
『破綻の戦略 私のアフガニスタン現代史』日本人が現地で見つめたアフガニスタンの混迷
読み始めてすぐ意外な記述を目にした。イスラム主義組織、タリバンの創設者であるムハンマド・ウマルの演説、それも彼が国際テロ組織、アルカイダを率いたウサマ・ビンラディンに騙され大量殺戮に加担したことを懺悔する演説の録音があるというのだ。さらに意外なのは、ウマルがアフガニスタンの社会を正し平和を求めて立ち上がった人物だった、という評価だ。ウマルは日本では多くのテロ
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読み始めてすぐ意外な記述を目にした。イスラム主義組織、タリバンの創設者であるムハンマド・ウマルの演説、それも彼が国際テロ組織、アルカイダを率いたウサマ・ビンラディンに騙され大量殺戮に加担したことを懺悔する演説の録音があるというのだ。さらに意外なのは、ウマルがアフガニスタンの社会を正し平和を求めて立ち上がった人物だった、という評価だ。ウマルは日本では多くのテロ

記者の仕事は過程がそのまま表に出てくるのが魅力的だ。記者が何に問題意識を持ち、どう行動して、どんなメッセージを込めるのか。好きな報道や作品には、記者の怒りや悲しみ、執念さえも感じることが出来る。記者一人ひとりの存在自体が物語性を帯びていて面白い。 では、「地方紙」の記者はどうか。全国紙の記者と地方紙の記者の違いについて、私は本書を読むまで考えたことがなかった

傷跡から血が滲み出ているような一冊だ。 読み終えた後もずっと「凄いものを読んだ」という余韻が消えない。早くも今年のベスト級の一冊に出会ってしまった。本書は当事者ノンフィクションの傑作である。 著者は「修復的司法」の研究者である。修復的司法というのは、1970年代に欧米を中心に広まった紛争解決のアプローチで、従来の刑事司法では、国家が犯罪者を処罰することで問題

アダム・スミスと言えば、「見えざる手」の『国富論』(1776年)で有名な、「近代経済学の父」である。『国富論』は、貿易による貴金属と貨幣の蓄積が国富だと考えられていた当時の重商主義に反対して、国民にとっての富の源泉は労働だと説いた、今日まで読み継がれている古典的名著である。 それにも関わらず、スミスは歴史上最も誤解された経済学者だと言われている。その理由は、

「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」とは、ドイツの哲学者、テオドール・アドルノの言葉だ。アウシュヴィッツを生んだ文明の野蛮さを乗り越えることなしには、人間の存在も野蛮なままだと彼は考えた。 だが残念ながら21世紀も事態は変わっていない。それどころか「より洗練された野蛮」とでも呼ぶべき事態が出来している。本書は中国の新疆ウイグル自治区で進行中の恐

2019年NHK大河ドラマ『いだてん』に登場する「本庄」という男っぽい女性記者のモデルは本荘幽蘭ではないかと推測される。挿話収集家の平山亜佐子は当時の新聞記事を渉猟し、彼女の一生を克明に辿るスリリングな一冊を著した。 明治12年、幽蘭は元久留米藩士で実業家の本荘一行(かずつら)の二女として誕生した。本名は久代。元芸者の妾と暮らしていた父のもとで幼少期を過ごし

本書はNFT(Non-Fungible Token)の特性についてアート・法律・会計・税務など各ジャンルのスペシャリストが解説し、これから拡大するビジネスと社会を提示した一冊だ。 NFTアート購入のニュースが相次いで報道されている。2021年3月、Twitter創業者ジャック・ドーシーの初ツイート画像が291万ドル(約3億円)で落札。2022年1月にはジャス

世界経済フォーラムが昨年出した男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数で、日本は156カ国中120位。政治に関してはなんと147位だ。 だが世界には素晴らしい女性政治家がいる。『メルケル 世界一の宰相』は様々な危機からドイツを救った首相の評伝だ。昨秋、16年続いたアンゲラ・メルケルの政権は終わりを迎えた。最後の仕事が新型コロナ対策だったのは印象的だ。素早いロッ

ヒョウ柄の似合うおばちゃん、 谷口真由美 さんをご存じだろうか。日曜の朝に放映されている「サンデーモーニング」(TBS系)でコメンテーターをしておられるのをご覧になった方もおられるだろう。厳しい意見をバシッと述べられるので、恐ろしい人だと感じている人が多いかもしれない。無理もない。じつは、私もお目にかかる前まではそう思っていた。しかし、その実態はまったく違う

激辛カレーを無理矢理食べさせる。校内の物置小屋に閉じ込める。プール清掃時に石を投げつけたり泥水をかけたりする。殴る、蹴るは日常茶飯事……。2019年、神戸市立東須磨小学校で起きていたいじめの一部だ。子供同士ではない。教員のあいだで発生した大人のいじめである。記憶に新しい方も多いのではないか。 この不祥事の紹介を皮切りに、増加の一途をたどる職場いじめのメカニズ

書名をみて「ん?」と思った。 「切り札?変革できるか?答えはもう出ているのでは……」 首をひねりながら手に取ったのだが、はたせるかなこのタイトルは反語だった。 書名の脇に添えられた、しかめ面のイラストがそのことを物語っている。 著者は月刊誌『近代柔道』を主な舞台に、30年以上にわたり柔道界を見続けてきたジャーナリスト。本書は日本柔道界への渾身の提言である。

混乱の記録である。同時にきわめて貴重な記録でもある。人類の歴史に残る新型コロナウイルスとの闘い。その最前線で何が起きていたのかが本書で初めて明らかになった。 著者は保健所と東京都庁の感染症対策部門の課長として、新型コロナ対策の第一線で指揮をとった公衆衛生医師である。メモ魔を自認する著者の記録は詳細をきわめる。保健所の苦境は報道などを通じ多少は知っているつもり

この『ゴーイング・ダーク』は、イスラム聖戦主義者やキリスト教原理主義者、白人のナショナリストや極右の陰謀論者、過激なミソジニストたちの組織など、12の過激な主義主張をかかげる組織に著者が潜入したさまをつづるルポタージュである。 潜入が実施された期間はおおむね2017年から18年にかけての2年間で、その間に著者はオンライン活動への参画を中心としながら、そうした

90万部の大ベストセラーとなった 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 は、英国地方都市に住む、母が日本人で父がアイルランド人の、中学校に上がったばかりの少年の成長を、母親の ブレイディみかこ さんが冷静に綴った成長譚だ。 続編である 『ぼくは~2』 (新潮社)では「ぼく」は13歳になった。このころの成長は著しい。背も伸び、大人の視点で世の中を見ら

反体制はカネになる。ん、どういうことだ?、違和感があると同時に居心地が悪い。だって、反体制の人たちはおカネよりも大切なもの、例えば、自然とか文化とか、コミュニティとか、スタイルとか色々とあるから。儲かることや経済とは一線を画して、独自路線を進んでいるのであって、おカネや儲かるという言葉とは縁遠いはずだ。 だけど、読み終えると、そんなやわな考えは吹き飛んでしま

今年は異常な年だった。いや、昨年に続いて、というべきかもしれない。 「あっという間に年末ですね」「なんだか1年が終わる手応えがないですよね」同じような会話を1年前も交わしていたような気がする。 2020年と2021年は、疫病とオリンピックの年として記憶されるだろう。 パンデミックと祭典は私たちに何をもたらしたか。本書はコロナ禍とオリンピックに揺れた日々を、

「死人に口なし」というが、実は死体は雄弁だ。どんなに巧妙な殺人や、事故に偽装しようとした自殺であっても、死体は嘘をつかない。ドラマや小説の中で法医学者が遺体にメスを入れて死因を調べ、殺人事件を解決に導く様子は見慣れたものだ。 だが、死者の声に専門家が耳をしっかり傾ける場面は非常に限られている。医療機関以外での死亡は、「異状死」に分類される。2020年には国内

遍路については、恥ずかしながらたいして知識がなかった。なにしろこの本を読むまで、そば打ちと同じように、「仕事をリタイアした男性が手を出しがちなもの」くらいにしか思っていなかったのだから。 弘法大師(空海)ゆかりの四国八十八箇所の札所を回る遍路は、現在年間20万人ほどいるという。ほとんどはバスや車を利用して回るカジュアルなお遍路さんだが、中には遍路で生活して

本を読み終えて顔を上げた瞬間、いまどこにいるのかわからないような感覚に襲われた。一瞬とはいえ、自分を見失ったような気がしたのはなぜだろう。いましがた読み終えたばかりの本に書かれていたのは、ついこの間の出来事である。にもかかわらず、この本に描かれた時代といまとはまるで違う世界のようだ。 そうか、とようやく思い至る。文字通り世界が変わったのかもしれない。私たち

近年、映画や書籍で、「ネイビーシールズ」を目にすることが増えた。現実に存在する米海軍の特殊部隊で、例えば、イスラム過激派テロリストのウサーマ・ビン・ラーディン殺害作戦はこの部隊によるものだった。 本書の著者ウィリアム・H・マクレイヴンは、何を隠そう、ビン・ラーディンを捕縛・殺害するための「ネプチューンの三叉矛」作戦で司令官を務めた男である。また、イラクの独裁

「誰かを論破できる人ってカッコいいと思うんですよ」。若い友人の口から飛び出した言葉に驚いた。彼が憧れるのは、「論破王」と呼ばれる著名人だという。SNSやテレビのワイドショーで、次々に相手を言い負かす姿がたまらないらしい。そんな話を聞いて、面白いと感じる一方、ちょっと考えさせられてしまった。 実は、この著名人流の「論破」が成り立つには、舞台装置が必要だ。ツイッ

金融所得課税や経済政策の財源論など、2021年10月の衆議院選挙でもなにかと話題になった税制度。日常生活にも、国家運営にもかかわる、大事な論点である。一方で、ひと口に税金といっても、制度は複雑怪奇で分かりづらく、とっつきにくい。税金と聞いただけでアレルギー反応を示してしまう人もおおいだろう。 ムズかしい問題に分かりやすい切り口をあたえてくれるのは、『歴史』だ

「非モテ研」というものがあるらしい。正確には「ぼくらの非モテ研究会」という名前で、いわゆるモテ講座ではなく「非モテで悩んでいる人」たちで集まって開催されている。この会の主宰で、筆者でもある西井開さんは臨床心理士であり、研究者であり、そして本人も「非モテ」意識に悩むひとりだ。 たとえば人は、だれそれがモテない、と聞くと「外見が悪いのかな?」とか、「性格が悪いの

五輪の話題もようやく落ち着いた。会場となった大都市「東京」の実像について、考えてみるのも良いだろう。 150人の聞き手が150人の「東京にいる人、いた人、いたことのある人」に聞いた人生が1216ページの『東京の生活史』になった。聞き手は公募、語り手は誰だかわからない場合も多く、読み手は何の情報もないまま読み始める。年齢も性別も2人の関係性もわからないが、何か

日本にある米軍基地の約70%が沖縄本島に集中している。1945年から存在の賛否は続いているがアメリカ人と地元民との間では独特の生活と文化が育まれてきた。 母方に日系、父方にイギリス移民の血を引く著者は、京都に在学中沖縄に旅行に出かけ、終戦間際の悲劇の歴史と<アメリカンビレッジ>で兵士と楽しむ沖縄女性の姿のギャップに興味を抱く。 辛うじて生きのびた女学生たちが

本書の主人公は、「霞が関のジローラモ」と呼ばれた異色の官僚である。 ジムで鍛えた厚い胸板の上に派手なストライプ柄やカラフルな色のシャツをまとい、ピンクやパープルなどのネクタイを締める。肌は赤銅色に焼け、髪型は側頭部を短く刈り、頭頂部にふくらみをもたせたソフトモヒカンのようなスタイル。官僚のイメージからおよそかけ離れた外見のこの人物を、いつしか人々はイタリア人

差別はつねに、差別によって不利益をこうむる側の話である。差別のおかげで知らぬうちにメリットを得る側の人が、自ら立ち上がって差別を語ることはしない。ただ、よーく考えれば、差別される側になる可能性があるのであれば、差別する側になることだってあるはずということに気がつける。 「もうすっかり日本人ですね」 「希望を持ってください」 この2つの声がけは一見褒めていたり

このところ選挙でバタバタしている。11月だろうとタカをくくっていたら日程が前倒しになったためだ。政見放送や特別番組を編成するために枠を確保したり、スポンサーに連絡を入れたり、選挙報道の留意点を若手にレクチャーしたりと慌ただしい。だがその一方で、選挙にはちょっとしたお祭り気分もある。 さて、そんな選挙に異変が起きているのはご存知だろうか。 選挙といえば、かつて

この人を見よ!。本書の紹介としては、それ以上、なにもいらない。 著者略歴から、映画がいくつでもできる。最終学歴は小学校卒業、13歳でストリートチルドレンに、奇病、二度の癌、4度の結婚離婚、と、経歴だけで圧倒される。1971年生まれの著者の半生は、2016年に出版した『 不死身の花 夜の街を生き抜いた元ストリート・チルドレンの私 』(新潮社)に語られている。

ある出来事が、後に振り返った時にあらためて歴史の大きな変わり目だったと気づくことがある。2017年10月5日という日付も、そのような歴史の分水嶺として後世に記憶されるかもしれない。 ニューヨークタイムズがこの日、ハリウッドのプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力を告発するスクープを放った。この記事をきっかけに#MeTooムーヴメントが爆発的に広が

150人の聞き手が「東京にいる人、いた人、いたことのある人」150人の語り手から話を聞き、それぞれ一万字にまとめて本を作る。上下二段組、1216ページ、重さ1425グラム。前代未聞の試みだ。 聞き手が誰かはクレジットされているが語り手の多くは不明。読み進めていくと性別、年齢、聞き手との関係性が少しずつ判明していく。家族、親族、友人、仕事場の同僚など間柄が分か

日本ではあまり知られていないが李仲燮(イ・ジュンソプ)は韓国の国民的画家で「韓国のゴッホ」とも呼ばれている。39歳で夭折した天才画家の妻は日本人の山本方子(まさこ)。今年100歳になるがお元気だ。 新聞記者である著者はソウル特派員時代に李仲燮の存在を知る。彼の絵に惹かれ、日本で方子とのインタビューを重ねた。 李仲燮は1916年に日本統治下にあった朝鮮半島の平

ベストセラー『言ってはいけない 残酷すぎる真実』の著者である橘玲氏が、最新の心理学と脳科学の観点から「わたし」とは何かを説く一冊だ。 人の性格は無意識のうちに決定され、あらゆる行動の基盤となる。それらを「内向的/外交的」や「楽観的/悲観的」など8つの項目に定義していく。 たとえば経済的に成功者が多いのは内向的な人種である。人には最適な覚醒度があり、それぞれの

中学校の部活動は多くの人が経験する。それだけに個人の体験から語られがちな領域でもある。地獄のような日々の思い出しかない者もいれば、青春の美しい1ページ、いや青春そのものと捉えている人も少なくない。 評者自身は典型的な前者で「なんで土日も部活三昧なんだ」「別にプロになるわけではないし」と毎日の練習が苦痛でしかなかった。当時は周りを見渡しても、誰もが部活動に有無

自民党総裁選のニュースが連日報じられている。前回に比べれば、四人が立候補して政策論戦が交わされているのは望ましいことだ。しかし、報道はいつもどおり、政治内容そのものよりも政局に偏っている。政治は何のためにあるのか。それこそが重要問題であるはずなのに、真っ正面から問われることはあまりない。 ライターの和田靜香が、立憲民主党の衆議院議員である小川淳也にそれを問う

気候変動メカニズムやその対応策についての議論は、抽象論から枝葉末節まで玉石混淆に陥りがちだ。「脱炭素」「EVの普及」「エコバック」など、毎日のようにメディアでキーワードが飛びかっているが、結局なにから手をつけるべきなのか分かりづらい。地球温暖化問題に対して、どのような視点からアプローチしていけばいいのか分からないと悩む人は少なくないはずだ。 今回、この問題を

とてもユニークな本だ。出版社の宣伝文句には、「心を打つ『名言』があるように、心をくじく『駄言(だげん)』もあります。これは、そんな滅びるべき駄言を集めた辞典です」とある。 日本経済新聞社と日経BPは、「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト」に共同で取り組んでいる。これは日本社会の多様性を阻むステレオタイプの撲滅を目指すプロジェクトで、本書はその一環として

わたしはサイモン・シンの『暗号解読』を訳した関係で、暗号まわりのことは多少知っているつもりでした。第二次世界大戦期についていえば、ナチスドイツの暗号であるエニグマはもちろんのこと、解読不能な天然の暗号として使われたナヴァホ語、そしてナヴァホ族の兵士である「ウィンドトーカー」たちのことも。ウィンドトーカーの存在も戦後しばらくは知られていませんでしたが、たしか1

著者が今、最も旬な書き手であることを確信させられる一冊だ。世界を覆う社会的なテーマを生活者として語り、解決のヒントを暮らしの中に見出す。そのスタンスや主張は数年前からさほど変わらないはずだが、時代が追いついてきた印象もある。 ブレイディみかこ氏が本作で選んだテーマは「エンパシー」。これは他者の感情や経験などを理解する「能力」を指す。エンパシーは「意識的に他者

本書から得られるのは、海上での人権と労働問題、海洋汚染の実態、過剰漁業など表面上の知識だけではない。本気で取り組む際に人間はどこまでやれるかの挑戦であり、そのための準備や緊急時の冷静な対応、大量の情報と感情を文章にする熟練の技など、ジャーナリストがたどり着く1つの到達点だと思う。 私がノンフィクションを読み始めた動機のひとつに、世界のニュースの背景が知りたい