
『喰うか喰われるか 私の山口組体験』山口組を50年間見続けた男 「遊侠の徒」へのまなざし
ノンフィクション作家の溝口敦といえば、暴力団(ヤクザ)関連を中心に多くの著作を持つ、この分野では有名な書き手だ。『五代目山口組』の出版をめぐるトラブルから山口組関係者に背中を刺されるなど、危険な目にもあってきた。山口組を50年間ウォッチし続けてきた男なのだからさぞ任侠の世界に興味があったのだろうと思いきや、学生時代はヤクザにまったく関心がなかったという。 就
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ノンフィクション作家の溝口敦といえば、暴力団(ヤクザ)関連を中心に多くの著作を持つ、この分野では有名な書き手だ。『五代目山口組』の出版をめぐるトラブルから山口組関係者に背中を刺されるなど、危険な目にもあってきた。山口組を50年間ウォッチし続けてきた男なのだからさぞ任侠の世界に興味があったのだろうと思いきや、学生時代はヤクザにまったく関心がなかったという。 就

本書『裏切り者』は、映画にもなった「ハイネケンCEO誘拐事件」の実行犯として知られ、その後も犯罪を重ね「オランダ史上最悪の犯罪者」と恐れられるまでになった男ウィレム・ホーレーダーについて書かれた犯罪ノンフィクション/体験記である。 現在ウィレムは逮捕され、終身刑を食らっているのだが、彼の罪を告発し終身刑にまで追い込んだのは実の妹で、本書の著者であるアストリッ

いまから15年ほど前のこと、「週刊現代」編集部に戻って、まっさきに執筆を依頼したのが溝口敦さんだった。そのときの様子を、溝口さんは自伝的ノンフィクション『喰うか喰われるか 私の山口組体験』(5月13日刊、講談社)でこう書いている。 二〇〇六年三月、講談社の加藤晴之さんに会ったとき、彼から「細木数子について四回くらい連載できないか」といわれた。彼はこの年の二月

型破りな人物のノンフィクションに時々お目にかかるが、本書は極めつきではないだろうか。 著者は「日本リスクコントロール」という危機管理会社の社長である。ところが「どんな会社?」とググってもホームページは存在しない。電話番号も公開されていない。それもそのはず。同社にアクセスする方法は、紹介者による仲介しかない。 しかも会費がとてつもなく高い。トラブルの最終処理ま

1995年3月20日の朝、あちこちの地下鉄で一斉に事件が起こり大混乱となった。後の「地下鉄サリン事件」といわれた前代未聞の毒ガス散布テロだ。 この事件以前からきな臭かった「オウム真理教」関係事件が、ここから一気に噴出する。教団関係者の連日のテレビ出演、識者のコメント、山梨県上九一色村(当時)からの中継、カナリアを先頭にした強制捜査、信者たちの逮捕、麻原彰晃の

著者はドラマなどでお馴染みの桜田門にある警視庁科学捜査研究所(科捜研)の係長時代、地下鉄サリン事件の緊急鑑定に携わることになる。鑑定資料として車輛床面を拭き取ったものを持ち込んだ捜査員が皆「暗い」と言い、目に縮瞳が起こっていることから有機リン酸系の毒物であると判断。ガスクロマトグラフ質量分析装置によって「サリン」が検出された。 その前年、松本で起こったサリン

読み終えた途端、深いため息が出た。かつて「全員悪人」というキャッチコピーの映画があったが、さしずめ本書は「登場人物、全員小物」といったところだ。だが、小物ばかり出てくるのにページをめくる手が止まらない。それはこの小物が私の中にも棲んでいるからかもしれない。この本にはまぎれもなく私たちの姿が描かれている。 そのクーデターが起きたのは、2018年1月24日のこと

ひとつの犯罪が時代を象徴することがある。 令和元年(2019年)5月28日、朝7時40分頃、小田急線とJR南武線が交差する登戸駅近くで、男がスクールバスを待っていた児童や保護者らを次々と包丁で刺した。男は終始無言で凶行に及び、20メートルほど走って逃げた後、突然自らの首を掻き切り絶命した。この間わずか十数秒だった。 犯人によって小学6年生の女の子と39歳の保

帯にある身も蓋もない惹句のとおり、本書は刑務所に服役する凶悪犯の大多数が自らの犯した罪について何ら反省していないと指摘する一冊である。 著者は、2件の殺人によって無期懲役判決を受け、すでに四半世紀以上服役中の人物。刑期が10年以上で犯罪傾向の進んでいる受刑者を対象とする「LB級刑務所」で日々を過ごす。たいへんな読書家で、支援者を通じて自身の読書遍歴や死刑存廃

2021年1月24日、伝説の人物が亡くなった。元警視庁捜査一課長の寺尾正大氏である。78歳だった。亡くなられていたのがわかったのは2月に入ってからで、新聞もテレビもこぞって「ミスター一課長」の死を報じた。地下鉄サリン事件という歴史的事件の捜査の陣頭指揮を執ったこともあってこれだけの扱いになったのだろう。追悼記事にあった「癖の強い異能の刑事を使うのがうまかった

読み始めた途端、あの日の記憶が鮮明に甦った。 1995年3月20日、月曜日の朝だった。地下鉄で「異臭事件」が発生したとの一報を警視庁記者クラブで聞いた。当時の無線記録によれば、通信指令本部に八丁堀駅での乗客の異変を知らせる無線が入ったのは8時21分である。3分後、築地駅から「ガソリンがまかれた」との情報が入り、他の駅からも相次いで被害報告が入った。建物を飛び

故・石牟礼道子氏の『苦海浄土』3部作は文学史上屈指の傑作である。わけても、第1部第3章「ゆき女きき書」は、読むたびに戦慄(せんりつ)と畏怖をおぼえる。水俣病患者が全身を痙攣(けいれん)させながら絞り出した言葉。語られたのは恨み言ではなく、不知火(しらぬい)海の豊饒さであり、生まれ変わったらまた愛する夫と漁に出たいという願いだ。絶望の底から発せられたはずの言葉

その人にしか語り得ない境地というものがある。人生は十人十色だが、特殊な技能が必要で、なおかつ特異な環境に我が身を起き続けた人の軌跡はとりわけ面白い。 本書は、若くして潜水の才能を発揮し、宮城の海から無数の遺体を引き上げてきた男・吉田浩文の激動の半生を綴る克明の記録である。 初めての遺体引き上げは1996年。死者は交番勤務の男性警察官で、車ごと海中に突っ込む入

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、世界の新型コロナによる死者数が170万人を超えたという(2020年12月22日時点)。最も多い米国では30万人を超え、1日の死者数が3000人以上の日もある。いまだ収束の気配は見えない。 医療現場は果たしてどのような状況にあるのか。本書は、米国で感染が爆発的に拡大する中、ボストンで救急現場に立ち続けた日本人医師の現地

2018年、イングランドのソールズベリーでセルゲイ・スクリパリと娘のユリアを標的とする毒物暗殺未遂事件が起きた。セルゲイは元ロシア軍大佐で英国の対外諜報機関MI6に情報を提供していた人物だ。ロシアで逮捕された後、スパイ交換により英国に亡命していた。 事件はロシアのプーチン大統領の指示によりFSB(ロシア連邦保安庁)が実行したもので、当然、英国の主権を侵害して

文藝春秋は、「文藝」と「春秋」がくっついた会社だとよくいわれる。もちろんこれはふたつの会社が合併したということではない。文藝は文字通り文芸作品のこと、春秋は日々の出来事が積み重なった年月を指す。文藝春秋という会社は、文芸と日々の出来事を追うジャーナリズムとがくっついた会社なのだ。 「春秋」の大きな柱が『週刊文春』であることは誰もが認めるところだろう。いまや飛

東京オリンピックが狙われている。サイバー攻撃に。 1-2年前から密かにサイバー攻撃の準備がされており、分かっているだけでも日本人4万台ほどの個人パソコンがのっとられている。主導しているのはアジア大国の政府系ハッカーというのがもっぱらの分析だ。具体的に何を仕掛ける予定かはまだ分からないが、経済的な損失よりも東京オリンピックの評判を貶めることを目的にしている可能

本書は東京の自分に問いかける。地方の原発で作り出される電気を頼りに生きる自分の生活を、果たしてどこまで理解しているのだろうか。 本書『白い土地』は、新聞記者である著者が福島県に拠点を置き、そこに生き抜く人々に焦点をあてた人物ルポタージュである。「白い土地」とは、《白地》と呼ばれる「帰還困難区域」の中でも「特定復興再生拠点区域」に含まれない土地を指す。2017

アメリカ大統領選挙は、民主党のバイデン前副大統領が勝利宣言した。 菅首相もさっそく祝意を示し、次期大統領との関係構築に乗り出している。 振り返れば4年前は、大統領選を制したトランプのもとに安部前首相が真っ先にお祝いに駆けつけた。当時の報道を見ると、11月18日にはもうトランプタワーを訪問している。ペルーで開かれるAPECに向かう途中だったとはいえ、各国首脳の

突如あらわれた新型コロナウィルス伝染病に対し、医師たちは最初、徒手空拳で挑まなければならなかった。徐々に解明される高齢者のリスクや三密回避、伝染経路や防御方法などを人々が守ることによって、第二波も収まりつつあるようだ。根本的な治療方法はわからなくても、顕著な死亡率の低下となって現れている。 医療関係者だけでなく、想像もできない事態のなかで、突然最前線に立たさ

私は暴力団を20年以上取材している。そのため暴力や犯罪に耐性が付き、暴力団をはじめ、周辺者たちを題材にしたノンフィクションにも食傷気味だ。正直、この分野にはやっつけ仕事の類似本が多く、本書も斜めに見ていた。軽いタイトルの印象もあって、実話誌によくある「面白おかしい、でもよくあるヤクザの姐さん話」と高を括っていた。 面白い物語ではあった。しかし、予想は完全に裏

今年も3月を迎えた。2011年3月11日から9年が経ち、毎年震災本が出版され続けている。私も3月は震災ものを読むことを習慣としてきた。楽しみや興味本位からではない。「何も知らなくてごめんなさい。何もできなくてごめんなさい」といつも申し訳なく手に取る。 9年経った今、世の中は変わったのだろうか。現場の第一線で働く人の命と健康を守り、敬意を払う世の中になっている

新型コロナウィルス禍によって東日本大震災3.11の政府主催の追悼式は中止となり、総理官邸での献花式が行われた。被災した各地方での追悼式も規模の縮小などを余儀なくされ、震災から9年目のこの日は、それぞれの胸の中であの日を思い出していた。 東北学院大学教養学部地域構想学科、金菱清ゼミナールによる震災の記録ブロジェクトから出版された震災関係の本はこれで10冊目にな

あの日、あなたはどこで何をしていただろうか。 2011年3月11日、福島県双葉郡では、多くの学校で卒業式が執り行われた。子どもたちは通い慣れた校舎に名残惜しさを感じながら、未来への希望に胸を膨らませていたに違いない。だが14時46分、巨大地震がこの地を襲った。 本書は、双葉郡の消防士たちが初めて「あの日」について語ったノンフィクションである。震災について書か

たまらなく渋くてカッコいい主人公の紹介から始めたい。表紙の写真左、試験管を持つちょっと神経質そうな男が化学者アレグザンダー・ゲトラー、その隣にいる大柄のヤギひげおじさんが病理学者でありニューヨーク市監察医務局長も務めるチャールズ・ノリスだ。本書『毒薬の手帖』は、現代科学捜査の基礎を築いたこの毒物学者二人が力を合わせて人間の暗い欲望が充溢する1920年代アメリ

今年は、ノンフィクションに動きがあった年だと思う。途轍もないビッグヒットがあったわけでも、当たり年だったわけでもない。エビデンス重視の世の中で私的な感覚を言うのも憚られるが、私は潮流の変化を感じた。 年末に読んだ開高健賞受賞作『聖なるズー』 は刺激的で今後さらに話題になる予感があるし、2年目をむかえた 本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞作『ぼくはイエローでホ

本書は、2016年に「津久井やまゆり園」で障害者19人が殺害された相模原障害者施設殺傷事件*をきっかけに行われた、作家の雨宮処凛と以下の6人の識者との対談を一冊にまとめたものである。 ①神戸金史(RKB毎日放送記者) ②熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術センター准教授、小児科医) ③岩永直子(BuzzFeed Japan記者) ④杉田俊介(批評家、元障害者ヘル

海賊が跋扈するため、ソマリア沖ではマグロ漁ができなくなっていた。そこで漁をすれば一網打尽、一攫千金だ。しかし、そのためにはロジスティクスも安全も確保しなければならない。巨額の資金による、飛行場付き、傭兵が警護する完全武装の漁業基地建設が始まった。 全米で多くの医師や薬剤師がオンライン薬局での処方薬販売にかかわっていた。違法ぎりぎりの取引に気づいた麻薬捜査官に

見慣れた世界地図を、ちょっと視点を変えて色分けしてみると、思いも寄らない姿が浮かび上がってくることがある。たとえば「民主化」の度合いや「女性の社会進出」の進み具合で色分けすれば、欧米を中心にした国々を濃く塗りつぶすことになるだろうし、「政治的自由」の制限などを切り口にすれば、また違った国がクローズアップされるだろう。 では「霊」はどうだろうか? いや、唐突か

うわさ話は甘美な娯楽だ。時にそれは人を追い詰め、取り返しのつかない事件を起こす。 2013年7月21日夜半、山口県周南市金峰地区の郷集落で連続殺人・放火事件が勃発した。この地区の住民はわずか12人、半数以上が高齢者の限界集落で5人の老人が撲殺されたのだ。犯人はすぐに捕まった。 保見光成63歳。その村に生まれ15歳で中学卒業後に東京へ出たが40歳を過ぎて戻って

HONZメンバーをはじめ、身近なノンフィクション読みから「絶対読んだ方がいい!」とオススメされる1冊が登場しました。ここからのノンフィクション本のアワードやベストセラーに入ってくるだろう1冊、それが『トラジャ』です。 もともと、『週刊東洋経済』に集中連載されていた「JR歪んだ労使関係」をもととした単行本となっており、JR労組に起こった労使問題を中心にその裏側

山口連続殺人事件は、2013年に山口県周南市の小さな集落で起きた凄惨な事件である。住民わずか8世帯12人、半数以上が65歳以上という限界集落で、ある日突然5人の連続殺人と放火が起きた。 事件からほどなく犯人として名が挙がり、現場付近の林道で捕まった保見光成もまた、集落の住民の1人であった。 後にこの事件が大きな話題になっていった背景には、この村をめぐりさまざ

1976年6月から86年5月まで、カリフォルニア州の各地で50人以上をレイプし、少なくとも13人を殺害、100件以上の強盗を行ったシリアルキラーがいた。犯行現場があまりに広範であったため、その地区ごとに「EAR(イーストエリアの強姦魔)」「バイセリア・ランサッカー」「オリジナル・ナイトストーカー」などの別称で呼ばれ恐れられた。 2001年、現場に残された体液

この『黄金州の殺人鬼』は、いわゆる連続殺人鬼を追った事件物のノンフィクションなのだけれども、まず様々な他の連続殺人事件と比較して凄いのはこの殺人鬼が犯した罪の量だ。 1970年代から1980年代にかけて、少なくとも12人を殺害、50人を暴行(レイプ)とその件数だけみてみても異常だが、時には一週間に一人などのハイペースで襲って、犯人の見た目、目撃情報なども出揃

動物が人間を襲った事例でよく知られているのは、大正4(1915)年に北海道三毛別で起きたヒグマ襲撃事件だろう。これは8人が犠牲になった悲劇として語り継がれるが、それとほぼ同じ頃、ネパールとインドの国境地帯で人々を恐怖に陥れていた動物がいた。それが、チャンパーワットの人喰い虎――436人を殺害したとされる雌のベンガルトラである。 本書はそのベンガルトラの足跡を

「180人のユダヤ人を虐殺したのは、私の大叔母だったのだろうか…」 そんな帯の文句に惹かれて本書を手に取った。 1945年3月24日の晩、オーストリア国境近くの村レヒニッツにあるバッチャーニ家の居城で、ナチとその軍属のためのパーティーが開かれていた。月が明るい晩だった。この時、駅には200人近いユダヤ人たちが立たされていた。彼らは対赤軍用の防護壁を築くために

「なんとかしてこの体験を書かねば、吐き出さなければ、今後自分は文章を書いていくことができなくなってしまう。」 本書『ストーカーとの七〇〇日戦争』あとがきで、著者の内澤旬子氏が綴っている言葉。 本書はすでに発売直後に 東えりか と 栗下直也 がHONZで紹介している。それでも、著者の命を削るような文章に駆り立てられるものがあり、私もここで書かずにはいられなくな

夏の定番番組といえば怪談。今でこそ少なくなったが、昔は終戦記念日前後には、ドキュメンタリーだけでなく怪談話も戦争に関わる番組は欠かせなかった。特に空襲で死んだ人が、当時の姿で現れるという物語は定型のように語られた。今でも心霊スポットなどをめぐる番組で、兵士や防空頭巾姿の霊を見た、という話は残っている。 本書は64年前に起こった海難事故を、原因や責任、後に起こ

つらい話は聞きたくない。陰惨なニュースなどもっと見たくない。気持ちが沈んでしまうから。しかしながらその一方で、我々はついついネガティヴな情報に耳をそばだてたり、詳報を集めたりしてしまう。つまるところ悲観とは、自分と関係がない事象であれば、中毒性のある一種の娯楽なのかもしれない。 そんな中でも、ひときわ暗い好奇心を呼び覚ましてくれるのが、凶悪犯罪だ。事件のあら

どんな重大事件でも時を経ると忘れられ、他人(ひと)の記憶は薄れていく。しかし事件の当事者は違う。何年経とうが胸の中に残る。ましてや、正気では受け止めきれないほどの凶悪事件の被害者ならばなおさらだ。 2004年6月、長崎県佐世保市の小学校で6年生の女子児童が同級生の女児にカッターナイフで喉を切られ死亡する事件が発生した。学校内で起こった前代未聞の事件に報道は過