
『代替医療の光と闇』繰り返される悲劇に巻き込まれないために
電車の中吊り、雑誌や新聞の紙面、テレビCM、Web、一日の生活でサプリメントの広告を目にしないことのほうが難しい。それもそのはず、市場規模は世界で1000億ドル(国内の2014年度コンビニ市場が約10兆円)を越え、2020年には2000億ドルに近づくと予測されている。れっきとした成長産業だ。 いったいサプリ産業はどのような手立てをつかって、現在の地位を築いて
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電車の中吊り、雑誌や新聞の紙面、テレビCM、Web、一日の生活でサプリメントの広告を目にしないことのほうが難しい。それもそのはず、市場規模は世界で1000億ドル(国内の2014年度コンビニ市場が約10兆円)を越え、2020年には2000億ドルに近づくと予測されている。れっきとした成長産業だ。 いったいサプリ産業はどのような手立てをつかって、現在の地位を築いて

多くの人間は一日に6〜8時間ほどの睡眠をとる。そうなると、ごくごく単純に計算して人生の4分の1から3分の1を睡眠に費やしていることになる。それなのに睡眠のことはあまり意識されない。あって当たり前、時にはちょっとぐらいすっとばしても構わないものだと思われている。 しかし、かつて安眠が今ほど保証されていない時代のことを考えれば、6〜8時間も睡眠をとるのはとてつも

『その科学が成功を決める』、『その科学があなたを変える』などの著作で知られるリチャード・ワイズマン博士の新作である。幸運、自己啓発、錯覚、説得など心理学に関する研究を続けてきた博士が今回選んだテーマは「睡眠」。なぜ急に睡眠? と思われたかもしれないが、理由は後ほど。 ワイズマン博士の著作は、豊富な実証的研究が盛り込まれているのが特徴だ。本書でも、睡眠メカニズ

心をつかさどっているのは心臓であると、かつては広く信じられていた。心臓はドクドクと拍動する特別な臓器であるうえに、気持ちが高ぶれば鼓動が速まりもするから、そう考えるのはごく自然なことだったろう。エジプトでミイラを作る際にも、心臓は大切に取り出され、別個にミイラ化されたのに対し、脳は、耳や眼窩、あるいは頭蓋にあけた小さな穴から搔き出され、捨てられていたようだ。

信頼の裏切りがニュースにならない日はほとんどない―最近では、フォルクスワーゲンが排ガス規制を逃れるために不正なソフトウェアを搭載していたことが発覚し、ドイツ自動車業界の信頼性が揺らぐ事態となった。そうしたことがニュースになるのは、信頼の裏切りが社会に重大な影響を与えるからだが、逆に言えば、人間社会は信頼の上に成り立っていると言ってもよく、信頼はあらゆる人間関

本書『大村智――2億人を病魔から守った化学者』は、2012年2月に刊行された。今回、北里大学特別栄誉教授の大村氏が2015年のノーベル医学生理学賞を受賞したことで改めて注目され、現在、万単位の重版が続いている。とはいえ本書は、受賞報道以前にも3刷まで進んでおり、学術書単行本ではスマッシュヒットとなっていた。この HONZレビューでの紹介 が後押しの一つになっ

大村智先生、ノーベル医学生理学賞ご受賞、まことにおめでとうございます! この本、3年前の出版当時、HONZデビューでとりあげた思い出の本だ。全面改訂にしようかと思って、本をもう一度読んでみたのだけれど、書き加えるとすると、すでに受賞報道で聞いたようなことになりそうだ。それならば、初読の時の驚きを伝えたほうがよかろう。ということで、メインの本文にあまり手を入れ

自動車の追突事故。幸いなことに外傷はなく、CTスキャンなどの検査でも異常は認められなかった。しかし、さまざまな神経障害で生活に大きな支障をきたす外傷性能損傷(脳震盪症)患者となった著者・クラーク・エリオットは人工知能を専門とする大学教授。ほんとうにそんなことがあるのかと思えるほどに複雑な症状だ。つらかっただろうに、よく自らの症状をこれだけ克明に記録したものだ

『 フィラデルフィア染色体 』と聞いても、医学関係者以外は何のことかわからないだろう。血液細胞の「がん」のひとつである 慢性骨髄性白血病 (CML)において認められる異常な染色体の名前である。その染色体の発見から、CMLに対する夢の特効薬がどのようにして開発されたかを丁寧に描いたのがこの本だ。 1959年、フィラデルフィアのがん研究者と「染色体おたく」が共同

日本では馴染みがないが、神経犯罪学=neurocriminologyという分野がある。犯罪の原因には社会環境的な要因だけでなく、生物学的要因が密接に関わっているのではないかという見地から、遺伝的要因、胎児期・周産期の影響、外傷を含む後天的脳障害、自律神経系の異常、栄養不良や金属などの脳への影響などを研究する学問だ。 一般に凶悪な犯罪が起こった場合、虐待などを

食べすぎと運動不足は身体によくない、とは、つとに知られるところであり、いまさら誰かに言われなくてもわかってるよ、とみなさんも思っているかもしれないが、その一方で、そんな身体に悪いことをついしてしまい、しかもやめられないのはどうしてなのだろう、とつねづね悩んでいる人もきっと少なくないに違いない。 身体によくないことを自然にしてしまう、というの

「あなたも悪魔になってしまう可能性がある。」と言われても、自分は大丈夫だ、と思う人がほとんどだろう。しかし、この本を読めば考えが変わるに違いない。いや、この本を読んで考えを変えたほうがいい。 1971年におこなわれた『 スタンフォード監獄実験 』の責任者フィリップ・ジンバルドーが、その全貌とその後の展開を著した本だ。きわめてシンプルな実験である。夏休みに大学

良くも悪くも、「ありえない」ことがたびたび起こるのが世の中だ。大多数の人はかすりもしない宝くじで、一等を複数回出した人は何人もいるという。統計モデルでは限りなく低確率とされていた金融市場の大暴落は、近年だけで何度も起きてしまった。 2009年9月6日、ブルガリアの国営ロトは当選番号としてランダムに「4、15、23、24、35、42」を選んだ。その4日後の20

心拍が停止し、呼吸が停止し、瞳孔が拡大・固定される。この3つの条件がそろった場合、人は死んだとみなされていた。しかし近年の蘇生科学の発達は、遺体がこれら3つの条件を示した数時間以内であれば、人間を蘇らせ、脳や記憶に障害を与えずに元の生活に戻すことを可能とするようになった。 本書では、幾度となく心停止の現場に際してきた臨床医師であり、ニューヨーク州立大学の医学

子宮頸がんワクチンは、2010年11月26日に成立した「ワクチン接種緊急促進特例交付金」により「公費負担」となり、ほとんどの自治体で接種は無料となった。対象は小学6年生から高校1年生の女子のみ。この年齢が選ばれたのは、性交渉の経験のある人は効果が期待できないからである。製薬会社の説明文書に明記されているのだが、接種した医療機関でその説明はなく、そのため多くの

近年の医学の進歩は、人類に多くの幸福をもたらした。1850年のアメリカでは4人に1人の赤ん坊が1歳の誕生日を迎えることができなかったが、今日のアメリカでは1歳前に死亡する赤ん坊は1000人のうち6人に過ぎないという。出産で死亡する女性も激減し、寝たきりにならざるを得なかった老人は人工関節でスポーツを楽しむことすらできるようになった。先進国で伸び続けた寿命だけ

今週日曜日に行われた、 HONZイベント@d-labo二子玉川 。終了間際の質問コーナーにて、観客席にいた一人の眼光鋭い男性から『不健康は悪なのか』という本を紹介された。その男性の口からは、次々に知る人ぞ知る名著の名前が飛び出し、HONZメンバーもたじたじに。聞けば、 スゴ本ブログ でおなじみのdainさんであるという。イベント終了後すかさず交渉に入り、レビ

この本、一度は書店でやりすごした。タイトルも装丁も地味。目次を見たら、脈絡のないトピックスが、年代順に並べてある。ぱらぱらっとめくったが、なんとなく読みにくそうな気がしたので、パス。 しかし、次に書店に行ったとき、また、この本が呼ぶのである。一度捨てた本に呼びかけられることはめったにない。そこまで迫ってくるのならと、ちょと目を通したら、むちゃくちゃおもろい。

著者ジェームズ・R・フリンは1980年代に発表した論文で、アメリカをはじめとする工業国で、時代とともにIQ(Intelligence Quotient)が上がり続けていることを確かな証拠で示した。人類が過去100年にわたって賢くなり続けているという研究結果は大きな反響を呼び、このIQ上昇は著者の名前から“ フリン効果 ”と呼ばれるている。 フリン効果は、更な

保育園くらいの子どもが、1個のマシュマロと2個のマシュマロがそれぞれ置かれたテーブルに着く。脇の卓上ベルを鳴らして研究者を呼び出せば、すぐに1個のマシュマロを食べられる。しかし、席に着いて研究者が戻るまで待つことができれば、2個のマシュマロにありつける。 今すぐに報酬を得る方を選ぶか、少し我慢してより多くの報酬を得る方を選ぶか。欲求の先延ばしに関する有名な実

2005年8月末、巨大ハリケーンのカトリーナがアメリカ南東部を襲い、1800名以上の命が失われた。中でも被害の大きかったルイジアナ州最大の都市ニューオーリンズは、堤防の決壊により市中の8割が水没する壊滅的打撃を受け、死者の大半を出している。 そのニューオーリンズにあるメモリアル病院で、安楽死の疑いがある患者の大量死が発覚し、医師と看護師3人が殺人罪で逮捕され

学会の書籍売り場で愕然とした。私としたことが完全に見落としていた。HONZの医学担当(そんなのないけど)として失格である。こんなおもろい本があったんや。それも、昨年11月発売以来、3ヶ月で三刷りと、専門書にしては爆発的な売れ行きだ。 発刊から半年なので、HONZで紹介するには時間がたちすぎているしなぁ、と思ってふと横を見ると、『前作「本当にあった医学論文」大

ずばりタイトルの通り、本書は視覚障害者が世界をどのように認識しているのかについて迫っていく本だ。目が見えない人とその関係者数名に対して行ったインタビュー、ともに行ったワークショップ、日々の何気ないおしゃべりなどを通して、晴眼者である著者が彼らをとりまく「見えない世界」について考えていく。 盲人の生活について書かれた本はこれまでにも色々出ている。パッと見それほ

最新作『鹿の王』で 「2015年本屋大賞」を受賞された 、上橋 菜穂子さん。西洋医学と東洋医学の背景にある世界観の違いを描き出した筆致は「医療サスペンス」のようとも言われ、「日本医療小説大賞」なども受賞されている。そんな上橋さんをして「最近、最も夢中になって読んだノンフィクション」と言わしめたのが、『漢方水先案内――医学の東へ』である。彼女は本書をどのように

地球上で最も危険な生物は? サメ?ヘビ?それとも人間? 2014年4月末にビル・ゲイツが 自身のブログ で投げかけたこの質問が大きな話題を呼び、多くの ニュースサイトでも報じられた のは、その答えがあまりにも意外だったからだろう。危険の尺度を「1年間に何人の人間が殺されているか」とすれば、最も危険な生物はサメでもヘビでも人間でもなく、蚊なのだという。ある推計


「青木薫のサイエンス通信」番外編の更新です。今回取り上げたのは、 仲野徹とのクロスレビュー になる『完治 - HIVに勝利した二人のベルリン患者の物語』。なぜHIVを克服するのが難しいのか?そこを深く理解することで、患者を「完治」へと導いた主治医の「着眼」が見えてきます。 (※本稿は、青木さんご自身のFacebookに書かれていた感想を、そのまま掲載させてい

私たちの価値観はマクロな世論や制度設計、人々の具体的な実践や意識から影響を受け、知ってか知らずでか変化している。ひときわ新しい技術の導入は、私たちの価値観に不可逆な影響を与える。2つの異なる身体間での臓器の取引を可能にした臓器移植医療もその一つである。 著者は臓器移植医療における一番の当事者であるドナーとその家族、レシピエントから生の声を得ると同時に、歴史、

医学の歴史は、数多くの物語で彩られている。この本は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染を「完治」した二人の『ベルリン患者』に始まる物語だ。偶然にもたらされたといっていいような伝説的な「完治」をヒントに、新しい治療法の開発がおこなわれた。そしてその結末は… HIV感染症といってもピンとこない人が多いかもしれない。HIVとはAIDS(後天性免疫不全症候群)の原因

HONZが送り出す期待の新メンバー・冬木 糸一。若干26歳にして恐るべき読書量を誇り、彼の個人ブログ「 基本読書 」では注目のノンフィクションが続々と、HONZに先んじる形で取り上げられていった。こんな危険な輩を外で野放しにしておくわけにもいかないので秘密裏に交渉し、メンバー入りへと至った次第。今後の彼の活躍に、どうぞご期待ください!(HONZ編集部) 日本

「ミイラ取りがミイラになる」という言葉が存在するくらいだから、ガンの名医がガンに罹ることだって、警察官が犯罪者になることだって、決して珍しくはないだろう。しかし本書に登場する著者のケースは、冒頭から絶句する。 ある日、神経科学者である著者は、大量の脳スキャン画像をチェックしていた。やがて、その中の一枚にひどく奇妙なものが交じっていることに気が付く。彼の手にし

山本朋史は朝日新聞記者として39年のキャリアを持つベテランだ。さまざまな部署を経験したが、事件取材が圧倒的に多かった。特ダネを抜いたり抜かれたりしたりしつつ、現場に拘って過ごしてきた。60歳で定年を迎え後も1年ごとの契約更新で記者の仕事を続けていた。 そんな山本が脳の異常を感じたのは61歳を過ぎた頃であった。記憶力には自信があったのに、少し前に聞いた人の名前

自慢じゃないが、幸福の国ブータンについての本には造詣が深い。文献派なので、 2010 年の春にブータン旅行した前後に、手当たり次第にブータン本を読んだ。そのころは、まだそれほどのブータン本が出ていなかったので、手に入る本はほとんど読んだ。今は復刊されているが、当時は絶版であった、ブータン本の古典、中尾佐助の『 秘境ブータン 』も、高い古本を取り寄せて読んだ。

ダイエットや資格の取得など、新たな1年を新たな目標とともにスターとした人も多いだろう。あなたの目標がどんなものでも、目標など設定していなくとも、本書が投げかけるメッセージ「Go Wild(ワイルドに行こう)」は人生をより良い方向へと導くためのヒントを与えてくれる。 本書の主張はシンプル。人類は600万年前の誕生から1万年前に農耕を発明するまで野生の生活を送っ

「ヒラノ教授、あんたの時代はよかった」。工学部ヒラノ教授シリーズを読んだ現役教授たちは、私とおなじようにつぶやくだろう。ご本人は、どこがよかったのか、とおっしゃるかもしれない。しかし、 20 年ほど前、いろいろと不自由や不条理はあったけれど、国立大学はゆるくてのどかな場所だった。 この本では、その時代にヒラノ教授が(たぶんやむなく)手を染められた不正行為が大

今年も残すところあと1ヶ月となり、年忘れという言葉も聞こえてきた。皆さんにとって2014年はどのような年であっただろうか?そして来たる2015年のことを考えた時に、どのような感情が沸き上がってくるだろうか? 年の瀬ともなると、私たちは過去の出来事を頭の中で再現し、その情動を元に未来へ思いを馳せる。年を忘れるというくらいだから、辛かったことや不安な出来事を思い

世界に前例のない超高齢社会へと突き進む日本で、向精神薬が過剰に用いられ、廃人にされたり死へ追いやられたりするお年寄りが無数に存在するという。そこで用いられる「病名」は認知症。しかし、認知症という名の「病気」は存在しない。そこには、国と医者が作り上げた巨大な虚構があのだという。そのからくりを読み解き、医療過誤というワナに落ちないよう警告を発するのが著者の東田勉

『友達の数で寿命は決まる』とは、なんとも気になるタイトルではないか。友達が少ない私のような人間は長生きができないのか?そんな不安からこの本を手にとった。どうやら人間関係というのは、人々が思っている以上に健康に大きな影響を与えているようだ。 今年ブームとなったアドラーは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言していた。対人関係は悩みだけでなく、人の寿

なんと興味深く、胡散臭い感じがするデータだろう。 本書は、顔かたちや体の大きさ、しぐさ、全体から感じる雰囲気などから他人が感じとる性格や性的魅力、性癖やら繁殖力、果ては未来を占うことはどれほどできるのか、その結果がどれほど正しいかを、膨大なデータを収集して裏付けた本である。 「卒アル写真」という怪しげな言葉はもちろん卒業アルバムに載っている写真のこと。著者の

『氏か育ちか』というのは、生物を語る上で永遠の課題だ。もうすこし学問的な言い方をすると、遺伝素因と環境要因、どちらが重要か、ということになる。食べ物、生活場所、育てられ方、教育、人間関係、などなど、多彩な環境要因をすべて知るということは不可能だ。 一方で、分子生物学の進歩は、遺伝情報というものを、遺伝素因といったあいまいな言い方ではなく、 ゲノム という形で