
『ゲッベルスと私 ナチ宣伝相秘書の独白』
ヒトラーと、その右腕ゲッベルス宣伝相が作り出した大衆的熱狂の先には、戦争と破壊、そして未曾有の大量殺戮が待ち受けていた。偏狭な自民族中心主義と極端な反ユダヤ主義、人種差別主義(レイシズム)が第二次世界大戦と結びついて、ヨーロッパを「暗黒の大陸」へと変えたのだ。戦後、世界は解放された各地の強制収容所に累々と積み上げられた犠牲者の屍に絶句し、「二度と繰り返しては
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ヒトラーと、その右腕ゲッベルス宣伝相が作り出した大衆的熱狂の先には、戦争と破壊、そして未曾有の大量殺戮が待ち受けていた。偏狭な自民族中心主義と極端な反ユダヤ主義、人種差別主義(レイシズム)が第二次世界大戦と結びついて、ヨーロッパを「暗黒の大陸」へと変えたのだ。戦後、世界は解放された各地の強制収容所に累々と積み上げられた犠牲者の屍に絶句し、「二度と繰り返しては

歴史に“もし”はない。もし奴隷制がなければアフリカはもっと経済発展を遂げただろうか、もしイギリス統治がなければインドの識字率はもっと高くなっていただろうか、もしフランスではなくスペインに支配されていればハイチはドミニカよりも豊かになっていただろうか。想像力豊かに刺激的な虚構のストーリーを作り上げることはできても、時計の針を巻き戻し、ありえたかもしれない結末を

複数の角度から証拠となるものを収集し、それらを慎重かつ巧妙に組み合わせながら、歴史の大きなうねりを炙り出していく。研究の醍醐味、そして読書の醍醐味をこれほど堪能させてくれる本はそうないだろう。 本書の主題は、インド・ヨーロッパ語族の拡散だ。英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語。そして北欧や東欧の諸言語に、ウクライナ語、ロシア語、ギリシャ語。さらにはペルシャ

本書はそのイタリアの織物のように軽やかで、味わい深く、時には風を通すような美しい本だ。紙質、装丁など、どこを見ても丁寧に作られた一級品だ。文章は清々しくも温かい。上質のツイードそのものなのだ。 それもそのはず、内田洋子はイタリアの時空を縱橫に飛びまわり、掌編小説のようにエッセイ仕立てのノンフィクションを書く名手だ。 あくまでも著者が見たまま、聞いたままを文章

本書の著者は『帝国を魅せる剣闘士』、『愛欲のローマ史』などの著作や漫画家ヤマザキマリがナビゲータを務めたBSフジの番組『ローマ街道物語』の監修などでも活躍した歴史学者、本村凌二だ。今回の新作は『教養としてのローマ史の読み方』。題名だけでは論点がいまひとつピンと来ないかもしれない。その点で少し損をしているように思うのだが、表紙に付いている帯で、佐藤優が本書の論

ハンス・フランクはひざまずき、傍らの神父に十字を切ってくれるよう願った。そして、微笑みを浮かべながら歩き出した。彼の人生の終着点となる絞首台へ向かって。 1939年からドイツ占領下のポーランド総督府総督としてユダヤ人虐殺を進めたフランクは、ニュルンベルク裁判で「戦争犯罪」と「人道に対する罪」に対する有罪で死刑判決を受けた。今では当たり前の存在にも感じる「人道

幅広い選書と奥深い視点で、早くも話題になっている『 辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦 』。先日、東京堂書店 神田神保町店で行われた刊行記念イベント「面白い本を読んだら誰かと話したい!」において、著者のお二人と一緒に登壇させていただきました。書き手としてよく知られるお二人は、読み手としてどのような一面を持つのか? そして本を語り合うことの面白さは

世界で一番読まれている本は、おそらく聖書だろう。本書は古代オリエント世界で栄えた都市を旅しながら、歴史が聖書にどのような影響を与えたかを記した一般向けの啓蒙書である。少しでも聖書に興味がある人には是非とも読んで欲しい1冊だ。 著者の旅は、フェニキア人の都市、ビュブロスから始まる。バイブルの語源となった町だ。次は、エルサレムの神殿建設を担った南方のティルス。ビ

1948年の独立以来、イスラエルの特殊部隊が関わった作戦の数々を時系列で微細に入り伝えるノンフィクション。空港での人質奪還、中東戦争、エルサレム包囲戦、レバノン戦争、「テロリスト」の暗殺、原子炉空爆、ハマスとの闘い……その背景を知ることで、イスラエルの歴史や芯のようなものまでが見えてくる。 原題はNo Mission is Impossible. 『ミッショ

何というおどろおどろしいタイトルだろうか。普段お世話になっている旧知の著者からゲラが送られてきたので、少しは読まなければ申し訳ないと思って読み始めたら、これが面白くて読むのを止められない。 本書は2人の尖った個性がお互いに本を選んで3か月に1回、その本について縦横に語り合った対談集である。選ばれた本も秀逸で(知らない本が半分ほどあったが)、2人の対談も奔放の

表紙のアップルパイに惹かれて、本書に手を伸ばした。甘く煮付けた熱々のりんごと、サクサクのパイ生地が美味しそうだ。洋菓子は、生きていく上で米や塩のように必須ではないが、私たちの生活に彩りをもたらしてくれる。 洋菓子の歴史は記憶によって語り継がれるため、伝説や珍説が生まれやすい。その全てを真に受けないためにも、洋菓子の背景にある文化史を理解することは重要だ。 著

読書会のやり方は人によって様々だと思うが、面白く実施するためにはいくつかの条件がある。たしかに同じような読書量のメンバーが集まり、本をネタに好き勝手言い合うだけでも、それなりの楽しさはあるだろう。 しかしそれを継続的に習慣化していくためには、少なからず妄想のような会話にリアリティが伴ってくる必要がある。HONZの例で言えば、サイエンス本の話に触れながら、ふと

1945年5月5日、アメリカ軍がオーストリアのマウトハウゼン強制収容所を解放したとき一人のユダヤ人男性の命が救われた。男の名はジーモン・ヴィーゼンタール。自信家で野心家。この男は、後に最も有名なナチ・ハンターとして頭角を現す。そして、最も、問題の多いナチ・ハンターとして数々の論争の的となっていく。 大戦中にドイツが占領した地域では、ドイツ軍及び現地の協力者に

2017年3月、英エコノミスト誌は「脅威のアマゾン帝国」という特集を組んだ。その冒頭で、今後10年以内に売上高は50兆円に達するだろうと予測している。事実、17年の売上高は19兆円を超え、米国のEコマース市場の50%に迫る勢いだ。 アマゾンはこの巨大な売り上げを支えるための物流システム構築に余念がない。16年、海運ではNVOCC(船舶を持たない貨物運送事業者

1941年12月8日に始まり、45年8月15日に終結した、アジア・太平洋戦争は日本だけでも軍人・軍属230万人、民間人80万人、計310万人もの犠牲者を出した。当然ながらこの戦争は様々な視点から多くのことが論じられてきた。本書は過去の議論を踏まえた上で、3つの問題意識を重視しながら先の大戦を見直すことを目的としている。では三つの問題とは何か。一番目が、戦後歴

ときに歴史は恐ろしいほどに陰惨な物語を生み出す。民主カンプチアでおきた出来事は、ナチスのホロコーストや、毛沢東の大躍進政策、文化大革命にも匹敵する人類史上稀に見る惨禍であろう。民主カンプチアという名前でピンと来なければポル・ポト政権と呼んでもかまわない。 この政権での、極端な共産主義思想に基づいて行われた虐殺と飢餓で、全国民の四分の一にあたる二百万人以上が殺

『世界をつくった6つの革命の物語』 (朝日新聞出版)、 『世界を変えた6つの「気晴らし」の物語』 (同前)、 『ピア PEER』 などで知られるスティーヴン・ジョンソン。彼の過去作が10年越しに文庫化された1冊である。 舞台は19世紀のロンドン。劣悪な衛生環境の中で、人びとは繰り返されるコレラの流行に苦しめられていた。本書は中でも集中的な被害をもたらした、1

プリーモ・レーヴィはユダヤ系イタリア人。トリーノ大学を主席で卒業した科学者だ。彼は24才の時にパルチザンとして活動中に逮捕される。1943年の事だ。翌1944年にアウシュヴィッツに移送され、開放されるまで強制収容所で地獄のような日々を送った。彼が送られたのはアウシュヴィッツの中の第三強制収容所モノヴィッツである。この収容所は強制労働を主目的としており、囚人は

その男は酒もタバコもしない。ギャンブルに手を出すこともない。刺激物はコーヒーすら飲まないのだ。キリスト教の教会に通い、積極的思考(ポジティブシンキング)を実践することで世界一の大国アメリカで人もうらやむ成功を手にした。この禁欲的に思える男の名前は、ドナルド・トランプ。そう、現アメリカ大統領のトランプには奇妙な信心深さがある。 テレビから伝わるトランプのイメー

現代の世界は数え切れないほどのイノベーションが連鎖することでかたちづくられた。本書の著者スティーブン・ジョンソンが前著『 世界をつくった6つの革命の物語 』で示したように、ある分野のイノベーションは全く別領域でのイノベーションを誘発し、ときに想像すらできない変化をもたらしうる。印刷機の発明はインターネットを、衛生観念の発達はマイクロプロセッサを生み出した。著

本書は第二次世界大戦のさなか重水をめぐり行われた連合国とナチスとの攻防に脚光を当てた作品だ。舞台はノルウェーのオスロ西方にあるテレマルク県に広がるハンダルゲン高原という荒涼とした大地。極寒の地で冬には雪で閉ざされ、地元の猟師が時々、トナカイをしとめに足を踏み入れるくらいの場所だ。夜になると急激に気温が下がるため、地元では「炎さえ凍る」と実しやかに囁かれる厳し

原書のタイトルは「Wanderlust」、旅への渇望という意味を持つ。著者レベッカ・ソルニットの代表作であり、著者自身が旅への渇望を持つ一人である。著者の名前が日本で知られるようになったのは、著作『災害ユートピア』が、2010年という運命的なタイミングで出版されたためである。 人生をかたちづくるのは、公式の出来事の隙間で起こる予期できない事件の数々だし、人生

海賊ははるか古代より存在する。様々な文化、様々な海域、様々な政治状態、そして様々な民族によって海上での略奪行為は行われてきた。海賊と一言でいっても、その背景には多くの違いがある。だが、古代から現代、洋の東西を問わず、海賊には相反する二つの見かたがある。それは本書帯にも書かれているように「自由を求めるヒーロー」としての姿と「人類共通の敵」としての姿だ。 例えば

著者は「米海軍きっての天才」といわれてきた元NATO欧州連合軍最高司令官だ。トランプ大統領とは正反対にグローバル化を擁護する立場で、TPPを支持し、移民を受け入れ、中国とは軍事的手段を必要としない文化的交流を発展させるべきだと説く。 日本をアメリカにとって最重要な同盟国と位置付け、民主主義国である日本、米国、EUが世界に冷戦なき新しい秩序を創るべきだと訴える

2016年6月23日、イギリスの国民投票の行く末を世界中が固唾を飲んで見守っていた。英国のEU離脱(ブレグジット)というまさかの結末は、世界中に大きな衝撃と混乱をもたらした。なぜ、英国民は多くの専門家が反対するブレグジットを選択したのか?そもそも、国民投票などする必要があったのか?EU離脱派がアピールし続けた、「EUを離脱すれば、毎週3億5000万ポンドの分

歴史上もっとも人口の増加に貢献した科学的発明は何か?それは、多くの病気から命を救った医薬品でも、世界中のあらゆる地域へ人類を移動させた航海技術でも、機械化による効率化をもたらした産業革命でもない。もちろん、これらの発明も多くの命を支えており、現代生活に欠かせないものではあるが、その発明のおかげでこの世に存在している人命の数では、ハーバー・ボッシュ法には及ばな

人類のグローバリゼーションは海の道と草原の道を結んだクビライ治下のモンゴル世界帝国で最初のピークを迎えた、と一般には考えられているが、モンゴル帝国の創始者・チンギス・カンについては意外とその治績が知られていない。本書は、長年モンゴルで発掘を続けてきた考古学者が描く等身大のチンギス像である。 遊牧民は放浪するのではなく、ある程度決まった場所を1年かけて季節移動

今年これまでで、もっとも面白かった本である。書評を書くと決めた本を読むときには、引用したいページに付箋を張りつけるのだが、今回は付箋を張りすぎて、読み終わった後にさらに厳選して別の付箋を張りつけるはめになったほどだ。今年の金融読み物ナンバーワンだろう。 リーマン・ブラザーズ破綻に端を発した世界金融危機。これまで幾多もの書籍が出版されているが、そんな中でも必読

1900年前後のウィーンにはあらゆる分野の才能を引き寄せる力があった。哲学ではクルト・ゲーデルやルートヴィヒ・ヴィドゲンシュタイン、音楽ではグスタフ・マーラーやベートーヴェン。その他の芸術や自然科学分野でも、挙げきれないほど多くの偉人たちがこの街に集まっていた。特筆すべきは、その天才たちが個々の分野毎に活動していたのではなく、科学者・作家・芸術家の垣根を越え

パリの中心部、ヴァンドーム広場に面して、そのホテルは存在する。 ホテル・リッツ(Hôtel Ritz)。フランスの実業家セザール・リッツと名料理人オーギュスト・エスコフィエの協力のもと、1898年に開業したこのホテルは、その贅沢さ、壮麗さから、パリの富裕層だけでなく、世界各国の名士を顧客に迎え入れ、大きく栄えた。 だが、第二次世界大戦さなかの1940年6月1

「地中海世界」や「環太平洋諸国」と聞けば誰しもそれなりのイメージが浮かぶだろう。ところが世界政治のフォーカルポイントであるにも関わらず「黒海」はそうではない。12カ国から成る黒海経済協力機構(BSEC)を知っている人がどれだけいるだろう。本書は知られざる黒海の歴史を概説した力作である。 黒海という呼び名が定着したのはオスマン朝の初期。黒海には欧州で2番目から

グローバリゼーションにブレーキがかかり始めた。欧州での右派政党台頭、トランプの保護主義的政策だけでなく、これまで移民を優遇してきたシンガポールやオーストラリアなどでも就労ビザの厳格化が進み、国境を隔てる壁は日々高くなっている。世界は、グローバリゼーションの何を恐れているのか。絶望的なほどの格差を生み出した真犯人は、グローバリゼーションなのか。グローバリゼーシ

人をどのように評価するかは難しい。人間とは常に多面的かつ多層的な存在だからだ。しかし、私たちが他者を評価する際には、常に人の一面にスポットを当てることで単純な評価を行おうとする。他者にレッテルを貼る事により、一方的でわかりやすい物語を形成するのだ。このような物語を組み立てる事により、人は他者を理解した気になる事ができる。 だが、それで本当に人間と言うものを正

1962年10月16日、ソ連が密かに核ミサイルをキューバに設置していることを発見したアメリカ大統領ケネディは、ソ連首相フルシチョフにミサイルの撤去を迫り、拒否された。この日からフルシチョフがミサイル撤去の決断を下すまでの13日間ほどに、人類が核兵器による全面戦争に近づいたことはない。キューバ危機で核ミサイルが攻撃に用いられることはなかったが、実はこの危機の最

時間や空間を図るには確かな基準点が必要となる。しかし、贅沢や美しさという抽象的なものにも基準となる点や線は存在するのだろうか。フランス文学者の鹿島茂は世間一般で言われるように、これまで美しさや贅沢というものには基準となるものなど存在しないと思っていた。しかし、フランス文化史を長年の間、研究し続けるうちに美や贅沢にも基準点が存在するのではないかと思うようになっ

イブン・バットゥータの「三大陸周遊記」(抄訳)を初めて読んだのは、もう、半世紀以上昔のことになるだろうか、「あぁ、こんな旅がしてみたい」と心から思ったものである。本書は、この「大旅行記」の完訳を成し遂げた1939年生まれの碩学によるまたとない案内書だ。 14世紀の初めにモロッコで生を受けたイスラームの法官、イブン・バットゥータは、なぜ30年に及ぶ大旅行を達成

待望の『ギリシア人の物語Ⅱ』が上梓された。急速に隆盛し急速に衰退したギリシア人の歴史を著者は三巻にまとめると最初に語っている。ならば第二巻は物語のピークだ。 民主政治の創始者であるギリシア人、それもとくにアテネで活躍した政治家たちは現代を映す鏡となっている。民主主義はどうあるべきか、リーダーはどのような人が好ましいか、民衆は政治にどこまで関与すべきか、など昨

僕たちはともすれば現在の国民国家をベースに人類の歴史を遡りがちであるが、実は国民国家の歴史はまだ200年前後しかなく、それ以前はハンザ(商人団体が原義)や倭寇のような海洋共同体が重要な役割を担っていた。何故なら古来より交易は水路が中心だったからである。 現在のドイツは16の州からなる連邦共和国であるが、内2つは自由ハンザ都市である(ハンブルクとブレーメン)。

サンタクロースが、昨日午後、ディジョン大聖堂の鉄格子に吊るされたあと、大聖堂前の広場において人々の見守るなか火刑に処された。この派手な処刑は、教区若者組に所属する多数の子供たちの門前でおこなわれたのである。この刑の執行は、サンタクロースを教会の横領者にして異端者として<有罪>の判決を下した聖職者の同意のもとに決定された。 サンタクロースはキリストの降誕祭を異

読者の皆さんは、「異端」という言葉からどのようなイメージを連想されるだろうか。おそらく、おどろおどろしいイメージの類ではないか。しかし東欧で興り(ブルガリアのボゴミル派)、11世紀に西欧に伝播したキリスト教の一派、カタリ派は、聖職者(完徳者、完徳女)自らが額に汗して働き、力を否定し純粋な神への愛を共有する原始キリスト教共同体のような良き人たちの集団であった。