりの男性がその役割を務める。男の名は、服部悦雄。”低迷していたトヨタの中国市場を大転換さ

かつての米国科学界における女性に対する偏見と差別がここまですごかったのか。いまさら驚くとはお前の認識不足だろうと言われるかもしれないが、にわかに信じられないような内容が次々と語られる。世代が少し違うからかもしれないし、米国と日本の違いもあるかもしれない。ともあれ、そのような状況からジェンダー公正を勝ち取るべく闘った女性研究者、リタ・コルウェルの記録である。

新聞や放送局といった組織に属する記者と、フリーランスのジャーナリストの立場は全く違っている。大手メディアを背中に負う取材陣は恵まれた立場にいることをもっと自覚すべきだろう。 思いもかけない不幸に見舞われた人たちが、取材に来たと言われてはじめて会う人を信用する担保は、出された名刺の○〇新聞、××テレビという肩書しかない。どんなに著名で優秀な書き手でも、どこの誰

アメリカのミシガン湖とデス・プレインズ川をつなぐシカゴ・サリタニー・シップ運河。およそ45kmにわたるその川の一画に、不穏な看板が掲げられている。「危険」、「この先、魚用の電気バリアあり。感電の危険大」。しかし、それほど危険な電気バリアがなぜ川に仕掛けられているのだろうか。 その理由は、わたしたちと自然の複雑な関係を象徴している。サリタニー・シップ運河がまだ

社会学者、と聞いて、誰をイメージするでしょうか? 古市憲寿さん、岸政彦さん、宮台真司さん・・・。 世代などによって、かなり異なるかもしれません。 今回、わたしが書いた加藤秀俊先生は、どうでしょう(個人的に教えを受けたので「先生」と呼びます)。 この本を校正していた昨年9月に93歳で亡くなりました。最晩年には『九十歳のラブレター』が広く読まれていたので、そのお

前作『モサド・ファイル』でイスラエル建国以来、同国の「諜報機関モサド」が行ってきた秘密作戦の全貌を明らかにしたマイケル・バー=ゾウハーとニシム・ミシャルのコンビの新刊だ。今回はモサドの諜報員として活躍した女性工作員に焦点を当ててモサドの歴史を浮き彫りにしている。女性工作員というと色仕掛けによる「ハニートラップ」をすぐにイメージされる方も多いと思うが、モサドで

冬はどこに行っちゃったの!と言いたくなるような暖かい日が続く2月でした。新学期に向けて、いろいろなジャンルで動きが激しくなってきています。特に投資をめぐる動きは非常に大きく、バブル超えの日経平均や新NISAへの流入などが連日ニュースとして報じられています。とすると気になってくるのが株式市場を支える側の人たちの姿。ということで、今回最初に注目したのが金融ノンフ

熱量の高い一冊だ。読みながらなんども胸が熱くなった。だがこの熱は、著者が抱く強い危機感から発せられたものでもある。 著者は大阪市の中小企業支援拠点「大阪産業創造館」に創業メンバーとして参画しつつ、ビジネス情報誌「Bplatz」初代編集長として多くの経営者を取材してきた経歴を持つ。なぜ、資源もない島国の日本が経済大国になれたのか。この事実がかねてより著者には謎

う~ん、あかんがな。読み始めてすぐにそう思った。エッセイとは本来こういうものを言うのだろう。う~ん。なにがあかんか、まずはその話から。 最相葉月さんといえば、押しも押されもせぬノンフィクションライターだ。『絶対音感』を読んだ時の衝撃-テーマへの迫り方の凄さ-は今でもよく覚えている。それだけではなく、エッセイの名手でもある。 ずいぶんと前になるが、「我が心の町

いま日本で「地学」がブームになっている。日本列島の地質は世界的に見てもユニークなものが多い。プレート境界で火山が集中し地震も活発な島々には、多様な要因による珍しい地形が集まっている。 本書は全国各地に点在している美しい地質景観/ジオサイトを、47都道府県別に紹介した地学解説書である。加えて関心の高い地震・火山についても理解できる要素を数多く盛り込んだ。 地質

ビル・ゲイツは毎年、自身のブログ「Gates Notes」で、夏や冬の休暇時期に読む本数冊をオススメしてくれています。これからの世界を読み解くための本、今の世の中を考える本が多く紹介されており、ノンフィクション読みとしては必読のコーナーになっています。ただ、紹介された本を邦訳で読めるまでには時間がかかりがちなのですが、今年は大変ラッキーなことに紹介された3点

2022年2月24日、ロシア連邦がウクライナへ軍事侵攻を開始した。ロシアは東側諸国の多くを敵にまわし、カレンダーなどでマッチョな姿を披露していたプーチン大統領は、今では悪の首領のようにとらえられている。インターネットが発達した今、ロシアの中にも反体制派がいることを多くの人は知っているが、戦争が始まり1年が経っても和平への道は見えてこない。 東西冷戦時代、日本

芥川賞・直木賞が決定し、本屋大賞のノミネート作品も発表。1月は小説の売れ行きがよい1ヶ月となりました。また、新NISAのスタートも相まってか、お金や投資に関する本がよく動いているようです。ではノンフィクションではどんな本が登場しているのでしょうか。 大きな話題となったのが、映画化の原案としても話題の『オッペンハイマー』でしょう。米国で公開された映画の日本公開

プロ野球がキャンプインし、いよいよ開幕がみえてきた。そんな心躍るタイミングで、抜群に面白いスポーツノンフィクションが出版された。 昨年のプロ野球は、阪神タイガースの38年ぶりの日本一で盛り上がった。優勝を意味する隠語である岡田彰布監督の「アレ」は、「A.R.E.」というチームスローガンになり、年末の新語・流行語大賞にも選ばれた。大阪の街は虎一色に染まり、優勝

12年前『驚きの介護民俗学』(医学書院)という本を書店で見つけた。著者の六車由実さんは『神、人を喰う』でサントリー学芸賞を受賞した民俗学者ではないか。なぜ介護の世界に身を置くことになったのか。 その経緯は『驚きの介護民俗学』に詳しく書かれているが、介護の現場に民俗学の手法である「聞き書き」を取り入れた六車さんは、高齢者との間に強固な信頼関係を築きあげた。現在

警視庁を担当する記者からの一報に驚いた。 「『東アジア反日武装戦線』のメンバー身柄確保との情報」 1974年から75年にかけて起きた連続企業爆破事件に関わった東アジア反日武装戦線のメンバーで重要指名手配犯の桐島聡(70)とみられる男が、警視庁に身柄を確保された。男は末期がんで、別の名前で鎌倉の病院に入院していたが、「桐島聡です」と名乗り出たという。本人と確認

「これほど読む前から面白いに決まっている本はそうそうないはずだ」 米国の腫瘍内科医であるシッダールタ・ムカジーによるピュリッツァー賞受賞作『病の皇帝「がん」に挑む─人類4000年の苦闘』が『がん─4000年の歴史─』として文庫化された時、次作『遺伝子─親密なる人類史─』への期待をこめて解説の最後に書いた文である。この本の原著 『The Song of the

『昆虫絶滅』、なんとも刺激的なタイトルだ。まずはプロローグで、「昆虫のいない世界」がいかなるディストピアであるかが描かれる。 昆虫がいなくなった世界といえば、およそ半世紀前に出版されたレイチェル・カーソンの古典的名著『沈黙の春』を思い浮かべる人もおられるだろう。殺虫剤や農薬―当時の主流はDDTである―の使用により昆虫がいなくなってしまう。その結果、食物連鎖の

2024年のはじまりは大きな悲劇で幕を開けることになりました。見たことのない規模の海岸隆起、航空機事故。これらは近いうちに様々な分析本が出てくることになるのではないでしょうか。こういうときに、ノンフィクションの役割を感じさせられます。 今年紹介する1冊目はこちら。 トヨタに関する本はノンフィクション、フィクションとも数多く出版されていますが、ここに大きな話題

みなさんは、仁科芳雄という人物をご存知だろうか? 物理学をある程度学んだ者なら必ず知っているし、物理学でなくても、理系の研究者なら、ほぼ間違いなく知っているだろう。わたしも一応は知っていた。「仁科記念賞」という、原子物理学とその応用に関する栄誉ある賞があるし、教科書には「クライン=仁科の式」というものが載っている。仁科は理研(理化学研究所)の人であることや、

未来をあれこれ空想する際、話は断然デカい方が良い。評者の周囲にも投資家はたくさんいるが、彼らはいったいいくら投資するのだろう? 1億円、10億円、100億円? しかし100兆円投資できる資産家は、世界に幾人もいないのではないか。 そこで大金が入る前にちょっと考えておこう。いま手元に100兆円あったら、何に使ったらよいだろう?(How to Spend a T

2023年の有馬記念を制したのは前年の日本ダービー馬 「ドゥデュース」 だった。騎乗の武豊に「千両役者ここにあり」とアナウンサーが叫ぶほど見事なレース運びだった。 このような中央競馬会の重賞レースに出走できる馬はごく一部だ。 競馬業界では毎年約7000頭のサラブレッドが生産され、一方では約6000頭が引退する。ではその引退馬はどこへ行ってしまうのか。 この話

全集は月報が面白い。月報とは、全集の各巻が刊行されるごとに差しはさまれる小冊子のこと。ようするに附録である。著者ゆかりの人物がエッセイでとっておきのエピソードを明かしていたり、著者の素顔について語られた座談会があったり、附録とはいえ内容は充実している。文学研究者のあいだでも、月報は作家の人となりを知ることができる貴重な資料とされる。 講談社文芸文庫 には月報

2024年のスタートは、大きな災害、事件とともに幕開けすることになってしまいました。いつもであれば、年のはじまりとその年の幸せを祈る穏やかな日になるはずが、恐怖と悲しみが続く日々に変わってしまいました。 こういった危機の時には改めて「人を助ける仕事をしている人」が様々なところにいらっしゃる事に気づかされます。今回紹介する1冊は、山岳救助、しかも難易度が高く最